大判例

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広島高等裁判所 平成3年(う)201号 判決

原判決は,被告人が無罪であることの理由として,広島県漁業調整規則(以下「規則」という。)第15条は,小型まき網漁業の許可の内容をなす漁業種類の区分が明確でなく,構成要件が不明確であるとするので,まず,この点について検討する。

確かに,所論のとおり,規則15条自体には漁業種類の内容が必ずしも具体的に明らかにされていない。しかしながら,一般に立法者がある刑事立法をする際,目的とするあらゆる場合を予想して個別的,網羅的に立法することは立法技術上不可能であるから,ある程度抽象的な条項を設けることもやむを得ないといわざるを得ないのであって,ある刑罰法規があいまい不明確であるか否かは,通常の判断能力を有する一般人の理解において,具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読み取れるかどうかによってこれを決定すべきである(昭和50年9月10日最高裁大法廷判決刑集29巻8号489頁)。

そこで,これを本件の場合についてみるに,関係証拠によれば,次の事実が認められる。

1 広島県は,本件当時,同県農政部水産漁港課作成の「漁業の許認可等の事務処理要領」(以下「要領」という。)によって,小型まき網の漁業種類を,①「一そうねり網(ずる網)」,②「一そうぐり網」,③「二そうぐり網」,④「三枚網を使用する一そうねり網(ずる網)」と明確に規定している。同要領は,漁業法及び規則に基づいて作成されたものであり,小型まき網漁業の申請があった場合,広島県の出先である農林事務所は,右要領に則り規則15条の漁業の種類を指定してこれを許可している。

2 前記4種類の漁業の特徴は,次のような点にある。

①一そうねり網(ずる網)漁業は,漁船1そうで,環綱と環のないかえし網と,全体が1枚網となっていて沈子部に環綱と環がない身綱(身網の網目は5節以上10節以下(3.4~7.6センチメートルのもの))で構成されている網(但し,かえし網のないものもある。)を用い,海中に投網する際,網は必ずしも海底に着底させる必要はなく,網の沈子部を浮子部より先に引き揚げるように揚網して網全体を一種の袋状として魚をすくい獲るもので,網丈は,端部に比して中央部が2,3倍の長さになっており,浮子網に環綱と環がついているものについては,端部と中央部とも同一の長さになっている。②一そうぐり網漁業は,漁船一そうで,全体が一枚網となっていて沈子部に環綱と環のある身綱のみで構成されている綱(綱の長さ(浮子方)は450メートル以内,綱丈は160メートル以内のもので,身綱の網目は9月1日から翌年3月31日までは8節以上22節以下(1.5~4.3センチメートル),4月1日から4月30日までは8節以上16節以下(2.0~4.3センチメートル)のもの)を用い,海中に投網した後,沈子部の環綱を締め,網の下部をきんちゃく状に締めて魚を逃がさないようにして揚網する。③二そうぐり網漁業は,漁船二そうを用いる他は②と同様である。④三枚網を使用する一そうねり網(ずる網)漁業は,漁船一そうで,環綱と環のあるかえし網と,上部が一枚網で裾部が三枚網となっていて裾部に環綱と環がない身綱(身綱の網目は①と同じもの)で構成されている綱を用い,網を海中に環状に投網し,海底に着底させた上,海面を叩くなどして魚を環状の網の裾部に追い込み,三枚になった網の部分にからんだ魚を捕獲する。網丈は,端部と中央部とも同一である。

3 広島県が,要領に漁業種類として,ねり網(ずる網)漁業とは別に三枚網を使用するねり網(ずる網)漁業を規定したのは,昭和41年であり,その際,誰が見ても分かるようにと,「三枚網を使用する」との文言が採用された。なお,前記二つの漁業種類は,少なくともこれ以降引き続き要領に規定されてきたものであり,以後かなりの歳月が経過している。

4 要領の改正があると,各漁業協同組合(以下「漁協」という。)の組合長らに対する説明会が開かれたり,各漁協に新しい要領が配付されるなどして広く漁業関係者に対し,周知させる方法が採られている。

5 漁業の許可を受けようとする者が知事に提出する申請書には,申請者が記載すべき漁業種類の欄が設けられ,漁業許可証にも前記のような漁業種類が記載されており,現に被告人も同欄に「三枚網を使用する一そうねり網」漁業と記入して漁業許可の申請をし,被告人が交付を受けた漁業許可証にも,「三枚網を使用する一そうねり網(ずる網)漁業」と明確に記載されている。

以上のとおり認められる。

前記各事実によれば,規則は,漁業許可の内容となる漁業種類等の具体的定めを要領に譲っているが,これを受けて作成された同要領は,漁業種類等を明確に定めているばかりでなく,改正があれば,その都度,その冊子が漁協等関係機関に配付されるなどして広く漁業関係者に周知する方法が採られてきていること,また,漁業の許可を受けようとするものは,要領に則り自己の求める漁業種類等を許可申請書に記入して知事に提出し,知事から交付される漁業許可証にも許可された漁業種類等が明記されていること,広島県においては,以上のようにして多年にわたり漁業許可の運用がなされ,漁業者もこれに従って漁業許可を得,漁業を営んでいるきていることが認められ,これらに照らすと,漁業を営もうとする者は,規則の定める漁業許可の内容となる漁業種類等がどういうものであるかについてだけでなく,自己が許可を受けた漁業種類等が何であるかを知悉しているものであり,したがって,許可を受け漁業種類等と異なる漁業種類等,例えば,漁業種類を三枚網を使用する一そうねり網(ずる網)漁業として許可された小型まき網漁業者が(一枚網を使用する)一そうねり網(ずる網)漁業を行えば,規則15条にいう許可された漁業種類に違反して漁業を営んだことになることは十分に判断が可能であるというべきである。してみれば,規則15条が前記のような規定の仕方をしているからといって,その構成要件が不明確であるということはできない。

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