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広島地方裁判所 昭和63年(行ウ)26号 判決 1991年7月17日

原告 濱本春己

被告 広島県知事

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和六三年三月一四日付でした原告の同年二月二六日付身体障害者福祉法による身体障害者手帳交付申請に対する却下決定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和四四年一一月五日、広島県福山市鞆町後地六八〇番地の一一所在の有限会社佐和鉄工所の工場内において業務に従事中、陰嚢会陰肛門部挫滅[口多]開創、尿道断裂、恥骨複雑骨折、左大腿骨骨折、左腓骨骨折、左腰部臀部挫創・擦過創、左前腕・左膝部・左足関節部擦過創、左足関節捻挫の負傷をした。

2  原告は、当時の治療として、ぼうこう瘻及び人工肛門造設等の措置を受け、その後東京大学泌尿器科で尿道形成手術を受けた。

3  現在は新たな尿道が形成されているものの、尿道狭窄のため、排尿時には腹圧の必要があるとともに排尿時間が六〇秒を超えるなどの排尿障害が生じている。

4  また、排尿障害によってしばしば激痛に襲われ、天候や季節によって腹部から下半身にかけて痙攣や痛みがひどい。

5  原告は、昭和六三年一月以降現在に至るまで、月に一度、岡山労災病院において、金属性の器具(ブジー)挿入による尿道拡大の治療を受けるとともに、月に三度福山共済病院に通院し、カテーテル管挿入時の麻酔薬、痛み止め、ぼうこう洗浄薬、下痢止め、かゆみ止めの投薬を受け、週に四回以上はカテーテル管を自分でぼうこうに挿入し、ぼうこう内を洗浄するとともに尿道を拡げている。右カテーテル管挿入は痛みや残尿感を伴うものであるうえ、たび重なる管の挿入によって、原告のぼうこうと尿道はしばしば炎症を起こし、ぼうこう炎、血尿が慢性化している。

6  ぼうこうと尿道は器質的に不可分の関係にあり、排尿を目的として機能しているから、身体障害者福祉法施行令一二条にいう「ぼうこうの機能の障害」とは、排尿機能の障害を意味するのであり、原告の前記排尿機能障害は、右「ぼうこうの機能の障害」に該当する。

また、原告の障害の程度は、「ストマ造設者」より障害の程度が軽いとはいえないのであって、当然に、永続し、かつ、日常生活が著しい制限を受ける程度に達している。

7  原告は、昭和六三年二月二六日付で広島県知事に対し身体障害者福祉法による身体障害者手帳交付申請をしたが、被告は、同年三月一四日付で右申請を却下した。

8  よって、原告は、被告に対し、請求の趣旨記載の判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、原告が、原告主張の日に業務に従事中、陰嚢会陰肛門部挫滅[口多]開創、尿道断裂、恥骨複雑骨折、左大腿骨骨折の負傷したことは認める。その余は不知。

2  請求原因2の事実は認める。

3  昭和六三年二月九日当時、請求原因3記載の事実があったことは認める。

4  請求原因4、5の事実は不知。

5  請求原因6は争う。

6  請求原因7の事実は認める。

三  被告の主張

1  ぼうこうの機能とは、腎臓から出た尿を一時貯溜し、尿が溜まった段階で尿意を感じること及び排尿筋を働かせることであり、「ぼうこうの機能の障害」とはこれら機能が働かない状態を意味する、したがって、ぼうこうに関連する部位(例えば尿道)の器質的な異常は、右「ぼうこうの機能の障害」には含まれないのであって、原告の症状は尿道狭窄による排尿機能障害であり、これは、右障害に該当しない。

2  また、排尿障害が永続する二分脊椎者や、ストマ造設者のように、常時導尿が必要であったり、逆に、いわば垂れ流しの状態で四六時中尿を受け止める袋(補装具)を装置しなければならない者に比べると、原告の日常生活における支障の程度は比較的軽く、「永続し、かつ、日常生活が著しい制限を受ける程度」に当たらない。

第三証拠<省略>

理由

一  原告が、昭和四四年一一月五日業務に従事中、陰嚢会陰肛門部挫滅[口多]開創、尿道断裂、恥骨複雑骨折、左大腿骨骨折の負傷をしたこと、右の治療として、ぼうこう瘻及び人工肛門造設等の措置を受け、その後尿道形成手術を受けたこと、しかし、昭和六三年二月九日当時、尿道狭窄のため排尿時には腹圧の必要があるとともに、排尿時間が六〇秒を超えるなどの排尿障害が生じていたこと、そこで、原告は同月二六日付で広島県知事に対し身体障害者福祉法による身体障害者手帳の交付申請をしたが、被告は同年三月一四日付で右申請を却下したことは当事者間に争いがない。

二  原告は、身体障害者福祉法別表第五号に規定する政令で定める障害である「ぼうこう若しくは直腸又は小腸の機能の障害」(同法施行令一二条)のうちの「ぼうこうの機能の障害」は、ぼうこうと不可分の関係にある尿道及びぼうこうの排尿機能の障害を意味すると主張するので、先ずこの点について判断する。

1  証人河野康徳、同宮本恒弘の各証言によると、ぼうこうの機能は、腎臓から流れてくる尿を一時貯溜する蓄尿機能及び意識下に排尿筋を働かせてぼうこうが収縮して尿道に尿を流出させる排尿機能から成ることが認められる。

2  ところで、尿道に障害があるとき、そのため放尿力が多少弱くなったり、尿道狭窄の程度が進行し、ブジーで尿道を拡大し、カテーテルで導尿する必要がある等その症状、程度に種々の場合が考えられるが、右の場合のように尿道を通って尿を排出させることが可能な限り、右尿道の障害はぼうこうの排尿機能自体に影響を与えるものではないから、尿道の機能障害即ぼうこうの機能障害とみなすことはできず、尿道とぼうこうは、機能障害を考える上において、不可分の関係にあるということはできない。もっとも、右尿道の障害の程度が非常に大きく、そのため排尿が著しく困難な場合や尿道が廃絶したような場合には、ぼうこうから尿を排出するため尿路変更ストマ(ぼうこう瘻)を造設する必要が生じるが、右ストマを造設すると、意識下に排尿筋を働かせて排尿することができず、その結果としてぼうこうの排尿機能障害を生じる。したがって、右の場合においては尿道の障害がぼうこうの機能障害を生じさせるが、この場合ぼうこうの機能障害が生じるから、同障害の有無を判断すれば足り、ぼうこうの機能障害の中に尿道の機能障害を含めて考える必要はない。証人宮本恒弘の証言中、ぼうこうと尿道は不可分のものであり、両者の機能をぼうこうの機能に含めてもよい旨の証言があるが、他方、同証人は、排尿機能を診察する際、尿道とぼうこうの各機能は区別して診断すべきであると証言しており、前記証言部分は、尿道の障害により尿道から尿を排出させることができないときは、ぼうこうは正常に機能しないという当然のことを述べたにすぎないものと理解すべきである。

3  ぼうこうと尿道は別個の臓器であり、また、成立に争いがない乙第四号証、第五号証の一ないし七及び証人河野康徳の証言によれば、身体障害者福祉法の別表に掲げられた障害は、社会的要請などに応じて追加され、内臓の機能障害については、昭和四七年に腎臓の機能障害が、昭和五九年に政令で障害を定めることができるとされ、政令で、ぼうこう又は直腸の機能障害が、昭和六一年に更に小腸の機能障害がそれぞれ加えられたことが認められ、右法律の対象とする障害のある臓器は右のように徐々に追加されてきた経緯をも考えると、政令で尿道の機能障害が定められていないのに、同障害をぼうこうの機能障害に含ませるような解釈をすることはできない。

4  以上により、前記政令で定める「ぼうこうの機能の障害」とは、ぼうこうの器質的疾患あるいは機能的疾患によって右1で説示したぼうこうの機能が正常に働かない状態をいうと解すべきである。

三  原告主張の障害は、尿道狭窄による排尿障害であって尿道の障害であり、成立に争いのない甲第一五号証及び証人宮本恒弘の証言によれば、原告のぼうこうの機能は尿道形成手術が完了後正常に働いていることが認められるから、昭和六三年二月当時、原告は、排尿時に腹圧を必要としたり、排尿のため二日に一度カテーテルで導尿しなければならない(成立に争いがない甲第四号証により認められる。)不便や苦痛があったとしても(もっとも、右甲第一五号証及び右証言によれば、原告は、平成二年一一月に実施したぼうこう機能検査の尿流測定において、最大尿流率一五・九ミリリットル/秒、平均尿流率一〇・二ミリリットル/秒で、健康者の約七割前後の尿流があり、ぼうこう内に残尿をきたすこともなく、昭和六三年二月のときと比較して症状は改善され、安定していることが認められる。)、前記政令で定める「ぼうこうの機能の障害」に該当しない。そして、身体障害者福祉法の別表に掲げるその他の障害にも該当しないことは明らかであるから、原告の申請を却下した本件処分は適法である。

四  よって、本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉岡浩 土屋靖之 柴田美喜)

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