広島高等裁判所 昭和28年(う)532号 判決
所論は要するに、原判決がその理由の冒頭において、共同募金支出行為の違法性の限界について説示しているところは、社会通念を無視超越した独善的なものであつて、法の解釈を誤つた違法があるというにある。
なるほど原判決がその冒頭において共同募金をたとい一時たりとも他の用途に流用することは許されないところであり、又之を本来の目的に反する用途に支出することはそれが募金成績を向上せしめる結果を招来したとしても違法たるを免れ難い等と説示していることは所論引用の通りである。しかし記録並びに原審と当審で取調べた証拠を検討してみると、共同募金運動は社会連帯の精神に基き国民助けあいの実を上げるため、国民一般より浄財を募り、之を民間社会事業団体等に配分し、以て同事業の充実発展を期すると共に民生の安定社会福祉の増進に寄与せんとして昭和二十二年全国的に展開された奉仕を目的とする慈善運動であつて、広島県においても右趣旨に則り県民生部が中心となり関係団体の協力を得て準備を進め、同年十月六日県知事を会長とし社会各層より委員多数を委嘱し、右運動を主宰運営すべき広島県共同募金委員会を結成(当時は単なる団体であつたが昭和二十七年三月社会福祉法人となる)し、その後各種報道機関を通じ、或はポスター、ビラ等により県民一般に前記募金の目的趣旨を訴えて募金活動を展開し、初年度において約二千八百万円昭和二十三年度において約三千三百万円の寄付金を集めたのであるが、之等の募金は貧者の一燈をも含む文字通りの浄財であつて、その応募者等は自己の寄付金がそのまゝ社会事業団体たる受益者に配分されるものと信じ、且つそれを期待して募金に応じたものであることが明白である。してみれば右応募金員は本来の目的に即して受益団体に配分されるため同委員会を構成する委員全員に信託されてその所有に帰しているに過ぎないものと解すべきである。従つて同委員会は募金を管理処分するにあたり、共同募金事業の目的と信託の趣旨に従い、冗費を節約し、同事業の運営管理に必要欠くべからざる費用の支出は兎も角苟くも右の目的及び趣旨より逸脱するような支出を自制し、以てより多くの浄財を速かに受益団体に配分すべき義務を負担しているものといわなければならない。そして之は委員の総意を以てするも動かし難いところのものであるから、況んや同委員会の選任を受けて執行部を担当していた被告人等としては委任の範囲を潜脱してはならないのはもとより、前記義務に拘束されることも当然の事理である。なお募金以前の借入金は後日募金より支払わるべきものであり、且つ現実に支払われているのであるからその性質所有関係ともに募金と同視すべきである。(但し委員会結成以前の借入金は準備委員会の所有である)而して原判決の説示しているところも、帰するところ右の理を述べているに過ぎないから法の解釈を誤つた違法があるとはいえない。論旨は理由がない。
(被告人加藤関係)
第一点について
しかし先に述べた(一、(イ)の項参照)ように本件の共同募金は広島県共同募金委員会が私設社会事業団体並びに施設等に配分することを予め宣明して篤志家をはじめ一般県民より募つた浄財であつて、その所有権は被告人加藤をはじめ多数の委員を以て組織された同委員会に帰属しているとはいえ、もともと同委員会は受益団体ではなく、単に募金及び配分を窮局の目的とする中間団体に過ぎないのであるから、その所有権は無制限のものでなく、速かに募金事務を結了して之をより多く受益団体に配分すべく義務づけられているものといわなければならない。いわば一種の信託譲渡に外ならないのである。従つて同委員会が自律の準則によつて前記募金を管理処分し得べきことは所論の通りであるが、それはあくまでも募金の目的と信託の趣旨に反しないことを前提とするものでなければならない。ところで原判決挙示の証拠に徴すれば、同委員会はその代表者として委員長を選任する一方事務局を設置し、同局に事務局長一名(後に次長一名を置く)幹事長一名幹事数名を配置し、幹事が上司の指揮監督の下に共同募金を保管すべく定めた上被告人永岡、同坂谷、同山田その他の者を原判示の如く順次事務局職員に選任したものであることが認められる。されば事務局に職を奉じていた前記被告人等が同委員会の委託を受けて共同募金の保管義務を担当していたことは明瞭であり、この点に関する原判示は必ずしも明瞭ではないが、全判文を通読すれば、以上と同趣旨であることを自ら理解し得る。而して原判決が被告人加藤の犯罪事実として判示しているところは、その判文に徴し明瞭な如く、同被告人が、事務局職員として共同募金を業務上保管していた原判示関係被告人或はその他の者(即ち身分ある者)と通謀して判示の如く之を費消又は支出或は交付を受けて横領したというのであるから、業務上横領罪の説示として何等欠くるところはない。されば本件の共同募金に委託関係がなく、且つ業務上の占有を侵したことについて説示を欠くとの所論は採るを得ない。
(裁判長判事 伏見正保 判事 村木友市 判事 溝口節夫)