広島高等裁判所 昭和25年(う)347号 判決 1950年7月05日
控訴人 被告人 寺土井幹男
弁護人 吾野金一郎
検察官 中田義正関与
主文
本件控訴を棄却する。
当審に於ける訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
弁護人吾野金一郎の控訴趣意は末尾に添附した控訴趣意書に記載してある通りである。
論旨第二点に対する判断。
記録並原裁判所が取り調べた証拠に依り諸般の事情を調査し所論の様な事情を斟酌しても原審の被告人に対する量刑が原審相被告人児島隆信に比し特に過重であるとは認められない。論旨は理由がない。
論旨第一点に対する判断。
訴訟費用の負担を命じる裁判に対しては本案の裁判に付て上訴があつたときに限り不服を申し立てることが出来ることは刑事訴訟法第百八十五条後段の規定するところであつて訴訟費用の裁判に対しては夫のみについて上訴をすることが出来ない。従つて本案の裁判に対する上訴と共に訴訟費用の裁判に対して不服を申し立てた場合に於ても、本案の裁判に対する上訴が不適法又は理由がないものとして棄却されるときには、たとい訴訟費用の裁判に付て上訴の理由があつても上訴は棄却さるべきものである。そうでなければ本案の裁判に対して理由の有無を問わず、ともかく上訴さえすれば訴訟費用の裁判について上訴審の判断を受けることになり、前記訴訟費用の裁判に対する独立上訴を禁止した趣旨が没却されることになるからである。故に本案の裁判に対する本件控訴の理由が理由のないことは論旨第一点に対する判断に依り明らかであるから、所論の訴訟費用の裁判に対する不服申立に付ては其の論旨に対する判断をするまでもなく之を棄却すべきものである。
以上の理由に依り刑事訴訟法第三百九十六条に従い本件控訴を棄却すべきものとし当審に於ける訴訟費用は同法第百八十一条に依り被告人をして負担せしむることとする。
(裁判長判事 横山正忠 判事 秋元勇一郎 判事 高橋英明)
控訴趣意書
第一点擬律錯誤 原判決は訴訟費用の全部を被告人等の連帯負担とする旨判示し刑事訴訟法第百八十二条を適用したが共犯者の訴訟費用と雖も他の共犯者に全然関係のない訴訟費用は共犯者全員の連帯負担とすべきでないことは既に判例の存するところである。而して本件の訴訟費用は何れも各共犯者の国選弁護料であつて之は他の共犯者に全然関係のないものであるから共犯者各人に其の共犯者の分のみを負担せしめるのが当然である。若し然らずとせば共犯者中に私選弁護と国選弁護とが存する場合に私選弁護を依頼した共犯者に対しても他の共犯者の国選弁護料を負担せしめる不合理な結果となるのであつて、原判決は明らかに擬律錯誤の違法がある。
第二点量刑不当 原審の相被告人児島隆信を被告人と同様懲役一年六月に処したが被告人は児島に比し左記の如く犯情が著しく軽いので右量刑は甚しく酷である。
一、児島は昭和四年生であるが被告人は昭和六年生で児島より二年年少であること(原審第一回公判調書参照)
二、児島単独の犯行回数は五回であるが被告人単独の犯行回数は一回であり、しかもそれは屋外窃盗であること(原判決及起訴状参照)
三、被告人は児島が被告人方に出入する様になり同人の誘惑に依り犯行を犯すに至つたこと(前同第一回公判調書参照)此のことは児島と被告人との共謀の犯行の日時が昭和二十四年十一月六日頃から同二十五年一月二十日頃迄であり被告人の単独の犯行の日時が其の後の同二十五年一月二十五日頃であることに依り明白である(原判決及起訴状参照)
四、児島は生活に窮して居らぬが被告人は病弱の父と二人暮で生活に困窮して居ること(前同第一回公判調書参照)
五、児島は前に窃盗罪で刑の執行猶予の言渡を受けて居るが被告人は未だ起訴されたことがないこと(前同第一回公判調書参照)