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広島高等裁判所 事件番号不詳 判決

主文

原判決を取消す。

控訴人と被控訴人との共有に係る別紙目録記載の土地を競売に付し、その売得金を控訴人に十二分の十一被控訴人に十二分の一の割合で分割する。

訴訟費用は第一、第二審共被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は本件控訴を棄却するとの判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は

控訴代理人において第一、本件土地は明治四年頃以前かう愛媛県北宇和郡北灘村大網漁業者たる訴外赤松源太郞、森桃吉、山口勘一郞、清家新左衛門、武田富成、武内一郞、大塚左源吾、山口貫一、山村金一郞、和田泰造、武田駒一、越智友義等の先代等が網干場等に使用収益してきた土地で地券交付の時も右の事実を確認して地券の交付を受け、爾来地租等の公租公課は全部名義人において共同負担し、第三者等に負担せしめた事実なく、且つ大網漁業者の多くは所謂小日提部落に居住せず他部落の住民で住居の移転等のために土地の所有権を喪失するようなことはなく、従来地券名義人において誤謬あるときは更正し得るに拘らず、未だ之が更正を請求した者はない。よつて地券名義人及び土地台帳謄本名義人たる前主等が完全な所有権を有するものである。しかして控訴人の前主所有者等は昭和四年十一月末登記の本件土地につき登記手続を経て控訴人に其の持分を移転したものであるから、控訴人が其の所有権を有するのは明瞭である。第二、被控訴人は本件土地は小日提部落民の所謂総有であると主張するが、(一)我民法上総有なる観念の適用を受くべきは所謂入会権につき存するのみ、即ち民法第二百六十三条共有の性質を有する入会権民法第二百九十四条共有の性質を有せざる入会権につき認めることを得るのみ、其の何れの性質に従うも、第一に各地方の慣習に依り決定すべきである。然るに本件土地につき部落民の慣行上の規則に基き共同して収益するの方法及び内容を調査するも未だ其の入会権成立の慣行を認むるに足らない。即ち(イ)本件係争土地は北灘村大網漁業権者が従来共同して網干場として使用して来た事実を認め、地券の交付を受けたもので、従つて名義人において地租等の公課を納めてきたので、小日提部落民が之を負担した事実は更になく、大網漁業権者の漁業権譲渡に依り土地の共有権を喪失した事実もない。(ロ)其の後部落部の一部の者は共有名義人から土地を賃借し賃料を納め家屋を建築して之に居住し、本件土地並に之に接続する同所丁千二百九十五番地の一乃至十等には人家約十戸点在しているが、其の建築につき部落民の同意を受けた事実はない。(ハ)右土地が北灘村全部の漁業者の祭神たると共に漁業者の居住する小日提部落民の祭神たる海津見神社の祭礼の御旅所として使用されて来た事実があつたとしても、漁業権者全般の祭神たる性質から之を見るときは此の事実を以つて直ちに入会権の成立を認めることはできない。殊に其の維持費の如き全部大網漁業権者即ち本件土地共有名義人において負担してきた事実あるにおいて然りとする。(ニ)地券名義人たる被控訴人先々代赤松国五郞外十五名の大網漁業権者が網干場として使用して来た本件土地及び之に接続する同所丁千二百九十五番の一乃至十の土地につき、小日提部落民は単に大網漁業権者の土地に対する権利行使に支障を生じない範囲内において事実上物干場等に使用して来たが、それは唯所有者たる大網漁業権者において賃貸料を徴して使用させたか、或は一時的使用を默認したのに過ぎない。第三、仮りに本件土地が被控訴人主張のように小日提部落民及び大網漁業権者の総有の性質を有する入会権なりとするも、入会権とは部落の住民が一定の原野において其の部落の慣習上の規則に基き共同して収益するの権利である。其の収益の内容は、藻秣草肥草等の雑草の採取枯枝落葉雑木等の薪炭用等の採取、建築用材石材等の採取において成立すべく、仮りに部落民において土地を単に物干場に使用するのみで地盤から何等収益するところがないに拘らず、直ちに地盤が総有の性質を有するものと断ずることはできない。第四、仮りに被控訴人主張のように「大網漁業者及び小日提部落民において網干場として元吉田藩より拜領使用して来たが、明治九年に至り大網漁業者なる赤松国五郞外十五名の者が代表者として共有者の地券の交付を受けたる事実」ありとすれば、即ち小日提部落民は本件土地につき共有権を有して居たところ、明治九年頃地券名義を代表者赤松国五郞外十五名になしたのは、本件土地の管理保存を其の共有者の一部の者に托したのに外ならないから、其の共有者間において其の名義人との間に被控訴人主張のような使用関係発生し居たとするも、是れ即ち寄託者間における内部関係に過ぎないもので外部関係においては地券名義人土地台帳名義人及び登記名義人を以て所有権者となすべく、此等の者から買受け登記を経た名義人は其の悪意なると善意なるとに拘らず、完全な所有権を取得するものである。なお、本件土地の持分の譲渡につき被控訴人主張のような制限のあることは否認すると述べ、

被控訴代理人において

(一)  本件土地は小日提部落の氏神海津見神社の祭礼場として使用せられる以外に大網漁業権者の網干を優先に所在小日提部落住民の小網漁業者の網干場漁船の引上場、海産物の製造干場並に農産物の干場として数百年前から使用されて来たものである。元来漁業について漁場其の他に関し大漁業権者最も優越の地位にあるもので、往時は大網漁業権は各部落の旧役人と称する庄屋の補佐役之を所有し、各所属部落の住民を其の曳子として使役してきたもので、旧役人と所属部落民とは主従の関係にあつたものである。それ故、明治九年地券発行に際し本件土地が漁業の氏神様たる海津見神社祭礼場に使用せられた事実に着眼し、又他面本件土地が北灘村大網漁業権と一体不可分の状態にある関係上、地券名義人を信託的に漁業につき優越の地位にある大網漁業権者たる旧役人赤松源太郞外十五名としたのである。(二) 本件土地に接続している同所丁千二百九十五番地の一乃至十の土地には附近の海上で難破死沒した亡靈の冥福を祈るため小日提部落民が天保十四月六月に建てた供養石塔があり、部落民は毎年六月十三日集会慰靈念払祭を行つている。又右の碑と並んで小日提部落民が明治十三年十一月に建てた奉献碑があるが之は本件土地等が小日提部落民の総意により海津見神社の祭礼場になつたことを明かにしたもので右の事実からしても本件土地が総有地であることは明かである。(三) 従つて控訴人が訴外森桃吉外十名から各其の持分の譲渡を受け現に登記簿上本件土地が控訴人及び被控訴人先代の共有名義となつていることは争わないが、本件土地は総有で総員の承諾を得なくては持分の譲渡をなし得ないのみならず、名義人たるには北灘村大網漁業権者並に小日提部落民たることを要し、右の者以外の者に譲渡するについては総員の同意を要することとなつているところ、控訴人は名義変更をなすに際り右の同意を得ていないから右譲渡は無効である。(四) 共有土地につき相手方より分割の協議を求めたが被控訴人先代においてこれが協議に応じなかつたことは認めると述べた外は原判決事実摘示と同様であるから茲に之を援用する。

(立証省略)

理由

別紙目録記載の土地(以下本件土地と略称する)が登記簿上昭和四年十一月十三日受付で被控訴人先代赤松源太郞、訴外森桃吉、山口勘一郞、清家新左衛門、武田富成、武内一郞、大塚左源吾、山口貫一、山村金一郞、和田泰造、武内駒一、越智友義の共有(持分平等)として所有権保存登記のなされたこと、控訴人が昭和四年九月二日森桃吉、武内駒一から同年九月三十日山村金一郞、和田泰造、武田富成、清家新左衛門、山口貫一、山口勘一郞、大塚左源吾から、昭和九年五月十日越智友義から、昭和十二年九月十八日武内一郞から孰れも売買に因り各自の共有持分全部の譲渡を受け、昭和四年十一月十八日から昭和十三年八月二日までの間に其の旨の取得登記をなしたことは孰れも本件当事者間に争はない。

被控訴代理人は、本件土地並にこれに接続する同所丁千二百九十五番地の一乃至十の土地は愛媛県北宇和郡北灘村小日提にある砂浜で旧藩時代干鰯を租税とする関係上、吉田藩から北灘村大網所有者及び同村小日提(従来洲の浜と称する)部落民の物干場として使用することを承認せられ、明治九年被控訴人先代赤松源太郞外十五名の大網所有者が代表的に共有者として地券の交付を受けたが、其の後被控訴人先代及び訴外森桃吉外十名の所有名義に登記したのに過ぎないので、右共有者は大網を全然使用しないか、又は北灘村部落民たるの地位を去つたときは、右持分を喪失するが、然らざる限り一般小日提部落民に優先して該土地を網干等に使用し得べく、右の外は同部落民と平等にこれを小網干漁船の引揚漁獲物の製造等に使用し得べき権能があるもので、結局本件土地等は北灘村大網漁業者及び小日提部落民の総有に属し、控訴人主張のような共有権関係にあるものではないと主張するので、先づ此の点につき按ずるに、原審証人赤松伝造、河野正義、梶原亀子、武内紫朗原審並に当審証人清水伊勢松、武内正明当審証人阪本良造は被控訴人主張の右事実に副う趣旨の証言をするけれども、該証言は後掲各証拠に比照してたやすく信用し難く、却つて成立に争ない甲第一号証の一、二、同第二号証の一乃至十、同第三号証の一乃至二十九、原審並に当審証人武田富成、当審証人森久、細川千松(第一回)竹内一郞の各証言及び原審並に当審における検証の結果を綜合して考察すれば、本件土地及び之に接続する同所丁千二百九十五番地の一乃至十の土地は愛媛県北宇和郡北灘村字須の浜(通称小日提部落)の略中央に位し、東方は通称北灘村内の須浦の内海に臨み、西方は宇和海の外海に面し、東西約十七間南北約二十五間の長方形の砂浜で旧吉田藩がこれを領有していたところ、その頃この附近を漁場として漁業に従事していた大網漁業権者等が租税として煮干を納めていた関係上、右大網漁業権者が右土地を網干等に使用するために吉田藩から共同で貰い受けた事実、その後地券制度創設せられたため、明治九年頃大網漁業権者十六名は小日提部落に居住する被控訴人先々代赤松国五郞を代表者として右土地につき十六名の平等持分の共有として届出でその旨の地券の交付を受けた事実、その後大網漁業権者のうちには、漁業をやめ右土地に対する共有持分を抛棄した者もあり、或は死亡した者もあつて、昭和四年頃本件土地につき共有持分を有する大網漁業権者は、敍上の被控訴人先代赤松源太郞外十一名となつたので右の者が平等持分の共有者として本件土地につき所有権の保存登記をしたものである事実を夫々肯認するに充分であるから、訴外森桃吉外十名から本件土地に対する各自の持分全部の譲渡を受けた控訴人が本件土地につき十二分の十一の共有持分を有することは明かである。

尤も、原審証人水谷弥十郞、和田正義、当審証人武内正明、清水伊勢松、坂本良造、赤松利八、石崎仙太郞(第一回)、森久、武田富成、細川千松(第二回)の各証言及び当審における検証の結果を綜合すれば、(一)大網漁業権者が本件土地並に之に接続する同所丁千二百九十五番地の一乃至十の土地を網干その他の用途に使用しないときは、小日提部落の小網漁業権者は自己の網や漁具を干し、或は同部落の農民は農具や麦、甘藷の切干等を干すために自由にこれを使用してきた事実。(二) 毎年一度催される北灘村所在の海津見神社の祭礼には、右土地の一部がその御輿の御旅所として使用されてきた事実。(三) 右土地には小日提部落民が附近の海上の平穏を祈念するために、天保十四年六月に建てた供養石塔と明治十三年十一月海津見神社に捧げた奉献碑のある事実を認めることができるが、他面成立に争ない甲第三号証の一乃至二十九、当審証人石崎仙太郞(第一、二回)細川千松(第一、二回)武田富成の各証言原審における被告人赤松源太郞、当審における控訴人本人の各供述及び当審における検証の結果を綜合して認め得る。(一)(イ)北灘村字洲の浜丁千二百九十五番地の一、二に跨つて昭和十四年末頃建てられた訴外石崎仙太郞所有の木造杉皮葺平家納屋。(ロ)同所丁千二百九十五番地の八、九に跨つて約三十年前頃に建てられた細川千松所有の木造瓦及び杉皮葺平造煮干製造場。(ハ)同所丁千二百九十五番地の九、十、十一に跨つて訴外浜田新太郞所有の木造瓦葺平造住宅。(ニ)本件土地即ち同所丁千二百九十五番地の十一、十二に跨つて、訴外赤松伝造所有の木造瓦葺平造納屋が存在し、右建物の所有者等はその建築に際し右土地の共有名義人の一人なる被控訴人先代赤松源太郞の承諾を得たのみで、小日提部落民の承諾を得たことはなく、又部落民はこれに対し異議を述べたこともなく、該使用土地に対する賃貸料は右赤松源太郞に支払つてきた事実(当審証人清水伊勢松は細川千松所有の右建物は小日提部落民の同意を得て建てたもので、浜田新太郞所有の住宅及び赤松伝造所有の納屋については赤松源太郞が部落民を代表して承諾したものである旨の証言をするが該証言は信用しない)。(二) 本件土地に対する税金等は共有名義人が支払い本件土地を漁具農具農産物等の干場に使用してきた小日提部落民は全然支払つたことのない事実等に鑑みるときは、前記認定の(一)乃至(三)の事実のみでは未だ本件土地が被控訴人主張のような総有地であると認めるに足らないのみならず、却つて前記武田富成の証言及び当審における検証の結果を綜合すれば、小日提部落民が本件土地及び同所丁千二百九十五番地の一乃至十の土地等の従来敍上認定のような用途に使用してきた所以は、小日提部落には平地が少なく、部落民は農具漁具農産物等の干物に困つていたところ、偶々小日提部落に居住する大網漁業権者は僅少で平素右土地は使用されずに空いている場合が多いので、大網漁業権者は小日提部落民がこれを使用するのを便宜許容してきたものに過ぎない事実を認めることができ、被控訴人提出のその余の全証拠によるも敍上認定を覆えし本件土地が被控訴人主張のような総有地である事実を認めるに足らない。したがつて、本件土地が総有地なることを前提とする被控訴人の主張は爾余の点につき判断するまでもなく失当であるからこれを排斥する。

しからば本件土地は控訴人十二分の十一被控訴人十二分の一の割合の共有に属するから、控訴人はその分割を訴求し得るのは勿論なるところ、当事者間に分割の協議の調わなかつたことは争ないところであつて、当審における検証の結果並に当審における鑑定人水野準一、山本信胤の各鑑定の結果を綜合して考察すれば、本件土地を右持分の割合に応じて分割することは著しくその価格を損ずる虞があると認められるから、民法第二百五十八条第二項に則り本件土地を競売に付し、その売得金を控訴人及び被控訴人に対しその共有持分の割合に応じて分割するのを相当と認める。

敍上の次第で控訴人の本訴請求は正当であるからこれを認容すべく、右と異趣旨に出た原判決は失当であるから変更を免れない。よつて民事訴訟法第三百八十六条第八十九条第九十六条を適用して、主文の通り判決する。(昭和二三年五月一二日広島高等裁判所民事部)

(別紙目録省略)

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