広島地方裁判所 昭和55年(行ウ)11号
原告
広島県西部労働組合理研産業支部
右代表者執行委員長
河内正勝
右訴訟代理人弁護士
外山佳昌
同
山田延廣
被告
広島県地方労働委員会
右代表者会長
増原改
右指定代理人
己之口正
同
道田慷蔵
同
正木宏
被告補助参加人
理研産業株式会社
右代表者代表取締役
久保田勝見
右訴訟代理人弁護士
開原真弓
同
国政道明
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告が広労委昭和五一年(不)第七号不当労働行為救済命令申立事件について、昭和五五年七月九日付でした別紙命令書〔五五頁以下参照―編注〕記載の命令中、主文4項を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告及び補助参加人
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告(以下、原告組合ということもある)は、昭和五一年五月四日、被告補助参加人(以下、参加人または参加会社という)を被申立人として被告に対し不当労働行為救済申立をし、右は広労委昭和五一年(不)第七号事件として係属した。右申立の要旨は次のとおりである。
(一) 被申立人(1項においては単に会社という)は、昭和五〇年五月一五日、申立人(1項においては単に組合という)の組合員でマイクロ複写係に勤務していた西山松平、橋川洋輔及び中村一に対して行った配転(西山は江波写真場へ、橋川及び中村は本社工業写真場への配転)を撤回し、直ちにマイクロ複写係に復帰させること(ただし、中村は既に退職のため、原職復帰は求めない)。また、昭和五二年六月一日西山に対して行った江波写真場から本社写真場への配転を撤回すること。
(二) 会社は、組合による右配転撤回闘争の一環として、組合指令により指名ストに入った前記西山、橋川及び中村に対し、業務命令拒否のための違法ストをしたとの理由で、昭和五〇年夏季一時金、同年年末一時金及び同年度期末手当につき人事考課上不当に低く評価したことによる不利益分相当額を支払うこと(ただし、中村は退職のため、右のうち期末手当分の支払は求めない)。
(三) 会社は、昭和五〇年七月二日、当時の組合執行委員長河内正勝に対して行った一〇日間の出動停止処分を撤回し、同年七月二五日支給の賃金から控除した一〇日分の基本給四万六五〇〇円と食事手当一〇〇〇円を支払い、かつ、同年の夏季一時金、年末一時金及び同年度期末手当につき人事考課上不当に低く評価したことによる不利益分相当額を支払うこと。
(四) 会社は、前記西山及び伊藤達夫に対し、組合に加入した故をもって従来の人事考課上の評価(いずれも平均以上)を一変し、昭和五〇年夏季一時金、同年年末一時金及び同年度期末手当につき人事考課上不当に平均以下と評価したことによる不利益分を、同年度賃上げ時の評価に是正して支払うこと。
(五) 会社は、昭和五〇年七月二五日、同年度の賃上げにあたって、前年度の賃上げの前例と昭和五〇年度賃上げ協定を無視して、梶川勝利、前記河内及び桑原(現姓高沢)加代子に対し賃金引上げをしなかった部分(基本給スライド分)を現行賃金に加算し、昭和五〇年四月にさかのぼってその差額を支払うとともに、五〇年夏季一時金、同年年末一時金及び同年度期末手当中の基本給スライド分を別表のとおり支払うこと(別表省略)。
(六) 会社は、昭和五一年一月二九日、当時の組合執行委員長梶川勝利に対し、昭和五〇年一二月一七日の年末一時金闘争のストライキ中、会社の管理権を侵し企業秩序を破壊したとして行った譴責処分を撤回し、今後、人事考課において一切の賃金上の不利益を与えないこと。
(七) 会社は、昭和五一年二月二六日、前記桑原に対して行った配転(本社トレース係から本社工業写真場へ)を撤回し、直ちに本社トレース係に復帰させること。
(八) 会社は、前記西山、橋川及び中村の配転の撤回に関する組合からの団交申入れを拒否することなく、直ちに団交に応ずること。
(九) 会社は、昭和五一年度賃上げ等の春闘要求について、組合の性格や組合本部役員が入ることを理由に団交を拒否しないこと。
(一〇) 会社は、「労務情報」「社報」「社員に告ぐ」などを発行して、組合の運動やその方針について中傷・非難し、組合運営の妨害、組合への加入妨害及び組合からの脱退工作を行うことを直ちにやめること。
(一一) 会社は、職制を通じてする組合からの脱退工作をやめること。
(一二) 会社は、取引先を通じてする組合への中傷・非難をやめること。
(一三) 会社は、上記(一)ないし(一二)の不当労働行為のあったことを認め、組合が後に示す陳謝文を縦・横二メートルの木板に墨書し、本社正門及び第一ビル入口の従業員の見やすい場所に二〇日間掲示するとともに、右陳謝文を朝日・毎日・読売・サンケイ・中国の各新聞に縦・横一五センチメートルの大きさで掲載すること。
なお、以上の申立のうち、(四)の伊藤達夫に関する部分及び(九)はその後申立を取下げた。
2 被告は上記の申立に対し、昭和五五年七月九日、別紙命令書のとおりの命令(以下、本件命令という)をした。右は、上記申立のうち(五)(六)及び(一〇)についてのみ救済命令を発し(主文1ないし3項)、その余の申立をすべて棄却する(主文4項)ものである。
しかしながら、本件命令中右申立棄却部分は、以下に詳述するとおり、参加会社の諸行為がいずれも労働組合法七条一号ないし三号の不当労働行為を構成するにもかかわらず、事実を誤認しまたは同条の解釈を誤った結果、これを否定したものであって違法である。
3 西山松平及び橋川洋輔に対する配転(申立(一))について参加会社は、昭和五〇年五月一五日付で、原告組合員でマイクロ複写係に勤務していた右西山、橋川及び中村一に対し、西山は江波写真場で、橋川及び中村は本社工業写真場で就労するよう命じ、さらに昭和五二年六月一日、西山に対し、本社工業写真場で就労することを命じた。しかし、右西山及び橋川に対する配転は、次の事実関係に照らし、いずれも労組法七条一号、三号の不当労働行為にあたることが明らかである。
(一) 右配転の意図・目的
参加会社における労働条件は劣悪なものであったため、原告組合の現執行委員長らが中心となって、昭和四四年七月に原告組合(当時の組合員数一〇六名)を結成し、以来、労働条件の改善に向けて強い要求を続けてきた。これに対し、参加会社は誠意ある対応をせず、第二組合を結成させるなどして組合潰しに専心し、昭和四八年頃からは、原告組合の中心的職場であるマイクロ写真場から組合員を次々に他の職場に配転、分散化することによって、組合の団結力、活動力の弱体化を図ってきた。ところが、各職場に分散した組合員らが、その職場で組合加入を勧誘し、かえって原告の組合活動が活発化する事態が生じたため、参加会社は方針を転換して、組合員である従業員を本社工業写真場に集中させ、他の職場と分断することにより組合の弱体化を図るに至った。
しかも、その集中先である工業写真場は、ジアゾ式コピー業務を主体とし、ゼロックス等の静電方式コピーと異なり斜陽化しつつある部門であって、参加会社としても、将来これを縮少し、関連会社に移行する方針をとっており、この点からも組合弱体化の意図が明らかである。
(二) 右配転の異常性
従来、マイクロ複写場やトレース・ゼロックス部門においては、役職者を除いて、入社以来一貫して同一場所に勤務するのが常であり、工業写真場への配転が行われるようになってからも、その対象者はすべて原告組合員であって未加入者は一人もなく、配転の異常さを示している。
また、参加会社は、従業員の異動を例年四月一日までに実施し、五月に入ってからは新入社員の研修後の配属を行うのみであって、本件配転(五月一五日付)は時期的にみても異例である。現に右同日付の異動は、西山ら三名と淡野敏幸の配転(西山のそれに伴うもの)のほか、新入社員八名の研修後の配属決定がなされたに過ぎない。
(三) 西山及び橋川の組合活動
西山が原告組合に正式に加入したのは昭和五〇年五月一四日であるが、同人は同年三、四月頃から、所属職場の長に対しパートタイマーの時間給の増額を申入れるなどの実質的活動を行っており、参加会社は同人の組合加入を知って、その報復のため本件配転を行ったことが明らかである。
また、橋川は原告組合福利厚生部の生協活動を活発に行い、これを通じて未加入者に組合の影響力を広めるなど、マイクロ複写場における中心的な活動家であり、参加会社もこのことを熟知していた。
(四) 会社主張の配転理由に対する反論
参加会社は、本件配転が不況に伴うコンピューター業務の受注難等の事情による全社的な配転の一環であると主張する。しかし、右主張にそう証拠はないし、かえって、参加会社総務部長松井秀盛が、次に述べるとおり右と異なる理由を挙げていること、コンピューター業務担当者のうち配転命令を受けた者が全くないことに照らしても、右主張が口実に過ぎないことは明らかである。
一方、右松井は、配転の一理由としてマイクロ部門の受注難を挙げるけれども、当時同部門の売上げの伸び率は増加しており、かえって西山の配転先江波写真場こそその受注量が低下して人員の余剰が予想される状況にあった。
また、右松井は、個別の配転理由として、西山についてはマイクロ複写係としての能力や熱意の乏しさを指摘し、むしろ営業能力を身につけさせる方がよいと判断した旨を述べるけれども、西山は従来人事考課において平均以上の評価を与えられていたものであって右の指摘はあたらず、また、江波写真場において何ら営業的な業務に就かせなかった(のみならず、着任後三日間は全く仕事を与えようともしなかった)ことからみて、右理由が真実に反することは明らかである。次に、右松井は、橋川についても仕事への熱意不足とか、マイクロ二級免許の取得を避けていた等の理由を挙げるけれども、橋川も過去の人事考課は目立って悪いものではなかったし、二級免許取得者はごく少数に限られているのが実情であって、これまた口実に過ぎない。
(五) 被告の事実認定及び判断の誤り
被告は本件命令中において、参加会社主張の配転理由(前記(四)冒頭)をそのまま是認しているが、その誤りであることは既に述べたとおりである。また、被告は、マイクロ複写場と工業写真場とが本社四階と三階にあって近接しており、往来の制限があったとは認められないとして、配転の不当労働行為性を否定しているけれども、従前原告組合員が活動の一環として他の職場に調査に赴いたところ、管理職からこれを差止められた事実があり、このように、或る職場から切離されるときはその職場従業員の意向を汲み上げることができず、組合活動自体が制約を受けることとなり、参加会社はまさにこれを狙って三名をマイクロ複写場から排除したのであるから、被告の右判断は形式的に過ぎ、実態を見誤ったものである。
4 西山、橋川及び中村に対する昭和五〇年夏季一時金等の不当減額支給(申立(二)、(四))について
参加会社は、右三名に対し、昭和五〇年夏季一時金、同年年末一時金及び同年度期末手当に関し、人事考課上不当に低い評価をして従業員平均以下の額を支給したが、右は以下の事実関係に照らし、労組法七条一号の不当労働行為にあたることが明らかである(ただし、中村の期末手当分は除く)。
(一) 原告組合による配転撤回闘争
前記3で述べた西山ら三名の配転に対し、原告組合は、組織防衛のため配転撤回を求めて昭和五〇年五月一六日にストライキを機関決定し、同月一六日全員集会においてストライキ決議を行ったうえ、同月一七日始業時から同年六月一七日午後零時まで西山、橋川及び中村の三名を指名してストライキを実行させ、他の組合員には時間を限定してストライキに参加させた(以下、本件ストライキという)。
(二) 本件ストライキによる不利益取扱
参加会社は右西山、橋川及び中村に対し、本件ストライキに参加したことを理由として、なお、右西山については既述のとおり原告組合に加入したことへの報復の趣旨を含めて、上記一時金等の算出の基礎となる人事考課において不利益な評価を与え、一時金等を不当に減額して支給した。
(三) 本件ストライキの目的の正当性
既述のとおり、西山ら三名に対する配転は明らかな不当労働行為であり、原告組合はその中止を求めて昭和五〇年五月一三日に団体交渉の申入れをしたが、参加会社は団体交渉事項になじまないとしてこれを拒否した。右は二重の不当労働行為にあたるというべく、これを是正させるためにした本件ストライキは目的において正当である。
なお、被告は本件命令中において、参加会社が同年五月中旬から六月上旬まで四回にわたり原告組合と話合いを持ったことを理由に、本件ストライキの目的の正当性を否定するが、会社側は当初から誠意をもって組合側に説明する態度ではなく、一方的な見解を主張するのみであり、しかも、同年の春闘における賃上げ交渉と右配転問題をことさらに一体化して、配転問題が解決しなければ賃上げに応じない旨を言明し、賃上げという最も切実な事柄を人質として配転紛争の決着を迫った。このような対応は、会社の不誠実さと組合敵視政策を如実に示すものであり、右の話合いをもって会社側の態度を正当化する如き被告の判断は誤りといわなければならない。
(四) 本件ストライキの手段の正当性
西山ら三名は、ストライキの手段として同年五月一七日から参加会社入口における座り込みを開始したが、右は非組合員や一般第三者に対し、組合の団結を示しかつ会社の態度の不当性を訴えるために必要不可欠な方法であった。右三名は、右座り込みの間、何人に対しても妨害的な行動に出たことはないし、一時横たわることなどもあったものの継続的な態様ではなく、来客等から苦情があったわけでもなく、また、右座り込みの結果会社の業務遂行に支障を生じた事実もない。このように、右座り込みはストライキの手段として正当なものであって、これを否定した被告の判断は誤りというべきである。
また、原告組合は参加会社の不当性を訴えるため、社屋西側及び北側のガラス面に高さ六〇センチメートルに至るまでステッカーを貼付したが、右は採光の点を考慮して高さを自ら限定したものであり、その貼り方も整然としており、ガラス面の効用が減損された事実はない。この点、被告はショーウインドゥとしての効用が損われたと認定しているが、もともと右ガラス面にショーウインドゥの機能はないし、仮に右貼付が会社施設の効用に何らかの影響を及ぼしたとしても、会社の業務遂行に支障を生ぜしめるほどのものではなかったから、その影響は会社の受忍限度内のものというべく、したがって、ステッカー貼りもまた正当な組合活動であって、これを否定した被告の判断は誤りである。
(五) 処分しない旨の約束
仮に右座り込み及びステッカー貼りの行為が正当な組合活動の範囲を逸脱するものであったとしても、参加会社は、本件ストライキの実行中である昭和五〇年六月一六日文書によって、二四時間以内にストを解除して職場に復帰することを命じたうえ、これに従わない場合は不利益処分の対象となる旨を通告した。右通告は、これに従えば不利益処分を行わないとの趣旨を含むものであり原告組合がこれを受容れて就労したことにより、処分権放棄の約束が成立したというべきであるが、会社は右約束に反して本件不利益処分を強行したものであって、右は労使間の信義にもとる詐欺的行為として違法性が明らかである。
(六) また、右のように参加会社の受忍限度内の行為をとらえ、しかも不処分を約束したにもかかわらず不利益処分を行ったことは、争議行為を抑圧しようとする意思に基づくものであり、権限の濫用として違法である。
(七) 昭和五〇年夏季一時金の減額支給の違法性
仮に百歩を譲って、本件ストライキが違法であり、これを理由として何らかの不利益処分が許されるとしても少くとも昭和五〇年夏季一時金について減額を行ったことは違法である。すなわち、同年度の夏季一時金に関する考課査定期間は昭和四九年一〇月一日から同五〇年三月三一日までであるが、本件ストライキは同年五月から六月にかけて行われたものであるから、夏季一時金に関する考課査定の対象とはなり得ないにもかかわらず、参加会社はこれを右査定の資料に加えて不利益な査定をしたものである。この点、参加会社が右査定期間を同年一月から六月までと主張するのは明らかに虚偽であって、このような処分ミスを糊塗しようとする会社の態度からも不当労働行為意思の存在は明白といわなければならない。
5 河内に対する出勤停止処分及び夏季一時金等の不当減額支給(申立(三))について
参加会社は、原告組合執行委員長(当時)河内正勝に対し、昭和五〇年七月二日付をもって一〇日間の出勤停止処分をし、かつ、同年夏季一時金、同年年末一時金及び同年度期末手当につき、人事考課上不当に低い評価をして従業員平均以下の額を支給した。これまた、前記4(一)ないし(七)で述べたと同一の理由により、不当労働行為にあたることが明らかである。
さらに、河内に関しては、参加会社は本件ストライキに関し同人の組合執行委員長としての機関責任を追及して右不利益処分をしたものであるが、本件ストライキの手段は組合決議によって民主的に形成された組合意思に基づくものであり、その主体は原告組合自体であるから、万一原告組合が何らかの責任を負うことがあるとしても、組合幹部が個人的に不利益処分を受けるべき理由はない。参加会社は、河内に不利益処分を与えることにより、争議行為の指導とその指導による組合活動を抑圧する意図のもとに右処分をしたものであるから、処分権の濫用として違法である。
6 桑原加代子に対する配転(申立(七))について
参加会社は、昭和五一年二月二六日、原告組合員で本社トレース部に勤務していた桑原に対し、同年三月一日から本社工業写真場で就労するよう命じた。しかし、右配転命令は、以下に述べる理由で、労組法七条一号及び三号該当の不当労働行為にあたる。
(一) 桑原の経歴等
同人は、昭和四六年入社以来一貫してトレース作業に従事しており、昭和四七年以降原告組合の執行委員として、また、同五〇年一〇月以降は原告組合労働安全衛生対策部長として活動している者であって、本社トレース部門における唯一の組合員であった。また、同人は頸肩腕症候群の発現をみて当時休業中であり、同年三月には職業上の疾病として労働災害認定の申請をしたが、参加会社は右申請手続への協力を拒否するなど、同人に対する敵意を露わにしている。
(二) 右配転の意図・目的
参加会社は、桑原が職場の安全点検やこれに伴う諸要求活動或いは右労災認定申請などの正当な組合活動を行った故をもって、本社工業写真場(その将来性のないことは前記3(一)のとおり)への配転という不利益取扱をしたものであり、また、同時に、同人の本社トレース部門における職場活動を排除し、原告組合を弱体化させる目的でこれを行ったものである。
(三) 被告の認定及び判断の誤り
被告は本件命令中において、桑原には欠勤が多くトレース業務に影響があるため、他の従業員による応援が可能な職場に配転したもので、参加会社としてやむを得ぬ措置であったと判断している。
しかし、同人は当時休業中であり、ことさらに代替要員を確保しなければならない事態ではなかったし、仮にそれが必要なときは、社外工であるトレース作業員が常時相当数就労しているので、いつでも代替させることが可能であった。また、既述のとおり、従業員の異動は四月一日に実施されるのが通例であって、右配転は時期的に異常であるし、配転先の工業写真場は紙ほこりや騒音が甚だしく環境劣悪で、桑原の前記疾病にとって最も好ましからざる職場であり、このような点からも、参加会社の不当労働行為意思は明らかである。
7 西山ら三名の配転撤回要求に関する団体交渉の拒否(申立(八))について
原告組合は、右三名の配転につき、昭和五〇年五月二一日及び同年六月四日に参加会社に対し団体交渉を申入れたが、会社は正当な理由もなくこれを拒否した。右は労組法七条二号の不当労働行為にあたる。なお、参加会社が多少の話合いの機会をもったからといって何ら正当化されるものでないことは、前記4(三)において述べたとおりである。
8 職制を通じてなした組合脱退工作(申立(一一))について
参加会社のゼロックス主任音塩健二は、昭和五〇年六月一四日、原告組合員荒井順子方を訪問して同人の母親に対し、「組合に入っていると賃上げの差額が入ってこない。」「組合に入って貰っては仕事上困る。」「もし組合をやめるのなら手続をちゃんとしてやる。」などと述べ、脱退をすすめた。右は同法七条一号の不当労働行為にあたる。
9 取引先を通じてなした原告組合への非難中傷(申立(一二))について
参加会社専務取締役久保田芳郎は、昭和五〇年六月二〇日、原告組合の執行委員長梶川勝利を会議室に呼び寄せ、取引先である訴外株式会社日本製鋼所広島製作所の社員岡野某と面談させたが、その際右岡野は、「原告組合が過激な闘争をしているので、本社(参加会社を指す)に持ち帰る仕事を減らすようになるかも知れない。」などと述べ、暗に組合活動を差控えるよう要求した。右は、参加会社が岡野を介して組合活動に干渉したものであって、労組法七条三号の不当労働行為にあたる。
10 以上のとおり、被告が原告の各救済申立(前記1の(一)ないし(一三))のうち、(一)ないし(四)((四)のうち伊藤達夫関係を除く)、(七)、(八)、(一一)ないし(一三)の申立をいずれも棄却したことは、参加会社の不当労働行為成否についての事実認定または法的判断を誤ったもので違法であるから、本件命令中右申立棄却部分(主文4項)の取消を求める。
二 請求原因に対する被告の認否
1 請求原因1の事実は認める。ただし、原告が救済申立の要旨として右に掲げるものは、広労委昭和五一年(不)第七号事件申立書の記載内容と同一であるが、右記載については、被告委員会における審査の過程で、原告により若干の訂正ないし追完がなされた。
2 同2のうち、被告が別紙命令書のとおりの命令(本件命令)を発したことは認め、これを違法とする主張は争う。
3 同3のうち、西山、橋川及び中村の各配置転換の時期及び場所は認め、その余の主張事実はすべて不知。右配転が不当労働行為にあたる旨の主張及び被告の認定・判断を誤りとする主張は争う。
右3についての被告の判断は、命令書理由2に記載のとおりである。
4 同4冒頭及び(一)(二)の事実は不知。その余の主張は争う。
右4についての被告の判断は、命令書理由3に記載のとおりである。
5 同5のうち、河内正勝に対する出勤停止処分の事実は認め、その余の不利益取扱の事実は不知。不当労働行為にあたる旨の主張は争う。
右5についての被告の判断も、命令書理由3のとおりである。
6 同6のうち、桑原に対する配置転換の時期・場所及び同人が原告組合の執行委員、労働安全対策部長を歴任した者であることは認め、右配転が不当労働行為にあたる旨の主張及び被告の認定・判断を誤りとする主張は争う。
右6についての被告の判断は命令書理由4に記載のとおりである。
7 同7の団体交渉申入れの事実は不知。不当労働行為にあたる旨の主張は争う。
右7についての被告の判断は、命令書理由3に記載のとおりである。
8 同8、9の事実は不知。不当労働行為にあたる旨の主張は争う。
右8、9についての被告の判断は、命令書理由7(2)に記載のとおりである。
三 請求原因に対する参加人の認否及び主張
1 請求原因3について
(一) 3(一)は否認する。なお、末段にいうような、工業写真場を別会社とする計画は全くなく、右は原告組合の邪推に過ぎない。
(二) 同(二)は否認する。西山ら三名はもともと特定の職種に限定して採用したものではないし、本件配転は昭和五〇年春の異動の一環として行ったもので、何ら異例のものではない。
(三) 同(三)は否認する。参加会社は、本件配転当時、西山が原告組合員であることは全く知らなかった。
(四) 同(四)の主張は争う。本件配転は、専ら参加会社の業務上の必要と合理的な人選に基づくものである。すなわち当時マイクロ複写部門は受注が減少して余剰人員を生じ、同部門従業員を本社工業写真場の応援業務に就かせている実情であった。したがって西山ら三名の配転後、その補充をする必要はなく、現に補充していない。また、右三名はマイクロ複写の業務についてマンネリ化の状況がみられ、上司や同僚との人間関係も円滑でなかったため、新たな職場に配置することが適当と判断したものである。
(五) 同(五)の主張は争う。マイクロ複写場と本社工業写真場とは本社社屋四階と三階にあり、江波写真場も距離的にさほどの距たりはないし、業務内容も類似しており、配転によって日常の組合活動や生活面に支障を生ずるおそれは全くなかった。
2 請求原因4について
(一) 4(一)(二)のうち、本件配転に関し原告組合が約一か月にわたり指名スト及びステッカー闘争を行ったこと、右違法ストを実行した西山ら三名を、昭和五〇年度夏季一時金等について考課査定上低く評価したことは認める。
(二) 同(三)(四)の主張は争う。本件ストは、参加会社の正当な業務命令に反し、しかも会社が組合と実質的な話合いを継続して配転の必要性を訴えたにもかかわらず、全く理解しようともせずに敢行したものである。また、指名ストにより坐り込みの状況やステッカー貼りの態様も著しく妥当を欠き、会社側が受忍すべき限度内とは到底いえないものであった。
(三) 同(五)の主張は争う。「従わなければ不利益処分の対象となる」旨の通知は、従った場合に処分権を放棄する旨の申込みではない。もっとも、参加会社は、西山、橋川及び中村が右通知に従ってストを中止したことを特に考慮して、右三名に対しては敢て処分を行わなかったものである。
(四) 同(六)(七)の主張は争う。
3 請求原因5について
河内に対する出勤停止処分の事実及び夏季一時金等の査定において低く評価したことは認める。右は、同人が違法なストライキを指導し実行した以上、当然の処置である。
4 請求原因6について
桑原に対する配転の時期及び場所は認め、その余の主張は争う。
同人は、トレース作業によって頸肩腕症候群の発症をみた旨主張していたため、医師及び労働基準監督署監督官の意見に基づいて職場を変更したものであり、配転後も工業写真場における業務のうち、コピーされたもののページ合わせ等を通院しながら自由に処理できる範囲内でやらせていたのが実態であって、参加会社に不当労働行為意思は全く存しなかった。
5 請求原因8、9について
参加会社が職制を通じ或いは取引先を通じて支配介入等の行為をした事実は全くない。
第三証拠
原、被告及び参加人の提出にかかる書証とその成立の認否及び取調べた人証は、本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるからこれを引用する。
理由
一 争いのない事実
請求原因1、2の事実のうち、原告が昭和五一年五月四日、参加会社を被申立人として、要旨1の(一)ないし(一三)のとおり不当労働行為救済の申立をし、これが広労委昭和五一年(不)第七号事件として係属したこと、原告はその後右申立の一部(申立(四)のうち伊藤達夫に関するもの及び申立(九))を取下げたこと、被告が右事件につき、昭和五五年七月九日、別紙命令書のとおりの命令(本件命令)を発したこと、本件命令が原告の右申立のうち(五)(六)及び(一〇)についてのみ救済命令を発し(主文1ないし3項)、その余をすべて棄却する(主文4項)ものであること、以上の事実は当事者間に争いがない。
二 請求原因3(救済申立(一)関係)について
1 参加会社が、昭和五〇年五月一五日、原告組合員で同会社マイクロ複写場に勤務する西山松平を江波写真場に、橋川洋輔及び中村一を本社工業写真場にそれぞれ配置転換したこと(以下、本件配転という)、さらに昭和五二年六月一日、西山を江波写真場から本社工業写真場に配置転換したことは、当事者間に争いがない。
2 参加会社は、右配転の理由として、当時マイクロ複写部門は受注減によって余剰人員を生じ、一方、工業写真部門は人手不足の状態にあったことを挙げ、また、個別的理由としては、右三名の勤務状況がいわゆるマンネリ化し、職場における人間関係も円滑を欠いていたことを指摘する(なお、本件命令の理由中には、参加会社がコンピューター業務の受注難などの事情があるとして右配転を行った旨の説示がみられるが、<証拠略>によれば、参加会社は、救済申立審理の段階から一貫して上記の配転理由を主張・立証してきたことが認められ、反面、右説示にかかる主張は本件証拠中に見出し得ない)。
3 そこで、先ず、右前段の理由について検討するに、(証拠略)によれば、以下の事実が認められる。
(一) 参加会社は、工業写真(感光紙によって原図等のコピーを作成し、製本仕上げをするもの)、電子複写(ゼロックス)、マイクロ複写(マイクロフィルムに収めたうえ拡大し、コピー用の第二原図を作成するもの)、製図、トレース等を業務とする会社であり、工業写真部門は本社三階の工業写真場のほか、江波写真場、観音写真場において業務を行い、マイクロ複写部門は本社四階で就業している。なお、工業写真については、系列会社である共電社に相当部分を下請させている。
(二) 右両部門(前者は本社工業写真場のみ)の従業員数をみると、工業写真は昭和四九年一二月二六名(うちパート従業員五名)、五〇年同月二三名(同四名)、五一年六月二四名(同五名)であり、マイクロ複写は昭和四九年一二月一七名(同三名)、五〇年同月一二名(パートなし)、五一年同月一一名(同)と推移している。また、年間売上げを比較すると、工業写真(全社)は昭和四九年二億九九〇〇万円、五〇年三億四一〇〇万円、マイクロ複写は四九年六三〇〇万円、五〇年七四〇〇万円(いずれも概数)であって、ともに増加を示している。なお、参加会社の年間総売上げのうち両部門の占める割合は、工業写真が昭和四九年五五・八パーセント、五〇年五二・四パーセント、マイクロ複写が四九年一一・七パーセント、五〇年一一・三パーセントである。
以上のように認められ、本件配転に先立って、マイクロ複写のみ特に大幅に受注が減少したとみるべき資料はないけれども、少くとも、同部門は西山ら三名転出後の一二名(ないし一一名)で処理が可能な状況にあったことが窺われる。一方、工業写真部門が特に成長、拡大したともみられないけれども、同部門は従業員数、売上げともに大きく、参加会社の事業の主力を占めるものと認められ、パートタイマーも常時相当数(本社のみでも四、五名)を用いて業務を行っていたのであるから、本件配転当時、同部門の人員を補充する必要がなかったとはいえず、参加会社のその旨の主張を軽々に否定することはできない。
4 次に、右三名の個別的な配転理由をみるに、いわゆる「マンネリ化」は使用者側の概括的な評価であって、その当否を直ちには判断し難いけれども、(証拠略)によれば、橋川及び中村は昭和四八年、四九年の夏季・冬季各一時金の人事考課において、平均を下廻って評価されていることが認められ、その勤務態度等につき、(証拠略)において松井が指摘する点を覆すだけの資料はないし、一方、西山は、(証拠略)によれば平均を上廻る評価を得ていることが認められるけれども、(証拠略)によれば、同人はマイクロ複写場に勤務して四年近くを経ていたことが認められるし、(証拠略)では、昭和四九年から遅刻回数が目立つようになったことが指摘されている(この点反証はない)から、江波写真場から一名を工業写真部営業課に配転するのと交替に、西山を同写真場に配転するのが適当と考えた旨の松井の説明(<証拠略>)は、一応首肯することができる。
もっとも、右のような配転の要否及び人選の当否は、本件配転が原告組合の抑圧策としてなされた旨の原告の主張と深く係わる問題であるから、以下、右主張を順次検討することとする。
5 原告は、先ず、本件配転が、原告組合員をマイクロ複写場から排除して本社工業写真場に集中させる意図をもってなされたと主張する。
なるほど、(証拠略)によれば、原告組合が結成された昭和四四年以降、マイクロ複写場に在職する組合員数は減少し、本社工業写真場のそれはやや増加していることが認められる。しかし、右前者については、原告組合員数自体の減少(昭和四四年当時一七一名、五〇年一二月当時三三名)を無視することはできないし、本件配転後の昭和五〇年六月においても、マイクロ複写場の従業員一二名中七名を組合員が占めていることが認められる。また、後者についても、昭和四七年から五〇年(各一二月)まで、本社工業写真場における全従業員(パートを除く)中の組合員数は、一五名中一〇名、一三名中八名、一九名中一四名、一九名中一三名と推移しており、特に四九年に増加が見受けられるけれども、組合員・非組合員の割合をみるときは、マイクロ複写場のそれとさして変るところがない。なお、本件配転後、さらに組合員が本社工業写真場に配転された事実も、証拠上認めることができない。右の諸点に照らすと、組合員がマイクロ複写場及び本社工業写真場の二部門に多く集中しているということはできるとしても、前者から排除され後者に集中されつつあるとの原告の主張は必ずしもあたらないと考えられる。
6 次に、原告は、工業写真(コピー)がいわゆる斜陽化部門であり、参加会社は将来これを関連会社に移行する計画であると主張する。
しかし、工業写真部門の売上げ額やその全社的な割合はさきにみたとおりであって、本件配転当時、参加会社の事業の主力を占めていたと認められ、その後、これが減少、低落するに至ったと認めるべき証拠はない。また、関連会社とは前記共電社を指すものと解せられるが、参加会社が現実に同部門の移行に着手した事実はもちろん、そのような計画を有していることも、未だ認めるに足る証拠がない。
7 原告は、マイクロ複写場から工業写真場への配転は組合員のみを対象としていると主張し、なるほど(証拠略)によれば、本社外の写真場を合わせて六名位(西山ら三名を含む)がそれにあたることが認められるが、マイクロ複写場には、いずれも数年間異動のない組合員がなお七名在職しており、右以外は役職者または入社の新しい者であることも併せ認められるから、特に組合員のみを排除する異常な配転というには足りない。また、本件配転の時期が五月一五日であることも、通常の時期とされる四月からさほど隔たるものではないうえ、江波写真場から配転の一名や新規採用者八名と同日に発令されている(<証拠略>)のであるから、原告主張のような参加会社の意図を推認する根拠とはなし難い。
8 さらに、原告は、本件配転が組合活動に大きい制約を及ぼし、参加会社はまさにその効果を狙ったものであると主張する。しかし、繰り返し述べたとおり、本件配転後もマイクロ複写場には七名の組合員がいるのであるし、橋川及び中村の配転は場所的には本社四階から三階への移動であって、就業時間外の往来を制約するような事情があるとも認められず、西山の配転先江波写真場も広島市のいわゆる旧市内にあって、本社との往来や連絡がさほど不便ともみられないから、本件配転が組合活動を制約するものとは認め難い。
9 最後に、西山の再配転(江波写真場から本社工業写真場へ)については、(証拠略)によれば、造船不況の影響により、同写真場の大口得意先からの発注が激減し、右再配転後ではあるが、同営業所から三名を減員(他に配転)し、課長職を置くことも取りやめたというのであって、右を否定するだけの証拠もないから、右再配転には相応の理由・必要があったというべきである。そして、その配転先については、既に述べたとおり、特に不当とすべき理由は見出し得ない。
10 以上の次第で、本件配転及び西山の再配転が、原告主張のような、組合活動抑圧の意図をもってなされたものと認めるには足りず、被告がこれを不当労働行為にあたらないとして申立(一)を棄却したことに、何ら違法の点はないと判断される。
三 請求原因4(救済申立(二)及び(四)関係)について
1 (証拠略)によれば、参加会社は、原告組合が本件配転に抗議して行った争議行為(本件ストライキ)は違法であるとして、これに参加した西山・橋川及び中村の三名に対し、昭和五〇年夏季一時金、同年年末一時金及び同年度期末手当の各金額算出の基礎となる人事考課において、右に参加しなかった場合に比較して低い評価を与え、全従業員の平均を下廻る金額を支給したことが認められる(もっとも、右ストライキがなかった場合に支給されたであろう金額は確定できず、したがって、これと現実の支給額との差額も不明である)。
2 そこで、本件ストライキの態様についてみるに、(証拠略)によれば、以下の事実が認められる。
(一) 原告組合は、本件配転に対抗する争議手段として、西山、橋川及び中村の三名を、一か月をめどとして参加会社本社正面及び北側入口に坐り込ませるとともに、社屋に大量のビラを貼付する戦術を決定し、昭和五〇年五月一七日始業時からその実行に入った。
右三名は、同日以降同年六月一七日正午までの間、始業時から終業時まで、二手に分れて右各入口に坐り込みを続けたが、その間、出入りの多い正面入口において、カンパ箱や段ボール箱数個を置き、「理研産業ハ不当配転ヲ撤回セヨ!!」と赤地に白字で書いた板紙を立てかけ、パンフレットを手もとに置いて販売し、また、敷物を敷いて腹ばいになったり、日よけ用の戸板を立てかけてその陰で上半身裸で横臥するなどした。
また、社屋一階北側及び西側はガラス張りで道路に面しており、各入口を除く部分はショールームにあてられている(いわゆるショーウインドゥではないが、外側からも展示状況を眺めることができる)が、原告組合員らは、右坐り込み開始後間もなく、右ガラス面下方の腰壁や柱に、「不当配転を撤回せよ」などと印刷したビラ多数を水のりで貼りつけ、会社側がその撤去を要求しても応ぜず、会社の管理職らがはぎ取ると直ちに組合員らが貼り直すという状況が続き、後には、腰壁だけでなく、ガラス面にも高さ一メートル近くまでほぼ全面にビラが貼られるに至った。
(二) 参加会社は、右坐り込み等のため顧客が社屋内に入りにくくなることを懸念して、顧客らに文書をもって状況を説明するとともに、電話注文があれば外務員を派遣する旨を申出るなどし、一方、原告組合及び前記三名に対しては、同年六月一〇日頃までの間、本件配転に応じて就労するよう文書による通告を繰り返し、同月一六日には、二四時間以内にストを解除して職場(新職場)に復帰することを文書をもって命じ、かつ、右命令に従わない場合は不利益処分の対象となる旨を通告した。
(三) 原告組合は、同月一七日正午頃ストライキを解除し、西山ら三名は、同日中にそれぞれ配転先職場に赴いて就労の態勢に入った。
3 右認定のような坐り込みの態様は、一見して乱雑、粗野の感を免れず、参加会社への来客(複写、マイクロ写真撮影等のため、平素相当数の出入りがあるとみられる)に対し相当の不快感を与えたことは推認に難くない。しかも、それが道路に面し外観を重視すべき本社正面入口において一か月にわたり行われたことを考慮すると、右坐り込みは、手段の正当性の限度を超えた違法な争議行為といわざるを得ない。
また、ビラ貼りの態様も、ショールームの道路に面したガラスに、腰壁からの高さ一メートル近くまでほぼ全面に貼り付けたものであり、内外の見通しや美観、内部の採光等を相当程度、減損させたものと推認され、会社施設の効用を損ったものとして違法の評価を免れない。
4 ところで、原告は、参加会社の同年六月一六日付職場復帰命令及び通告を受け容れて就労したことにより、不利益処分をしない旨の約定が成立したと主張するけれども、参加会社がそのような意思をもって右通告をしたと認めるべき証拠はなく、また、(証拠略)の文意上その趣旨が明示されているとは認め難いし、一方、原告組合としても、前記のとおり一か月をめどとして本件ストライキを実行したものであるから、同年六月一七日正午をもってストを解除したのは、当初の計画にしたがったまでともみられ、右命令ないし通告がスト打切りの決定的な契機をなしたかのような主張は肯認し難い。結局、参加会社による不処分の申込みとこれに対する原告組合の承諾の事実はともに認めるに足りず、原告の右主張は採用できない。
5 なお、原告は請求原因4(二)(救済申立(四)関係)において、西山については、その原告組合への加入に対する報復の趣旨を含めて前記1の不利益取扱がなされたと主張するが、参加会社は同人と行動を同じくした他の二名と同様の取扱をしている(西山のみ特に低く考課したと認めるべき証拠はない)のであるから、そのような意図を推認することはできず、右主張も採用できない。また、上述のとおり、本件配転命令が不当なものとは認められず、かえって本件ストライキが違法の評価を免れない以上、右不利益取扱が権限の濫用にあたらないことはいうまでもない。
6 以上の理由により、参加会社が、右坐り込みの実行者である西山ら三名に対し、昭和五〇年年末一時金及び同年度期末手当(夏季一時金については後述)の査定にあたり、人事考課上低く評価して不利益を与えたことは、不当労働行為にあたらないと判断される。
7(一) ところで、同年夏季一時金については、(証拠略)によれば、参加会社の昭和五〇年当時施行の賃金規則においては、夏季一時金(賞与)の査定は前年一〇月一日から当年三月三一日までの成績評価に基いてなす旨を定めていたと認めることが多分に可能である(<証拠略>は昭和五〇年三月一日施行の賃金規則として提出されたものであり、その一〇条八項は、夏季一時金のための成績評価の期間を一月ないし六月としているけれども、<証拠略>は被告委員会による審理開始後に作成された疑いが強い)。ところが、参加会社は西山ら三名に対し、本件ストライキ(同年五月一七日から六月一七日まで)への参加、実行を同年夏季一時金の関係でも評価要素に加えたのであるから、夏季一時金に関する評価期間が前記のとおりであるとすれば、参加会社は、自ら定めた賃金規則に反し、評価の基礎となし得ない事由をとり上げて評価したこととなる。
(二) しかしながら、仮にそうであるとしても、右のような取扱が不当労働行為にあたるか否かについては、さらに検討を要すると考えられる。すなわち、
(1) この場合、不当労働行為の類型として想定し得るものは、「労働組合の正当な行為をしたことの故をもって不利益な取扱をすること」(労働組合法七条一号)であるが、本件ストが右にいう正当な行為にあたると認められないことは既述のとおりである。そして、組合活動が正当性を欠くものである以上、たとえ賃金規則上、当該期間中はこれを不利益に評価しない旨の定めがあるとしても、そのことによって行為自体を正当とみなすことは、右七条一号の趣旨・目的にそうところではないと解せられる。
(2) また、仮に右と異なる見解をとるとしても、本件において、参加会社が賃金規則に反することを知りながら敢て不利益な取扱をしたと認めるだけの証拠はなく、むしろ弁論の全趣旨によれば、参加会社はその点を看過し、一月ないし六月の成績評価を基礎とし得るものと誤解して不利益取扱をするに至ったことが窺われる(この点、原告も「処分ミス」と評するところである)。してみれば、この点参加会社に不当労働行為意思の存在を認めることは困難といわなければならない。
(三) 以上の理由で、夏季一時金における不利益取扱も、参加会社の過失責任の問題を生ずることはともかく、不当労働行為にあたるとは認められないから、被告が右の点につき救済申立を棄却したことに違法はない。
四 請求原因5(救済申立(三)関係)について
1 参加会社が昭和五〇年七月二日、原告組合執行委員長(当時)河内正勝に対し、一〇日間の出勤停止処分をしたことは、当事者間に争いがない。(証拠略)及び(証拠略)別紙4の参加会社就業規則によれば、右処分は、本件ストライキの手段として、西山ら三名に坐り込みをさせ、社屋に大量のビラを貼付した行為は、会社に対し著しい損害を与え、従業員の本務にもとり、会社の信用を著しく失墜させたとの理由でなされたものであること及び就業規則中に右に相当する根拠規定の存することが認められる。
また、前記三に掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、参加会社は、河内に対しても西山ら三名と同様、各一時金及び期末手当を従業員平均より低く査定して支給し、かつ、出勤停止期間中の賃金カットをしたことが認められる。
2 右処分及び不利益取扱についても、前記三で述べたところと同一の理由により、不当労働行為もしくは権限の濫用にあたらないと判断される。もっとも、河内は自ら坐り込みを実行したものではないけれども、前掲各証拠によれば、同人は原告組合の当時の執行委員長として、前記坐り込み及びビラ貼りを指導し、かつ、自らもビラ貼りを実行し、これらが前述のような態様・程度に至っても是正を指示することなくそのまま継続させたことが認められるから、河内自身責任を追及されてもやむを得ないところというべく、処分権濫用の主張は同人の関係でも採用できない。
五 請求原因6(救済申立(七)関係)について
1 参加会社が昭和五一年二月二六日、原告組合員で本社トレース部に勤務していた桑原(現姓高沢)加代子に対し、同年三月一日から本社工業写真場で就労するよう命じたことは、当事者間に争いがない。
2 (証拠略)によれば、桑原は昭和四六年に参加会社に採用され、一貫してトレース作業に従事してきたが、同五〇年二月、頸肩腕症候群に罹患している旨の診断書を参加会社に提出し、その原因は過重なトレース作業にあるとして、同年五月、労災保険金の給付を受けるべく、参加会社に対しその手続への協力方を申入れたこと、しかし、参加会社は、トレース業務と右症状との因果関係を疑問とする立場からこれに応じなかったこと、そこで、桑原は同年七月頃、独自に右給付の申請をし、その結果、本件配転後の昭和五一年五月六日、広島労働基準監督署長から右保険金の支給決定を得たことが認められる。
3 また、(証拠略)によれば、本件配転前の桑原の就労状況は、欠勤・遅刻・早退・外出等の欠務が多く、昭和四八年一二月から同四九年一一月まで一年間の実労働時間は、年間所定労働時間の約七五パーセントに止まり、同年一二月から昭和五〇年一一月までのそれは五〇パーセント強にまで低下したこと、その主たる原因は、頸肩腕障害による不調と、その治療のための通院にあったこと、なお、同五一年二月頃には、職場内で同人から、指が痛くて文字が書き辛い旨の訴えがなされたことが認められる。
4 右のように、桑原自身がトレース作業が原因で右障害を来した旨を訴え、その勤務状況にも身体的不調が明らかにあらわれている以上、参加会社としては、たとえ業務との因果関係に疑問を有するとしても、同人をトレースよりも軽易な作業に就かせるよう配慮することが必要かつ適当であったと認められる(この点、同人の受診先医師や労働基準監督署監督官からも、参加会社に対し、同人の配置転換を示唆していたことが前掲各証拠から窺われる)。
また、(証拠略)によれば、トレースの仕事は特に納期が重要であり、短時日で仕上げるよう注文を受ける場合も少くないため、従業員の就労が不安定では差支えを来すおそれが大きいこと、すなわち、参加会社の業務の面からも配転の必要があったことが認められる。
5 そこで、同人の配転先を本社工業写真場としたことの当否についてみるに、(証拠略)(担当医師の意見書)には、現状のコピー作業やホッチキスを使用する作業は頸肩腕に対する負担が大であって症状の悪化が考えられ、不適と思われる旨の指摘があるけれども、この点、(証拠略)によれば、参加会社は、桑原には仕上げ(折方、帳合、綴とじ、裁断など)を担当させ、コピー作業には従事させない方針をとって実行していること、右仕上げ作業は、パート従業員と同様、随時着手しまたは中断できるものであることが認められるし、前記医師の意見書も、そのような作業の実態を見分したうえで作成されたものとまではみられないから、右作業が直ちに症状の悪化を招来するとは認め難い。なお、原告は、工業写真場における紙ぼこりや騒音によってさらに症状悪化を招くおそれがある旨主張するけれども、医学的知見として承認されたものとは考えられない。
また、(証拠略)によれば、本件配転は場所的には参加会社本社社屋五階のトレース室から三階の工業写真場への配置換であって、女子更衣室も共通であることが認められ、就業時間外に往来することを会社側が制限した事実は見受けられないから、右配転によって桑原の組合活動に支障を来すことは想定し難い。
6 その他、工業写真部門の将来性がないとの原告の主張については前述のとおりであるし、社外工をもってトレース作業を代替させ得るとしても、当該作業に起因する障害を訴え、治療も受けつつある者を長期間その職場に留めておくことが適当とは思われず、参加会社にその義務があるとも解されない。また、配転の時期が一般の例と異なるとしても、上記の事由によるものである以上、不当とすべき点はない。
結局、本件配転が不当労働行為にあたると認めることはできず、被告が同様の判断に立って申立(七)を棄却したことに、何らの違法はない。
六 請求原因7(救済申立(八)関係)について
(証拠略)によれば、参加会社は原告組合からの再三の団交申入れに対し、「団体交渉」の名を冠することには応じなかったものの、組合との間で説明と話合いのための会合を持つことには異存がない旨を伝え、松井総務部長が中心となって、少くとも昭和五〇年五月一七日頃、同月二九日頃、同年六月七日頃及び同月一七日頃の四回にわたり、原告組合役員らとその会合を持ったこと、右会合のうちには、原告の上部組合の役員が同席し、約二時間に及んだものもあることが認められる。原告は、右会合は参加会社の一方的な見解表明に終始し、話合いの実質を全く有しなかったと主張するけれども、そのように認めるべき証拠はなく、却って、当時原告組合の副執行委員長であった梶川勝利自身、(証拠略)において、配転問題についての話合いは何回もやっていると述べるところである。
右のような実情に照らすと、参加会社は単に団体交渉の名を用いることを避けたに過ぎないと解せられ、団体交渉を実質的にも拒否したとはいえないから、この点に不当労働行為の成立を認めるには足りず、同様の見解に立って申立(八)を棄却した本件命令は正当である。
七 請求原因8(救済申立(一一)関係)について
(証拠略)によれば、昭和五〇年六月一四日頃、参加会社のゼロックス主任音塩健二が部下の荒井順子方を訪問して母親と面談し、荒井が原告組合に加入したことに関して話合いをしたことが認められる。そして、(証拠略)には、その際音塩に原告主張のような発言があったことを窺わせる記載があるが、<証略拠>は、荒井が母親から伝聞したことを梶川との電話の中で伝えそれを梶川が録音のうえ文章化したものであって、音塩の発言がそのまま正確にあらわれているか否か疑問の余地がある。また、仮にこれと趣旨を同じくする発言があったとしても、音塩については、ゼロックス主任という以外、会社幹部との関係や平素の言動を知る資料はなく、直ちに参加会社の指示に従って行動したと認めるには不十分といわざるを得ない。
よって、この点につき不当労働行為の成立を認め得ないとして申立(一一)を棄却した本件命令は正当というべきである。
八 請求原因9(申立(一二)関係)について
(証拠略)によれば、前記坐り込み及びビラ貼りの継続中である昭和五〇年六月頃、参加会社の取引先日本製鋼所広島製作所の課長補佐岡野某が梶川に対し、参加会社から頼まれたわけではないと断わったうえ、このままでは日本製鋼所が参加会社に発注する量を減らすことになるかも知れない旨を述べたことが認められる。しかし、右各証拠によれば、梶川は以前営業係として同会社を担当し、岡野とは仕事上の付合いでよく知り合った仲であり、同人はそのような縁故から、自分の意思で梶川との面談を希望し、かつ、右の発言をしたものと推認され、これに反し、参加会社が岡野に依頼して右のような発言をさせたと認めるだけの証拠はない。
よって、この点についても不当労働行為の成立を認めるには足りない。
九 救済申立(一三)について
被告が原告組合の救済申立に対し、主文1ないし3項のとおりの救済をもって十分と判断したことは、申立(五)(六)及び(一〇)に関する各証拠にあらわれた事実関係に照らし、正当として支持することができる。
一〇 結語
以上の次第で、被告が原告の救済申立中(五)(六)(一〇)及び取下げにかかるものを除くその余の申立を棄却したことは正当であってその取消を求める本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田川雄三 裁判官 金村敏彦 裁判官三好幹夫は退官のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 田川雄三)