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広島高等裁判所 平成7年(ネ)400号 判決 1997年12月26日

名古屋市千種区丸山町二丁目二二番地

控訴人

株式会社キョクトー

右代表者代表取締役

草野和義

右訴訟代理人弁護士

塩見渉

右輔佐人弁理士

松波秀樹

広島市安佐南区川内二丁目四一-二

被控訴人

島田利晃

右訴訟代理人弁護士

小松陽一郎

右訴訟復代理人弁護士

池下利男

村田秀人

右輔佐人弁理士

古田剛啓

主文

一  原判決中、控訴人の敗訴部分を取り消す。

二  被控訴人の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文と同旨。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決四枚目表七行目の項目の「6」を「6(一)(主位的主張)」と改め、同八行目の「一個一万円」の前に「イ号製品を」を、同一一行目の「株式会社アイエス」の後に「(以下「アイエス」という。)」をそれぞれ加え、同裏四行目の次に行を改めて次のとおり加える。

(二)(予備的主張)仮に、被控訴人自らが本件実用新案権を実施していないとしても、被控訴人は、本件実用新案権の権利者としてその通常実施料に相当する一七三七万八〇〇〇円の損害を被ったものであり、実用新案法二九条二項により右損害の賠償を請求する。

二  同四枚目裏五行目の冒頭に項目の「(三)」を、同九行目の冒頭に項目の「(四)」をそれぞれ加える。

三  同五枚目裏一一行目の「同6」を「同6(一)」と改める。

四  同六枚目表二行目の「認め」から同三行目の終わりまでを「認めるが、その余の事実は否認する。同(二)、(三)の主張は争う。同(四)の事実は知らない。と、同四行目の「株式会社アイエス」を「アイエス」とそれぞれ改め、同七行目の「認めるとしても、」の後に「その損害は、」を加え、同行目から同八行目にかけて「右株式会社アイエス」とあるのを「アイエス」と改め、同裏三行目の「カッター」の後に「(電極研磨具、以下、電極研磨具を単に「カッター」ともいう。)」を、同行目の「株式会社ヒラタ」の後に「(旧商号平田プレス工業株式会社、以下「平田プレス」という。)」をそれぞれ加え、同裏六行目の「現在に至るものであって、」を「現在に至っている。このように、」と改め、同八行目の「事業をしていたもので」の後に「あるから」を加え、同一〇行目の「有する」を「有している」と改め、同行目の次に行を改めて次のとおり加える。

また、仮に控訴人が平田プレスに昭和六二年一一月ころに納品した凹溝付きカッターが試作品であるとしても、右試作品の納品は、凹溝付きカッターの製造販売にかかる事業の準備に該当する。したがって、控訴人は、右凹溝付きカッターの先使用による通常実施権を有している。

五  同七枚目表一行目の末尾に「控訴人が、先使用を立証するために提出した図面(乙一、二)は信用性がなく、控訴人の先使用を直接示す書証等の証拠もない。また、控訴人は、昭和六三年三月二二日に凹溝付きカッターについて実用新案登録の出願をし、本件考案と同一であるとの理由で拒絶されたが、一般に、実用新案登録の出願は自ら実施した後に出願しても新規性喪失を理由に登録を受けられないため、出願前には出願人において実施していなかったことが推定される。このような観点からも控訴人の先使用の主張は理由がない。」を加える。

第三  証拠

本件記録中の原審及び当審の証拠関係目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因1、2及び4の各事実は当事者間に争いがなく、同3の事実は証拠(甲三、乙三〇、証人森谷憲弘(原審)、被控訴人(原審))及び弁論の全趣旨により認められる。

二  同5の事実(イ号製品の本件考案の構成要件該当性)についての認定判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決七枚目表九行目の初めから同八枚目表八行目の終わりまでに認定し説示するとおりであるから、これを引用する。

1  原判決七枚目裏一行目の「イ号製品は」から同行目の「切削刃は」までを「本件考案においては切削刃の形状が扇形状であるのに対し、イ号製品の切削刃の形状は原判決別紙イ号目録二(一)のように」と、同二行目の「あるが、」を「ある。しかしながら、」と、同三行目の「しており、そして」を「しているうえ」と、同五行目から同六行目にかけて「原本の存在及び成立に争いのない」を「前掲」とそれぞれ改め、同一一行目の「被告も」の後に「成立に争いのない」を加える。

2  同八枚目表二行目の「と述べて」を「旨を述べて」と、同四行目の「そして」から同五行目の「であり」までを「また、本件実用新案が全部公知であると認めるに足りる証拠はなく」とそれぞれ改める。

三  先使用の抗弁について

1  証拠(甲二、三、五ないし七、八の1ないし4、一〇ないし一四、一五の1、2、一八の1、2、一九の1ないし4、乙一、二(乙一の原本の存在及び成立、乙二の成立の認定は後記のとおり。)、三、五、二九の1ないし4、三〇ないし三二、三五ないし三九、四〇の1、2、検甲一、二の1、2、検乙一、証人森谷憲弘(原審)、同橋本道明(原審)、同太田光哉(当審)、被控訴人(原審)、控訴人代表者(原審及び当審))により認められる事実は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決八枚目裏六行目の初めから同一一枚目表四行目の終わりまでに認定するとおりであるから、これを引用する。

(一)  原判決八枚目裏六行目の「チップドレッサー」の後に「(スポット溶接用の電極研磨装置)の製造販売」を加え、同七行目から同八行目にかけて「株式会社アイエス(以下「アイエス」という。)」とあるのを「アイエス」と改め、同一〇行目の「昭和六〇年一二月二八日、」の後に「考案の名称をスポット溶接機の電極研磨装置とする」を加える。

(二)  同九枚目表三行目から同四行目にかけて「平田プレス工業株式会社(以下「平田プレス」という。)」とあるのを「、そのころ、平田プレスの亀山製作所(工場)」と、同六行目の「意匠出願をし」を「考案の名称をスポット溶接棒削取機とする実用新案登録の出願をし(後に意匠出願に切り替えた。)」とそれぞれ改め、同七行目の「であること」を削り、同九行目の「原告は」の前に「控訴人は、溶接関連の制御機器、工作機器の開発製造、仕入れ及び販売等を業とする会社であるところ、」を加え、同裏四行目の初めから同七行目の終わりまでを次のとおり改める。

(二)  平田プレスは、自動車車体等の製造を業とする会社であり、その亀山製作所は、主に本田技研工業株式会社に納入する自動車車体の製造を行っていた。右工場は、昭和六二年三月に、ホンダシビックの車体の製造ラインを三菱電機株式会社に請け負わせて立ち上げたが、その際、前記(一)のとおり、右製造ラインのスポット溶接の電極チップの研磨具としてアイエス製の右電動ドレッサー及びこれに付属するカッター二八台がラインと一括して納入された。ところが、同年六月ころから、右カッターが切れにくいという問題が生じたため、工場内の通称保全グループと呼ばれる溶接設備の修理・改善を担当するグループ(メンバーは、生産技術課長森谷憲弘(以下「森谷」という。)、太田光哉(以下「太田」という。)、佐久間ら数名の者)が、その改善を検討することになった。

そして、右グループは、同年六月ころ、被控訴人に対してカッターの硬度の検討等を依頼し、また、同年七月ころ、控訴人の草野にも同様の依頼をした。控訴人は、右依頼に基づき、同年七月七日ころ、渡辺精密工業株式会社に製作させたカッター(凹溝のないもの)一〇個を納入し、右グループは、これを試験するなどした。同時に、控訴人は、右納入にかかる凹溝のないカッターの図面(甲二)を作成して平田プレスに提出した。また、控訴人は、同年八月、九月にも、同様に凹溝のないカッター合計三〇個を納入した。右グループは、カッターの切削刃の形状についても検討し、納入にかかるカッターをエアリューターなどの工具を用いて手作業で削るなどして、切削刃の形状を変えてみたり、また、切削刃の頂面に溝を掘るなどの工夫をして、試験をするなどした。そして、同年九月ころまでには、右グループ内では、切削刃の頂面に凹溝を掘るのが有効であるとの認識が固まりつつあった。

(三)  同九枚目裏八行目の冒頭に項目の「(三)」を加え、同行目の「外一名」を「及び太田」と、同一一行目の「生産技術課長」から同一〇枚目表一行目の「という。)」までを「森谷」とそれぞれ改める。

(四)  同一〇枚目表三行目の「これを」を「溝の加工は、平田プレスで試作することとして、このための溝のないカッターを」と改め、同五行目の「これに」の後に「凹溝を切削し、」を、同七行目の「東海溶材」の後に「株式会社」をそれぞれ加え、同裏一行目の「二三日」を「二一日」と、同四行目の「二八日」を「二三日」とそれぞれ改め、同五行目の「そして」から同六行目の終わりまでを削り、同七行目の初めから同行目の終わりまでを次のとおり改める。

(四)  一方、平田プレスの太田は、同年一〇月ころ、控訴人の草野に対し、平田プレスで試作した凹溝付きカッターを手渡し、これを見本にしてカッターを製作するように要請した。控訴人は、橋周機器製作所にこれを見本として示し、同様のカッターを製作するように依頼した。右製作所は、これと同様の凹溝付きカッターをSK4という材質の鋼材で製作し、控訴入は、同年一一月一〇日、平田プレスに、右凹溝付きカッター五個を納入した。平田プレスの前記グループは、これを溶接機のラインで試用して、その切削刃の形状や硬度等を検討し、切れ味や耐久性の試験を行った。控訴人は、右納入に際して、従前の図面(甲二)を基に右納入にかかる凹溝付きカッターの図面(乙一)を作成して平田プレスの購買部門に提出した。また、控訴人は、昭和六二年中に、橋周機器製作所に、右と同様の凹溝付きカッターのほか、大きさや形状の異なる電極チップに対応する凹溝付きカッターの製作や、図面(乙二)を示してハンドドレッサー用の六角形の形状をした凹溝付きカッターの製作を依頼し、右製作所は、そのころ数回にわたり、同様に相当数を製作して控訴人に納入した。

平田プレスは、遅くとも昭和六三年初めころには、凹溝付きカッターは実用に耐え得るものとして、控訴人からさらに凹溝付きカッターを買い入れ、既に設置された凹溝のないカッターをこれと交換して使用し、控訴人は、平田プレスに対し、その後も、凹溝付きカッターを継続的に販売してきた。

(五)  同一〇枚目裏八行目の項目の「(四)」を「(五)」と、同行目の「右検討」を「前記(三)の平田プレスとの検討」とそれぞれ改め、同九行目の「をした。」の後に「しかし、右出願に際し、被控訴人は、平田プレスの了解を得たり、その旨の通知をしたりすることはなかった。一方、平田プレスは、そのころ、電極チップの形状を異にする新たな溶接機のラインの増設を計画していた。」を加える。

(六)  同一一枚目表一行目の「原告は」を「アイエスは」と、同三行目の「その後」から同行目の「同社に」までを「その後は平田プレスからの注文がなく、アイエスが平田プレスに」と、同四行目の「なかった」を「なく、被控訴人の右出願以降、凹溝付きカッターを納入したこともない」とそれぞれ改め、同行目の次に行を改めて次のとおり加える。

(六)  控訴人は、昭和六三年三月二二日、凹溝付きカッターについて、考案の名称をスポット溶接のチップ研磨用カッターとする実用新案登録の出願をした。控訴人は、右出願に際し、平田プレスの了解を得た。

2  ところで、控訴人は、昭和六二年一一月七日から本件実用新案権の出願以前において、平田プレス以外にもケミカルジャパン株式会社をはじめ数社に凹溝付きカッターを販売してきたと主張し、控訴人代表者はその旨供述し(原審及び当審)、これについての納品伝票を書証(乙四、六ないし二八)として提出する。しかしながら、右各納品伝票の記載からでは、これにかかるカッターが凹溝付きのものであったのか否かを特定することはできない。控訴人代表者は、右各伝票に「CC」の型番が付されているのが凹溝付きのものであるとか、ラチェット式とあるのが凹溝付きのものであると供述する(原審及び当審)が、右供述によつても「CC」の型番が付されたもの全てが凹溝付きであつたというものではないし、また、「CC」の型番の付された株式会社大広に納入されたカッター(伝票は乙一六(甲一三と同じ。))については、同社の作成にかかる、右カッターは凹溝付きではなかった旨の証明書と題する文書(甲一四)が提出されているが、控訴人からこれについて有効な反証は提出されていない。さらに、他に、「CC」の型番の付されたものやラチェット式のものが全て凹溝付きであることを客観的に示す証拠は提出されていないことなどを総合すると、控訴人が本件実用新案権の出願以前において平田プレス以外にも凹溝付きカッターを販売してきたことを認めるに足りず、控訴人の右主張は採用できない。

3  前記1の認定事実によると、被控訴人は、平田プレスの通称保全グループの発案による凹溝付きカッターの試験等に取引業者として協力し、右発案を基に本件実用新案権にかかる凹溝付きカッターを考案し、昭和六三年二月五日に本件実用新案権の出願をしたが、一方、控訴人においては、同様に平田プレスの取引業者として、右保全グループの凹溝付きカッターの試験等に協力し、昭和六二年一一月一〇日、右グループから交付された手作りの見本を基に凹溝付きカッター五個を橋周機器製作所に製作させて平田プレスに納入し、また、同年中に、橋周機器製作所に、右平田プレスに納入されたものと同様のカッターのほか、大きさや形状の異なる凹溝付きカッターの製作を発注し、相当数を製作させていたのであり、右平田プレスに納入された五個の凹溝付きカッターが、納入の段階では、実用化に向けてさらに耐久性等の試験を要するいわば試作品の域を出ないものであったとしても、その後、その実用化に向けてこれに大幅な改良が加えられた形跡はなく、その後の事実経過(前記1(四))と併せると、被控訴人の本件実用新案権の出願時においては、控訴人は、凹溝付きカッターの製造販売にかかる事業の準備をしていたものと認めるのが相当である。

4  そうすると、控訴人は、本件実用新案権について先使用による通常実施権を有するものというべきであり、控訴人の主張にかかる抗弁は理由がある。

四  以上の次第で、被控訴人の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから失当としていずれもこれを棄却すべきであり、原判決は右と異なる限度で相当でない。

よって、原判決中、控訴人の敗訴部分を取り消したうえ、被控訴人の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大塚一郎 裁判官 金子順一 裁判官 亀田廣美)

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