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広島高等裁判所 平成10年(ネ)83号 判決 1998年11月20日

主文

一  原判決中、控訴人らの敗訴部分を取り消す。

二  被控訴人らの請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

主文同旨。

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二事案の概要

次のとおり付加・訂正するほかは、原判決が「第二 事案の概要」と題する部分に記載するとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決中「被告浜田」とあるのは「控訴人濱田」と、「被告農協」とあるのは「控訴人農協」とそれぞれ読み替える。)。

一  原判決五枚目表六行目の「争点」の次に「及び主張」を加え、同七行目から同一一行目までを次のとおり改める。

1  控訴人濱田の加害車後退に過失があったか及び加害車は亡ミヨ子に衝突しているか。

(被控訴人らの主張)

控訴人濱田は、後方を不注視の状態で加害車を後退させたため、亡ミヨ子の存在に気づかず、加害車を同人に衝突させた。

(控訴人らの主張)

加害車が停車した地点と亡ミヨ子が倒れていた地点との間には二・五メートルの距離があり、これからすると、両者が衝突したとは考えられない。亡ミヨ子は、後退してきた加害車に驚き、転倒したものである。

2  本件事故により右二3、5以外に損害が生じたか。

(被控訴人らの主張)

二  同五枚目裏八行目の「二〇九万〇七〇〇円」の後に「。一般に遺族年金といわれているもののなかには、被保険期間に関係なく、一八歳未満の子を持つ妻に対して、子の人数に応じて支給される生活保障を目的とした、国民年金でいう遺族基礎年金に当たるものと、収入と加入期間に応じて負担した保険料に対応して支給される、給料の後払い的性格を有する遺族厚生年金とがあり、このうち、遺族厚生年金についてはその逸失利益性が認められるべきである。」を加える。

三  同六枚目表一〇行目の「金員(」の後に「被控訴人一人につき」を加え、同裏二行目の後に改行して次のとおり加える。

(控訴人らの主張)

<1> 遺族年金は退職年金等の受給権者によって生計を維持していたものに対して支給されるものであって、遺族年金の受給権者の生活保障を目的としたものであるから、その逸失利益性は否定されるべきである。また、遺族年金の受給権は受給権者の死亡のみでなくその婚姻によっても消滅するなど、その存続性は不確実であるから、右受給権の喪失を損害として評価すべきではない。

<2> 交通事故による損害のうち、既に保険金の給付等により、補填された分がある場合、これについては事故の日から補填の日までの遅延損害金は付さないのが裁判実務の取扱いである。

四  同六枚目裏三行目の後に改行して次のとおり加える。

(控訴人らの主張)

本件事故現場は駐車場内であり、このような場所を通行するときは、歩道などを通行する場合と異なって、歩行者も駐車場内の車両の有無・動静には十分注意を払う義務があるところ、亡ミヨ子にはこれを怠った過失がある。

第三争点に対する当裁判所の判断

次のとおり付加・訂正するほかは、原判決が「第三 争点に対する当裁判所の判断」と題する部分に記載するとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決六枚目裏五行目から同九枚目裏五行目まで)。

一  原判決七枚目表四行目の「<1>」の後に「控訴人濱田は、本件事故の翌日である平成七年九月二一日、江田島警察署において、司法警察員新佛義正に対し、「危ないと思ってすぐブレーキをかけましたが、間にあわず、私の車の左後角付近が相手の人の身体の正面にぶつかってしまいました。その時相手の人は車の方に身体を向けておられました。」「私の車の左後角付近と相手方の正面がぶつかり、相手方はあお向けに転倒した」旨具体的に述べていること(乙第六号証)、そして」を加える。

二  同七枚目裏七行目の「証拠はない」の後に「(控訴人らは、実況検分調書記載の加害車と亡ミヨ子の位置関係から、両者が衝突するはずはない旨主張するが、乙第二号証の実況検分調書記載の位置関係から、加害車と亡ミヨ子が衝突しなかったとは到底いえないし、前記のとおり、控訴人濱田は、本件事故の翌日である平成七年九月二一日には司法警察員に対し、「私の車の左後角付近と相手方の正面がぶつかり、相手方はあお向けに転倒した」旨具体的に述べていたのであって、控訴人の主張は理由がない。)」を加え、同八行目の「争点2」を「争点2、3」と改める。

三  同八枚目表一一行目の「一四一四万二三三一円」を「二三一万六八〇七円」と、同裏一行目の「甲第二」から「乙第四号証」までを「甲第二、第七号証」と、同三行目の「、遺族厚生年金」から同五行目の「認められる。」までを「を受給していたことが認められる。」と、同八行目の「支給総額」を「支給額」と、同一〇行目の「一四一四万二三三一円になる」を「二三一万六八〇七円になる」とそれぞれ改め、同行目の「被告は」から同九枚目表七行目の「べきである。」までを次のとおり改める。

被控訴人らは、亡ミヨ子が本件事故当時受給していた遺族厚生年金及び市議会議員共済の遺族年金についても逸失利益を認めるべきである旨主張するが、遺族厚生年金は、その受給権者の死亡により更にその遺族が何らかの年金受給権を取得することは法律上予定されておらず、社会保障的性格ないし一身専属性が強いものである上、その受給権者の死亡のみならず、婚姻によっても消滅するなど、その存続自体に不確実性を伴うこと(甲第五号証によれば、市議会議員共済の遺族年金についても同様であることが認められる。)からすれば、右各年金についてはその逸失利益性を否定するのが相当であり、被控訴人らのこの点についての主張は採用できない。

四  同九枚目裏五行目の後に改行して次のとおり加える。

5 過失相殺

本件事故は控訴人農協鹿川支店駐車場内で生じたものであるところ、事故当時、駐車場内には加害車の他には駐車している車両はなく、見とおしはよかったこと、加害車は後退するときバックブザーが鳴る仕組みのものであったことが認められる(乙第二、第三、第六、第八号証)。これによれば、本件交通事故については、亡ミヨ子にも駐車場内の車両の有無・動静に十分注意を払わなかった過失があるということができる。そして、その過失割合は控訴人濱田の過失に対して一〇パーセントとみるのが相当である。

6 損害の填補等

以上の、被控訴人ら各人の慰謝料を含めた損害の合計は二一五七万二五四七円であるところ、亡ミヨ子にも前述した過失があるから、その一〇パーセントを減ずると、残額は一九四一万五二九二円である。そして、被控訴人らが平成八年六月二七日までに控訴人農協(自動車損害賠償責任共済)から二二五四万〇六八二円の填補を受けたことは被控訴人らの自認するところであるから、差し引き三一二万五三九〇円は被控訴人らにおいて過大に填補を受けたことになる。そして、右残額に対する亡ミヨ子の死亡の日である平成七年九月二五日から右損害填補の日である平成八年六月二七日までの年五分の割合による遅延損害金は七三万四〇五七円であるところ、右差引額にはこれも含まれているとみるのが相当であるから、被控訴人らの確定遅延損害金の請求は理由のないものというべきであり、弁護士費用についてもまた同様である。

第四結論

以上によれば、被控訴人らの本訴請求は理由がないからすべてこれを棄却するべきであり、その一部を認容した原判決はその限度で失当であるから、右認容部分は取り消すこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 大塚一郎 笠原嘉人 金子順一)

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