大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 昭和25年(ネ)150号 判決 1953年3月27日

控訴人 原告 羯磨紙業株式会社

代表者 代表清算人 望戸力一

訴訟代理人 桑原五郎 外二名

被控訴人 被告 日本通運株式会社

代表者 代表取締役 早川慎一

訴訟代理人 田坂戒三

主文

原判決を取消す。

被控訴人は控訴人に対し金三十四万千六百八十五円及びこれに対する昭和二十四年九月二十三日より完済に至る迄年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。

此の判決は控訴人に於て金十万円の担保を供託するときは仮にこれを執行することができる。

事実

控訴代理人は主文第一、二、三項同旨の判決並担保を条件とする仮執行の宜言を求め被控訴代理人は本件控訴を棄却する控訴費用は控訴人の負担とするとの判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は控訴代理人に於て要するに本件塵紙は荷送人訴外八幡浜紙業株式会社が小野田生活必需品商業協同組合(以下小野田生必組合と略称す)を荷受人と指定して被控訴会社にこれが運送方を委託したところ被控訴会社小野田支店使用人松井正が誤つて荷受人でない訴外小野田紙業有限会社代表者米永喜助に引渡した為該運送品の大部分が滅失し訴外八幡浜紙業株式会社は三十四万千六百八十五円相当の損害を蒙つた。控訴人は該損害賠償債権を同会社より譲受けたのであるが畢竟商法第五百六十条に基く被控訴会社の責任を追究するもので被控訴会社は運送品の引渡に関し重大な過失を犯しているもので本件塵紙の滅失につき損害賠償の責任を免れない。此の点につき被控訴人は松井正の引渡行為に過失がなかつたと主張しているが、荷受人が異なる場合は委託物の引渡に関し手を尽し荷受人の指図又は了解の下に適切な措置を講ずるのが当然の責務である。尚従来控訴会社の所有権に基き控被訴会社の不法行為に因る賠償を請求していたが之は撤回すると述べ、被控訴代理人に於て控訴人は予て取引関係のある訴外小野田紙業有限会社の米永喜助と本件塵紙の売買契約をしたもので真の買主又は荷受人は右米永喜助である。宛先が小野田生必組合である為被控訴会社としては、同組合に荷受の交渉をしたが全然無関係であるとして拒絶された。当時は僣称荷受人による荷物の輸送もあつたので、被控訴会社は真の荷受人を知ることに務めた結果前記の如く米永喜助が真の荷受人であることを確知して同人に引渡したものである。果せるかな控訴人は本件につき先づ第一に米永を訪ね同人が本件塵紙を所持していることを現認の上之を取返えそうとせず却て進んで商談を遂げ売買代金として同人振出の約束手形二通額面三十六万円を受領して決済し解決したが偶々二ケ月後前記手形が不渡りとなるや、虚偽の荷受人が表示してあつたことに藉口して飜然被控訴人に損害賠償の交渉を始め責任の転稼を策したものである。尚控訴人の主張から判断すると本件塵紙は訴外八幡浜紙業株式会社から控訴人が買受け所有したものを更にその輸送を同会社に委任しその委任に基き被控訴会社へ輸送を託したものであつて訴外八幡浜紙業株式会社としては直接損害賠償請求権はないから控訴人が譲受債権を請求するのは失当であると述べた外は何れも原判決事実摘示と同一なのでここにこれを引用する。

立証として控訴代理人は甲第一乃至第八号証第九号証の一、二第十乃至第十二号証を提出し原審証人、中川得治、古江佳美、生田静当審証人山本政教の各証言、当審控訴会社代表者本人の訊問の結果を援用し乙第一号証第三号証の一乃至三第五号証の一、二の成立を認めて乙第三号証の一乃至三を援用し爾余の乙号各証の成立は不知と述べ、被控訴代理人は乙第一、二号証第三号証の一乃至三第四号証第五号証の一、二第六乃至第八号証を提出し原審証人松井正、山崎主一、由良邦夫、当審証人三浦信夫の各証言を援用し甲第一号証第五号証第九号証の二第十一、十二号証の成立を認め、甲第七、八号証第九号証の一の郵便官署作成部分の成立は認めるが他の部分の成立は不知爾余の甲号各証の成立は不知、甲第十一号証は援用すると述べた。

理由

昭和二十四年三月十六日訴外八幡浜紙業株式会社が運送取扱営業を営む被控訴会社八幡浜支店に対し塵紙三号、二千六百四十締の運送を委託したこと、右委託に際し訴外小野田生必組合を荷受人と指定したこと、右塵紙は同月二十日小野田港駅に到着したところ、被控訴会社小野田支店の使用人である松井正が右荷受人でない訴外小野田紙業有限会社代表者米永喜助にこれを引渡したことは当事者間に争がない。

被控訴人は本件塵紙の真実の荷受人は米永喜助であつて小野田生必組合は仮装の荷受人であり被控訴会社としては一応表示された荷受人に交渉したが受取りを拒絶された為真の荷受人を調査した結果右事情が判明して米永喜助に引渡したのであるから契約の不履行はない。仮に米永喜助は真の荷受人でないとしても右の如き事情であるから被控訴会社に過失はないと抗争しているので判断してみると原審証人中川得治、古江佳美、松井正、山崎主一、由良邦夫、当審証人山本政教の各証言に当審控訴会社代表者本人の供述を綜合すれば、控訴会社としては予てから小野田生必組合との塵紙の取引を希望していた折柄昭和二十四年三月中旬、小野田紙業有限会社代表者の米永喜助が控訴会社に来て小野田生必組合からの依頼で使者として塵紙一車分の注文をなした。控訴会社は米永喜助とは、一、二度の取引があり、余り信用が措けないが、相手が小野田生必組合なれば確かであると考えてこれに応じ被控訴会社には手持がなかつたので八幡浜紙業株式会社に注文し同会社から小野田生必組合に直接送荷するよう依頼し同会社は被控訴会社八幡浜支店に該運送を委託して小野田生必組合宛発送した事実、而して小野田生必組合としては控訴会社に塵紙等を注文したことなく右は全く米永喜助が擅に小野田生必組合名義を利用して控訴会社から紙を取寄せ利得せんとした詐欺的行為に由来したもので控訴会社はあくまで小野田生必組合に売却したものと考えて居りもとより同組合を真正の荷受人として発送方を依頼したことが明白である。右認定に反する部分の右松井正、山崎主一の証言は措信しない。乃て進んで被控訴会社が荷受人でない米永喜助に本件塵紙を引渡した点に過失ありしや否やを考えてみると前顕松井正、山崎主一の各証言(措信しない部分を除く)によれば当時被控訴会社小野田支店小野田港駅営業所の車扱到着係として到着荷物の受渡をしていた松井正は米永喜助が右荷物の到着前から前記営業所に来て「塵紙が組合宛で到着することになつているがそれは取引高税の関係で組合の名義を借りたので真の買主は自分であるから自分に引渡して貰いたい」旨申し出てはいたが一応名宛の組合に到着を通知したのに対し同組合では関係がないから右様の事情ならば米永に話してみてくれとの返事だつたので同人に通知した上その指示によつて会社のトラックで米永の経営している小野田紙業有限会社の倉庫に運びその引渡を了したこと、而して荷受人以外の右米永に引渡すにつき真の荷受人が誰であるかを調査するにつき、努力はしたが荷主側には何の通知もせずその指図を受けるような何等の措置をも講じなかつた事実が認められる。然しながら、荷受人が受取を拒んだ場合運送取扱人としては先ず荷主に対しその旨を通知して荷物の処置につき荷主の指図を受けるか又はその了解の下に適切な方法を講ずるのが当然の措置であつて、これをなさず只僣称受取人側の事情のみを調査して指定された荷受人以外の者に引渡すことは正に引渡につき運送取扱人に右当然の注意を怠つた過失がある場合と謂わざるを得ない。然らば右引渡により生じた運送品の滅失等による損害については被控訴会社としては運送委託者である訴外八幡浜紙業株式会社に対し損害賠償の責任を免れることができない。

次に被控訴人は引渡が不法であつたとしても控訴人は右引渡の事実を了知しながら何等異議をとどめず米永喜助と交渉して約束手形二通額面三十六万円を受領して解決し偶々二ケ月後右約束手形が不渡りとなるや被控訴会社に責任を転稼するのは信義誠実の原則に反すると抗争しているが、前顕中川得治、古江佳美、控訴会社代表者望戸力一の各供述を綜合すると本件塵紙が到着した頃控訴会社代表者望戸力一と販売係の古江佳美の両名は交々小野田市に到り被控訴会社小野田港駅営業所長山崎主一に誤配についての抗議を申込み品物の取返しを要求したが一度引渡したものを取返えすのは難しいがその弁償金の取立には責任を持つと言うことになり米永を呼出して折衝した結果米永の売れ残りの塵紙百八締は返品したが残りは返品できずその弁償として米永振出の約束手形二通額面計三十六万円を山崎主一の手を経て控訴会社側に交付したので一応受取つたが不渡りとなつた事情が認められるから被控訴会社に対してその賠償を求めることは何等信義則に反することなく右抗弁は採用し難い。

更に被控訴人は仮に賠償請求権ありとしても控訴人は真実の買主でない小野田生必組合を荷受人としたことに過失があるから、損害金の算定につき過失相殺を主張しているが荷送人である訴外八幡浜紙業株式会社は控訴会社の依頼により荷受人を小野田生必組合と指定して被控訴会社に運送を委託したもので同訴外会社としては何等過失がないこと明白であるから右抗弁も理由がない。

仍て損害額と賠償債権譲渡の点を考えると前段認定のように、被控訴会社は塵紙二千六百四十締を全部米永喜助に引渡したがその中百八締は回収しその他二千五百三十一締は回収不能となつているので一締の売買価格が百三十五円であることは前示山本政教等の証言により認められるから総残額は三十四万一千八百二十円になること算数上明かで荷送人たる訴外八幡浜紙業株式会社は右金額相当の損害を蒙つたものと謂える。

而して右損害賠償債権中三十四万千六百八十五円を右訴外会社から昭和二十四年七月二十日控訴会社に譲渡しその頃被控訴会社に対し右譲渡通知がなされたことは前示山本政教、望戸力一の各供述と同供述により全部成立が認められる甲第六、七、八号証の記載により明かなので右債権は適法に控訴会社に譲渡されたものと謂わねばならない。

此の点につき被控訴会社は本件塵紙は訴外八幡浜紙業株式会社から控訴会社が買受けその輸送を同訴外会社に委任しその委任に基き被控訴会社へ輸送を託したもので同訴外会社としては直接損害賠償債権がないと抗争するが前段認定のように被控訴会社に運送を委託したのは同訴外会社であつて運送取扱契約に基く損害賠償請求権は荷送人たる同訴外会社にあること明かであるから右抗弁も理由がない。

然らば控訴会社が被控訴会社に対し前示金三十四万千六百八十五円とこれに対する訴状送達の日の翌日であること記録上明白な昭和二十四年九月二十三日より右完済に至る迄商事法定率年六分の割合による損害金の支払を求める本訴請求は全部正当で之を認容すべきである。右と異る見解にでて本訴請求を棄却した原判決は失当で到底取消を免れないから民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用し主文のように判決した。

(裁判長裁判官 植山日二 裁判官 佐伯欽治 裁判官 宮田信夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例