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広島高等裁判所 昭和28年(う)318号 判決 1953年11月20日

控訴人 検察官 坂本杢次

被告人 竹原隆士 弁護人 星野民雄

検察官 中根寿雄

主文

本件控訴を棄却する。

理由

検察官坂本杢次の控訴の趣意は記録編綴の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

論旨は要するに、本件の適用法令である昭和二五年政令第三四三号公益事業令は、いわゆるポツダム政令であつて、その効力は占領期間中に限られ占領終了の曉には失効することに当初から宿命付けられたいわば不確定期限付の占領法規であるから、いわゆる限時法に属することが明らかであり、従つてその失効後も行為当時の同令を適用して処断すべきものである。なお、同令が一旦失効となつたのは、違反行為に対する法律的評価ないし法律感情に変更があつて処罰価値がなくなつたとされたためではないのであるから、本件は刑事訴訟法第三三七条第二号の「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき」には当らない。従つて原判決が被告人に対し免訴の言渡をしたのは法令の解釈適用を誤つた違法があるというのである。

先ず公益事業令の法的効力についてその後の経過を検討するに同令はポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件(昭和二〇年勅令第五四二号)に基き昭和二五年一一月二四日政令第三四三号として制定公布され、同年一二月一五日から施行されたのであつて、占領期間中は憲法にかかわりなく憲法外において法的効力を有したものである。そして同令はその内容において何等憲法に反する点がないのであるから、ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件の廃止に関する法律(昭和二七年四月一一日法律第八一号、以下法律第八一号と略称)第二項によつてこの法律施行の日たる昭和二七年四月二八日から起算して一八〇日間は法律としての効力を有するに至り、次いでこれをそのまま法律として効力を永続せしめようとする法律案が国会に提出されたのであるが、同案は法律として成立しなかつたため、前記法律第八一号の施行の日から起算して一八〇日目にあたる同年一〇月二四日の経過と共にその効力を失うに至つた。即ち公益事業令は法律第八一号の規定によつて昭和二七年一〇月二四日限りで一旦廃止となつたのであるが、その後原判決のなされる前である同年一二月二七日に至り恒久的法律の成立に至るまでの暫定措置として法律第三四一号電気及びガスに関する臨時措置に関する法律が制定公布され公益事業令と同一の規定が法律として同日から施行せられ今日に至つたものであつて、同法律及びその他にも刑罰法令失効前の違反行為を処罰する趣旨の規定は存しないのである。

さて、公益事業令は果して所論のように限時法と認むべきものであつたであろうか。いわゆる限時法については現行法上何等の明文規定も存せず、学説もまた区々に分れて定説というべきものはない状態である。なるほど同令は前記のようにポツダム政令として制定されたとは言え、これをその実質について見るときは、従来の電気事業法及び瓦斯事業法の両法律に代わるべきものであつて、単に所論のように占領期間中の一時的臨時的な性格を有するに過ぎない占領法規であつたとのみは解することのできないことは、同令は公共の福祉を増進することを目的として制定せられたものであり、その公布施行と同時に右両法律が廃止せられ、更に占領終了後法律第八一号を以て一定期間これを法律化すると共に法律として存続せしめる手続がとられたが、目的を達しなかつたので更に右法律の定める一八〇日間の期間経過後ではあつたが昭和二七年一二月二七日に至り前記のように法律第三四一号電気及びガスに関する臨時措置に関する法律として復活するに至つた前記事情に徴しても明らかなところである。

次に公益事業令は前に説明した様に法律第八一号によつて同法施行の日から起算して一八〇日間法律として効力を有するに至りその期間の経過とともに失効したものではあるが、右のように一八〇日の期間が定められたのは所謂ポツダム命令の改廃又は存続に関する措置の第一段としてとられた手段であつて、政府は第二段としてその期間内に公益事業令を法律として効力を生ぜしめる手続をとつたのであるがその目的を達しなかつたため一時失効するに至つたものであり、同令を右期間の経過と共に失効せしむる意図がなかつたことは明らかであり、従つて同令に関しては失効の期間が予め明示されていたため訴訟遅延によつて刑罰を免れる工作をする虞はなかつたものといわねばならない。なお、その後の法律において公益事業令失効後も失効前の違反行為を処罰する旨の規定がなされていないことも前記のとおりである。以上の事実を綜合して考えると、如何なる方面から見るも公益事業令をもつて限時法としてその失効後も尚従前の刑罰法令により処罰を認めるものと解することはできない。

そして刑法第六条は「犯罪後ノ法律ニ因リ刑ノ変更アリタルトキハ其軽キモノヲ適用ス」と規定し、刑事訴訟法第三三七条第二号は「犯罪後の法令により刑が廃止されたときは免訴の言渡をすべき」ことを定め、更に同法第三八三条第二号第三九七条第四一一条第五号によれば「判決があつた後に刑の廃止若しくは変更があつたときは原判決を破棄すべき」ことを定めている。そして右刑法第六条にいわゆる「犯罪後ノ法律ニ因リ刑ノ変更アリタルトキ」とは、犯罪(行為)の時から判決の時に至るまでに刑を規定したところの法令に変更があつたときは最も軽い法令を適用するとの趣旨であると解すべく、なお、行為時法と裁判時法との間に中間時法があるときは、これをも比照すべきものであることも異論のないところである。そして右刑法と刑事訴訟法の規定を統一的に解釈するときは、刑の廃止とは刑を規定していた法令の廃止(失効を含む)を意味し、且つ刑の廃止は前記刑法第六条にいわゆる刑の変更の軽い極限にあたるものと解し得るから、従つて又同条にいわゆる刑の変更の中には狭義の刑の変更と刑の廃止の場合の双方を含むものと解すべく、かくして刑罰法令が廃止若しくは失効したときは、実体面においては刑法第六条により手続面においては刑事訴訟法第三三七条第二号により免訴が言渡されるものと解するのを相当とする。然るときは本件は、行為時法と裁判時法との間に軽い極限の中間時法ともいうべき刑の廃止があつた場合にあたるから、これに対し免訴の言渡を為すべきことは当然とするところであるといわねばならない。(このことは、若し判決が前記失効中の空白期間である昭和二七年一〇月二五日より同年一二月二六日までの間に為されたとすれば一層明白なところであろう。)この点に関し所論は、同令が一時失効(廃止)となつたのは、違反行為に対する法律的評価ないし法律感情に変更があつたがためではないのであるから、本件は刑事訴訟法第三三七条第二号にいわゆる刑が廃止された場合には当らないと主張するのであり、本件の場合において違反行為に対する法律的評価ないし法律感情の変更がなかつた事は認められるけれども、この様な理由で特に被告人の利益のため設けられた前記刑法並びに刑事訴訟法の明文の規定を排除することは許されないところであるというべく、従つて右所論も到底採用することができない。そもそも本件のような現象を生ずるに至つたのは結局立法者側の手違いによるところであるといわねばならないのであつて、明文の規定なくして濫りに被告人の不利益に解することの許されないことは今更いうまでもないところである。

従つて原判決が被告人に対し免訴を言渡したのは相当であつて、原判決には所論のような法令適用の誤はない。論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法第三九六条に従い主文のとおり判決する。

(裁判長判事 伏見正保 判事 尾坂貞治 判事 村木友市)

検察官坂本杢次の控訴趣意

原審判決には、法令の適用に誤りがあり、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかである。

原審判決が、(一) 公益事業令は、昭和二七年法律第八一号ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件の廃止に関する法律の規定により、昭和二七年一〇月二四日限り廃止されたものであつて、刑事訴訟法第三三七条第二号の犯罪後の法令により刑が廃止されたときに該当するものであり、且つ、(二) 同令は明文なき限りその失効前の違反行為に対し、失効後においてもなお従前通りその罰則を適用すべき所謂限時法と解すべきものではない。との理由で免訴の言渡をしたのは、結局刑事訴訟法第三三七条第二号の規定並びに公益事業令の限時法性に関する解釈適用を誤つたものであつて違法である。

第一原審判決は、免訴言渡の理由として『公益事業令は昭和二〇年勅令第五四二号ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基き、昭和二五年一一月二四日政令第三四三号として制定され、同年一二月一五日から施行されたのであるが、日本国との平和条約がその効力を発するに先立つて制定公布された昭和二七年法律第八一号ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件の廃止に関する法律は、その第一項において、「勅令第五四二号は廃止する」第二項において『勅令第五四二号に基く命令は別に法律で廃止又は存続に関する措置がなされない場合においてはこの法律施行の日から起算して一八〇日間に限り法律としての効力を有するものとする」と規定し、その附則第一項の規定によつて平和条約の最初の効力発生の日たる昭和二七年四月二八日から施行されるに至つた。ところが、公益事業令については、法律第八一号の施行の日から起算して一八〇日目にあたる同年一〇月二四日の経過するまでの間に廃止又は存続に関する立法措置がなされなかつたので、同日までは法律としての効力を有したけれども、同日の経過と同時にその効力を有しなくなつた。即ち、公益事業令は、法律第八一号の規定によつて、昭和二七年一〇月二四日限りで廃止されたものと謂わねばならない。飜つて本件公訴に係る犯行を見るに、その犯行は、昭和二六年一一月二八日から同年一二月一日までの間に行われたと謂うのであるから、本件は正しく刑事訴訟法第三三七条第二号の「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき」に該当し、同条によつて免訴の言渡をしなければならないのである』と判示している。然しながら、本件の場合、果して同法条にいわゆる「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき」に該当するものとなし得るかは頗る問題である。右にいわゆる「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき」とは、犯罪後施行された法令によつて、いゝかえると、前法の罰則が新しい国家意思たる犯罪後の後法によつて廃止された場合をいうのであつて、犯罪前に施行された法令において、既に将来刑を廃止する時期が確定的にしろ又不確定的にしろ定まつている場合は、これを含まないものと申さねばならない。このことは文理上極めて明らかである。

ポツダム政令従つて公益事業令は、本来占領期間中は日本憲法にかゝわりなく、憲法外において法的効力を有するものである(最高裁判所昭和二四年(れ)第六五八号、同二八年四月八日大法廷言渡判決参照)から、占領終結による主権回復によつてこれら超憲法的効力を有するポツダム政令は将来に向つて失効することは宿命とされていたものである。いわば不確定期限であるが、制定当初から失効の時期は予定されていたものであり、その予定されていた事態の出現即ち時期の到来によつて、最早超憲法的効力をもつ法令としては廃止失効することになつたわけである。

ただ昭和二七年四月一一日法律第八一号により特に一八〇日間を限り確定期限付で法律としての効力をもたしめたが、これ亦その期間の経過により廃止失効するに至つたものである。尤も右の法律第八一号によつて一見一八〇日間の効力を延長した観がある。然し、この間いわゆるポツダム命令は占領中のそれと異り、新たに日本国憲法内の法律として効力をもたせると共に、一定期間後の廃止失効を規定しているのであつて、決して超憲法的法令自体そのままの効力を延長したり右延長後の廃止失効を図つたものではないのである。

従つて、公益事業令が廃止失効したのは占領終結により、その内在的本質に基き事情が変更したからに外ならず、原判示の如く犯罪後の法令により刑が廃止されたものではない。されば原審判決が前記の如く犯罪後の法令により刑の廃止ありたるときに該当するものとして免訴の言渡をしたのは刑訴第三三七条第二号の適用を誤つたものであつて違法である。

第二原審判決は、検察官の限時法の主張に対する判断として、「惟うに犯罪後の法令によつて刑が廃止された場合に免訴の言渡をなすべきことは、刑事訴訟法第三三七条の規定に明らかに定められているところであつて、実定法上の明確な証拠をもたない限時法なる観念を容れ、而もこれを不当に拡張して右の規定の適用を濫りに排除するような解釈をすることは慎しまねばならない」となし以下公益事業令が限時法でない所以を列挙説示しているが、その趣旨はおおむね次の五点に帰するものと思われる。即ち、

第一点は、公益事業令は、その内容を見ると、旧電気事業法又は瓦斯事業法に代るべきものとして制定されたものであり、決して占領という一時の特殊事情に対処するためにのみ制定されたものではない。

第二点は、昭和二七年法律第八一号第二項の規定は、一八〇日間に何等同令の効力を延長し又はこれに代る法律を制定する等の立法措置を講ずることなくして、日時の経過により自然に公益事業令の効力を消滅せしめる趣旨のものでもない。

第三点は、公益事業令が占領目的達成のため必要であつたという一面は否定できないが、それは民法、商法、刑法等が占領目的達成のためにも必要であつたのと大差はない。

第四点は、公益事業令は占領終結又は右一八〇日間の経過により当然失効し、しかもこれに代る立法措置等の経過措置なく電気及び瓦斯事業が則るべき何等の法規のないままに放置されるとは何人も予測し得ないところであるから、その失効を予期しての犯行、又は失効による免責を目的とする訴訟遅延が頻発する虞はない。即ち限時法と解すべき実質上の根拠がない。

第五点は、公益事業令の失効前に法律化を企図して政府は第一三国会に法案を提出したが、審議未了に終つた事実、及び失効後制定された法律第三四一号は公益事業令と内容同一である事実等は公益事業今は一時的特殊事態に対処するためのもので、占領終結又は一定期間の経過によりその実質を全く消滅せしめられるべきものではなく、恒久性を有するものであるというに在る。

然し、右に掲げる五つの理由は、前掲最高裁判所大法廷言渡判決が明示するポツダム政令従つて公益事業令は、日本国憲法にかかわりなく憲法外において法的効力を有するものであるとの点に対し、これと異り公益事業令は本来ポツダム政令ではあるが、同令は日本国憲法を頂点とする法系列に属する法令、いわゆる憲法内の法令であるとの見解に立脚し、占領終結と同時に失効しないものでその後もその効力を存続し得るものであることを前提として、同令が占領中超憲法的効力をもついわゆる占領法規であることを全然度外視した根本的な誤りがある。然し尚右挙示理由に対しそれぞれ簡単に反駁すれば、(1)  公益事業令は占領法規なるが故に占領という一時の特殊事情に対処する目的で制定されたものであることは多言を要しない。(2)  前述の如くポツダム政令は占領終結自体により失効するものであつて、法律第八一号の規定によりて初めて廃止されるものではなく、(3)  公益事業令の必要性は民法、商法、刑法等と大差がない、との所論は公益事業令の占領法規性を否定する根拠にはならない。(4)  公益事業令の失効を予期しての犯行又は失効による免責を目的とする訴訟遅延の頻発する虞はない、との所論は独断にすぎない。(5) 失効前に恒久法律化を企図したり失効後同一内容の法律を制定したことは事実であるがこのことあるが故に占領法規でないとの理由はどこからも出て来ないものである。反つてそのこと自体同令の失効後も依然として取締りを必要とし之を要請する法律的感情が存在している証左であつて、立法経過の一事情から形式的空白時代が生じた場合、直ちに刑訴第三三七条第二号を適用することは極めて不自然であるとの感を深くせしめるものである。

以上の如く原審判決の限時法性を否定する根拠は徹底を欠く憾みがある。

さて、如何なる法規を限時法とするのか、又限時法においては明文がなくて解釈上、当該法規の失効前になされた違反行為に対して失効後なお従前の罰則を適用し得るかについては、現行法上刑法総則的規定もなく、学説亦区々に分れているし、我が国の判例は原審判決の指摘する如く、統制経済法規におけるいわゆる空白刑罰法規の構成要件の一部たる物品又は価格等を指定する省令又は告示の改廃の場合に関するものであり、公益事業令のように構成要件それ自体を規定した罰則規定の廃止された場合については、いまだ判例の確立をみていない。

立法令からこれをみれば、独乙刑法第二条第三項の規定とその理由書記載の立法理由によつて、限時法とは当初より特別の事情に基き自ら施行期間を予定し、その期間の経過により当然消滅に帰する法令であると解する見解がある。この立法例とその見解を中心に考察すれば、限時法は右の如く法自体において施行期間を予定していることが要件であるものの如くであり、又罪刑法定主義の建前から「施行期間の予定」がないときはこれを消極に解することも亦一理なしとしない。然し我が刑法典にはこの点に関し成文上の根拠を欠き、限時法であるか否かは全く刑罰法規の個々についての合理的解釈に委ねられているものである。現に原審判決が指摘する如く、経済統制法規に対する我が大審院及び最高裁判所の判例においては統制法規にその施行期間を予定していないのに右法規に限時法的性格を認めているのである。

惟うに限時法又は一時法として法令失効前に違反した行為に対し、法令の失効後なおその罰則を適用し得る実質的根拠は、法令の失効時を境とし、その間に事情の変更があつたに止まり違反行為に対する法律的評価乃至法律感情にはその前後に渉つて何等変化を来していないという点にある。経済統制法規におけるいわゆる空白刑罰法規の構成要件の一部である統制物資の品目価格等を指定する省令、告示は、推移する当該諸事情に即応して速やかに対処し得るために、立法者が行政機関にその立法を委任し、行政機関において事情変更に伴いこれ等省令、告示を改廃するものであるが、既に犯した違反行為に対する法律的評価乃至法律感情には何等変更がないので、従来この種法規に限時法を肯定した前記判例をみているところであると思料する。

従つて、右の如く立法者から受任した行政機関において法規の構成要件を省令、告示等を以て充足しこれを自ら廃止した場合と、公益事業令の如く立法者がこの構成要件を令自体に完全に充足してある罰則を廃止した場合との間に、両者廃止前の違反行為を評価するに何等の差異をつけるべき理由は認められない。従つて、前者の場合に導入された限時法に関する判例は後者の場合にも等しく適用して然るべきものである。

公益事業令は、前記の如く占領終結によつて平和条約発効と同時に失効したが、法律第八一号によりその後一八〇日間憲法内の法律としての効力を有することが定められ同年一〇月二四日の経過と共に更に失効したが、同年一二月二七日に至り公益事業令と同内容の法律第三四一号の公布を見たのである。これ等の経過に鑑み従前の違反に対する法律的評価乃至法律感情は占領中なると講和後の現在なると何等変りはないと確信する。元来刑事訴訟法第三三七条第二号が免訴理由とするところのものは、犯罪後諸般の事情により取締対象たる行為に対する法律的評価乃至法律感情が変更をみせ、処罰価値がなくなつたために、裁判所において不処罰とするという点にその実質的な根拠があることは、異論のないところである。従つて法廃止後もなお右変更のない限りは本条第二号に該当せず、犯行時の罰則を依然として適用して有罪判決をなすべきものと解する。

これを要するに、公益事業令は当初から占領期間中のみ施行されることが予定されていたものであつて、唯単にその終期が不確定であつたに止まり占領終結という事情の変更があつたが違反に対する法律的評価乃至法律感情には何等の変更が見受けられず、従つて公益事業令の失効前の違反行為に対しては、失効後においてもなお従前の罰則を適用すべきものと解するものである。この見解は他のポツダム政令についても妥当するところであり、昭和二八年四月三〇日言渡最高裁判所判決も右見地に立つて上告棄却を言渡されたものと解する。

然るに、原審判決は前記の如く右に反する見解をとり、本件に免訴の言渡をしたのは公益事業令の解釈適用を誤つたものであつて違法である。

以上の理由により原審判決が、明文なき限り公益事業令の失効後、失効前の違反行為を処罰するに由なしとし、且つ又犯罪後の法令により刑の廃止あつたときに該当するものとして、免訴の言渡をしたのは、公益事業令並びに刑事訴訟法第三三七条第二号の解釈並びに適用を誤つた違法があり、この誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、これを破棄の上原審裁判所に差戻すべきである。

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