広島家庭裁判所呉支部 昭和50年(少)510号 決定 1975年9月22日
少年 N・K子(昭三三・一〇・二二生)
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
(罪となるべき事実)
少年は、別紙非行事実一覧表記載のとおり、家出中である昭和五〇年七月四日から同年八月一八日までの間に、恐喝を一回および窃盗を一二回行つたものである。
(適用法条)
刑法六〇条、二四九条一項(別表一の恐喝の事実について)
刑法二三五条(別表二ないし一三の窃盗の事実について)
(処遇の理由)
一 中学校を卒業するまでは、家出、窃盗等目につく非行はなかつたようであるが、私立○○商業高校に入学して間もなく、判からない学科があつたり、性格の偏倚から学校内で孤立化してゆき、その現実からの逃避として、昭和四九年六月京都に家出し、同年八月二~三回近くへ家出し、九月には怠学が続き、同年一二月末から翌年一月初には東京へ家出し、この間初めて現金窃盗を行つている(昭和五〇年三月一九日当庁において調査官による調査指導のうえ審判不開始)。学校環境をかえて再出発すべく、昭和五〇年四月県立○○高校に一年生として入学したが、間もなく、学校内で孤立化し、六月二八日家出し、姫路市に至り、罪となるべき事実別表一ないし四の恐喝、窃盗を行い、七月一四日には警察に補導され、翌一五日父母が少年の身柄を引き取り、呉市の自宅に帰つたものの、すぐに家の現金を持ち出して再び家出して、京都市に至り、罪となるべき事実別表五ないし一三の窃盗(主として、女子用便所内において用便中の婦人が洗面場に置いている現金の入つたバック等を盗むという置き引き)を行つたものである。
二 少年の性格には精神病質といえる程度の偏倚があり、自己の見栄にもとづく言動が他人に不快感を与えているのに、自分ではそれが認識できない等、現実と認識との間に大きなギャップがあり、それが学校内における孤立化を生み、その孤立化や学習の困難さに対して積極的に立ち向う姿勢や耐性が見られず、現実から逃避して自己の精神的安定を保つている。そして、今後とも現実逃避としての家出、それにほぼ必然的に伴う窃盗等の非行は繰り返えされるものと考えられる(更に、家出中強姦の被害者になり、不純異性交遊を行う可能性もある)。
三 家庭には両親が健在で、保護能力も特に低いとは考えられないが、少年の上記性格偏倚から、在宅保護は困難である。収容教育により、集団に適応する習慣を身につけさせる必要がある。
以上の諸事情を考慮し、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項により、主文のとおり決定する。
(裁判官 田中明生)
非行事実一覧表
番号
共犯者
非行年月日
(昭和年月日)
非行場所
非行態様
被害者
被害品
時価
(合計)円(位)
備考
1
D子
(当時一七歳)
五〇・七・四午後二時〇分頃
姫路市○○町×××喫茶店「○○○」裏空地
被害者両名に対して「金を出せ」と言つて両名の顔面を殴打し、畏怖させて、両名から喝取
○見 ○美
(当時一二歳)
○本 ○子
(当時一二歳)
現金
現金
身分証明書一冊
五五
五〇
被害者に還付済
2
なし
五〇・七・四午後二時三〇分頃
同市○○○××の×○本○子方前
更に喝取するため被害者宅まで同行したが、被害者の母に発覚し、逃走するために、窃取
○本 ○子
自転車 一台
一五、〇〇〇
〃
3
〃
五〇・七・一四午後一時頃
同市○○○○町××○イ○─○○駅前店
窃盗(万引)
店長
○上 ○
ブラジャー一枚外八点
五、六五一
〃
4
〃
五〇・七・一四午後二時三〇分頃
姫路市○○○○町×○ャ○コ○○店
窃盗(万引)
店長
○藤 ○幸
ツーピース二枚外一一点
一〇、八五〇
被害者に還付済(この窃盗で検挙)
5
〃
五五・七・二七午後二時五〇分頃
大阪市淀川区○○○×の××の×国鉄○○○駅構内東ホール婦人用便所内
窃盗
(置引)
○山 ○枝
現金 セカンドバック・財布 各一個
外七点
一一七、〇六〇
七、〇〇〇
被害者に九七、二一三円還付済
6
〃
五〇・七・三一午後三時三〇分頃
京都市下京区○○○○○○○○○○○○町国鉄○○○○○デパート二階婦人用便所内
〃
○村○○子
現金
かまロ一個
八、〇〇〇
二〇〇
被害者に現金還付済
7
〃
五〇・七・三一午後四時〇分頃
同市同区同町×××○○○○○デパート三階婦人用便所内
窃盗
(置引)
○川 ○保
現金
手提バック一個外六点
四〇、五〇〇
不明
被害者に還付済
8
〃
五〇・八・一午前一時〇分頃
同市同区○○○○○○○○○○ ○○○レステル×××号室
窃盗
(客室狙い)
○川○○子
(少年の同宿者)
現金
四六、〇〇〇
〃
9
〃
五〇・八・四午後二時四〇分頃
前記○○○○○×××○○タワー株式会社地下一階婦人用便所内
窃盗
(置引)
○蔵 ○つ
現金
財布一個外一点
三二、一五〇
二、〇〇〇
被害者に現金還付済
10
〃
五〇・八・七午後一時〇分頃
前記国鉄○○駅構内西ロ婦人用便所内
〃
○部 ○美
現金
セカンドバッグ一個外八点
一二、三七〇
一、八〇〇
被害者に現金と窃品の一部還付済
11
なし
五〇・八・一六午前七時五五分頃
京都市下京区○○○○○○○○○○○○町国鉄○○駅構内西口婦人用便所内
窃盗(置引)
○浦 ○子
現金
財布一個外七点
二六、七〇〇
二、五〇〇
被害者の現金還付済
12
〃
五〇・八・一八午後四時四五分頃
前記国鉄○○駅二階○○デパート西側婦人用便所内
〃
○林 ○子
現金
セカンドバッグ一個外六点位
二六、五一四
四、八〇〇
被害者に還付済
13
〃
五〇・八・一八午後五時五七分頃
前記国鉄○○駅構内西口婦人用便所内
〃
○永 ○子
現金
札入れ一個外二四点
二、〇〇〇
三、〇〇〇
〃
(この窃盗で現行犯逮捕)
参考一 少年調査票 <省略>
参考二 鑑別結果通知書 <省略>
参考三 少年の抗告申立書
抗告理由(昭五〇・九・二九付少年本人)
私はこのたびの事件はもちろん、これまでの親のかんとくにも服さず、家出や非行をくりかえしてきた事を本当に恥ずかしく、少女苑に来て心から後悔しております。今さら私が申し上げても、私の気持ちをおくみとりいただくことはできないと思いますが、今度こそ心を入れかえて親のもとにおちついて一生懸命に勉強して生まれかわつた人間になる決意でおります。今、振り返つて私の家出・窃盗などの原因を考えてみますと短気で利己主義的な自分の性格が友達を遠ざける結果になり、さらに家庭では両親から叱責される事がこわくて、うちあけることが出来なかつた心の弱さにあつたと思います。これが家出の原因となり生活費に窮して窃盗する結果となつたのです。
私は学校は決して嫌いではありません。むしろ進学への希望は今もなお心に強くいだいております。これまではさきほど申し上げました理由で二つの学校にかわりましたが、今度こそどんなことがあつても、高等学校を卒業するということを私の一番の目標にしています。このためにも、またりつぱに立ち直るためにも、進んで友達の中にとけこんでいけるような人間になると共にどんな小さな事でもすべて両親にうちあけて親子の対話をつづけていくようにしていきたいと思います。そして自分をしつかりと見つめ根本から、私の心を入れかえて両親の指導のもとに服していくようにいたします。幸い私は高等学校は在学中でいます。どうしても高等学校は卒業したいと思います。
どうか今回の処分についてもう一度私にチャンスを与えて下さいますようお願いいたします。