広島高等裁判所 昭和29年(う)15号 判決 1954年4月21日
控訴人 被告人 田川伊三夫 外一名
検察官 岡辺正男
主文
原判決を破棄する。
本件を福山簡易裁判所に差し戻す。
理由
弁護人早川義彦、高橋禎一の控訴の趣意は記録編綴の高橋禎一作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
これに対する当裁判所の判断は次の通りである。
論旨第五点(訴訟手続の法令違反)について
記録を調べてみると、本件昭和二八年一〇月八日の原審第一回公判調書には、その末尾に裁判所書記官補檀上清高の署名押印があるにかゝわらず、その冒頭には裁判所書記官補小畠保身が同公判に列席した旨の記載がなされていることは所論のとおりである。ところで刑事訴訟規則第四六条第一項により公判調書に署名押印することを要する裁判所書記官は当該公判に列席した裁判所書記官であることはいうまでもないところであるが、右裁判所書記官補檀上清高が同日の公判に列席したことは同調書によつては証明することができない。そして公判期日における訴訟手続で公判調書に記載されたものは公判調書のみによつてこれを証明することができるのであつて、公判調書以外の資料によつて証明することのできないことは刑事訴訟法第五二条の明定するところであるから、裁判所書記官補檀上清高の作成した前記調書は公判に列席しない者の作成した公判調書として無効のものであるといわなければならない。
そして右公判調書は、被告人等に対する原審第一回公判に関するものであつて、被告人等の本件についての陳述等公判調書の必要的記載事項に属する重要な訴訟手続が記載され、殊に右の供述は原判決において証拠として採用されているところであるから、右調書が無効のものである以上、右の法令違反は明らかに判決に影響を及ぼすものというべきであるから原判決はこの点において破棄を免れない。論旨は理由がある。
よつてその他の論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条第三七九条により原判決を破棄し同法第四〇〇条本文に従い本件を原裁判所へ差し戻すべきものとし、主文のとおり判決する。
(裁判長判事 榊田躬則 判事 尾坂貞治 判事 石見勝四)
弁護人高橋禎一の控訴趣意
第五本件第一回公判(昭和二十八年十月八日)には裁判所書記官補小畠保身が立会いその公判調書は同檀上清高が作成したるの違法ある如し、然らば該公判調書は無効であつて、然らば原審判決はこの調書の記載を証拠として採用しているのでその点も違法となる。そしてこれは勿論裁判に影響することとなり原審判決は破棄さるべきである。
(その他の控訴趣意は省略する。)