広島高等裁判所 昭和24年(ナ)4号 判決
原告 角田健一
被告 広島県選挙管理委員会
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、請求の趣旨
原告訴訟代理人は昭和二十四年八月十八日施行の帝釈村農地委員会委員選挙の効力に関し、原告のした訴願につき、被告が同年十月二十九日した「訴願人の申立は相立たない。」との裁決を取り消す。右選挙につき原告を当選人とする。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求めた。
三、事 実
帝釈村選挙管理委員会は、昭和二十四年七月二十九日、同村農地委員会委員の選挙につき、その選挙期日を同年八月十八日と告示した。そしてその法定の立候補届出の締切日は、同月十一日であつたが、右期日までに立候補の届出をした候補者は、二号階層委員政清玉之、三号階層委員落合健一と原告の三名だけであり、右三名だけではその選挙における委員の定数を超えず、從つて右三名が無投票で当選する場合であるので、選挙長としては所定の手続をして、選挙期日から五日以内に選挙会を開き、原告等三名を当選人と決定しなければならないのに、そのようなことをせず、違法にも立候補の届出をその締切日後の同月十六日まで受理して、前記選挙期日にその投票を行わしめ、かつ選挙会を開きその結果原告は落選人と決定した。よつて原告はこれを不当とし、同月二十二日帝釈村選挙管理委員会に対し右当選の効力に関し異議を申立てたところ、同委員会は同年九月二日右選挙手続は全部無効である。從つて該選挙による当選の決定は全部取消すという決定をした。(決定書は九月三日送達された。)そこで原告はこれを不服とし同月十二日被告に対し訴願したところ、被告は同年十月二十九日「訴願人の申立は相立たない。」という裁決をした。(裁決書は十一月九日交付された。)敍上の如く本件選挙については、立候補届出締切日後即ち八月十二日後の手続は違法であるが、その前の手続は何等瑕疵のない有効なものであるから、原告はこの手続で無投票で当選する場合であり、選挙会ではそのように決定すべきものであるのに原裁決が原告のこの既得権を侵害し、右八月十二日後の違法な手続とともに、右有効なその前の手続までも含め、本件選挙に関する手続の全部を無効と認定して原告の訴願を排斥したのは失当であるから、原裁決を取り消し、かつ右選挙につき、原告を当選人とする旨の判決を求めるため、本訴に及んだとのべ、尚法令上立候補届出期日は告示することを要しないし、村委員会が村内各駐在員に対し選挙に関する文書を発送したとしても、それは選挙の管理執行等の事務ではないから選挙規定の違反とはならないと述べた。(立証省略)
被告代表者は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告主張事実中、帝釈村選挙管理委員会が昭和二十四年七月二十九日、同村農地委員会委員の選挙期日を同年八月十八日と告示し、そしてその法定の立候補届出締切日が同月十一日であつて、該期日までに立候補の届出をした候補者が、原告主張の通り三名であつた事実、選挙長が右法定の立候補の届出締切後の八月十六日までその届出を受理して、選挙期日に投票を行わしめ、かつ選挙会を開き、その結果原告が落選人と決定した事実、そこで原告が同月二十二日、帝釈村選挙管理委員会に対し、その主張の異議を申立て同委員会が同年九月二日、原告主張の決定をし、更に原告が同月十二日被告に対し訴願し、被告が同年十月二十九日原告主張の裁決をした事実、原告主張の日に右決定書が送達せられ裁決書が交付せられた事実はいずれも認めるが、その余の事実は否認する。帝釈村選挙管理委員会は本件選挙につき、違法にも選挙期日を告示した当時、同村内一般有権者に対し、立候補の届出は選挙期日前二日までなし得る旨誤り傳え、立候補をしようとする者にその旨誤信させたばかりでなく、選挙長も右立候補届出を選挙期日前二日まで受理して事実上その届出期間を延長しているのであるが、右はいずれも選挙の自由公正を破壞する行爲であつて、選挙の規定に違反し、ひいて選挙の結果に異動を及ぼす慮がある場合であるから、本件選挙は全部無効であり、從つて原告が無投票当選人なりとの主張もその前提となる有効な選挙手続を欠く結果となるので、失当であるとのべた。(立証省略)
四、理 由
帝釈村選挙管理委員会が、昭和二十四年七月二十九日、同村農地委員会委員の選挙期日を、同年八月十八日と告示し、そしてその法定の立候補届出締切日が、同月十一日であつて、該期日までに立候補の届出をした候補者が原告主張の通り三名であり、右三名だけではその選挙における法定の委員の定数を超えない事実。しかるに選挙長が右立候補届出をその締切日後の八月十六日まで受理して、選挙期日に投票を行わしめ、かつ選挙会を開きその結果原告が落選人と決定した事実は当事者間に爭がない。
原告は本件選挙については、立候補届出締切日後即ち八月十二日後の手続は違法であるが、その前の手続は何等瑕疵のない有効なものであるから原告はこの手続で無投票で当選する場合であると主張する点につきこの点について考えてみるに成立に爭のない乙第二号証、第三号証の一乃至十三、証人天野一二三、佐々木繁藏の供述を綜合すると、本件選挙における立候補届出最終日は、法令上選挙期日である八月十八日の一週間前即ち八月十一日であるのに、村選挙管理委員会委員長天野一二三は法令の改正があつたことを知らず、改正前の法令の規定(農地整調法施行令第二十五條の五)により選挙期日二日前までに有効に立候補の届出ができるものと誤解し、これより先七月二十九日付書面をもつて各部落駐在員に対しその旨各部落一般の者に周知せしめられたい旨依頼したので、その結果一般被選挙権を有する者もまた八月十六日までは有効に立候補届出ができるものと誤信し全立候補者十三名のうち十名は法定の届出期間経過後である八月十二日から同月十六日までの間に立候補届出をし村選挙管理委員会はこれを有効のものとして受理した事実をうかがい知ることができる。この点に関する証人武内千万人の供述は信用し難い。原告その他の立証によつて右認定を左右するに足らぬ。かくの如く村選挙管理委員会が委員長の名において、(惡意であつたか善意であつたかを問はず)法定の立候補届出最終日である八月十一日前の七月二十九日に一般被選挙権を有する者に対し、その届出期間は八月十六日までであることを周知せしめた所爲は、不当に選挙に干渉し選挙の目的とする自由と公正な施行を阻害し、選挙の結果に異動を生ぜしめる虞を生ぜしめ、選挙の規定に違反したものといいうるのみならず、村選挙管理委員会が八月十六日まで立候補届出を受理したことは立候補届出期間に関する明文に違反するものである。然るに原告は法令上立候補届出期日は告示することを要しないし、村選挙管理委員会が村内駐在員に選挙に関する文書を発送しても選挙の管理執行の事務ではないから選挙の規定に反するものでないと主張するけれども、選挙無効原因である「選挙の規定」に違反するとは、必ずしも法令上の明文に違反する場合のみではなくて、選挙の目的とする自由と公正とが阻害せられる場合は公選の精神にかんがみ所謂選挙の規定に反するものと解すべきであるから右主張は採用し難い。以上の如く解するときは、本件選挙においてはその管理執行に関する一連の行爲の一部分である立候補届出手続につき、その届出最終日である八月十一日前すでに違法の点があり從つてこれを前提とするその後の選挙手続もまた違法であることが明らかであるから、原告主張の如く八月十二日以後の手続は違法で無効であるが、八月十一日以前の手続は何等の違法がなく有効であると区別すべきものでなく本件立候補届出受理手続は全部違法であると解すべきものである。從つて原告等が無投票当選者であるとの主張もまた失当である。而して現に行われた本件選挙を仮りに無効とし、あらためて選挙を行つた場合、現に生じている結果すなわち原告が落選し他の者が当選している結果と同一の結果になることが必然であると断定すべき何等の資料もないから、本件選挙は前説示の如く選挙の規定に違反し且つ選挙の結果に異動を及ぼす虞ある場合に該当し無効であると判定すべきである。そして原告は本件選挙の結果につき被告委員会に対し訴願し、同委員会はこれに対し、昭和二十四年十月二十九日本件選挙は選挙の規定に違反するとの理由で無効であると断じ原告の訴願申立は相立たずとの裁決をしたことは当事者間に爭ないところであつて、原告は本訴に於て右裁決の取消を求むると共に、原告を当選人とするとの判決を併せ求めるものであるが、その請求のいずれも理由のないことは本件選挙が無効であるとの前段説明に照しまことに明瞭である。しかのみならず本件の如く選挙管理委員会を被告とする選挙の効力に関する訴訟においては原告はその選挙の全部又は一部の無効宣言の判決を求むるは格別、原告を当選人とするとの宣言を求むることは許すべきでないと解すべきである。けだし農地調整法第十五條の八、地方自治法第五十六條の規定からみても何人を当選人と決定するかは選挙会のみがこれをなしうるものと解すべきであるからである。
以上の理由により本訴請求はすべてこれを棄却すべきものとし訴訟費用につき民事訴訟法第八十九條を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 小山慶作 井上開了 宮田信夫)