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広島高等裁判所 平成9年(ネ)436号 判決 1998年9月22日

控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)

甲野春子

外二名

右三名訴訟代理人弁護士

間所了

中島憲

被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)

野邉信義

右訴訟代理人弁護士

大脇通孝

主文

一  原判決中、控訴人甲野太郎に関する部分を次のとおり変更する。

1  被控訴人は控訴人甲野太郎に対し、金二七万二〇〇〇円及びこれに対する平成五年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人甲野太郎のその余の請求を棄却する。

二  控訴人甲野春子及び控訴人甲野夏子の各控訴並びに本件附帯控訴をいずれも棄却する。

三  控訴人甲野太郎にかかる訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを一〇分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人甲野太郎の負担とし、控訴人甲野春子及び控訴人甲野夏子の各控訴にかかる控訴費用はそれぞれ各控訴人の負担とし、附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人は控訴人甲野春子に対し、一一〇〇万円及びこれに対する平成五年七月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人は控訴人甲野太郎に対し、三四五万二〇〇〇円及びこれに対する平成五年七月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人は控訴人甲野夏子に対し、二二〇万円及びこれに対する平成五年七月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  附帯控訴の趣旨

原判決中、被控訴人の敗訴部分を取り消す。

控訴人甲野春子、同甲野太郎の右取消しにかかる部分の請求をいずれも棄却する。

第二  事案の概要

一  争いのない事実等

争いのない事実及び証拠により容易に認定される事実(証拠を摘示したもののほかは、争いのない事実である。)は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決の「第二 事案の概要」と題する部分に記載するとおりであるから、これを引用する。

1  原判決四頁四行目の冒頭に項目の「1」を、同九行目の冒頭に項目の「2」を、同一一行目の「全身性エリテマトーデス」の後に「(医学上の略称・SLE、以下「SLE」という。)」をそれぞれ加える。

2  同五頁四行目の「そのため」を「九月ころには」と、同行目の「症状は」を「症状が」とそれぞれ改め、同行目の「悪化し、」の後に「このため、」を、同五行目の「残った」の後に「(証人瀬戸口みち子(原審)、控訴人本人甲野春子(原審)、同甲野夏子(原審))」を、同六行目の冒頭に項目の「3」をそれぞれ加え、同行目の「本件は」を「控訴人らは被控訴人に対し」と改め、同八行目から同九行目にかけての「原告らが被告に対して、」を削り、同九行目から同一〇行目にかけての「損害賠償を求めた事案である」を「損害賠償として、控訴人春子につき一一〇〇万円、控訴人太郎につき三四五万二〇〇〇円、控訴人夏子につき二二〇万円と、右各金員に対する不法行為時である平成五年七月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める訴えを広島地方裁判所に提起した(記録上明らかである。)」と改める。

二  争点

争点は、次のとおり改めるほかは、原判決の「第三 争点」と題する部分に記載するとおりであるから、これを引用する。

原判決六頁一行目の「一」を「1」と、同二行目の「二」を「2」と、同三行目の「三」を「3」とそれぞれ改める。

三  争点についての当事者の主張

(控訴人らの主張)

控訴人らの主張は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の六頁六行目から同一一頁四行目までに記載するとおりであるから、これを引用する。

1 原判決六頁六行目の「争点一」を「争点1」と改め、同七行目の「被告は、」の後に「神霊療法では膠原病のような難病を治癒させることは不可能であり、控訴人春子に病院での治療を受けさせなければ重大な結果になることが分かっていたにもかかわらず、」を、同八行目の「ために、」の後に「控訴人春子の膠原病は被控訴人の神霊療法でしか治せないと虚偽の事実を申し向け、控訴人春子をその旨誤信させ、このため、七月中旬から一〇月初旬までの間、」を、同一〇行目の後に行を改めて「仮に、被控訴人自身において、控訴人らに金銭の支払を求めなかったとしても、被控訴人はみち子に指示をするなどして、祈祷代やワンダー水代の支払を要求し、これを受領してきたのであるから、詐欺による不法行為に該当する。」をそれぞれ加え、同一一行目の「争点二」を「争点2」と改める。

2 同七頁九行目の「時点」を「七月下旬」と改め、同一一行目の「いうべき」の前に「と」を加える。

3 同八頁四行目の「争点三」を「争点3」と改める。

4 同九頁七行目の「設置し、」の後に「六月二六日、」を、同行目の「その代金」の後に「として金二五万円」をそれぞれ加える。

5 同一〇頁四行目の「訪れ、」の後に「九月二四日、」を加える。

(被控訴人の主張)

1 控訴人らの争点1の主張は争う。被控訴人が、控訴人春子の病院での治療を否定してこれを受けさせなかったとか、被控訴人の神霊療法だけを受けるように申し向けたという事実はない。被控訴人の神霊療法により、控訴人春子の病状を悪化させたことはないし、控訴人春子が病院での治療を受けなかったとしても、それは控訴人らの意思と判断によるものであり、そのために病状が悪化したとしても、被控訴人に責任はない。

2 控訴人らの争点2の主張は争う。被控訴人が控訴人春子に行った神霊療法の内容は、祈祷行為であり、診療行為ではないから、被控訴人には控訴人らの主張する保護義務は生じない。また、被控訴人の神霊療法の行為と控訴人春子が病院に行かなかったこととの間には、相当因果関係はない。

3 控訴人らの争点3の主張のうち、(二)(3)の控訴人太郎が被控訴人に、八月五日、ワンダー水の代金として一四万円を支払ったこと、及び(4)の控訴人太郎が被控訴人に、九月二四日、出張費として一〇万円を支払ったことは認めるが、その余の主張は争う。

第三  当裁判所の判断

一  前提事実

証拠により認定した前提事実は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決の一一頁一一行目から同二七頁五行目までに記載するとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一一頁一一行目の「発症」の後に「及びその診療状況」を加える。

2  同一二頁一行目の冒頭に項目の「(一)」を、同三行目の「原告春子は、」の後に「三月四日、急性腎不全として医療法人広和会福馬外科病院に緊急入院し、」をそれぞれ加え、同行目の「三月」を「同月」と、同四行目の「全身性」から同行目の「という。)」までを「SLE」とそれぞれ改め、同六行目の「であり、」の後に「体重は61.4キログラムであった。控訴人春子は、」を、同一〇行目の「時点では」の後に「、いったん、」をそれぞれ加え、同行目の「あったが」を「あり」と改め、同一一行目の「受けた」の後に「。そして、控訴人春子に、同月二九日の通院時に、尿蛋白の出現が確認され、七月一三日の通院時に、さらに下肢の浮腫が認められたため、腎臓病の再燃が疑われ、広大病院に入院予約の手続がとられた。しかし、控訴人春子は、右予約日である八月三日に、広大病院に連絡を取ることなく受診しなかった。このため、広大病院の担当医師は、同日、控訴人らの自宅に電話をしたところ、控訴人太郎が、控訴人春子は田舎に帰っている旨返答した。このため、担当医師は来週受診するように伝え、その後、再度電話で、同様に受診を要請したが、そのころ、控訴人春子は、広大病院を受診しなかった」を、同行目の「一八」の後に「、控訴人本人甲野太郎(原審)」をそれぞれ加え、同行目の後に行を改めて次のとおり加える。

(二) SLEは、自己免疫疾患である膠原病の一種であり、強い全身症状を伴う原因不明の難病である。根本的な治療法はなく、多くは慢性の経過をたどるが、症状を抑えるには薬物療法が必須であり、また、食事に気を付けるなどの日常生活上の注意を十分に配ることにより、健康人と同様の生活をすることが可能な病気である(甲七、一九)。

3  同一三頁四行目の末尾に「みち子は、子供のころから心臓が悪く、平成二年二月には、僧帽弁閉鎖不全症により第一種身体障害者の認定を受けており、病院で治療を受ける傍ら、平成元年ころから、被控訴人の信者となり、神霊療法を受けるなどしていた。」を加える。

4  同一四頁一行目の「証人」の前に「乙一、四、」を、同一〇行目の「選び出した」の後に「(実際には、右薬剤は胃腸薬であった。)」をそれぞれ加え、同一一行目の「明示的には」を削る。

5  同一五頁一一行目の「被告本人」の前に「控訴人本人甲野春子(原審)、同甲野太郎(原審)、同甲野夏子(原審)、」を加える。

6  同一六頁一行目から同四行目までを削り、同五行目の「(六)」を「(五)」と改め、同八行目の「行った」の後に「が、この時点では、広大病院の次回の診療日である八月三日の診療を受けるつもりであった」を加える。

7  同一九頁九行目の後に行を改めて「また、控訴人春子は、一日にコップで五杯程度、ワンダー水を通常の水で割ったものを飲んでいた(控訴人本人甲野春子(原審)、同甲野夏子(原審))。」を加える。

8  同二〇頁七行目の後に行を改めて次のとおり加える。

(五) 一方、控訴人春子は、鹿児島に赴いて間もなく七月一六日ころから、吐き気、嘔吐が毎日続くようになり、同月二六日ころには、唇がふくれ、顔や背中に斑点ができており、八月一日ころには、腹部膨満、下痢の症状も現れ、同月二日ころからは、それまで服用していた広大病院から投与された薬剤を服用しても戻すような状態になった。

その間、被控訴人の勧めもあって、七月二〇日、控訴人春子は、みち子に付き添われて浜田康治内科に赴き、SLEであるとして、点滴を受けるなどの診療を受けたが、このほかは、病院での診療を受けなかった(甲二、一六、証人瀬戸口みち子(原審)、控訴人本人甲野春子(原審)、同甲野夏子(原審))。

9  同二〇頁八行目の「八月」の前に「七月下旬ころ、控訴人春子は右(五)のように顔や背中に斑点ができたが、被控訴人は、控訴人春子の心を導くつもりで、控訴人春子及び控訴人夏子に対し、この斑点は好転反応であると述べ、また、みち子からの斑点のあるところにワンダー水を塗布したらどうかとの質問に対し、ワンダー水を塗布すれば早く良くなる旨を述べた。そこで、控訴人春子は、斑点のあるところにワンダー水を塗布するなどした。また、」を加える。

10  同二一頁一行目の「甲野春子」の後に「、被控訴人本人(原審)」を加え、同二行目から同五行目までを削り、同六行目の「(八)」を「(七)」と改め、同八行目から同一一行目までを削る。

11  同二二頁一行目の「(一〇)」を「(八)」と改め、同三行目の「しなかった。」の後に「その一方で、みち子は控訴人夏子に、ワンダー水が薬に勝っている旨を述べた。」を、同四行目の「思い、」の後に「広大病院から投与されているステロイド剤の服用を急に止めるといわゆるリバウンドが生じ身体に危険な状況になることを知っていたが、」をそれぞれ加え、同六行目の「(一一)」を「(九)」と改める。

12  同二三頁三行目の「被告は」の後に「、控訴人春子のために念じる遠隔治療を行うとともに、」を、同四行目の末尾に「その相談内容は、控訴人春子の腹部が膨満し、このため圧迫痛があるなどという控訴人春子の体調に関するものであり、これに対し、被控訴人は、この状態に耐えてワンダー水を飲むように指導し、また、礼拝の仕方や複式呼吸をするように指導するなどした。また、右相談の過程で、被控訴人は、控訴人春子が広島に帰った後も病院での治療を受けていないことを知っていた。」を、同五行目の「体調は、」の後に「広島に帰った後も、」をそれぞれ加え、同六行目の「体調」を「状態」と改め、同行目の「甲野春子」の後に「、被控訴人本人(原審)」を加える。

二  争点についての判断

1  争点1(詐欺による不法行為)について

争点1についての判断は、次のとおり付加、削除するほかは、原判決の二七頁八行目から同二八頁三行目までに記載するとおりであるから、これを引用する。

(一) 原判決二七頁八行目の項目の「(一)」を削る。

(二) 同二八頁一行目の後に行を改めて次のとおり加える。

控訴人らは、被控訴人はみち子を介して金銭の支払を要求したと主張するが、本件全証拠によるも、被控訴人がみち子に対し、控訴人らに金銭を支払わせるように指示をしたとか、これを依頼したと認めるに足りない。

また、控訴人らは、ワンダー水代が一リットル当たり四万円と高額である点を問題とするが、本件各証拠を検討しても、その水の仕入先及びその購入価格は必ずしも明らかではないものの、被控訴人がワンダー水の販売代金相当額を得るために控訴人春子に神霊療法を施したとか、これにより右代金相当額を騙取したとまでは認めるに足りない。

2  争点2(保護義務違反)について

(一) 控訴人らは、控訴人春子は、被控訴人の勧誘により、被控訴人のもとで神霊療法を受けていたのであるから、被控訴人には先行行為に基づく作為義務があったと主張する。

(二)  医学が高度に進歩した今日においては、おおよそ疾病は、医学的療法によってその治癒が図られるべきものであって、加持祈祷などの呪術を主体とする神霊療法等の心霊術によって疾病が除去し得るとは今日の一般常識からはとうてい考えられないところである。とはいえ、疾病は、これを病んでいる者の心の持ち方次第で、治癒することもあれば、悪化することもあり得るのであり、心霊術は、心身を病んでいる者に心の平安を与え、健康回復への意欲を持たせるものである限り、医学的療法と相容れないものではない。しかしながら、心霊術が右の限度を超え、その術者の行為、言動が被術者において適正な医療行為を受けることを妨げ、その病状悪化を招くに至った場合には、術者の右行為、言動はもはや社会的に許容される限度を超える違法なものであって、被術者に対する不法行為が成立し得ると解される。このことは、術者の行為、言動が被術者において適正な医療行為を受けることを積極的に妨げるものではないとしても、被術者が術者の施す心霊術に深く傾倒する余り、自ら適正な医療行為を受けることを怠り、このために、病状の悪化が見られる場合においても同様に解すべきであり、この場合、術者は被術者に対し、条理上、心霊術はそれとして受ける一方で、適正な医療行為を受けることをおろそかにすべきでないことを助言し指導すべき法的義務を負うのであり、術者がこれを怠り、被術者の病状の一層の悪化を招いた場合には、術者について不作為による不法行為が成立すると解するのが相当である。

(三) 本件についてこれをみるに、控訴人春子が罹患していた疾病は膠原病の一種であるSLEという強い全身症状を伴う難病であり、根本的な治療方法はないものの、症状を抑えるには薬物療法が必須であったところ、被控訴人は、控訴人春子に神霊療法を施すに当たり、控訴人春子が罹患している疾病が悪化すると生命にもかかわる難病であること及びその治療のために控訴人春子が広大病院に通院し薬剤を服用していたことを認識していたこと、また、被控訴人は、八月初旬以降、神霊療法を継続する過程で、控訴人春子の症状が悪化して投与された薬剤も服用できなくなったことを、その当時、控訴人夏子から告げられて認識しており、同月一四日に、控訴人春子が広島に帰る時点においても、控訴人春子の腹部は腹水貯留のために膨脹していたことを認識していたこと、さらに、その後も、被控訴人は、遠隔治療や電話による相談とこれによる指導の過程で、控訴人春子の症状が悪化しているにもかかわらず、控訴人春子が被控訴人による神霊療法のみを受けており、病院での治療を受けていないことを認識していたことは前記一認定のとおりである。

これらの事情に鑑みれば、被控訴人は、遅くとも八月中旬の時点で、控訴人春子又はその保護者である控訴人夏子若しくは控訴人太郎に対し、病院での治療を受けるように助言し指導すべき法的義務があったものというべきである。そして、被控訴人により、その義務が果たされていれば、控訴人春子は広大病院での治療を再開していたであろうと推認され、そうしていれば、血液透析療法等を実施しなければならないほど重篤な症状には至らなかったであろうし、また、その身体に線状皮膚萎縮症による瘢痕が残ることもなかったものと推認することができる。

したがって、被控訴人には、遅くとも八月中旬の時点で、控訴人春子又はその保護者である控訴人夏子若しくは控訴人太郎に対する、病院での治療を受けるように助言し指導すべき法的義務を怠った不作為による不法行為責任があり、これにより控訴人らが被った損害を賠償すべき義務がある。

3  争点3(損害)について

争点3についての判断は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決の三二頁二行目から同三九頁五行目までに記載するとおりであるから、これを引用する。

(一) 原判決三二頁三行目の「原告春子」を「控訴人ら」と改め、同六行目の「みち子」から同七行目の「すれば、」までを削り、同八行目の「経緯は、」の後に「前記一の認定事実によれば、」を加え、同九行目の「入院で」を「入院及びその後の通院で、いったん、」と同行目の「こともあって」から同一〇行目の「ために」までを「ものの」と、同一一行目の「ものと考えて」を「ことなどから」とそれぞれ改める。

(二) 同三三頁三行目の「認めるのが相当である」を「認められる」と、同一一行目の「五月」を「六月」とそれぞれ改める。

(三) 同三五頁一行目の末尾に「もっとも、みち子の右行為をもって、被控訴人の不法行為責任の存否を左右したり、その賠償額を直ちに軽減すべき事情となるものではない。」を加え、同二行目の「のであり、」を「とはいえ、広大病院の担当医師の説明等により、自己の罹患したSLEが強い全身症状を伴う難病であり、症状を抑えるには薬物療法が必須であり、また、日常生活上の注意を十分に配る必要があることを当然に認識していたものと推認することができる。また、」と、同三行目の「ついていた」を「おり、右控訴人らも、控訴人春子の罹患したSLEの病態や診療上注意すべき事項につき、控訴人春子と同程度の認識は有していたものと推認でき、特に控訴人夏子は、控訴人春子とともに鹿児島に赴き、控訴人春子の普段の生活振りや身体の状況もつぶさに認識していた」とそれぞれ改め、同四行目の「明らかに不合理な治療法である」を削り、同行目の「に頼り、」を「のみに頼り、今日の一般常識上、当然に要する医学的な療法を控訴人春子に受けさせず、しかも、控訴人夏子及び控訴人太郎は、広大病院から投与されているステロイド剤の服用を急に止めるといわゆるリバウンドが生じ身体に危険な状況になることを知りながら、控訴人春子が」と、同五行目の「服用せず」を「服用しないのを放置して何ら適切な対処をせず」とそれぞれ改め、同六行目の末尾に「これらの控訴人らの行為は、本件損害の拡大に重大な影響を及ぼしたものというべきであり、特に控訴人夏子及び控訴人太郎は、控訴人春子の保護者として、その損害の拡大への責任は重いものと評価すべきである。」を加え、同行目の次に行を改めて次のとおり加える。

控訴人らは、被控訴人からマインドコントロールを受け、正常な判断ができなくなっていた旨供述(原審)する。確かに、控訴人らが被控訴人の神霊療法に多大の期待を寄せており、また、右(2)のみち子の言動が控訴人らの正常な判断力を減退させていた面は拭えないが、この点を考慮しても、控訴人ら自身の行為がその損害を拡大させたとの点を左右するものではない。

(四) 同三五頁一一行目の「原告春子は、」の後に「一〇月四日から一二月一七日まで入院し、また、」を加える。

(五) 同三六頁五行目の「過失内容」の後に「(特に右(一)(3)の点)」を、同八行目の後に行を改めて「控訴人春子は、控訴人ら代理人弁護士両名に本訴の提起追行を委任したものであるところ、本件事案の難易、請求額、認容額その他諸般の事情を勘案すると、被控訴人が負担すべき右弁護士費用の額は前記金額をもって相当と認める。」をそれぞれ加え、同一一行目の「金一五万円」を「金二四万二〇〇〇円」と改める。

(六) 同三七頁四行目から六行目までを「なお、右(一)(3)のとおり控訴人太郎の行為がその損害を拡大した面があるものの、右治療費については、そのうち控訴人太郎の行為により拡大した部分や程度を特定するに足りる証拠は見当たらないので、その支払額の全額をもって損害相当額と認める。」と改める。

(七) 同三八頁四行目の「原告太郎」の前に「近親者固有の慰謝料は、被害者の死亡にも比肩し得べき精神上の苦痛を受けたときにのみ認められるところ、控訴人春子に残存した後遺障害の内容・程度に鑑みれば、これに該当するものとは認められない上、」を加え、同七行目の「与えたの」から同九行目の「鑑みると」までを「与えたことは右(一)(3)のとおりであるから」と改める。

(八) 同三九頁一行目の「金一万五〇〇〇円」を「三万円」と改め、同行目の後に行を改めて「控訴人太郎は、控訴人ら代理人弁護士両名に本訴の提起追行を委任したものであるところ、本件事案の難易、請求額、認容額その他諸般の事情を勘案すると、被控訴人が負担すべき右弁護士費用の額は前記金額をもって相当と認める。」を加え、同二行目の「(請求金額は金二二〇万円)」を削り、同行目の後に行を改めて「ア 慰謝料(請求額は金二〇〇万円)」を加え、同五行目の後に行を改めて次のとおり加える。

イ 弁護士費用(請求額は金二〇万円)

控訴人夏子の慰謝料請求は認められないので、同控訴人の本訴請求についての弁護士費用を被控訴人に負担させることは相当でない。

三  結論

以上の次第で、控訴人らの本訴請求は、控訴人甲野春子につき金一六五万円、控訴人太郎につき金二七万二〇〇〇円及び右各金員に対する不法行為の後である平成五年一〇月一日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、控訴人春子及び控訴人太郎のその余の請求並びに控訴人夏子の請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきであり、原判決はこれと一致する限度で相当であるが、これと一致しない限度で不当である。

よって、控訴人太郎の本件控訴に基づき原判決中、同控訴人に関する部分を変更し、控訴人春子及び控訴人夏子の控訴並びに被控訴人の附帯控訴をいずれも棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大塚一郎 裁判官 笠原嘉人 裁判官 金子順一)

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