広島高等裁判所 昭和25年(う)842号 判決
刑法第二五三条の業務上横領罪は業務上自己の占有する他人の物を横領した者を処罰する規定であり、他人が其の業務上占有する物を横領するに当り之と共謀した業務上の占有者でない者は刑法第六五条第一項に従い業務上横領罪の共犯ではあるが同条第二項に則り単純横領罪の刑に依り処断せられるものであるところ、原判決は第一として被告人中村は被告人入江原審相被告人有田寿雄と共謀して右有田が業務上保管中の失業保険料合計金五十七万五千七百二十六円を被告人入江及有田に於て着服横領した旨判示しており従つて右金員は被告人両名に於て業務上保管して居たものではないというべく、次に第三として被告人両名は共謀して被告人両名が業務上保管して居る失業保険料を着服横領した旨判示し、更に第四として被告人中村が其の業務上保管に係る失業保険料五千円を横領した旨判示して居るが、原判決挙示の証拠を調査するに右全員は孰れも山口県労働部失業保険徴収課勤務の現金出納係である分任収入官吏山根作市の保管して居たものであることが認められる。而して原審及当番の証人村田貴志雄の供述及会計法第四一条第二項第四四条の規定を綜合するときは分任出納官吏の現に業務上保管して居る現金及物品は其の分任出納官のみに保管責任があるものであつて他の分任出納官吏竝にたとい主任出納官吏であつても他の出納官吏は刑法上之を業務上保管し又は共同して之を業務上保管して居るものとなすべきではないと解すべきであるから、原判決が被告人中村が分任収入官吏有田寿雄の業務上保管して居る金員を同人と共謀して横領しと説示し、又被告人中村の業務上保管して居たものと説示し之に刑法第二五三条を適用して処断したのは所論の様に法令の適用を誤り事実を誤認したものといわざるを得ない。論旨は理由がある。