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広島地方裁判所福山支部 昭和55年(ワ)384号 判決 1981年10月16日

主文

一  被告は原告に対し金一六八万三七三五円及びこれに対する昭和五五年四月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨の判決と仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する、

2  訴訟費用は原告の負担とする、

との判決。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  被告は、広島地方裁判所福山支部昭和五〇年(ヨ)第一一四号地位保全・賃金支払等仮処分申請事件につき、同裁判所が昭和五四年二月二八日言渡した判決(以下単に「一審判決」という。)に基づく差押えの執行により、同年一一月までに原告から合計金一六八万三七三五円の賃金の仮払いを受けた。

2  原告は一審判決に対し控訴を申立てたところ、広島高等裁判所は、同裁判所昭和五四年(ネ)第六六号地位保全・賃金支払等仮処分申請控訴事件につき、昭和五五年三月三一日、一審判決中被告の賃金仮払いの申請を認容した部分を取消し、被告の同申請部分を却下する旨の判決(以下単に「二審判決」という。)を言渡し、同判決は確定した。

3  したがつて、被告が原告から仮払いを受けた1記載の金一六八万三七三五円の金員は法律上の原因を欠くこととなり、被告は同額の金員を不当に利得し、原告は同額の損失を蒙つた。

4  よつて、原告は被告に対し右不当利得金一六八万三七三五円及びこれに対する右不当利得につき被告が悪意となつた二審判決言渡の日の翌日である昭和五五年四月一日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による利息の支払いを求める。

二  請求の原因に対する答弁

1  請求の原因1、2各記載の事実は認める。

2  同3、4各記載の主張は争う。

即ち、二審判決においても被告の原告における従業員としての地位保全の仮処分が認められており、また原告被告間には仮処分事件に対応する被告の原告に対する賃金支払請求を含む本案訴訟である広島地方裁判所福山支部昭和五四年(ワ)第一三四号事件(以下単に「別訴」という。)が現存継続し、被告の原告に対する実体上の権利関係は未だ確定していないのであるから、被告が本件仮払金を受領したからといつて不当利得には当らないというべきである。

三  抗弁

仮に、被告に本件仮払金の返戻義務があるとしても、被告は原告の従業員としての地位を有し、昭和五〇年六月以降今日まで毎月金一四万三五六八円の賃金請求権を有しているので、本件第二回口頭弁論期日である昭和五六年五月八日、原告に対し、右賃金請求債権を自働債権とし原告の本件請求債権を受働債権として対当額にて相殺する旨の意思を表示した。

なお、相殺の抗弁は訴の提起とは異なり二重起訴の禁止には牴触しないものであるから、右自働債権は被告が別訴において原告に対し支払いを求めている賃金請求債権ではあるが、右相殺の主張は許されるものである。

四  抗弁に対する答弁

抗弁は争う。

第三  証拠(省略)

理由

一  請求の原因について

請求の原因1、2各記載の事実については当事者間に争いがない。

ところで、被告の申請にかかる仮処分事件は、民事訴訟法七六〇条の仮の地位を定める仮処分事件であるところ、被告が原告から受けた本件仮払金一六八万三七三五円は、同条の要件を充足したものとして一審判決にて仮に定められた賃金仮払請求権に因るものであつて、賃金請求権そのもの自体に因るものではないのであるから、二審判決によつて、一審判決のうちの賃金仮払を命ずる部分が取消され、被告の仮処分申請のうちの賃金仮払を求める部分が却下された以上、法律上の原因を欠く不当利得金として原告に返還すべきものと解せられ、また被告は二審判決が言渡された昭和五五年三月三一日には仮払金を受けたことにつき悪意となり、仮払金に民法所定の年五分の利息を付して原告に返還すべきものと解せられるので、原告の本訴請求は、抗弁が認められぬ限り、理由があるというべきである。

二  抗弁について

被告が抗弁として仮定的に主張するところは、要するに、別訴において被告が原告に対して請求する賃金請求債権を自働債権として、原告の被告に対する本訴請求債権(即ち、前示の不当利得金返還請求債権)を受働債権として対当額にて相殺するというにあるところ、右抗弁は民事訴訟法二三一条の趣旨から不適法のものとして許されないものと解せられる(なお、右賃金請求債権の存否、額などの判断につき、本訴と別訴とで矛盾牴触を避けるために、本訴若しくは別訴のいずれかの審理を先行させるとか、又は本訴を別訴に併合させて審理するとかの方法が考えられなくはないが、別訴が、本訴の被告のほか一二名の者を原告とし、本訴の原告を被告とする解雇無効確認・賃金等支払請求事件として、合議体の裁判所で審理中のものであることや、近い将来に結審に至るものとは認められないものであることなど((これらのことは当裁判所に顕著な事実である。))を考慮すると、前述のいずれの方法も適切でないものと解せられるところである。)

三  そうすると、結局原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条を適用し、仮執行の宣言についてはこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

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