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広島地方裁判所尾道支部 昭和32年(ワ)165号 判決 1963年7月04日

主文

原告らの請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告らの連帯負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は「原告らに対して、一、被告河野恒江は別紙物件目録記載の物件のうち畑二筆につき、被告村上真太郎、同村上コン両名は同目録中畑二筆を除くその余の各物件につき、それぞれ原告河野コトの持分を三分の一、原告門田タマエ、同唐沢サダエ、同生田春江、同内海緑の持分を各九分の一、原告大戸十三雄、同大戸佐加恵の持分を各一八分の一とする所有権移転登記手続をせよ。二、被告村上真太郎、同村上コン両名は同目録記載の木造瓦葺二階建居宅一棟建坪二七坪外二階三坪中、階下表八畳、同七畳半の間、二階六畳の間および附属土蔵造瓦葺二階建倉庫一棟建坪六坪外二階六坪、同木造瓦葺平家建鶏舎一棟建坪四坪を明渡し、且昭和三二年一一月一日以降右建物明渡済に至るまで連帯して一ケ月金三、〇〇〇円の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの連帯負担とする」との判決ならびに右第二項の請求につき担保を条件とする仮執行の宣言を求め、請求原因として、

一、別紙目録記載の各物件(以下本件各物件と云う)は、もと訴外亡河野幾治郎の所有であつたが、同人は昭和三〇年四月九日死亡したので、これをその相続人である原告らおよび被告河野恒江において共同相続した。しかしてその各相続分は、幾治郎の妻である原告河野コトが三分の一、その子である原告門田タマエ、同唐沢サダエ、同生田春江、同内海緑、被告河野恒江が各九分の一、幾治郎の三女亡利江の子である被告大戸十三雄、同大戸佐加恵が各十八分の一の割合である。

二、しかるに被告河野恒江は、右幾治郎の死亡後である昭和三一年一二月二一日に至り広島法務局沼隈出張所同日受付第一五九四号をもつて、本件各物件につき、これを昭和一三年六月二七日家督相続により河野タマエが取得し、次いで同年七月一日家督相続により河野春江が取得したるを、更に自己が昭和一五年一二月一七日家督相続により取得したことを原因として、所有権移転登記手続を経由し、更に右各物件中畑二筆を除くその余の各物件を、昭和三二年九月二〇日被告村上真太郎、同村上コンに売却し、同月二一日同出張所受付第九六三号をもつてその旨の所有権移転登記手続を経由してしまつた。しかして右被告両名は同年一一月一日以降請求の趣旨第二項記載部分の原告らの占有を強引に排除し、該部分に居住してこれを占有している。

三、しかしながら、本件各物件は登記簿上の記載にかかわらず、次の理由により真実は前述のとおり原告ら七名および被告河野恒江の共有であつて、同被告は僅かにその持分九分の一を有するに過ぎないものである。したがつて同被告のなした家督相続を原因とする右所有権移転登記ならびに同被告と被告村上真太郎、同コン間の売買を原因とする右所有権移転登記はいずれも無権利者によりなされたものと云うべきであつて少くとも同被告の持分を超える部分は無効である。

(一)  すなわち、亡幾治郎、原告河野コト夫婦間には男子が出生せず、女子ばかりであつたため、昭和一三年頃長女タマエ(原告門田タマエ)を他家へ嫁がせるためには同人を廃嫡する手続が必要であつた。そこで幾治郎は弁護士に相談したところ、戸主幾治郎が隠居してタマエが家督相続し、更にタマエが隠居することにより合法的に他家に入籍ができることが判明したので、当時幾治郎としては真実隠居する意思を有していなかつたにもかかわらず、ひたすら長女タマエを他家に嫁がせ合法的に入籍せしむるため同年六月二七日隠居の届出をなしたにすぎなかつた。したがつてタマエは右隠居により幾治郎の家督を相続するや、僅か四日後の同年七月一日隠居届をなし、その家督を四女原告春江が相続し、更に同人も他家に嫁ぐため昭和一五年一二月一七日隠居し、これを五女である被告恒江が家督相続することとなつたものである。それ故幾治郎のなした前記隠居は脱法手段としてなされたもので真意に非ざるものであるから無効と云うべきである。

(二)  かりに幾治郎の右隠居が無効でないとしても、幾治郎は当時家督相続人たるタマエとの間で本件各物件につき財産留保の合意をなしたものであるから、右隠居により家督相続が開始されたにもかかわらず、本件各物件は依然として、幾治郎の所有であつた。

四、かりに右主張がすべて理由なく被告らの本件各物件につき有する前記各登記がそれぞれ有効になされ得たものであるとしても、幾治郎は昭和一三年六月二七日隠居をなす際、本件各物件についての財産留保が有効になされたものと信じ、爾来昭和三〇年四月九日死亡するに至るまで所有の意思をもつて平穏且公然とこれを占有し、同人死亡後もその相続人である原告らにおいて右占有を継続してきたものであるから、幾治郎がその所有権を失つた昭和一三年六月二八日から起算して二〇年を経過した昭和三三年六月二八日の到来と共に、原告らはいずれも幾治郎の遺産に対する相続分に応じた所有権を本件各物件につき取得するに至つたものである。

五、よつて原告らは、本件各物件につき有する相続分に応じた所有権に基き、被告らに対しそれぞれ本件各物件(但し被告恒江に対して、畑二筆、被告村上真太郎、同コンに対してはその余の物件)につき所有権移転登記手続(もつとも前述二、三の理由よりすれば被告らに抹消登記手続を求めるのが本則であるが登記手続を簡略化するため真接移転登記手続を求める)を求め、被告村上真太郎、同コンは前述のとおり本件各物件中建物の一部を昭和三二年一一月一日以降不法に占有し、該部分の賃料(一ケ月金三、〇〇〇円)相当の損害を与えているので、同被告両名に対し、これが明渡しと同日以降右明渡済に至るまで一ケ月金三、〇〇〇円の割合による賃料相当損害金の連帯支払を求めるため本訴に及んだ。

と述べた。

被告ら訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁および抗弁として、

一、原告ら主張の請求原因事実中、本件各物件がもと訴外亡河野幾治郎の所有であつたこと、同訴外人が原告ら主張の日時頃死亡したこと、幾治郎と原告らおよび被告恒江の身分関係がその主張のとおりであること、幾治郎、タマエ、春江がその主張のように順次隠居し、最後に被告恒江が家督を相続したこと、被告恒江が右家督相続を原因としてその主張の頃本件各物件の所有権移転登記手続を経由し、更に主張日時頃被告村上真太郎、同コンとの間に本件各物件中畑二筆を除くその余の各物件につき主張のような所有権移転登記手続を経由していること、右被告両名が本件建物の主張部分を主張日時以来居住占有していること、はいずれも認めるが、その余の事実は争う。

二、被告恒江は、幾治郎の所有であつた本件各物件につき、同人、タマエ、春江が順次適法有効に隠居したことにより、家督相続人としてその所有権を取得したものである。したがつて被告らの有する本件各登記はいずれも実体に則し有効である。

三、かりに幾治郎隠居の際、その家督相続人タマエとの間に原告ら主張のような財産留保の合意がなされていたとしても、合式な手続(旧民法第九八八条による確定日付ある証書)によりなされたものでないから、第三者である被告らには対抗できない。

四、なお仮に幾治郎が右隠居後も所有の意思をもつて平穏且公然と本件各物件の占有を続け、同人死亡後は原告らにおいてその状態を承継し、既に二〇年以上経過しているとしても、原告らは二〇年経過以前である昭和三二年一一月二七日本訴を提起したのに対し、被告らはいずれも原告らの主張を争いその請求棄却を求める答弁書を提出し、右答弁書は昭和三三年四月一七日の準備手続期日において陳述されているので、これにより原告ら主張の時効期間の進行は中断されている。

と述べた。

証拠(省略)

物件目録

沼隈郡内海町字町ロ二五二八番地、ロ二五二七番地

ロ二五二九番地

家屋番号同所六六八番

一、木造瓦葺二階建居宅一棟    建坪   二七坪

外二階  三坪

附 属

一、木造瓦葺平屋建居宅二棟    建坪   一七坪

一、土蔵造瓦葺二階建倉庫一棟   建坪   六坪

外二階  六坪

一、木造瓦葺平屋建鶏舎一棟    建坪   四坪

同所ロ二五二七番地

一、宅地      五四坪

同所ロ二五二九番地

一、宅地      三八坪

同所ロ二五二八番地

一、宅地      三六坪

同所ロ二五三〇番地

一、宅地      二一坪

同郡同町字小番川原ロ二一四六番地

一、畑       二畝六歩

同郡同町字曽根ロ二三三三番地

一、畑       一畝三歩

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