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広島地方裁判所 昭和58年(ワ)172号 判決 1984年3月27日

主文

被告は原告に対し金一六五万二三六二円及び内金一五〇万二三六二円に対する昭和五六年六月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を被告その余を原告の負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立

一  原告

被告は原告に対し金四二六万九四九一円及び内金三七六万九四九一円に対する昭和五六年六月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行の宣言

二  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五六年六月一二日午前一一時一五分頃

(二) 場所 広島市中区舟入幸町一四番一一号舟入病院先路上

(三) 加害車 被告運転の普通乗用自動車(以下被告車という)

(四) 態様 被告車が横断歩道を歩行中の原告をはねた。

(五) 原告の受けた傷害

脳しんとう症、頭頂部挫創、外傷性頸部症候群、右腰部臀部大腿部打撲、第一腰椎圧迫骨折、右恥骨骨折、右肩右手挫傷等。

2  責任

被告は被告車を自己のために運行の用に供していたから、自賠法三条により責任がある。

3  原告の損害

原告は事故前喫茶店の営業をしていたが、右傷害治療のため昭和五六年八月七日までの五七日間入院し、以後同年一二月一五日までの一三〇日間通院(実日数五〇日)を余儀なくされ、右営業を休業した。右症状固定後も第一腰椎、右恥骨などの骨折部に変形を残し、頭部、頸部痛や右足付け根の疼痛など後遺傷害等級一二級に該当する傷害が残存し、そのためやむなく右営業を廃業した。

(一) 附添費 金二〇万八五四三円

127,715円+80,828円=208,543円

(二) 入通院雑費 金八万二〇〇〇円

1,000円×57+500円×50=82,000円

(三) 休業損害 金一四五万〇〇五二円

事故前一年間の所得は金二八三万〇三一七円であつた。

(四) 入通院慰藉料 金一三〇万円

(五) 逸失利益 金二三二万七五三九円

右後遺傷害は少なくとも七年間は継続する。

2,830,317円×0.14×5.874=2,327,539円

(六) 後遺障害慰藉料 金一九〇万円

(七) 腰椎装具代 金二万六三〇〇円

(八) 損益相殺 金三八六万七〇四三円

右損益相殺後の合計金三四二万七三九一円

(九) 弁護士費用 金五〇万円

4  よつて、原告は被告に対し金四二六万九四九一円及びこれから弁護士費用金五〇万円を控除した金三七六万九四九一円に対する事故の翌日の昭和五六年六月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する答弁

1  請求の原因1の(一)ないし(三)及び(五)は認める。同(四)のうち、被告車と原告が衝突したことは認め、その余は争う。

2  同2のうち、被告が被告車を自己のために運行の用に供していたことは認める。

3  同3の(一)は認め、その余は争う。原告は本件事故以前から営業不振のため喫茶店を売りに出していた。また原告に後遺障害による現実の収入減はないから、それによる逸失利益はない。

三  抗弁

1  過失相殺

被告が舟入病院先路上を時速約三〇キロメートルで被告車を運転し、舟入中町方面へ向けて進行していたところ、原告は前方左側歩道を被告と同一方向に歩いていたが、原告は立ち止まることもなく、後方も全く確認せず、突然斜めに横断歩道上に足を踏み入れたため、被告は原告を避けることができず、被告車が原告と衝突したものであり、右のような横断を開始した原告にも明らかに過失がある。

2  損害の填補

被告は原告に対し治療費金四〇万九四九八円、附添費金二〇万八五四三円、休業損害等として金一五六万八五〇〇円を支払つた。原告はさらに自賠責保険から後遺症分として金二〇九万円を受領している。

四  抗弁に対する答弁

1  抗弁1は争う。横断歩道上の事故であり、原告を非難すべき事情は全くない。

2  同2のうち、治療費の支払は不知。附添費金二〇万八五四三円及び金一五六万八五〇〇円並びに後遺症分金二〇九万円の支払は認める。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  原告主張の日時、場所で被告車と原告が衝突し、原告が主張の傷害を受けた本件事故が発生したこと及び被告が被告車を自己のために運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。従つて、被告は本件事故によつて原告に生じた損害を賠償する責任がある。

二  そこで、原告の傷害について判断する。

1  附添費

原告に右附添費用金二〇万八五四三円の損害が発生したことは当事者間に争いがない。

2  入通院雑費

成立に争いがない甲第四号証によれば、原告は右傷害の治療のため広島市中区舟入町三番一三号シムラ病院に昭和五六年六月一二日から同年八月七日までの五七日間入院し、翌八日から同年一二月七日までの間(実通院日数五〇日)通院したことが認められる。右間の入通院雑費は入院一日につき金七〇〇円、通院一日につき金二四〇円と認めるのが相当であるから合計金五万一九〇〇円となる。

700円×57+240円×50=51,900円

3  休業損害

前記甲第四号証及び原告本人尋問の結果により真正に成立したことが認められる甲第一号証並びに原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故前喫茶店を経営し、事故前一年間の純益は金二八三万〇三一七円であつたが、本件事故により昭和五六年一二月一五日まで休業せざるをえなかつたことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。そうすると、右休業損害は原告主張のとおり金一四五万〇〇五二円となる。

4  入通院慰藉料

前記認定の原告の受傷の内容、程度、入通院期間等を考慮すると、原告の入通院慰藉料は金一〇〇万円と認めるのが相当である。

5  逸失利益

前記甲第四号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告の症状は昭和五六年一二月一五日固定したが、後遺症として腰椎、右恥骨、坐骨の骨折部に変形が残り、頭痛、頸部痛、腰痛、右足つけ根の疼痛等の神経症状が残つたこと、原告は昭和五七年五月から飲食店(スタンド)を経営し、一か月平均金二〇万円の純益を得ていることが認められる。

右認定の後遺症の内容、程度、症状固定後の原告の稼働状況、原告の職業等に照らすと、原告は右症状固定後五年間にわたり労働能力の一四パーセントを喪失したものと認めるのが相当であるから、ホフマン方式により年五パーセントの中間利息を控除して本件事故時の逸失利益の価格を求めると、次のとおり金一七二万九二一〇円となる。

2,830,317円×0.14×4.364=1,729,210円

6  後遺障害慰藉料

右認定の後遺症の内容、程度等に照らすと、原告の右慰藉料は金一五〇万円と認めるのが相当である。

7  腰椎装具代

成立に争いがない乙第一五号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は前記傷害治療のため腰椎装具を必要とし、その代金二万六三〇〇円を支出したことが認められる。

以上合計すると、原告の損害は金五九六万六〇〇五円となる。

三  過失相殺について

原本の存在及び成立に争いがない甲第三号証、乙第一一、第一二、第一四号証によれば、被告は被告車を運転し、舟入病院先路上を制限速度時速二〇キロメートルのところを時速三〇キロメートルの速度で北進したが、同所には横断歩道が設けられ、原告が西側歩道上の車道寄りを同横断歩道から南方二・五九メートルの地点を北方に向けて歩行しているのを後方約二四メートルの地点で認めたから、被告は減速徐行するとともに原告の動静を注視して進行すべきであるのに、これを怠り、漫然と前記速度で進行した過失により原告が右横断歩道により西方から東方に横断を開始したのを約八メートルの地点に接近して初めて認めて急制動の措置をとつたが、間に合わず原告に衝突したことが認められる。そこで、原告が右横断歩道により横断を開始するに当たり、左方(南方)の安全を確認したかについてみるに、原告は右認定のように横断開始直後に被告車と衝突したのであり、横断開始の時被告車は南方約八メートルの地点に接近していたから、原告が左方の安全を確認していれば、原告は被告車との衝突を避けるため当然に横断を開始していなかつたとみられること及び前記乙第一二号証に照らすと、右確認したとする原告本人尋問の結果は措信できず、かえつて、右乙第一二、第一四号証及び右衝突状況からすると、原告は左方(南方)の安全を確認することなく横断を開始した過失があることが認められる。本件事故が横断歩道上であつても、被告車は横断歩道手前約八メートルの地点に接近していたのであるから、原告は被告車を確認して横断を一時見合わせれば容易に本件事故を避けえたことを考えれば、原告の右過失を無視することはできない。そして、右認定の双方の過失を比較検討すれば、原告の過失割合を一〇パーセントと認めるのが相当である。

右割合で過失相殺すると、原告の損害は金五三六万九四〇五円となる(なお、本件事案に照らし、原告の治療費については過失相殺しない)。

四  損害の填補

原告が損害の填補として金三八六万七〇四三円の支払を受けたことは当事者間に争いがない(なお、治療費の支払は本訴請求と関係がない)から、これを控除すると、原告の損害は金一五〇万二三六二円となる。

五  弁護士費用

右認定の損害額、本件事案の内容等に照らすと、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は金一五万円と認めるのが相当である。

六  以上によれば、被告は原告に対し金一六五万二三六二円及び内金一五〇万二三六二円に対する本件事故の翌日である昭和五六年六月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるので、原告の本訴請求は右の限度で理由があるので認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉岡浩)

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