大判例

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広島高等裁判所 平成元年(う)9号 判決

所論は,要するに,本件事故の原因は,被告車が片側第2車線を進行中,その右後方の第3車線を同方向に進行中の被害自動二輪車の運転者Sが,右折しようとする被告車の右折合図に気付きながら,右折準備態勢に入った被告車を優先させて減速避譲することなく強引に時速90キロメートルにも加速して被告車を追い抜こうとしたことにあり,被告車側には信頼の原則上これら違法異常な運転をするものに備え周到な後方安全確認をなすべき注意義務はないのに,原判決は,右折の合図をして右折の準備態勢に入った後も後方車の動静に注意し同車との安全を確認して進行すべき業務上の注意義務があるとして,被告人の主張する信頼の原則の適用を排除し被告人の過失責任を認めたのであるが,これは判決に影響を及ぼすべき事実誤認をおかしているというべきで,破棄を免れない,というにある。

ところで,信頼の原則はもともと自己の適切な行動に対し他人もまた適切な行動に出るであろうことの信頼を是認するものであるから,その前提として自分が適切な態度を執っていることが要求されるところ,本件事故原因に関し,被告人に不適切な交通違反等の態度がなかったかどうかを検討する。

前記のような右折方法で衝突の危険がなかったかどうかについて考えると被告人は右折に際し減速したというのであるから,仮に,②③間を時速30キロメートル,③間を時速20キロメートルで走行した場合は①間は3.83秒かかる計算となり,②③間を時速20キロメートル,③間を時速10キロメートルで走行したとすると①間は5.78秒かかる計算となる。しかして,①地点において被告人が右後方約66メートルに発見した被害二輪車と間は98.7メートルであるから,被害二輪車がその間を時速90キロメートルというような高速度でなくても,時速50キロメートルで走行しておれば,7.1秒で点に達し,時速60キロメートルで走行しておれば5.9秒で点に達する計算となる。したがって,被害S車が時速約90キロメートルに加速して進行して来たのが事故の原因であるとする所論は相当とはいえないのであって,被告人の減速運転の程度いかんにより衝突が必至となったり,ならなかったりすることとなる。しかも,被告車が交差点でない中央分離帯の切れ目を利用して転回するため右折しようとしたが,中央分離帯を右折しきらずに,中央分離帯越えの対向車との衝突を避けるため,第3車線上にとどまったため,被告車と被害二輪車とが衝突することとなったことは被告人の認めるところである。そうすると,被告人は右折に先立ち,中央分離帯越えの対向車との衝突を避けるため第3車線上にとどまることもあることを予測しながら右折したことが認められる。したがって,被告人の適切な右折準備態勢とは,先に右折に要する時間とこの停車時間を考慮したものを合わせて運転するのが適切なものであったというべきである。そうして,道交法53条1項,同法施行令21条によれば,被告人は右折しようとした前記③地点の手前30メートルで右折の合図をしなければならないのであるが,被告人は当審公判廷においては,それまで①地点で方向指示器で右折の合図をしたと述べていたのを変更して,被害車を発見した①地点から1秒くらいしてから方向指示器を出したというのであるから,①から③までが29.7メートルであるので,被告人は右折を予定した③から20メートルあるかないかの地点で方向指示器で合図をしたことになり,被告人の右折の合図は適法のものとはいえないのであって,このことは被害者Sの証言によっても裏づけられるのである。しかも,本件右折の場所が前記①付近手前の交差点からわずか60メートルくらいしか離れていない,中央分離帯の切れ目から転回するといった違法でないにしてもやはり特殊な右折形態であったことにかんがみると被告人としては右折合図のつもりであっても後続車の運転者からは単に第2車線から第3車線への車線変更の合図とも解し得るのであって,右折して第3車線を横断することまで確知させるものではなく,現に被害者Sもそのように解して,速度を落とした被告車が自分を先に行かせてくれるものと思い加速したものと考えられるのである。しかるに,被告人はルームミラー越しに後方被害S車を一べつしただけで,右折の合図も不適切なままで右折を開始したため右後方から進行して来る車両の速度又は方向を急に変更させることとなるおそれがある運転をした(道交法26条の2)こととなったと認められるのである。してみると,被告人の右折の運転方法には誠に不適切なものがあったといわざるを得ず,信頼の原則を主張する前提を欠いているといわざるを得ない。したがって,原判決には所論のような事実誤認は存しないので,論旨は理由がない。

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