大判例

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広島高等裁判所 昭和27年(う)924号 判決 1953年2月25日

控訴人 被告人 森下昭朗

弁護人 本問大吉

検察官 志熊三郎

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中四〇日を本刑に算入する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人本間大吉の控訴の趣意は記録編綴の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

第二点(理由不備の主張)について

しかし原判決は判示第一の事実を以て併合罪としたものではなく、右は一罪として認定処断したものであることはその判文理由に徴し明らかである。そして原判決の確定した判示第一の事実をその挙示する証拠と対照して見れば、被告人は昭和二七年四月頃判示下関菓子工業株式会社に雇われパンの配達並びにその代金の集金等の業務に従事していたものであるが、自己の靴購入代金の支払及び無免許で自動車を運転し交通事故を惹起したことに因る被害者に対する賠償金の支払に窮した結果、前記会社のため集金したパン代金を以て右支払に充てようと考え同年七月一〇日から同年八月八日までの間取引先である森下文三外九名から集金し業務上保管していた同会社の所有にかかるパン代金の内からその頃六回に亘り合計金一万四千三百九十五円を勝手に着服して横領したというのであつて、右の被害者は同一人であり、且つ、犯罪の態様を同じくし単一犯意の発現に基く一連の行動であり、包括して一個の犯罪と認められるから、原判決がこれを一罪と認定処断したのは相当であるし、なお右のような場合は必ずしも各個の行為毎にその日時、場所、金額等を判示するの要はなく、犯行の始期と終期、回数、被害金額の合計額等を判示するを以て足るものと解すべきであるから、従つて原判決には所論のような違法はない。論旨は理由がない。

第一点(量刑不当の主張)について

記録を精査して諸般の情状を検討し、被告人には原判決に示すような累犯加重の原因となるべき窃盗前科の存すること等を考慮するときは所論の事情を斟酌しても原審の科刑は不当に重過ぎるものとは認められない。論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法第三九六条刑法第二一条刑事訴訟法第一八一条第一項に各従い主文のとおり判決する。

(裁判長判事 伏見正保 判事 尾坂貞治 判事 小竹正)

控訴趣意

一、原判決は左記事情に照らし刑の量定重きに失し不当と思料致します。

一、被告人には前科一犯あるがその事実は進駐軍の服一枚が被害物件で軽微の案件であり前科あるの故を以て直に犯罪常習者と断じ難い(第一回公判調書)。

二、本件犯行の動機に憫情すべき点が存する。被告人は本件被害会社に雇われ自ら自動車を運転しパンの配給並集金の業務に従事していた者であるが、業務上自動車を操縦し兼務に従事中過つて他人の自転車を押しつぶした為その弁償金に窮し本件犯行に及んだもので同情の余地存する(第一回公判調書)。

三、被害は被告人の父が弁償済みである。(検察官に対する被告人供述調書)。

二、原判決には理由不備の違法がある。

原判決書の判示第一の事実は併合罪の事実判示としては犯罪の日時、被害金額が具体的に明確にせられていない。連続犯の規定が廃止せられた今日、斯かる犯罪事実の判示の仕方は違法たるを免れない。

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