広島地方裁判所福山支部 昭和26年(タ)7号 判決
原告 伊藤泰子
被告 広島地方検察庁福山支部検事
一、主 文
被告は原告を本籍大分県南海部郡上浦町大字浅海井浦百六十二番地亡森崎清三郎の子として認知しなければならない。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告法定代理人は主文第一項同旨の判決を求め、その請求の原因を次のように述べた。
原告は現在その戸籍上広島県芦品郡府中町大字府中百八十一番地の五筆頭者伊藤仲一の戸籍中伊藤セチ子の子として登載されている者であるが、実は右セチ子を母とし、本籍大分県南海部郡上浦町大字浅海井浦百六十二番地亡森崎清三郎を父とする二人の間に、昭和二十年十二月七日出生した者である。即ち右セチ子は満洲の奉天市で原告が出生する一年位前から右清三郎と夫婦生活をしており、その間にセチ子は清三郎の胤を宿すに至つたので、清三郎は法定の婚姻手続をしようとしていたが、突然召集令状を受けたので、婚姻の届出をしないままで昭和二十年五月十五日出征してしまつた。そしてセチ子は同年十二月七日原告を出産するに至つたが、既に終戦となつたので原告を伴い、清三郎の生死不明のまま内地に引揚げて来たが、婚姻の届出をしていないので、止むなく原告をセチ子の子として届出でたのであるが、その後昭和二十三年九月二十一日になつて、清三郎は昭和二十一年三月十一日ソ聯シベリヤにおいて戦病死した旨の公報がもたらされたのである。
このように原告は右清三郎の子であることに相違なく、右清三郎は既に死亡しているのであるから、検察官を相手方として、原告が右清三郎の子であることの認知を求めるため、本訴に及んだ次第であると述べた。<立証省略>
被告は原告請求通りの判決を求め、原告の請求原因事実はすべて認めると答えた。
三、理 由
証人安原弘の証言に徴し真正に成立したと認められる甲第一号証書面の形式内容に徴し真正に成立したと認められる甲第二号証、公文書にして真正に成立したと認むべき甲第三乃至五号証及び証人安原弘、同藤田武治郎の各証言の結果を綜合すれば、原告親権者伊藤セチ子は昭和十九年十一月頃から満洲の奉天市大和区橋立町十五番地坂田雅彦方において本籍大分県南海部郡上浦町大字浅海井浦百六十二番地訴外森崎清三郎と同棲し、夫婦生活を継続するうち、同訴外人の胤を懐胎するに至つたが、昭和二十年五月十五日突然同訴外人は応召してしまつたこと、この後の同年十二月七日セチ子は原告を出産したが、既に終戦となつたので、セチ子は同訴外人の生死不明のまま原告を連れて内地に引揚げ、同訴外人と婚姻の届出をしていなかつたため、原告を自己の子として届出たこと及びその後昭和二十三年九月二十一日になつて、同訴外人は昭和二十一年三月十一日ソ聯シベリヤにおいて戦病死した旨の公報に接したという一連の事実を容易に認めることができる。然らば原告は右訴外森崎清三郎の子であることが明かで、同訴外人が日本国外において未復員中死亡し、その死亡の事実を知つたのは昭和二十三年九月二十一日であるから、原告の本訴請求は理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十五条を適用し、主文のように判決する。
(裁判官 竹本竹一)