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広島高等裁判所 昭和28年(ネ)26号 判決 1953年6月02日

控訴人(原告) 田中基

被控訴人(被告) 山口労働者災害補償保険審査会

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、口頭弁論期日に出頭しないけれども、その提出した控訴状の記載によれば「原判決を取消す。被控訴人が昭和二十六年八月六日控訴人の審査請求に対してなした決定はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求めるというのであり、被控訴代表者は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並に証拠は、何れも原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

控訴人が昭和十五年十月から小野田市桜山炭坑に仕操夫として雇われており、昭和二十三年十一月十二日同坑内で採炭作業中右眼に傷害を受けたこと。昭和二十四年七月二十九日小野田労働基準監督署長が、右右眼の障害等級を、労働者災害補償保険法施行規則(以下単に規則と略称する)別表第一の第九級と決定したこと。控訴人が、その後外傷性神経症の疑のもとに右署長の再発認定を受け、昭和二十五年二月一日九州労災病院に入院加療中同年八月十四日頭部外傷後貽症(歩行障害)と診断されたこと、これに基き、前記署長が、同年同月二十五日右災害の障害等級を規則別表第一の第八級とし、前記右眼の傷害もあるので規則第六条第三項第一号により、原告の障害等級を規則別表第一の第七級と決定したこと、控訴人が、右決定に対し保険審査官及び被控訴人に夫々審査を請求し、被控訴人が、昭和二十六年八月六日右小野田労働基準監督署長の決定を認めて控訴人の審査請求を排斥したことは当事者間に争がない。

そこで小野田労働基準監督署長が決定をした右昭和二十五年八月二十五日当時の控訴人の頭部外傷後貽症(歩行障害)について考察するに、成立に争のない乙第八号証の三に、原審証人中村敬三の証言によつて成立を認め得る甲第二号証、原審証人中村敬三同渡辺健児(但し後記信用しない部分を除く)の各証言を参酌すると、両下肢には筋萎縮及び筋肉の硬直なく、腱反射は中等度に亢進するが足交代膝蓋交代が認められず、時に右側にバビンスキー氏現象を示すことはあつたが病的反射は一般に認められず、深部感覚は左側に稍々障害があつたが一般に正常で、表面知覚に異常は認められなかつたこと。歩行は鶏状歩行をし且つ一見痙性歩行を思わせる一種独特の歩行をし、歩行運動に際し両下肢特に大腿諸筋は屈伸とも粗大な震顫を示し、特に体重のかかる場合に増強し、精神的緊張により軽度に増悪すること。右歩行障害は頭部外傷に由来する外傷性神経症に基くものであるが、神経系統に器質的変化なしとは断定し得ないこと。この歩行障害のため軽易な労務の外服することができないことが認められ、これに反する甲第一、三号証、原審における証人渡辺健児の証言は信用しがたく他に右認定を左右すべき証拠がないから、控訴人の右歩行障害は業務上の事由によるものであつたとしても、その障害等級は規則別表第一の第八級三号に該当するに過ぎないものである。

控訴人は、右歩行障害は、規則第六条第四項により同別表第一の第六級六号に該当すると主張するが、本件障害は前認定のとおりであつて一下肢の三大関節中の二関節の用を廃したものではなく又これに準ずべきものでもないから、右主張は採用し得ない。

そうすると、控訴人の身体障害の等級は、規則第六条第二項第三項第一号により同別表第一の第七級となる訳であるから、被控訴人が同等級と定めた小野田労働基準監督署長の決定を維持して控訴人の審査請求を排斥したのは相当であつて、その取消を求める控訴人の本訴請求は失当であるからこれを棄却すべく、これと同旨に出た原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三百八十四条第一項によつてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき同法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡田建治 大賀遼作 鳥羽久五郎)

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