広島高等裁判所 昭和28年(う)802号 判決
職権によつて調査するに、原審第三回公判調書によれば右公判期日(昭和二八年九月二二日)において検察官が井上玄智(二通)宮田茂(一通)及び被告人(二通)の各検察事務官に対する供述調書の取調を請求し、裁判官はいずれもこれを採用の上取調をした旨記載があるけれども、それらの供述調書は本件記録を通じ何処にも編綴されていないので果して如何なる内容の供述調書であるか全く不明である。
尤も記録によれば井上玄智(二通)宮田茂(一通)及び被告人(二通)の各検察官に対する供述調書が編綴されており、前記各供述調書がこれに該当するかの如く見られるけれども、仮にそうだとしても該調書のうち井上玄智、宮田茂の各検察官に対する供述調書は原審第二回公判期日において取調べた証人井上玄智、宮田茂が検察官の面前における供述と相反するか若しくは実質的に異つた供述をしたので、検察官としては右検察官に対する各供述調書を刑事訴訟法第三二一条第一項第二号の書面として取調を請求すべき筋合であり、且又記録全体を通読すると検察官は斯る趣旨の下に提出したものであると解するのが相当であると認められるに拘らず、これを刑事訴訟法第三二八条の書類として提出され、取調がなされている。而も右井上玄智の検察官に対する供述調書の記載によれば、原審が証明不十分として無罪の言渡をした本件起訴状第一事実(記録によれば同事実について供与を受けた井上玄智は既に有罪の確定裁判を受けている)の事実認定を左右するに足る重要な証拠であることが推認できるので、斯る証拠の取調をなすに当つては取調を求める趣旨並にその根拠をなす法条について前記の如く不明確の廉あるにおいては、釈明権を行使しこれを明確にすべきであるといわねばならない。