広島家庭裁判所 昭和51年(少)81号 決定 1976年3月31日
少年 H・J(昭三一・一・二七生)
主文
本件申請を棄却する。
理由
一 本件申請は「本人を昭和五二年三月九日まで中等少年院に継続して収容する」との決定を求めるもので、その理由として「本人は昭和五〇年三月二四日広島家庭裁判所において中等少年院送致決定を受け広島少年院に在院中のところ昭和五一年一月二七日二〇歳に達し少年院法一一条一項により昭和五一年三月二三日をもつて少年院収容期間満了の予定であつたが、昭和五〇年九月三〇日組体操の練習中に頸椎損傷の傷害を負い現在少年院において身体の機能の回復訓練中であるので、仮に本人をこのまま出院させた場合は身体の症状からみて軽作業程度しか出来ず、家庭における監督指導が充分でないことから徒食の生活となり再非行に走る虞れも考えられるので、健全な身体に回復するまで収容を継続することが本人の更生のために有効な措置であると考える」というのである。
二 本件記録によれば、本人が昭和五〇年三月二四日広島家庭裁判所において強姦、同致傷保護事件により中等少年院送致決定を受け広島少年院に収容されていることおよび本人が昭和五一年一月二七日二〇歳に達し送致決定後一年を経過した同年三月二三日をもつて満期退院すべき立場にあつたことは明らかである。
三 本人、保護者並びに広島少年院分類課長俵原脩の審判における供述及び家庭裁判所調査官に対する陳述、医師真田義男作成の診断書及び同人の家庭裁判所調査官に対する陳述、昭和五一年三月三〇日付鑑別結果通知書を総合すれば次の事実が認められる。
(1) 本人は、入院当初送致決定に不満で動揺がみられたものの、院内での生活は軽微な規律違反が一回あるのみで成績良好であり、昭和五一年二月一日には一級上に進級しており、少年院における集団生活を通して、また後記傷害のため入院治療中少年院職員の自己に対する献身的な看護に接し他人に対する信頼感を抱くようになり、当初指摘されていた本人の対人適応が困難で脆弱な性格が著しく改善され、現在では更生意欲にもえ出院を希望している。
(2) 本人は昭和五〇年九月三〇日秋季運動会演出種目の組体操練習中に頸椎損傷の傷害を負い昭和五一年一月三〇日まで国立療養所広島病院で入院治療を受けたのであるが、右傷害により四肢の麻痺を生じ広島少年院において機能回復訓練を施こした結果、現在では日常生活には支障がないものの軽作業程度しかできず、身体の機能は通常の三〇%程度であり通常に復するまでに更に一年程度四肢の機能回復訓練(特別な施設や器具は必要ではない)を継続して行わなければならない。現在少年院では本人に対し朝夕各三〇分間ハンドグリップ、竹刀、砂袋を使つて機能回復訓練を施こしているが、今後は機能回復訓練を目的とした弾力的な処遇方法を作成して実施することにしている。
(3) 保護者は本人の更生のため熱意をもち親族の協力を得て退院後の本人の受入態勢を整えており、本人の身体の症状を認識したうえで出院を希望している。
四 以上の事実を総合して考えると、本人の身体の症状が前記のとおりであり今後根気強く機能回復訓練を継続して行かなければ身体の機能が不充分のまま固定化してしまう危険があり、また少年院において本人のため弾力的な処遇方法を計画していることも考慮すれば少年院に収容継続して機能回復訓練を施すことは有効な方法であると云えるけれども、本人は日常生活には支障がなく、少年院にいなければ機能回復訓練ができないというものでもなく、そして本人及び保護者とも出院を希望しており、本人に対するこれまでの矯正教育が充分効果をあげ、本人の犯罪的傾向も除去されたと認められるから、むしろこの際出院させることにより本人の改善更生意欲を助長させることが望ましく、それに本人の退院後の受入態勢が備わつていることを考えると、機能回復訓練については本人の自覚に期待することができるものと思われる。
五 以上の次第であるから、本件申請は理由がないものとして棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 二神生成)