広島高等裁判所 昭和25年(う)729号 判決
本件各控訴の趣意第一点は原審は被告人西村歳之に対し審判の請求を受けない事実につき判決した違法があるというのである。
記録を調査するに、同被告人外三名に対して昭和二十五年四月二十一日恐喝等被告事件につき公訴の提起があり、その起訴状中第七の(一)乃至(八)の中同(六)として(被告人西村歳之は単独にて)昭和二十四年十二月頃日不詳同村(前の記載を受けて広島県豊田郡吉名村の意)字下条胡音吉方において右同様手段(前の記載を受けて、「予てより同人が被告人を畏怖して居るのを奇貨に暗に威圧を加え、若し要求に応じなければ後日如何なる危害を加えられるやも図られない旨の不安の念を抱かせる」意)により同人を畏怖させ、因つて即時同所において同人から米三升を交付させて之を喝取し、とあり、次いで同年四月二十五日原審(第一回公判の日)検察官より「訴因の追加請求書」と題する書面が原審に提出され、前記第七の(五)の訴因の次に(六)(同被告人は単独にて)昭和二十四年十二月頃日不詳同村字下条明石寿雄方において右同様手段により同人を畏怖させ因て即時同所において同人から米三升を交付させて之を喝取し」を追加し、右第一回の公判廷において検察官は前記起訴状竝に右訴因の追加請求書に基いて訴因の陳述をした上前記起訴状に記載の訴因第七の(六)を撤回をする旨述べていることが明らかである。訴因の追加、撤回、又は変更は公訴事実の同一性を害しない限度においてのみ許されるものであることは刑事訴訟法第三百十二条の規定するところである。そこで前記追加された訴因第七の(六)と撤回された訴因第六の(六)とを彼是比照して見るに両者共犯行の場所は同じく吉名村字下条部落内であつて恐喝の方法も同様で喝取した物も同じく米三升であるけれども、犯行の日時に至つては「昭和二十四年十二月頃日不詳」とあつて特定して居らず被害者も全然別個の人である。そして恐喝罪のように被害者の意思ということが犯罪の成否に大きな影響を持つ犯罪においては甲者を恐喝したということと乙者を恐喝したということとは本質的に相違する事柄であると云わねばならない。従つて前記両訴因は全く別個の公訴事実であつてその間に同一性が認められないこと洵に所論の通りである。故に原審検察官としては本件の場合には訴因の追加及び撤回の手続によることは出来ないのであつてよろしく追起訴(前掲訴因追加請求書記載の事実につき)及び公訴取消(前掲起訴状記載の第七の(六)の事実につき)手続によらなければならない。
然るに之を訴因の追加及び撤回として許容しその追加せられた訴因につき判決し、その撤回した訴因につさ裁判しなかつた原審は結局審判の請求を受けた事件について判決をせず且審判の請求を受けない事件について判決をした違法があると云わねばならない。