大判例

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広島簡易裁判所 昭和28年(ハ)58号 判決

原告 長谷川種三郎

被告 山脇幾太郎

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し一九、五〇〇円及び之に対する昭和二八年五月八日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする」との判決並びに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、原告は宅地建物取引業者であるが、訴外米田サヨノを介し被告の依頼に基き昭和二七年一一月中被告を売主とし訴外隠居彦一を買主として被告所有の広島市草津南町明山新開一、九九〇番地の二五〇所在一、宅地一五五坪一合及び同所同番地所在家屋番号同町二六一号木造瓦葺平屋建居宅一棟建坪一七坪、同所同番地所在家屋番号同町二六二号木造瓦葺二階建居宅一棟建坪三七坪、同所同番地所在家屋番号同町二六三号木造瓦葺平屋建居宅一棟建坪一七坪の各不動産につき売買の仲介をなした結果四五万円で売買が成立した。ところで原告は報酬金として取引金額の一〇〇分の五に相当する金額の支払を受ける約定になつていたから、報酬金として二二、五〇〇円を請求する権利があるわけであるが、これを減額して一九、五〇〇円及び訴状送達の翌日より完済に至るまで年五分の割合による損害金の支払を求めるため本訴に及んだと陳述した。<立証省略>

被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、原告主張事実中、現在原告が宅地建物取引業者であること及び被告が原告に対し本件各不動産の売却方を委任した点は争わないが、その余の事実は争う。被告は本件土地建物を売買するに当つて頭初より周旋業者を避け専ら知人に依頼していたのであつて、若し原告が周旋業者である事を明らかにすれば原告の仲立は断然之を拒絶していたのである。されば被告の居宅より約二丁離れた処には古本秀雄の、又約三丁隔つた場所には、丸惣株式会社の各業者があるのに拘らずこれらに依頼しなかつたのである。よつて被告は、業者であることを明示しなかつた原告の報酬請求に応ずることはできない。かりに原告が業者たることを明示したとしても被告と訴外隠居彦一間には売買が成立していないから、商法第五五〇条第五四六条により、原告には報酬請求権はないと述べた。<立証省略>

三、理  由

原告が現在宅地建物取引業者であり、被告がその所有に係る不動産四筆の売却方を原告に依頼したことは当事者間に争ない所である。被告は、結局売買が成立しない以上報酬請求権は発生しないと主張するけれども、商人が営業の範囲内で他人の為に或る行為をなした時は有償なのであるから(商法第五一二条)被告の委任をうけて商人である原告が、売買の斡旋に尽力した以上、その成否を問わず報酬請求権を有するといわねばならない。商法第五五〇条、第五四六条の仲立人に関する規定は、商行為の媒介に関する規定であつて、本件の如き民事上の取引の媒介における場合には該らないと解するのが相当である。併しながら原告が宅地建物取引業者だからといつて直ちに報酬請求権を有するとは限らないのであつてその事務所或は営業所以外の場所で受任した事項について報酬を相手に請求するには、相手方が既に業者であることを覚知している場合は格別そうでない時は、自己が業者であることを相手に明示した上でなければならないと解すべきである。蓋し本件の後記の如き事情のもとに於ては、特に然りであつて、若し業者であるから当然に委任事務の処理として報酬を請求しうるとするならば、当事者の認識に於て共通であるべき法適用の基礎的事実以外の事実に対し法効果を附与し、以て不当に一方を利する結果を招来するに至るからである。そこで本件の場合を考えるに、原告本人の供述によると、原告は昭和二七年一一月頃出入りの魚屋から家を売りたい人があるが心配してやらないかとの話をうけ、訴外米田サヨノに紹介された。そしてその頃同訴外人と共に被告方を訪れ、その妻に対し、原告は自己の業者の肩書記載ある名刺を出して挨拶をし、取引成立した際は報酬として取引額の五分位は載くということを話しておいたというのであるが、後記証人及び被告本人の各供述に対比し、且つ弁論の全趣旨よりしても措信し難く、却つて証人米田サヨノ(第一、二回)山脇静子の各証言及び被告本人尋問の結果を綜合すると、被告はその所有する宅地、建物合計四筆の売却方を、特に仲介業者に依頼することをしないで、訴外米田サヨノ外知人数名に依頼しておいたところ、出入りの魚屋を介して右訴外人と知り合になつた原告は被告がその不動産を売ることを聞いて、これが仲介を試みんとし、一人で或は右訴外人の紹介状を持参して、又は右訴外人と同道の上、被告方を数度訪れたことはあつたが、その際報酬の約定とか、原告が業者であることなどは原告自身からも、又右訴外人からも明らかにされたことはなく、被告は原告を唯右訴外人の知り合の人だ位しか考えず、業者であることなどは全然知らなかつたことが認められる。他に以上の認定を左右するに足る証拠はない。このように原告において自己が宅地建物取引業者であることを告知せず、被告においてもこれを了知していない以上、前述の如く原告としては委任をうけたからといつて直ちに商法第五一二条に基き報酬請求権を取得するわけのものではなく、右委任関係は民法の一般原則に従つて特約ない限り報酬は請求できないものと謂うべく、特約の存しなかつたことはこれ又前記認定の通りである。

然らば原告の本訴請求は理由がないから失当として棄却すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 加藤宏)

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