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広島家庭裁判所福山支部 昭和56年(少ハ)1号 決定 1981年5月08日

少年 S・S(昭三六・四・五生)

主文

本人を昭和五七年一月三一日まで中等少年院に継続して収容する。

理由

一  本件申請の要旨

本人は、昭和五五年五月八日広島家庭裁判所福山支部において、窃盗・道路交通法違反保護事件で、中等少年院送致の決定を受け、広島少年院に入院し、引き続き在院中のものであるが、昭和五六年五月七日をもつて少年院法一一条但書による収容期間が満了する。本人は、少年院在院中、追従同調、短気等の性格的問題点が表面化して規律違反を繰り返し、それに対する反省の態度にも真剣さがみられなかつたものの、個別指導等をとおして内省を深め、規律になじむよう指導した結果、昭和五六年四月一六日一級下に進級したころから、人吉農芸学院での大型特殊免許取得を強く希望し、その可能性もみられてきたこともあつて思考や生活態度にも徐々に改善のきざしがみられるようになつた。しかしながら、いまだ自己統制の弱さ、自己顕示的な性格面の改善は十分とはいえず、対人関係にも問題が残されており、面接、内省指導等をとおして生活全般について更に継続して指導していく必要があるので、少年院法一一条二項により、本人を概ね一〇か月間継続して収容する旨の決定を求める。

二  当裁判所の判断

本人の社会記録、本件審判における本人、保護者、広島少年院法教務官○○○○の各供述、家庭裁判所調査官○○○○作成の調査意見書及び調査報告書(二通)を総合して、次のとおり判断する。

(1)  本人は、広島少年院入院当初は、教官の指示に従い規律違反はなく二級上に進級したが、昭和五五年一〇月七日仲間と一緒に逃走を試みたことにより二級上から二級下に降級し、それ以後暴行、喧嘩、体育時の反則等の規律違反を繰り返した。

本人の上記規律違反は、いずれも本人の他人に追従同調しやすい性格や深く物事を考えて行動しない性格が表面化したものであつて、それぞれの違反のたびに謹慎処分を受けていながら、違反を繰り返したことからも規範意識の低さが窺える。昭和五六年一月中旬ころからは規律違反はなくなつているが、いまだ規範意識の涵養が十分達成されたとはいいがたく、犯罪的傾向が矯正されるに至つていない。

(2)  本人は、水商売を転々とするうち、享楽的文化と価値観に染まり、放縦自堕落な生活を続けるうち非行に走つたものであり、今後の更生を計るためには、従前の生活と縁を切り手堅い職業に就くことが肝要であると思われるが、父親の本人に対する不信感は根深く、家庭において職業指導その他生活面における効果的援助は望みがたいところ、本人は、昭和五六年四月一六日一級下に進級して人吉農芸学院での大型特殊免許の取得を強く希望し、出院後この技能をいかして建設業などで働きたい旨希望し、広島少年院でも同年五月中には本人の希望を叶えてやる意向である。

(3)  以上により、本人はいまだ犯罪的傾向が矯正されていないので、引き続の指導を継続するとともに、その間上記技能を修得せしめて、出院後の仕事に役立たせるのが、少年の更生を容易ならしめることになると思料し、本人の収容を継続することとし、その期間については、上記技能修得に要する期間、出院準備期間及び仮退院後の保護観察期間等を勘案して昭和五七年一月三一日までとするのを相当と認める(なお、少年院長におかれて、仮退院後相当期間の保護観察が行なえるよう、仮退院申請の時期を考慮願いたい。)。

よつて、本件申請は主文記載の期日の限度で理由があるので、少年院法一一条四項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 谷口幸博)

〔編注〕人吉農芸学院における建設機械運転資格取得訓練の実施については、昭和五二・五・二五法務省矯教第一一五六号矯正局長通達「少年院における建設機械運転資格取得訓練の実施について」(保護処分関係実務提要六五一頁以下)参照

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