大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 平成6年(行コ)9号 判決 1997年6月12日

控訴人

中国運輸局長

野崎典重

右指定代理人

内藤裕之

外六名

被控訴人

境港倉庫株式会社

右代表者代表取締役

松本豊

右訴訟代理人支配人

面谷敬

景枝義美

右訴訟代理人弁護士

川中修一

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一  控訴の趣旨

主文と同旨

第二  当事者の主張

次のとおり付加するほかは原判決事実摘示(原判決三頁七行目から二一頁六行目まで)のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決三頁末行、同四頁一、二行の各「運輸省」並びに同三頁末行から四頁一行目の「以下「中国運輸局」という。」及び同四頁一行目の「(以下「中国海運局」という。)」をいずれも削除し、同四頁四行目の「四条」を「五条」に改め、同一三頁四行目の括弧及び同内の記載を削除する。)。

一  控訴人の主張

1  本件処分の裁量処分性

港湾運送事業に免許制が採用されたのは、昭和三四年の法改正によるものであり、その趣旨は、当時中小企業が乱立してた港湾運送事業の健全な発達と経営の安定を策し、利用者の安全保護の立場から業務監督を強化して、港湾運送機能の充実を図ることにあったが、このことは基本的には現在も変わらない。

港湾運送事業法は、右免許制の趣旨から六条一項において免許基準を定めているが、「港湾運送供給量が港湾運送需要量に対し著しく過剰にならないこと(一号)」などその基準は抽象的な不確定概念で定められていることから、免許権者が右免許基準に適合しているか否かを判断するに当たっては、需要の動向や将来への影響も含めた諸般の事情を総合的に考慮しなければならず、右適合性の審査方法及びその判断は専門的、技術的なものとならざるを得ない。したがって、その審査の方法及びその判断は、免許権者の裁量にゆだねられていると解すべきである。

このような場合、本件処分が違法となるのは、法定の免許条件(免許基準の適合性を含む。)の認定において明白かつ重大な事実誤認があったり、裁量権の逸脱ないし濫用があったと認められる場合に限られると解すべきであるが、本件においてはそのような瑕疵はない。

2  法六条一項一号(港湾運送供給量)の審査について

(一) 境港海陸の作業人員について

(1) 港湾運送事業法及びその施行規則、港湾運送事業報告規則により届出が義務づけられている各種届出や報告により、境港海陸のいかだ運送事業に従事している人数は明らかになるところ、同社の事業報告変更届書、同認可申請書(乙三八ないし四一)及び昭和五八年度の報告書(乙四二)によれば、本件申請当時、同社は港湾運送事業法二条一項一号のいかだ運送(以下「一般いかだ」という。)作業員四二名とは別に、同条一項五号のいかだ運送(以下「単独いかだ」という。)作業員二五名が配置されており、この六七名によりいかだ運送作業(船側、場内、搬出の各作業)が行われていた。境港海陸の、港湾運送事業に従事していた労働者は全体で一七五名おり、このうち、いかだ運送には、本社に四二名、外江営業所に二五名の計六七名が事業計画上配置されていた。

なお、平成三年七月三〇日では一般いかだ作業員が三一名、単独いかだ作業員が二〇名であり、本件申請時に比べ一六名の減員であるがそれは、昭和五六年から同六一年にかけて県営貯木場の開設や木材専用ドルフィンの供用開始、ロータリーボートの導入等で合理化が図られたためである。

(2) 境港海陸が控訴人からの照会に対し、港湾運送部門一七五名、陸上その他の部門六三名、合計二三八名と回答したのに対し、被控訴人は、境港海陸の労災保険の掛け方からみれば同社の港湾運送部門の労働者は一一四名であり、一七五名は実際にいない人数を算入した水増しであると主張している。

しかし、境港海陸が労働保険を労災保険適用事業細目どおりに掛けていないことが労働者災害補償保険法上問題であるとしても、そのことが境港海陸の港湾運送事業に従事する労働者数に直接影響を及ぼすものではない。

(二) 時間外労働について

港湾労働は、二四時間体制で運航している船舶との関係からできるだけ短時間で船舶からの取り卸しを終了させる慣行が存在しており、また、港湾運送事業者あるいは用船者は、停泊期間内に荷役が終了しなかった場合にはその延長した日数に応じて船主に対して滞船料を支払わねばならないこととされている。このような事情から、作業人員数に不足がなくても、全国的にも時間外労働が不可避となっており、境港のみが時間外労働を行っているのではない。

このような港湾労働の特殊性を度外視して、時間外労働が行われた日数が多いことのみをもって、境港海陸の供給量が不足しているとの主張は誤っている。

(三) 木材業者の苦情について

聴聞手続で陳述した木材業者らから本件作業が迅速でない旨の苦情が多かったという原判決の指摘があるが、同手続において陳述した木材業者らは、被控訴人会社の株主及び役員で、境港海陸と対立する、いわば当事者的立場にある者の陳述であること、仮に時により多少の遅れがあったとしても、港湾運送業界においては許容範囲のもので、これは昭和五八年当時境港海陸あるいは用船者が船主に対して滞船料を支払った事実がないことからも明らかであることを考慮すべきであり、この点を度外視して境港海陸の供給量が不足していると判断することは誤りである。

(四) 境港海陸の供給能力について

本件申請は「船側いかだ組から自社水面倉庫に搬入するまで」のいかだ運送についてであるから、競合する供給能力として審査の対象となるのは船側作業のみであり、場内作業及び搬出作業は本来の審査対象ではない。

(1) 境港海陸の作業実態

いかだ運送作業は、ア船側作業(水面上に船から降ろされた木材を作業船またはロータリーボートで寄せ集めてのいかだ組み、曳き船による水面貯木場への曳航、搬入)、イ場内作業(水面貯木場内での、検疫、検量、木材の仕分け、いかだ組み、保管作業)、ウ搬出作業(水面貯木場からのいかだ搬出、曳航及び引渡作業)に区分される。前記のとおり、本件処分は専ら船側作業に関するので、以下これを中心に主張する。

ア 船側作業につき、境港海陸は、一般いかだ要員三五名で、常時入港木材船三隻(南洋材船二隻、北洋材船一隻)の荷役作業に対応できる体制(三隻体制)を採っていた。

その内訳は、北洋材船については一三名(作業船又はロータリーボート二隻で作業員二名、いかだ組作業員八名、曳航作業員三名)、南洋材船については二隻で二二名(一隻につき、作業船又はロータリーボート二隻で作業員二名、いかだ組作業員六名、曳航作業員三名の一一名)の、合計三五名である(全て一般いかだ要員)。

そして、境港海陸は昭和五八年度には延べ三七六隻日(船舶一隻の荷役にかかった日数を乗じたものの総合計)の荷役日数で四九万六〇〇〇立方メートルのいかだ運送の実績があるので、一日一隻当たりでは一三一九立方メートルの実績となることから、一年三六五日のうち日曜祝日及び法定有給休暇日数を差し引いた二五七日稼働するものとすれば、三隻の入港に対応できるのであるから、年間一〇一万六〇〇〇立方メートル以上のいかだ運送が可能である。さらに昭和五九年度について同様の方法により推計すれば年間一一〇万立方メートル以上のいかだ運送が可能である。

なお、昭和五八年度についていえば、需要量が年間四九万六〇〇〇立方メートルしかなく、また北洋材は全体の二〇パーセントにすぎなかったから、三隻体制をとっていた境港海陸にとっては作業能力に相当余剰があり、右余剰労働力を場内作業や搬出作業にあてていた。

三隻体制の具体的な一例を挙げると、昭和五八年一二月一〇日に、南洋材船二隻(バラム号と、キナバルセムビラン号、乙五一及び五五の各一・二)の南洋材四三九六立方メートル、北洋材船一隻(ピオネール・ユージノサハリンスカ号、乙六二の一・二)の北洋材一八〇三立方メートルを船から降ろし(船内作業)、引き続き同量のいかだ運送(船側作業)をした。右量を二五七日処理すれば、年間では一〇〇万立方メートル以上の船側作業能力であり、相当の余剰能力がある。

イ 場内作業及び搬出作業についても船側作業とは別の労働力を配置していたので、これらの作業の処理能力は本件判断の対象である船側作業の需給関係の判断を左右するものではない。

(2) 以上のとおり、合計六七名の作業員により、船側、場内、搬出の各作業につき年間一〇〇万立方メートル以上の処理能力があったことは明らかである。

なお右の処理能力の算定にあたっては次のような港湾荷役の特殊性を考慮に入れるべきである。

港湾荷役は、船舶の動静、積荷状況、荷役機械の処理能力等によって左右されるため波動性が極めて大きく、一日の荷役隻数ごとの日数をみると、境港海陸が昭和五八年度中(日曜、祝日を除く)に荷役作業が一隻だった日が七九日、二隻だった日が七八日、三隻だった日が六一日、四隻だった日が三一日、五隻だった日が九日あるなかで、全く荷役作業を行っていない日が四五日もある(乙四六)。四五日は、全荷役日数の一五パーセントにあたる。いかだ作業員は、全く船側作業のない日は場内作業等の作業に就くが、場内作業等の作業もない場合は、一日中草取り作業等をすることもある。逆に、一日四隻以上入港した日は、場内作業要員あるいは搬出作業要員が船側作業を応援することになる。

(五) 被控訴人の作業量について

被控訴人は、自らが行おうとする作業量は輸入原木量の約一五パーセントにすぎないから、大幅な供給量の増加をもたらすものではないと主張している。

しかしながら、いかだ運送事業免許には貨物取扱量の制約はないから、被控訴人が右主張量を超過していかだ運送事業を行うことは十分あり得るのであり、右主張を採用して供給量の増加を判断することは誤っている。いかだ運送事業免許申請の際に提出する事業計画書の年間取扱数量は、免許申請者の最小限度の処理可能数量を示すにすぎない(法六条、規則四条四項、一項二号ホ)。

(六) 境港における輸入原木のいかだ運送需要量について

法六条一項一号の審査に当たっては、近年の原木の輸入量(荷役量)の動向はもとより、将来的な輸入量まで展望したうえ、需給関係を総合的に審査する必要がある。

昭和五八年当時、境港における原木の輸入量は昭和五四年当時の七割強の輸入量しかない状況(乙四四)であり、輸出する側では、森林資源の枯渇、環境保護、製品輸出などを理由とする輸出規制が進められているとともに、輸入する側の我が国でも、集合住宅や鉄筋・鉄骨などを使用する洋風住宅の普及、新建材の開発などによる全国的な木材需要の冷え込みで国内における木材需要の大幅な増加は将来的に期待できない状況にあったし(乙二)、山陰地方における他港の整備の結果それらの港でも原木が荷役されること等を考慮して、控訴人は境港の需要量が減少傾向にあると判断した。

事実、その後においても木材産出国の輸出規制等により全国的にも輸入原木量は減少し(乙九四)、境港の原木の輸入量も昭和五四年と比較すれば平成五年には四五万四〇〇〇立方メートル(六四パーセント)に、平成七年には三五万立方メートル(四九パーセント)にまで減少が続いている(乙九五)ことは、控訴人の、境港海陸の有する供給能力で十分対応できるとの判断が正当だったことを示している。

3  法六条一項三号(適切な事業計画)の審査について

輸入原木を船側から海中に投下する船内荷役と、これをいかだに組んで曳航するいかだ運送の両作業を別々に事業者が行う場合は、綿密な計画の下に作業方法、段取り等につき十分な打ち合わせをすることが必要であるところ、境港海陸と被控訴人とは利害が衝突し、険悪な対立関係があり、協議は期待できなかった。利害が衝突する二つの会社が右両作業を別々に行った場合には事故の発生も十分予想された。

4  法六条一項五号(経理的確実性)の審査について

被控訴人の経営の赤字の原因は場内作業等の料金の据え置きのみでなく、より構造的なものであることが明らかであるばかりか、含み資産の処分を行ない赤字の補填をしているにもかかわらず、設立当時から赤字状態が続いていることから、今後もその赤字体質は改善されないものと推認された。

二  被控訴人の主張

1  控訴人は、需給バランスについての「当該事業の開始により供給量が著しく過剰にならないこと」という法文を「供給不足が顕著にならない限りは新規免許を規制する」と解釈し、法の趣旨と乖離した独自の見解を押し付けている。

しかし、この控訴人の見解は昭和三四年港政第二〇三号通達(乙一の一、二)を機械的に適用しているものと解せられるところ、同通達は昭和三四年当時の過当競争状態を前提としたものであり、最近では逆に本件の境港のように一港一社の独占状態のところもあって、荷役が遅い、料金が高いといった弊害が発生しており、このような規制は憲法で保障された職業選択の自由、営業活動の自由(二二条)を侵すもので憲法違反の規制である。

法の趣旨は、「著しく過剰」にならない限りは免許を許可し、通常の競合状態で競合各社で公正な競争を行わせることにあるから、被控訴人に免許を与えることは法の趣旨に合致する。

本件訴訟の中心的争点は需給バランスである。被控訴人の本件申請に係る処理し得る貨物の年間取扱数量は九万六〇〇〇立方メートルで、これが参入したからといって著しく供給過剰にはならないし、かえって自由競争が行われることにより、これまでの「荷役が遅い」「料金が高い」といった独占の弊害が除去され、利用者のためにもなる。

2  以下、控訴人の主張する供給量の誤りについて述べる。

(一) 人員配置について

(1) 控訴人は、境港海陸は入港船三隻に対応できる人員を配置しており、その内訳は、いかだ運送作業については、船側作業につき、北洋材船一三名、南洋材船二二名であり、場内作業、搬出作業についても別途人員を配置していると主張する。

そして、証人清水正明は、三隻体制とは木材船のみならず、全ての海運貨物に対応する体制であること、貨物船の入港は波動性があり、一定していないので、三隻体制は固定的配置ではなく、いかだ運送作業員、船内荷役作業員、沿岸荷役作業員などが相互に応援し、その時に応じて配置を変動しながら作業を行っていること、境港海陸の作業員の登録は、陸上、自動車、倉庫、雑作業等の作業員が港湾運送事業で登録(届出)されていること、事務部門の要員も相当数港湾運送事業の要員として登録(届出)されていると証言している。

(2) ところで、昭和五八年度の境港の年間船舶積み卸し実績は七五万二四一四トン(甲九〇)であり、そのうち木材が四三万八〇〇〇トン(四九万六〇〇〇立方メートル、約五八パーセント)、雑貨が三一万四〇〇〇トン(約四二パーセント)であるから、三隻体制は四二パーセントの雑貨に対する荷役作業もしなければならず、作業員を対いかだ運送のみの要員として固定的に配置して常時三隻に対応するものとしていかだ運送を行うことはできない。したがって、年間一〇〇万立方メートルのいかだ運送供給量は誤った前提の数字であり、実際には供給不可能な数字である。

(3) 昭和五八年度労働者数及び稼働実績報告書(乙四二)によれば、いかだ運送の六七名の常用労働者が一万五〇二九日働いて(年間二二四日)四九万六〇〇〇立方メートルのいかだ運送をしたことになり、(一日当たり二二一四立方メートル)、これを三隻で割ると一隻当たりの処理能力は七三八立方メートルで、控訴人の主張する一三一九立方メートルもの処理能力はない。現実には一日当たり二二一四立方メートルで、仮に二五七日働いたとしても、作業量は年間五六万八三三五立方メートルである(別表(K―1))。

控訴人は、右の数字といかだ運送供給量年間一〇〇万立方メートルとの食い違いにつき、「前記一万五〇二九日には、作業員がいかだ運送以外の作業に従事していても、いかだ運送に従事したものとして計上しているから、前記報告書は境港海陸の一日当たりのいかだ運送能力を算出する基礎資料とはならない」と説明するが、まさにいかだ運送作業員として登録されている六七名が常時いかだ運送に従事しているのではない(また、そうでなければ雑貨を処理できない。)ことを示している。

さらに、倉庫、自動車等の陸上部門、事務部門の要員も港湾運送事業要員として届け出(登録し)て、水増しした人員にしている。

(4) 実際には境港海陸の社史(甲一二八)によると、平成五年一〇月現在の同社の機構及び人員配置図が明らかとなり、その内容は別表(K―2)のA表記載のとおりであり、一方米子労働基準監督署長回答(甲一三四)によると、同年の労災保険・雇用保険被保険者業種別人数が明らかとなり、その内容は同別表のB表記載のとおりであって、両表の内容はほぼ合致するものであるので、B表の項目にA表の数字を対応させると、同別表C表記載のとおりとなり、現業部門、作業課所属の九二名のみが港湾運送事業の労働者であり、事務部門やその他の現業部門所属の九〇名は港湾運送事業に携わっていないことになる。

もし、控訴人の主張するように、港湾運送事業の常用労働者が一七四名(乙四二)であれば、陸上部門の労働者全部と事務部門の一部が港湾運送事業に含まれていることになってしまう。真相は、港湾運送事業の届出(登録)人員には陸上部門及び事務部門の労働者が加算されているのである。

また、境港海陸の昭和五八年度の労働保険概算・確定保険料申告書(乙七〇の一ないし三)によれば、別表(K―3)記載のとおりであり、これによっても港湾運送事業の労災保険、雇用保険の被保険者の合計は一一三ないし一一四名であって、このことから、境港海陸の控訴人への届出(乙四二)及び回答(乙七一の二)が誤謬であることが明らかである。

境港海陸は、海運事業(港湾事業)と陸上部門等の両方の営業活動を行っており、前記社史によれば海運事業で九億七七〇〇万円、陸上部門等で八億九八〇〇万円の収入である。そして会社全体の収入の約半分を占める陸上部門等の収入は毎年一定している。このような陸上部門等の仕事は、海運事業の仕事のないときに作業するような事業ではなく、計画的、組織的、継続的に行われている事業活動であり、そのための要員も配置されていることは当然である。

(5) いかだ運送は、基本的に労働者の手作業と作業船、曳き船による荷役作業であり、その作業量は労働者数に比例し、料金は労働者数及び労働時間と合理的な範囲内の相関関係にある。この関係を検討したものがいかだ運送料金単価比較表(別表K―4)である。

これによれば、労働者一人当たりの売上高は南洋材が北洋材より二倍程度高額であり、場内作業が船側作業及び搬出作業に較べあまりにも低額である(場内作業は曳き船を使用しないが、ウインチ台船等の機械を使用しなければならないので、物件費は同じである。)が、これらの売上格差の合理的理由は考えられず、これは、境港海陸の料金体系が著しくいびつで、恣意的かつ差別的であるか、それとも中国運輸局長の主張するいかだ運送作業の配置労働者数が虚偽のものか、あるいはその双方であることを示している。

(二) 境港海陸が、自社の労働者のみではなく別会社のみなと作業株式会社(以下「みなと作業」という。)の従業員一四名の応援を得ていること、かなりの時間外労働をして積荷を処理していることは、境港海陸の供給量の不足を示している。さらに、冬の日本海の時化という天候状態で荷役できない日もあるから、二五七日全てで荷役することを前提とした計算は机上の空論である。

(三) 控訴人の主張する供給量の実績例なるものは、船側作業については一年のうちのたった一日だけの資料であり、たまたまその日は陸上部門の応援を得ていたのかもしれないから、これを二五七倍しても意味はないから、控訴人主張の裏付資料としての価値は低いし、場内作業、搬出作業に至ってはそのような能力を持っていると述べるだけで何の裏付けもない。

そのうえ、控訴人の主張する船側作業の実績についての問題点を指摘すると、提出資料は船内荷役の資料でいかだ運送の資料そのものではないから、日没等でいかだ運送が後日行われた可能性もあり、船内荷役は同一量のいかだ運送の実績を必ずしも示していないし、控訴人の選んだのは、特に船内荷役の効率の良い船であること等から、一年間を通じての船側作業の実績を示すものではない。

理由

一  被控訴人の事業目的及び控訴人の免許権限、被控訴人が昭和五九年八月一三日に本件申請をしたが控訴人が同六〇年七月二九日にこれを却下する旨の本件処分をなし、被控訴人が右却下を不服として運輸大臣に審査請求をしたこと並びに被控訴人が本件申請をなすに至った経緯については、原判決理由一、二(原判決二一頁一〇行目から二六頁五行目まで)のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決二二頁四行目の「四二」を「四一」と改める。)。

二  以下、本件処分の適法性について判断する。

1 本件処分が違法であるか否かは法六条一項に基づいて判断すべきであることはいうまでもないところであるが、その判断の時点は本件処分時をもってなすべきことであるところ、本件申請は昭和五九年八月一三日になされ本件処分は同六〇年七月二九日になされたのであるから、具体的な配置人員、貨物取扱量その他の数字及び境港海陸の業務態様などに関する判断資料としては昭和五八年度、同五九年度及び六〇年度の七月二九日までのそれが中心となる。

2  法六条一項一号について

(一)  次のとおり付加するほかは、原判決二六頁一〇行目から三二頁九行目までを引用する。

二六頁一〇行目の「第三八号証」の次に「第一二八号証、第一三三号証、」を一一行目の「一三号証」の次に「三八ないし四二号証、」を、同行の「乙第三〇号証」の前に「甲第一六六号証、」を、同じく後に「乙第九五号証、」を、二九頁三行目の「号証」の次に「右清水正明の証言により成立の認められる乙第七六号証」を、それぞれ加え、二七頁一行目の「及び同石黒節夫」を「、同石黒節夫、同景枝義美(当審)、同清水正明(当審)、」と改める。

(二) 前掲各証拠(原判決引用)によれば、境港海陸は、昭和五八年度には延べ三七六隻日(船舶一隻の荷役にかかった日数を乗じたものの総合計)の荷役日数で四九万六〇〇〇立方メートルのいかだ運送の実績があるので、一日一隻当たりでは一三一九立方メートルの実績となること、一年間の日数三六五日から日曜祝日及び法定有給休暇日数を差し引くと稼働日は二五七日であることからすれば、同社が一日三隻の入港に対応できる体制(いわゆる三隻体制)をとっておれば、年間一〇〇万立方メートル以上のいかだ運送が可能であることとなり、このことは昭和五九年度においても同様の計算によると年間供給能力は一一〇万立方メートルとなること、しかし右の年間の稼働可能日数に天候等による稼働不可能日が考慮されていないことから、控えめの認定のために乙第四二号証に基づいて算出できる昭和五八年度の年間稼働可能日数二二四日(別表(K―1)参照)を前提として計算しても昭和五八年の年間供給能力は八八万六〇〇〇立方メートル、昭和五九年のそれは九五万九〇〇〇立方メートルとなること(別表(G―1))、そして従来からの境港における荷役を行った輸入木材の推移(別表(G―2))及び次段認定の境港海陸の人員等の態勢からみて昭和六〇年度も同様の供給能力をもっていたものと認められる。

さらに、前掲乙第三八ないし四一号証及び証人清水の証言によると、境港海陸の人員配置は、昭和五八、五九及び六〇年度とも一般いかだ部門四二名及び単独いかだ部門二五名、両方合計六七名が配置されていたことが認められる(その詳細は別表(G―3)記載のとおりである。)。

証人間弓の証言、同清水の証言及びこれにより成立が認められる乙第七六号証及び成立に争いのない乙第一三、四二号証並びに弁論の全趣旨を総合すると、右三隻体制は南洋材船二隻、北洋材船一隻に対応することを前提としているところ、この体制を維持するための船側作業のための所要人数としては、南洋材で一隻当たり一一名、二隻合計二二名、北洋材で一三名の人数を要し、三隻合計三五名を必要とすること、これには前記の一般いかだ要員四二名のうち三五名が当たる体制となっていたこと、そのうえ、右船側作業に続く場内作業については一般いかだ要員七名及び単独いかだ要員一五名が配置され搬出作業については単独いかだ要員一〇名が配置されていて、これが各作業に当たることにより輸入木材運送の全作業について三隻体制が確保されることになっていたことが認められる。

そして、成立に争いのない乙第五一、五五及び六二号証の各一、二並びに証人清水の証言によると、控訴人の主張のとおり昭和五八年一二月一〇日に三隻体制が具体的に実施されたことが認められ、このことも右認定事実を推認できる資料といえる。また、証人清水の証言及び成立に争いのない乙第七七ないし九一号証の各一、二によると、被控訴人が本件処分の審査手続において提出した反論書(甲第三号証)において境港海陸のいかだ運送作業の処理能力が不足していると指摘する九事例中の五事例について実状調査した結果によると、指摘されるような処理能力不足は認められないばかりか、かえって一日一隻当たりいかだ実績は一一六三ないし二三〇〇立方メートルであり、控訴人が計算の基礎とする数字に近い実績数であることが認められる。

(三)  被控訴人は境港海陸の人員の配置が控訴人主張のように三隻体制が木材船のみならずすべての海運貨物に対応する体制であるというならば境港の年間船舶積み卸し実績の四二パーセントに当たる木材以外の雑貨にも対応しているはずであり、そうだとすると控訴人の三隻体制にそう人員配置に関する主張は誤った前提の数字である旨主張し、これに沿う証拠として甲第一三三号証(陳述書)及び証人景枝義美の証言があるが、この点について証人清水の証言中には本件申請に係る木材のいかだ運送に関する三隻体制は一般いかだ及び単独いかだの合計の人員により対応し、雑貨に対する対応ははしけ部門及び沿岸部門などいかだ要員以外の要員がこれに当たる旨の証言があり、この証言は前掲乙第三八ないし四一号証に照らして考えると合理性があり(別表(G―3)参照)、右被控訴人の主張及びこれに沿う前記証拠は採用しがたい。

(四)  被控訴人は乙第四二号証(労働者数及び稼働実績報告書昭和五八年度)に基づき常用労働者一日当たりの年間稼働日数二二四日から年間供給量を算出しているが(別表(K―1)参照)、前掲乙第九五号証、証人清水の証言並に弁論の全趣旨によると、昭和五八年度は境港における荷役を行った搬入木材は五二万四〇〇〇立方メートルとピーク時の七四パーセントに落ち込んでいたところ(別表(G―2))、このような木材の取扱量の減少に伴いいかだ運送用の労働者が他の業種の作業をなさなければならない実情があったこと、またこのような事情から乙第四二号証(昭和五八年度労働者数及び稼働実績報告書)の「いかだ運送」欄の「常用労働者稼働延人数(人日)」の項の数字一万五〇二九人日には実際にはいかだ運送以外の作業に従事した日が一部含まれていることが認められ、これらの事実を考慮にいれて考えると、被控訴人の主張は誤った数字から算出した誤った年間供給量を主張していることになる。ただし、当裁判所が前記境港海陸のいかだ運送の供給能力の算定に際して右の数字から算出した年間稼働日数二二四日をひとつの計算の基礎としたのは(二2(二))、右の数字がいかだ運送及びそれ以外の作業に従事した日の両方を含んでいて純粋にいかだ運送に関する年間稼働日数とは言い難いが、それが少なくともいかだ運送のために配置された労働者が昭和五八年度に稼働した日である点に着目して一応の控え目な推計する手段としたに過ぎない。

(五)  甲第一二八号証(境港海陸運送五〇年の歩み)は平成五年一〇月現在の人員を記載しているものであり、本件処分時である昭和六〇年七月二九日から約八年後の人員配置の状況の記載であることはその記載自体から明かであり、そのうえ、前掲乙第四〇、四一号証及び証人清水の証言によると、労働者数は本件処分時に一七四名であったが、平成二年九月ころから一四三名と減少したばかりでなく、右甲第一二八号証が右乙第四〇、四一号証(事業計画認可申請書)と異なる基準により記載されていることが認められるので、本件処分時における本件処分の適法性を検討するためには参考とならない。

さらに、被控訴人は、人員配置の人数につき、境港海陸の控訴人に対する届出の人数と境港海陸が労働基準監督署に申告した雇用保険、労災保険の被保険者数から推定される人数と異なっており、このことからみると前者の人数は過大な人数である疑いがある旨主張し、甲第一三三号証(陳述書)の陳述及び証人景枝の証言はこれに沿うものである。しかし、この点について証人清水は、保険の申請は作業実体に基づくものであり、港湾部門のうち、本船から一貫して行う作業については沿岸荷役業として、その後に付随して行う本船作業に引き続かない荷役作業については港湾貨物取扱事業として、それ以外の港湾貨物の取扱に関する作業については貨物取扱事業として区分して労働保険を掛けていたのであり、昭和五八年ころには前記のとおり境港におけるいかだ運送事業の実績は四九万六〇〇〇立方メートルであったのでこれにそう作業実態に基づいて右保険の申告をしていたから三隻体制の備えとしての届出の内容とは異なることがありうる旨の証言がある。この証言及び前記の昭和五八年ころの運送実績の推移に照らして考えると、本件において境港海陸における人員配置の人数をみるのは需要につき現在を越えた増加があった場合にどの程度それに対応しうるかという供給可能性の問題であるので、被控訴人の右主張及び前掲のこれに沿う内容の陳述及び証言は現実の問題に関することとして採用できない。

(六)  被控訴人はいかだ運送料金単価からみると境港海陸における控訴人の主張する配置労働者数に疑問がある旨主張し、甲第一三三号証(陳述書)の陳述及び証人景枝の証言はこれに沿うものである。この点につき証人清水の証言中には、年間一〇〇万立方メートルの木材輸入に対応できるだけの人数を事業計画上配置しているが、実際に入ってくる積荷は年間約五〇万立方メートルしかないのであるからいかだ運送の部門に配置されている人員につき仕事がないからといって遊ばせておくようなことはせず、手の空いているときは、陸上その他の部門の手伝いに行かせ、逆に一日に四隻以上入港するなど港湾部門が忙しいときは他の部所から応援を得て荷役作業をさせていた旨の証言があり、この証言は企業経営の常識からみて右証言内容に格別不合理な点はない。前記のとおり、本件を考える上で問題なのは供給可能運送能力であり、もし年間一〇〇万立方メートルの木材が輸入されたとして、それを処理するだけの運送能力を有していたかどうかであるから、実際にどれだけの量を運び、どれだけの利益を上げたかは直接には関係がなく、このような実際上の配置労働者の作業の実態のもとでのいかだ運送料金単価から事業計画上の労働者の配置数を論難することは疑問である。

(七)  被控訴人は境港海陸の運送実績として控訴人の主張するところは船側から貯木場までに限定された作業に関するのであるが、いかだ運送にはそれに続く手間のかかる場内作業として様々な作業があるのにこれを考慮していない憾みがあり、また同社においては時間外労働が六六パーセントにのぼるのであるから、労働者が不足していることを示している旨主張する(引用に係る原判決一七頁以下の摘示)。しかし、前記認定の境港海陸の供給能力は三隻体制のための人員配置など船側、場内及び搬出作業にわたり検討した結果であることは前記認定のとおりであり、さらに時間外労働については証人清水の証言中には港湾荷役は停泊時間からくる制約、積荷の積載量、船舶据付荷役機械の能力不足、顧客からの要望などのため時間外労働を余儀なくされることがあり、労働者不足のために時間外労働をしているものではない旨の証言があり、この証言に前記の配置人員、作業実態に関する認定事実を併せて考えると右被控訴人の主張は採用しがたい。

(八)  みなと作業が境港海陸の作業をしていた点について、証人清水の証言中に、みなと作業は境港海陸がストライキ対策等のために労働者確保を目的として昭和四〇年代に一〇〇パーセント出資して設立した、いわゆる子会社であり、本件処分時にも境港海陸はみなと作業と定期用船契約を結んで同社に作業をさせていたが、それは同社の経営維持に資するために行っていたものであり、境港海陸に供給能力がないから作業を依頼したものではない旨の証言があり、この証言に照らして考えると、右みなと作業の作業をもって境港海陸に供給能力がないとは推認できない。

(九)  控訴人の掲げる昭和五八年一二月一〇日における三隻体制の具体例は、なるほど被控訴人主張のとおりに一日だけの資料であるのみならず、甲第一〇六ないし一一三号証(枝番がある。第一〇六号証の二及び同三の中段以外の記載事項は成立に争いがなく、同号証のその余の記載、その他の証拠の成立は弁論の全趣旨により認める。)によると曳航船としてみなと作業の船も用いられて一隻でなく二隻によって作業されたのではないかという疑念が生じるのもあながち否定できないが、みなと作業の船舶の使用は前記のとおり船舶又は労働者不足によるものではないとの証人清水の証言を考慮にいれて考えると、境港海陸が一日とはいえ右の日に三隻体制を組んで対応することができたことは一つの事例として考慮すべきことであり、この事例に基づいて三隻体制の可能性を推認することは背理ではない。

さらに、ピオネール・ユージノサハリンスカ号の事例についてみるに、甲第一〇六号証(枝番がある。)及び乙第六二号証(枝番があり、成立に争いがない。)によると少なくとも別表(G―4)記載の事実が認められ、かつ各事項を証する証拠は同記載のとおりであるところ、この点について証人景枝の証言中には、甲第一〇六号証から、一二月七日被控訴人へ二四五七立方メートル寄託され、同日から同月八日までで被控訴人への寄託分は取卸されたが、搬入完了は同月九日であることが判明するとの証言がある。この証言は被控訴人への寄託分が先に取卸されたことを前提としているが、右書証からはその事実は不明である。すなわち、上記の書証からは境港海陸への寄託分も同月七、八日に取卸され、また被控訴人寄託分も一部同月八日又は九日に取卸された可能性を否定し難く、そうだとすると取卸された木材がその日の内に被控訴人の場内に搬入されただけでなく、境港海陸の場内にも搬入された可能性があるとも考えられるので、甲第一〇六号証及び右証人景枝の証言部分は前記認定を左右するに足りる証拠とはなしえない。仮に右証人景枝の証言のとおりであるとしても、同証言も必ずしも取卸の日に搬入が完了するのではなく翌日にずれ込むことがあるとの趣旨であると解され、証人清水の証言中にも日没以後のいかだ曵航はできない定めがあるため近くの貯木場に仮係留して翌朝まわしにすることもある旨の証言があって、これらの証言に照らして考えると一二月九日の搬入量のうち実質的に前日船側作業が完了したと同然のものが含まれている可能性がある。

(一〇)  以上によれば、境港海陸は、三隻体制に対応できるだけの人数を配置していたと判断するのが相当であり、そうであれば、現在の体制で年間八八万立方メートルないし一〇〇万立方メートルの木材輸入に対応できるのであるから、これ以上の免許を与えることは需要に対し著しく供給過剰になるとした本件処分に裁量権の逸脱があるとまではいえない。

3  需給関係の要件が満たされない以上、その余の点につき判断するまでもなく、控訴人が本件申請を却下した本件処分は適法である。

三  よって、被控訴人の請求を認容した原判決を取り消して本訴請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官東孝行 裁判官西垣昭利 裁判官古川行男は転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官東孝行)

別表  被控訴人主張関係<省略>

別表  裁判所理由関係<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例