広島地方裁判所 昭和55年(ワ)742号 判決 1982年1月29日
原告 渡辺トラノ
被告 国
代理人 溝下正喜 平元勝一 ほか二名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し別紙物件目録記載の土地につき原告から金六万三七五〇円の支払を受けるのと引換えに広島法務局昭和四一年四月一八日受付第一五九一七号による昭和四一年四月一八日売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記の本登記手続をせよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、昭和四一年四月一八日訴外亡橋本利雄(以下橋本という)から別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という)を代金一二万七五〇〇円で買受け、同日内金六万三七五〇円を支払つた。
2 本件土地の所有権移転登記手続については、本件土地が「畑」で県知事の許可を必要としたため、後日土地区画整理事業によつて地目が変更となつた時、残代金の支払と引換えに本登記手続をなす約定で、売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記がなされた。
3 その後、橋本は死亡し、相続人が不存在のため、本件土地の所有権は国庫に帰属(昭和四四年四月一日受付第一三三〇九号原因昭和四三年二月二一日国庫帰属)し、被告は橋本の売買契約上の地位を承継した。
4 本件土地の現況は、すでに土地区画整理事業によつて非農地化しているので、被告は原告に対し残代金六万三七五〇円の支払と引換えに所有権移転請求権仮登記に基く本登記手続をなすべき義務がある。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1は不知。
2 同2中、農地の移転には県知事の許可が必要であること、及び本件土地について請求の趣旨に掲記の仮登記がなされていることは認め、その余は不知。
3 同3中、橋本の相続人が不存在のため、本件土地の所有権が国庫に帰属し、掲記の所有権移転登記手続をしたことは認め、その余は争う。
4 同4中、本件土地の現状がすでに土地区画整理事業によつて非農地化していることは否認し、その余は争う。
三 被告の主張
本件において原告は所有権移転請求権仮登記に基く本登記手続を請求しているのであるが、該仮登記は「後日土地区画整理事業によつて地目が変更となつた時、残代金の支払と引換えに本登記手続をなす約定」で登記されたというのであるから、原告の所有権移転請求権は「土地区画整理事業による地目変更」を停止条件とするものである。そうすると、原告の「権利」は実体的にはまさに民法九三〇条二項の「条件附債権」そのものである。とすれば、訴外橋本の相続財産管理人岩樋コトエが実施した清算手続において、弁済を受け、清算が可能であつたものといえるのである。従つて、原告の「権利」は清算期間経過によつて、管理人からの国庫帰属を原因とする引継手続等の完了により、失権したものである。
四 被告の主張に対する認否等
争う。
原告のような仮登記権利者は、登記簿上明かに管理人に知れたる債権者であるから公告のみで失権するということはありえない。
第三証拠 <略>
理由
一 本件土地につき、広島法務局昭和四一年四月一八日受付第一五九一七号による昭和四一年四月一八日売買予約を原因とする所有権移転請求権登記がなされていること、及び橋本の相続人が不存在のため本件土地の所有権が国庫に帰属し、昭和四四年四月一日受付第一三三〇九号による昭和四三年二月二一日国庫帰属を原因とする所有権移転登記がなされていることは、当事者間に争いがない。
二 <証拠略>によれば、次のとおりの事実が認められる。
昭和四一年四月一八日、原告は橋本から本件土地を代金一二万七五〇〇円(坪当り八五〇〇円)で買受け、同日内入金六万三七五〇円を支払つた。右売買契約においては、本件土地が農地であつたことから、土地区画整理法によつて地目変更される時期までは所有権移転の仮登記を附する旨の特約が定められた。
前同日受付第一五九一七号により本件土地につき同日売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記がなされた。
昭和四一年一二月一七日橋本は死亡し、相続人が不存在のため昭和四二年二月四日広島家庭裁判所により訴外岩樋コトエが相続財産管理人に選任された。
昭和四二年五月三一日、管理人岩樋コトエは、民法九五七条の規定に従い、橋本の相続人が不明であるので一切の相続債権者、受遺者は公告掲載の翌日から二箇月以内に債権の申出をすべき旨及びもし右期間内に申出がないときはその債権は弁済から除斤される旨の相続債権者受遺者への請求申出の催告の公告をした。
右期間内に原告からの請求の申出はなかつた。
昭和四二年八月一一日、広島家庭裁判所は、右期間の満了後なお相続人のあることが明かでないため、民法九五八条の規定に従い、橋本の相続財産に対し相続権を主張するものは昭和四三年二月二〇日までに申出をすべき旨の相続権主張の催告の公告をした。
しかし、右期間内に相続人である権利を主張する者はなかつた。
昭和四三年二月二一日、本件土地は民法九五九条の規定により国庫に帰属し、同年四月一日受付第一三三〇九号による同年二月二一日国庫帰属を原因とする所有権移転登記がなされた。
昭和五六年現在本件土地の現況は荒地である。
三 以上のとおり、原告の所有権移転請求権仮登記に基く本登記手続請求権は相続財産管理人による清算が可能なものであり、相続財産管理人は登記簿上右仮登記の存することを知つていたものと考えられる。しかしながら、前記認定事実からすると、管理人は右仮登記の原因たる売買予約の内容を知らなかつたものと推認されるから、結局、原告は管理人に知れなかつた相続債権者であるという外ない。そして、民法九五七条の規定によつてなされた請求申出催告の期間内に原告からの請求の申出はなく、民法九五八条の規定によつてなされた相続権主張催告の期間内に相続人である権利を主張する者はなかつたのであるから、原告はその権利を行うことができないこととなる。
四 よつて、原告の本訴請求を棄却することとし、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 大前和俊)
物件目録 <略>