広島高等裁判所 昭和29年(う)217号 判決
所論の要旨は、被告人は本件において窃取した魚類を運搬するため、附近にあつた自転車を一時使用したに過ぎない。従つて右自転車については不法領得の意思なく、窃盗罪は成立しないというにある。よつて記録並に原審において取調べた各証拠を検討すれば、被告人は原審相被告人浜本勝美と共に判示下関魚市場において、同所に積み重ねてある箱詰の鮮魚を窃取しようとして、右市場内にあつた渡辺利雄保管に係る自転車に該鮮魚四箱を積載し逃走しようとして附近鉄道引込線に差蒐つた際、偶々附近を警邏中の警察官に発見逮捕せられたものであること並に被告人において後に右自転車を返還する意思は存しなかつたことを夫々認定することができる。
してみれば被告人は、単に右自転車を一時使用するに止らずして終局的に被害者の所持を奪い、事実上自己の完全な支配に移し、これを使用、処分する意思があつたというべく、所謂不法領得の意思がなかつたとは到底認めることができない。従つて該自転車についても窃盗罪が成立すること勿論であり論旨はすべて理由がない。
(裁判長判事 柳田躬則 判事 尾坂貞治 判事 石見勝四)