広島高等裁判所 昭和25年(う)101号 判決 1950年7月19日
被告人
森山信太郎
外一名
主文
本件各控訴はいずれもこれを棄却する。
当審における訴訟費用は被告人森末繁行の負担とする。
理由
弁護人角田俊次郎の論旨第一点について。
(イ) 原裁判所が検察官の請求により、昭和二十四年五月十七日、昭和二十四年公第七三号枯木道行、森山信太郎、竹田勳曹、森末繁行に対する窃盜被告事件を同年公第五三号枯木道行、森山信太郎、竹田勳曹に対する窃盜被告事件に併合する旨の決定をし、謄本を同日弁護人木島次朗に送達したことは所論の通りである。しかし決定の告知は特別の定のある場合を除き公判廷においては宣告により、その他の場合にはその謄本を送達してこれをすることを要するものなるところ(刑事訴訟規則第三十四條)記録を調査すれば、右二個の併合事件の公判期日である昭和二十四年五月二十七日右二個の事件の各被告人である枯木、竹田、森山及び各その弁護人木島次朗、並びに公第七三号の被告人である森末繁行及びその弁護人木島次朗がいずれも出頭した公判廷において裁判官は右二個の事件を併合する旨を宣告したことが認められるから、右決定は適法に告知せられたものであることは明らかである。もつとも所論のように、被告人森末繁行の今一人の弁護人である田中英一に対しては右決定は告知せられず、また右田中英一に対しては、右昭和二十四年五月二七日の公判期日の通知がなされた形跡のないことも所論の通りであるが、記録を調査すれば、右田中英一が被告人森末の右公第七三号事件の弁護人として弁護届を提出したのは昭和二十四年五月二十五日以後であることは、その届書の作成日附により明らかであるところ、右公判期日は既にそれより先、裁判所において決定せられ、同月十九日被告人森末に対し、その召喚状が送達せられていることが明らかで、公判期日が弁護届の提出前に既に決定し、被告人に対し召喚手続きがなされた場合には、その後に弁護届を提出した弁護人は被告人自身から、またはその他の方法で自らその公判期日を確知すべきもので、裁判所からさらに右弁護人に対して期日の通知をなすことを要せざるものと解すべきであるから、原裁判所が右弁護人田中英一に対し、右期日の通知をなさなかつたことは何等違法ではなく、従つて所論のように同弁護人の弁護権を不法に制限したをのということは出来ないのみならず、同弁護人が右公判期日を知らずして出頭しなかつたとしても、それは前記の如く自ら右期日を確知することを怠つて出頭しなかつたものというべきであるし、右公判期日には被告人森末及び同人の弁護人の一人である木島次朗が出頭しているのであるから、その公判廷で前記併合決定が宣告された以上何等所論のような違法はない。
(ロ) 次に原裁判所が昭和二十四年五月二十七日被告人森末の弁護人木島次朗、田中英一両名の中、木島次朗を主任弁護人に指定したことは所論の通りで、刑事訴訟規則第二十二條によれば、右のような指定をした場合は、直ちにその旨を検察官及び被告人に通知をしなければならないにもかかわらず、原裁判所はこれを被告人に対し通知をした形跡のないことも所論の通りである。従つて原裁判所の右手続は、違法といはなければならぬが、主任弁護人の制度は、公判における弁護権の統一と手続の簡易化を主たる目的とするものであつて、被告人に対し主任弁護人の指定の通知がなされなかつたとしても、所論のように被告人の主任弁護人の選任解任権を奪うものでもなく、記録を精査するも被告人森末の各公判期日には常にその弁護人である木島次朗、田中英一、勝部良吉の三名またはその中のいずれかが立会い被告人のための弁護権を行使し、最終の公判期日には右三人の弁護人が出頭し、いずれも被告人森末のために最終の弁論をしていることを認められるから、右違法は判決に何等影響を及ぼすものでないことが明らかである。所論はいずれも独自の見解に立ち原審の訴訟手続を論難するものにして論旨は理由がない。