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広島地方裁判所 昭和59年(ワ)751号 判決 1988年11月16日

原告

全国金属労働組合

右代表者中央執行委員長

橋村良夫

原告

全国金属労働組合広島地方本部

右代表者執行委員長

南条俊次

原告

全国金属労働組合広島地方本部東洋シート支部

右代表者執行委員長

一色邦男

原告ら訴訟代理人弁護士

嶋田喜久雄

鴨田哲郎

小池貞夫

外山佳昌

筒井信隆

山田延廣

被告

株式会社東洋シート

右代表者代表取締役

山口清蔵

右訴訟代理人弁護士

成富安信

青木俊文

中町誠

八代徹也

主文

一  被告は、原告らに対し、金二〇〇万円及びこれに対する昭和六二年一一月一二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の各請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らの負担とし、その一を被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告ら各自に対し、二〇〇万円及びこれに対する昭和五九年九月一三日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  1項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告全国金属労働組合(以下、「原告全金」という。)は、全国の金属機械産業に働く労働者約一六万人で組織する産業別単一組織たる労働組合である。

(二) 原告全国金属労働組合広島地方本部(以下、「原告全金広島地本」という。)は、広島県の原告全金組合員約一〇〇〇名で組織する労働組合である。

(三) 原告全国金属労働組合広島地方本部東洋シート支部(以下、「原告全金東洋シート支部」という。)は、被告に勤務する原告全金組合員二六名で組織する労働組合である。

(四) 被告は、広島県安芸郡海田町に本社及び広島工場を、兵庫県伊丹市に伊丹工場を有し、乗用車用シート等の製造販売を主たる業とする株式会社である。

2  本件不法行為に至る経緯

(一) 昭和五四年四月当時、原告全金東洋シート支部は、原告全金の兵庫地方本部に所属し(名称は「全国金属労働組合兵庫地方本部東洋シート支部」。)、広島、伊丹各工場単位に分会を有する約三五八名の組織であり、被告内には他に労働組合が存在しなかった。

(二) しかし、昭和五四年五月、伊丹分会の組合員全員(三九名)と広島分会の組合員三〇五名が原告全金より脱退し、東洋シート労働組合(以下、「東洋シート労組」という。)を組織した。

(三) その結果、原告全金東洋シート支部は、組合員が大幅に減少し、原告全金広島地本に所属することになり(名称は現在名となる。)、分会組織は有さなくなった。しかし、原告全金東洋シート支部は、規約、代表者を有し、労働組合としての活動をなしており、労働組合として厳存している。原告全金東洋シート支部組合員は、昭和五四年五月当時一四名となったが、その後約五〇名が東洋シート労組を脱退して加入したので、昭和五四年六月当時六八名となり、更にその後、退職、死亡等により現在の二六名となった。

3  被告の不法行為

(一) 被告による原告らの団体交渉権、団結権侵害

(1) 被告は、昭和五四年四月以降現在に至るまで、継続して、被告内には全金東洋シート支部なる組織は存在しない旨主張し、被告における原告全金組合員により構成される組織の存在を否定している。

(2) 原告らは、被告に対し、別紙団体交渉申入れ一覧表(以下「一覧表」という。)記載のとおりの団体交渉申入れをしたが、被告は、(1)の主張をして、いずれも団体交渉を拒否している(但し、後記二3(二)で被告が主張している予備折衝及び仮団体交渉のあったことは、昭和五六年五月二三日分を除いて認める)。

なお、一覧表記載の期間内及びその後において、昭和五四年五月・六月の東京都労働委員会の勧告、同年一一月六日の同委員会の命令、昭和五五年一〇月九日の仮処分決定と予備折衝、同年一二月一六日の和解と仮団体交渉、昭和五七年七月二一日の中央労働委員会の命令、昭和五八年一〇月二七日の東京地方裁判所判決、昭和五九年一一月二八日の東京高等裁判所判決、昭和六一年五月二九日の最高裁判所判決、同年一一月一〇日の中央労働委員会の勧告を経て、七年半後にようやく原告全金とは変則的な団体交渉が開催されるようになったが、八年半を経た今日も被告は原告全金東洋シート支部の存在を否定し、同原告との団体交渉を拒否し続けている。

(3) 被告の右行為は、不当労働行為に当たることはもちろん、原告らの団体交渉権を不当に侵害する不法行為であることは論をまたないばかりでなく、さらには、被告の右行為が長期に継続したため、一時六八名まで回復した原告全金東洋シート支部の組合員数も、現在では二六名まで減少し、組合組織自体が存亡の危機にさらされており、原告らの団結権をも侵害している。

(二) 故意

被告は、原告らを弱体化ないし壊滅する目的で、原告全金東洋シート支部の存在を否定し、原告らとの団体交渉を拒否したものである。

(三) 責任

従って、被告は原告らに対して、不法行為者として原告らの蒙った損害を賠償する義務がある。

4  損害

(一) 組合機能の阻害

労働組合は、組合員の団結を背景に、使用者との団体交渉を通じて、労働条件等の維持、向上をめざすことを最大かつ中心の目的とする組織である。本件においては、賃金、一時金、休日出勤、配置転換、安全問題等、本来原被告間の団体交渉で解決されるべき事項が、被告の団体交渉拒否により、解決はおろか、テーブルに着くこともなく放置されてきた。これでは、組合員にとっては組合に加入する意義が全くなく、組合の基本的な機能を完全に無に帰せさせるものである。

(二) 組合活動の阻害

原告らは、被告の原告全金東洋シート支部の存在の否定、団体交渉拒否を改めさせるために、様々な取組(共闘会議の結成と運営、ビラの発行、配布、会議の開催、集会の開催とオルグ、動員、現地指導、法廷闘争など。)と出費を余儀なくされ、組合としての本来の活動を著しく阻害されている。

(三) 社会的信用、評価の毀損

労働組合は社会的存在であるから、その存在自体を否定することはその社会的信用、評価を著しく傷つけるものであり、被告が原告全金東洋シート支部の存在を否定したことにより、原告らの社会的信用、評価は著しく毀損された。

(四) 以上により、原告らは、少なくとも三〇〇〇万円は下らない無形の損害を被った。

5  結論

よって、原告らは、被告に対し、右無形の損害のうち六〇〇万円を各平等の割合で支払うことを求めるとともに、右各金員に対する不法行為の後である昭和五九年九月一三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)ないし(三)の事実は不知、同(四)の事実は認める。

2  請求原因2(一)の事実中、昭和五四年四月当時、被告に、全国金属労働組合兵庫地方本部東洋シート支部という名称の労働組合が存在し、他に労働組合が存在しなかったことは認め、その余は不知。同(二)、(三)の事実は否認。

3(一)  請求原因3(一)(1)の事実は認める。

(二)  同(2)の事実の前段中、一覧表番号3、4、15、56記載の団体交渉申入れと称する行為が被告に対してなされたこと、同表番号39以降の昭和五五年一〇月九日付広島地方裁判所団交応諾仮処分決定及び同年一二月一六日付同裁判所和解調書記載の事項についてを主要な団交事項とした団体交渉申入れに対し、被告が団体交渉を拒否したことは否認し、その余は認める。右仮処分決定及び和解により、被告は、昭和五五年一一月二六日、同月二八日、同年一二月二日、同月四日に仮団体交渉を行うための原告らとの予備折衝を実施し、それらに基づいて、同月二三日、昭和五六年一月八日、同月二〇日、同月二九日、同年二月九日、同年五月二三日の六回仮団体交渉を行っている。

同(2)の後段(なお書部分)中、昭和六一年五月二九日付最高裁判所判決後の中央労働委員会の勧告により、原告全金と被告との団体交渉が行われていることは認める。

(三)  同(3)は争う。

4  請求原因3(二)の事実は否認する。

5  請求原因4の事実は否認する。

三  被告の主張

1  被告が原告らの団体交渉申入れと称する行為に応じなかった理由は、次の通りである。

(一) 被告には、従来全国金属労働組合兵庫地方本部東洋シート支部という名称の組合が存在したが、同組合から被告に対し、昭和五四年四月二三日付書面をもって同組合執行委員長名で「四月の組合大会において全金脱退の決議をなし、右趣旨を全金に通知した。」旨の通知があり、次いで組合の名称も東洋シート労働組合に改める旨の通知もあった。従って、右以降、被告には、全国金属労働組合兵庫(又は広島)地方本部東洋シート支部なる組合は、新たに同一名称の労働組合が結成されたのでもない限り、存在していないはずである。

(二) 被告は、右組合決議の方法の不備とか内容の無効等について、独自に調査判断する権限も義務もないのであるから、被告としては、従来の組合執行委員長が当該組合の代表者として正式に通知してきた内容を有効なものとして取り扱い、信頼して行動することが正当な対応であり、他に正当な選択があったとはいえない。従って、右各通知を受け取った被告としては、右脱退が明白に違法である場合は別として、そうでない限り右脱退を有効なものと扱わざるを得ない。このことは、使用者の組合内部事項不介入、不可侵の原則を採用するまでもなく当然の理である。

(三) もっとも、右脱退については一部に反対者も存在したようである。しかし、組合内部の討議等を経て圧倒的多数の賛成をもって「全金脱退」の決議がなされている以上、第三者である使用者としては、多数決原理にそった右決議を組合の唯一の意思として尊重しなければならないことは組合民主主義をいうまでもなく当然の理である。かえって、被告において、全金脱退反対を唱えた少数派の主張を尊重することは、第三者である使用者独自の判断で組合内部の多数派の結論、機関決定を覆すことになり、とうてい受け入れられるものではない。

(四) 一方、被告は、全金脱退反対を主張する集団に対しても、その立場を尊重して、右集団の主張が新組合の結成という趣旨ならば、結成通知さえ出せば団体交渉するという柔軟な、かつ、前記各通知と整合性をもつ態度を一貫してとっている。本件は、二つの労働組合法上の組合が存する場合ではなく、ある組合とその中の分派グループの場合であるから、組合に対する使用者の中立性の要請からいって、被告にとっては、前記以外の対応しかないと考え、かかる対応をしてきたものである。

2  仮に、結果として前記の被告の解釈に何らかの誤りがあったとしても、それは結果論にすぎない。なお、前記最高裁判所判決が出た以降、被告は、原告全金と誠実に団体交渉しており、かつ、一時金等も妥結している。

第三証拠(略)

理由

一  (人証略)によれば請求原因1(一)、(二)の事実を認めることができ、同(四)の事実は当事者間に争いがなく、同(三)の事実は後記認定のとおり、これを認めることができる。

二  (証拠略)によれば以下の事実を認めることができ、右認定に反する(証拠略)は採用できず、他に右認定に反する証拠はない(なお、以下の事実のうち、昭和五四年四月当時、被告内に、全国金属労働組合兵庫地方本部という名称の労働組合が存在し、他に労働組合が存在しなかったこと、被告は、昭和五四年四月以降現在に至るまで、継続して、被告内には全金東洋シート支部なる組織は存在しない旨主張し、被告における原告全金組合員により構成される組織の存在を否定していること、一覧表記載の原告らが団体交渉申入れの趣旨でなした申入れのうち、番号3、4、15、56記載のものを除くその余の申入れが被告に対してなされたこと、右申入れに対し、番号39以降の昭和五五年一〇月九日付広島地方裁判所団交応諾仮処分決定及び同年一二月一六日付同裁判所和解調書記載の事項についてを主要な団交事項としたものを除くその余の申入れを被告が拒否したこと、右仮処分決定及び和解により、昭和五五年一一月二六日、同月二八日、同年一二月二日、同月四日に原被告間で仮団体交渉を行うための予備折衝が実施されたこと、同月二三日、昭和五六年一月八日、同月二〇日、同月二九日、同年二月九日に仮団体交渉が行われたこと、昭和六一年五月二九日付最高裁判所判決後の中央労働委員会の勧告により原告全金と被告との団体交渉が行われていることは当事者間に争いがない。)。

1  (本件紛争の発端)

(一)  被告には、もと、その従業員の大多数をもって構成されており、原告全金の下部組織である、全国金属兵庫地方本部東洋シート支部の名称の労働組合(以下「兵庫地本東洋シート支部」という。)が存在していた。

(二)  昭和五四年四月二〇日昼休みに、兵庫地本東洋シート支部広島分会臨時総会が開催され、執行部から原告全金を脱退する旨の決議の提案がされ、午後の始業ベルと同時に起立採決を行い、起立多数であるとして、原告全金からの脱退を決議した。同月二一日、伊丹分会においても、同旨の決議がされた。

(三)  兵庫地本東洋シート支部執行部は、右決議により兵庫地本東洋シート支部が原告全金を脱退したものとし、同月二三日付の書面により東洋シート支部委員長名で、全国金属労働組合兵庫地方本部に対し、右脱退決議をした旨を通知し、同日、被告に対して、右脱退決議及び通知をした旨並びに今後原告全金とは一切関係ない旨を申し入れた。また、同年五月八日、九日に大会を開き、名称を東洋シート労働組合に変更する旨を決議した。

(四)  これに対し、全国金属労働組合兵庫地方本部は、右脱退決議は組合規約に反した手続及び採決によってなされたものである等の理由により無効であり、かつ組織脱退はあり得ない旨主張し、右脱退決議を指導した執行委員全員を六か月間の権利停止処分にするとともに、一色邦男を執行委員長代行に指名した。また、同年四月二三日に、被告に対し、右脱退問題を団交事項とする団体交渉申入れをしたが被告は、右脱退決議により被告内には原告全金の組織は存在しなくなったと主張して、右申入れを拒絶した。一色邦男及び同人に同調する一〇名は、同年五月七日に臨時大会を開催し、一色邦男を執行委員長とする新執行委員を選任し、被告に対し、今後は右新執行委員らが兵庫地本東洋シート支部を代表するものである旨の通知をした。その後、兵庫地本東洋シート支部の所属は、全国金属労働組合兵庫地方本部から原告全金広島地本に変更された。

(五)  かくして、右脱退決議後は、被告内には、原告全金とは一切関係がない組合であると主張している「東洋シート労組」と原告全金、原告全金広島地本の下部組織であると主張し、同原告らも下部組織であることを認めている「原告全金東洋シート支部」との二つの労働組合が併存することになった。

2  (被告の団体交渉拒否)

(一)  原告全金東洋シート支部は、1(四)の通知と同時に、一覧表番号1記載のとおりの団体交渉申入れを被告に対してしたところ、被告は、被告内に全金東洋シート支部なる組合は存在しない、新組合を結成したのなら結成通知を提出して欲しい等と主張して、右団体交渉申入れを拒否した。

(二)  次いで、昭和五四年五月一四日、原告全金は、一覧表番号2記載のとおりの団体交渉申入れを被告に対してしたところ、被告は、被告内に原告全金の組織は存在しないから原告全金の団体交渉申入れに応じる義務はない旨を主張して、右団体交渉申入れを拒否した。右団体交渉申入れ拒否に対し、原告全金は、東京都地方労働委員会に不当労働行為救済申立てをした。

(三)  以後、同年九月二一日まで、一覧表番号3ないし13記載のとおりの団体交渉申入れに対し、被告は、同旨の主張をして拒否した。この間、六月に、(二)の救済申立てに基づき、東京都地方労働委員会が被告に対し原告らの団体交渉申入れに応じるよう勧告したが、被告は、右勧告を拒絶した。

(四)  同年一一月六日、(二)の救済申立てに対し、東京都地方労働委員会は、その理由中において、原告全金東洋シート支部が前記脱退前の兵庫地本東洋シート支部と同一性を継承しているか否かの問題は別として、全金東洋シート支部の名のもとに原告全金にとどまる組合員が被告内に存在することは事実であり、従って、被告が原告全金の団体交渉申入れを拒否していることは正当でない旨の判断を示したうえ、「被告は、原告全金が昭和五四年五月一四日付で申し入れた「団結権侵害中止および右関連する事項」に関する団体交渉を、申立人には当事者資格がないとして、拒否してはならない。」旨の命令を発した。

(五)  しかし、被告は、右救済命令を不服として、中央労働委員会に再審査の申立てをした。右救済命令に基づき、原告らは、同月一二日、一覧表番号14記載のとおりの団体交渉申入れをしたが、被告は拒否した。

(六)  その後、昭和五五年一〇月三日まで、一覧表番号15ないし37記載のとおりの団体交渉申入れがなされたが、被告は、前記と同旨の主張をして、拒否した。

(七)  以上の団体交渉拒否に対し、原告全金東洋シート支部は、被告を被申請人として、広島地方裁判所に団体交渉応諾仮処分の申請をし、同年一〇月九日、同裁判所は、右申請を認め、被告に団体交渉をすることを命じる決定をした。右決定に基づき、原告らは、同月一五日、一覧表番号38記載のとおりの団体交渉申入れをしたが、被告は拒否した。そこで、原告全金東洋シート支部は、広島地方裁判所に間接強制の申立てをしたところ、裁判所が間に入り、右仮処分決定に基づく仮団体交渉を行うための予備折衝が同年一一月二六日、同月二八日、同年一二月二日、同月四日の四回実施され、同月一六日、原告全金東洋シート支部と被告との間で、左記の条項を主な内容とする訴訟上の和解が成立した。

主な和解条項

(1) 当事者双方は、団体交渉を以下に定める条項に従って、昭和五五年一二月二三日午後四時四〇分からを第一回として開始する。

(2) 出席者は、申請人側については、原告全金役員一名、原告全金広島地本役員一名、原告全金東洋シート支部委員長、書記長各一名を交渉委員とし、その他に、書記一名を同席させる。被申請人側については、被告が指名する四名を交渉委員とし、その他に書記一名を同席させる。

(3) 議題は、

イ 被告の原告全金東洋シート支部に対する団結権侵害行為中止について。

ロ 原告全金東洋シート支部組合員のいわゆるチェックオフ金の交付について。

ハ 昭和五四年度夏季及び冬季並びに昭和五五年度夏季一時金の支給について。

ニ 昭和五五年度賃上げについて。

ホ その他、イないしニに関連する事項一切。

とする。

(4) 時間は二時間とし、その時間内に交渉がまとまらなかったときは、原則として一週間以内の日時を当事者双方合意で決定して続行し、その後も同様とする。

(八)  右和解成立までの間に、一覧表番号39ないし44記載のとおり団体交渉申入れがなされたが、右のうち、番号43の申入れを除くその余の申入れについては、被告は拒否した。番号43の申入れに対しては、前記のとり、仮団体交渉を行うための予備折衝が実施された。

(九)  (七)の和解に基づき、同年一二月二三日、昭和五六年一月八日、同月二〇日、同月二九日、同年二月九日の五回、原被告間で仮団体交渉が行われた。

この場で、被告は、(七)の和解条項(3)の交渉事項につき、イについては、本件は組合内部の問題であり、団結権侵害行為はしていない、ロについては、既に係属している裁判で解決したい、ハ、ニについては、東洋シート労組と同額にし、金額に異存がない旨の個々人の念書を提出すれば金額を示す旨の回答をした。そして、被告が、被告内には組合は一個しかなく、原告全金の組織が被告内に存在することは認められない、交渉している相手は、原告全金東洋シート支部執行委員長ではなく、仮処分申請人個人であると主張し、双方の主張のくいちがいを話合いで解決しようという姿勢を示さなかったことから、右交渉事項について進展のある交渉はなされなかった。そして、五回目の昭和五六年二月九日の交渉で、被告が次回の期日を決めないまま退席し、以後、(二)の仮団体交渉まで、仮団体交渉は開かれなかった。

(一〇)  そこで、原告全金東洋シート支部は、再び、同年三月、広島地方裁判所に、間接強制の申立てを行った。その一方で、原告らは、一覧表番号45ないし50記載のとおり団体交渉申入れをしたが、被告は拒否した。

(一一)  右間接強制の申立てを受け、裁判所が間に入り、同年五月二三日に、六回目の仮団体交渉が開かれ、この場で、被告が仮協定案を提示した。次回の期日が入らなかったことから、裁判所の審尋において、右協定案中の一時金の扱いを中心に話し合いが進められた。右審尋は昭和五六年二月まで続けられ、おおむね合意が成立したが、支給される一時金について、別訴で原告らが敗訴した場合は被告に返還することで合意したものの、被告が敗訴した場合の取扱いについて合意が成立せず、結局、原告全金東洋シート支部が申立てを取下げて、終了した。以後、(七)の和解に基づく仮団体交渉も開かれなかった。

(一二)  (一一)の期間を含め、昭和五七年六月一八日まで、一覧表番号51ないし60記載のとおりの団体交渉申入れがなされたが、被告は拒否した。

(一三)  昭和五七年七月二一日、中央労働委員会は、(四)の救済命令と同一趣旨の判断を説示した上、被告の再審査申立てを棄却した。しかし、被告はこれを不服として、東京地方裁判所に対し、不当労働行為救済命令取消訴訟を提起した。原告全金は、中央労働委員会の右命令に基づき、同年九月七日、一覧表番号61記載のとおりの団体交渉申入れをしたが、被告は拒否した。

(一四)  以後、昭和五八年九月三〇日まで、原告らは、一覧表番号62ないし68記載のとおりの団体交渉申入れをしたが、被告は拒否した。

(一五)  昭和五八年一〇月二七日、東京地方裁判所は、(一三)の訴訟について、(四)の救済命令と同一趣旨の判断を説示した上、被告の請求を棄却した。被告は、右判決を不服として、東京高等裁判所に控訴した。原告らは、右判決に基づき、同年一一月一〇日、一覧表番号69記載のとおりの団体交渉申入れをしたが、被告は拒否した。

(一六)  その後、昭和五九年三月二二日まで、原告らは、一覧表番号70ないし72記載のとおりの団体交渉申入れをしたが、被告は拒否した。

(一七)  昭和五九年一一月二八日、東京高等裁判所は、(一五)の控訴申立てに対し、原判決と同一趣旨の判断を示して、控訴を棄却した。被告は、右判決を不服として、最高裁判所に上告した。同年一二月一〇日、原告全金は、右判決に基づき、期日を同月二一日とし、主要な団交事項を被告の原告全金に対する団結権侵害中止についてとする団体交渉申入れをしたが、被告は拒否した。

(一八)  昭和六一年五月二九日、最高裁判所は右上告の申立てに対し、上告棄却の判決をした。

同年六月一七日、右判決に基づき、原告全金東洋シート支部は、昭和六一年度夏季一時金を主要な団交事項とする団体交渉申入れをしたが、被告は、従来と同じく、被告内には全金東洋シート支部なる組合は存在しない、新組合の結成通知を出せば団体交渉に応じる旨主張して、右申入れを拒否した。

(一九)  同年七月一日、原告全金が、期日を同月二四日とし、主要な団交事項を被告の原告全金に対する団結権侵害中止について及び被告に勤務する原告全金組合員の労働条件についてとする団体交渉申入れをしたが、被告は、事実上右申入れに応じず、結局、同年八月二日に原告全金と被告との団体交渉が行われた。しかし、右団体交渉においても、被告は、被告内には全金東洋シート支部なる組合は存在しないという従来の主張を繰り返すのみで、実質的な話合いに応じなかった。

(二〇)  被告の右姿勢に対し、同年一一月一〇日、中央労働委員会は、原告全金東洋シート支部組合員の労働条件について、原告全金と被告との間で団体交渉をして決定すべき旨の勧告をした。右勧告に基づき、現在においては、原告全金東洋シート支部組合員の労働条件について、原告全金と被告との間で団体交渉が行われているが、現在でも、被告は、被告内に全金東洋シート支部なる組合は存在しない旨主張している。

(二一)  以上、被告が、原告らとの団体交渉を拒否し続けたうえ、各年の賃上げや一時金の支給等について、東洋シート労組組合員に対しては支給しながら、原告全金東洋シート支部組合員に対してはこれらを支給しないといった状態を続けたため、原告全金東洋シート支部組合員は裁判所の仮処分決定を得てこれらの交付を受けるという状態となった。その結果、原告全金東洋シート支部は、組合員の新規加入がなくなり、かつ脱退、退職、死亡等により組合員が減少し、一時期六七名までいた組合員が二六名になってしまった。

三  被告の権利侵害

労働者ひいては労働組合の団結権及び団体交渉権は、憲法、労働法上保障された権利であり、使用者は、正当な理由なくしてこれらの権利を侵害することは許されず、不当にこれらの権利を侵害すれば、民法上の不法行為に該当するものというべきである。

二1認定事実によると、昭和五四年四月二〇日の脱退決議後においては、原告全金東洋シート支部は、右脱退決議前の兵庫地本東洋シート支部と同一性を有しているか否かに関わりなく、原告全金、原告全金広島地本の下部組織の労働組合と認めることができ、従って、被告内には、右の原告全金東洋シート支部と、原告全金と全く関係のない東洋シート労組とが存在することになったのであるから、被告は、東洋シート労組に対するのと同様に、原告らとも団体交渉をする義務があり、このことは前記の労働委員会の命令及び裁判所の判決においても説示しているところである。

しかるに、被告は、右命令及び判決の説示にも全く耳を傾けず、いたずらに自己の主張に固執し、七年半の長期に渡って、原告らの正当な団体交渉申入れを拒否し続けたものであり、これら一連の被告の対応に照らすと、被告は、被告内に原告全金の下部組織である組合が存在すること及びそれに加入している組合員らを嫌悪し、右組合員らを長期的に経済的不利益を伴う状態に置くことにより、組織の動揺や弱体化を生じさせる意図に基づき、原告らの団体交渉申入れを拒否し続けたものと推認することができ、右被告の行為は、故意に、原告らの団体交渉権及び団結権を侵害したものであると認められる。

四  責任と損害

法人ないし法人でない社団の権利が侵害され、無形の損害が生じた場合には、侵害者は民法七〇九条、七一〇条により右損害に対して賠償をなすべきであると解するのが相当である。

前記認定事実によると、被告の、原告全金東洋シート支部の存在を否定し、原告らとの団体交渉を拒否する行為が、原告らの社会的信用、評価を毀損するものであることは明らかであり、団結権を侵害されたこととも相俟って原告らが無形の損害を蒙ったことは容易に推認することができるので、被告は原告らに対して右無形の損害を金銭で賠償する義務があるというべきである。そして、前記認定の違法行為の態様等諸般の事情に照らすと、その賠償額は、原告らに対して二〇〇万円(原告ら各自の割合は平等)と評定するのが相当と認める。

五  結論

以上の次第で、原告らの請求は、二〇〇万円及びこれに対する不法行為後(口頭弁論終結の翌日)である昭和六二年一一月一二日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を適用し、仮執行の宣言については、その必要性に乏しいと認めるのでこれを却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 出嵜正清 裁判官 内藤紘二 裁判官 山口信恭)

別紙 団体交渉申入れ一覧表

<省略>

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