広島高等裁判所 昭和26年(う)188号 判決
原判決は、被告人平賢之助に対し判示第一の二の事実を認定し、これに刑法第二四七条を適用し背任罪として処断していることは所論のとおりである。
ところで右の事実をその挙示する証拠と対照して見ると、判示組合判示備陽木工株式会社に対し判示のような木材の売掛代金債権があり、一面右会社は同組合の組合員であり且つその組合長をしていた被告人平個人に対し判示のような製材用発動機並びに下駄等の売渡代金債権を有していたところ被告人平は自己の利益を図る目的を以て同会社と右二個の債権を対当額において相殺することを約し、よつて同組合の右会社に対する債権を消滅させて組合に同額の損害を加えたというのであるけれども、右二個の債権は互に当事者を異にするのみならず、元来組合の債務者がその債務と組合に対する債権とを相殺し、又組合員が組合財産に属する債権を以て自己固有の債務と相殺するが如きことは、組合財産の保全上許されないものであること民法第六七七条等の規定に照し明らかなところである。従つて被告人平が同会社との間に右のような相殺を約したとしても、右相殺は無効であるから組合の債権は何等消滅を来たすことなく依然存続するものというべく、従つて又組合に同額の損害を加えたものとは言えないから(なお組合の帳簿上も右債権は依然存続していることに記載されているものである)背任罪を構成しないものと言わねばならない。然るに原判決がこれを背任罪と認め判示法条を適用処断したのは法令の解釈適用を誤つたものというべく、論旨は結局理由がある。