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広島地方裁判所福山支部 昭和55年(ワ)383号 判決 1981年9月17日

主文

一、被告は原告に対し金一六一万八二二三円及びこれに対する昭和五五年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

原告は主文同旨の判決と仮執行宣言を求め、被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 被告は、広島地方裁判所福山支部昭和五〇年(ヨ)第一一四号地位保全、賃金支払等仮処分申請事件につき、同裁判所が昭和五四年二月二八日言渡した判決に基づく差押えの執行により同年一一月までに原告から合計一六一万八二二三円の賃金の仮払いを受けた。

2. しかし、原告は右判決に対し控訴を申立て、広島高等裁判所は同庁昭和五四年(ネ)第六六号事件につき、昭和五五年三月三一日、右原判決中賃金仮払いの申請を認容した部分を取消し本件被告の申請を却下する旨の判決を言渡し、この判決は確定した。

3. したがつて、被告が原告から仮払いを受けた右1の金員は法律上の原因を欠くに至り、被告は同額の金員を不当に利得し、原告は同額の損害を受けた。

4. よつて、原告は被告に対し右不当利得金一六一万八二二三円とこれに対する被告が右不当利得につき悪意となつた日(右2の判決の日)の翌日である昭和五五年四月一日から完済まで年五分の割合による法定利息の支払いを求める。

二、請求原因に対する答弁及び主張

1. 請求原因1の事実は認める。

2. 同2の事実は認める。但し、広島高等裁判所の判決は保全の必要がないことを理由として賃金仮払いの申請を却下したもので、地位保全の仮処分は認められている。

3. 同3の主張は争う。右2のとおり、被告は原告会社に対する従業員としての地位が保全されており、賃金請求権の存否については原被告間に現在本案訴訟が継続中である(広島地方裁判所福山支部昭和五四年(ワ)第一三四号以下、別訴という。)。したがつて、被告の原告に対する実体上の権利関係は未確定であるから、本件仮払金の受領は不当利得にあたらない。

三、抗弁

かりに被告に本件仮払金の返戻義務があるとしても、被告は、右二の2、3のとおり、原告会社に対し従業員としての地位を有し昭和五〇年六月以降毎月一四万〇一二二円の賃金請求権を有しているので、そのうち昭和五〇年六月から同五一年四月まで毎月一四万〇一二二円と同年五月分の一部七万六八八一円の合計一六一万八二二三円をもつて、原告の本訴請求債権と相殺する旨の意思表示を、昭和五六年四月六日の本件第三回口頭弁論期日においてなした。

なお、右相殺に供した自働債権は別訴で本件被告が本件原告に対し支払いを求めている債権の一部であるが、相殺の主張は訴えの提起には該当せず二重起訴とはならないから、右相殺の主張は許容されるのである。

四、抗弁に対する答弁

被告の相殺の主張は争う。

第三、証拠関係(省略)

理由

一、請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

原告は、賃金仮払いを命ずる仮処分判決が上訴審において取消されたことを理由として、右仮処分判決に基いて給付された金員の返還を求めるものであるところ、このような場合には民事訴訟法一九八条二項が類推適用され、右仮処分手続外においても右返還請求ができると解するのが相当である。

二、右民事訴訟法一九八条二項は、仮になされた執行の結果が現在の訴訟状態に適合しないことを理由に給付者にその回復を認めたものであつて、本案(原被告間の別訴)における実体上の権利の存否とはかかわりのないものであるから、右権利をもつてする被告の相殺は許されないと解するのが相当である(かりに、この点を積極に解するとしても、被告は別訴において現に訴求中の債権をもつて相殺に供するのであるが、かかる相殺は民事訴訟法二三一条の趣旨からして許されないと解される。)。

三、右民事訴訟法一九八条二項の効果は、仮執行の効果を失効させる判決の言渡しによつて直ちに生ずるのであるから、被告は原告に対し前記仮処分判決により受領した一六一万八二二三円及びこれに対する、右を取消す旨の控訴審判決日の翌日たる昭和五五年四月一日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべきである。

四、よつて、原告の請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用し、仮執行宣言はこれを付さないこととして主文のとおり判決する。

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