大判例

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広島高等裁判所 昭和29年(う)305号 判決

所論は、原審の公判手続殊にその証拠調手続は刑事訴訟法の精神に違背し違法であると主張する。よつて原審における訴訟手続を記録に基いて調査すると、原審第一回公判において被告人は検察官の本件起訴状朗読に対しこれを否認する趣旨の陳述をしたので(後に被告人は更に原審に上申書を提出して本件に関する自己の立場等を詳細弁解している)検察官は右公訴事実を立証するため国光弘治外八名の司法警察員に対する各供述調書及び証人趙禹洪、鄭逸孫の取調請求を為し、右各供述調書及び証人趙禹洪は即日その取調が行われ、証人鄭逸孫は次回喚問となり、更にその日弁護人からも証人四名の喚問及び書類提出命令等の証拠調請求が為されたが、第二回公判以後においてこれらの証拠調が行われると共に更に双方から攻撃、防禦に関する多数の証人、書証、証拠物等の取調請求が次々と為され、それぞれその証拠調が行われて結審に至つたものであることが認められる。従つて本件証拠調は所論のように弁護人側の証拠調が先に行われたものとはいえないのみならず、元来検察官は公訴事実立証の責任者として、まず事件の審判に必要と認めるすべての証拠の取調を請求すべく、又証拠調については、まず検察官が取調を請求した証拠で事件の審判に必要と認めるすべてのものを取調べ、これが終つた後被告人又は弁護人が取調を請求した証拠で事件の審判に必要と認めるものを取調べるのが証拠調の順序の一応の基準とするところではあるけれども、しかし裁判所は相当と認めるときは随時必要とする証拠を取調べることができるし、又右の証拠調が終つた後においても、必要があると認めたときは更に証拠を取調べることもできるものであることは刑事訴訟規則第一九九条の明定するところであつて、即ち証拠調については広く裁判所に裁量権が留保されているのである。そして裁判所は事案の性質と争点、立証の範囲とその程度、当事者双方の証拠調請求の状況、取調の迅速と公平等の諸点を勘案して適宜個々の証拠調を行うことができるのであつて、本件においても右の諸点に鑑み前記原審の採つた措置は相当であると認められるのみならず、被告人又は弁護人は右の証拠調に対し格別異議の申立をした形跡も認められないから、これを目して刑事訴訟法の精神に反する違法の手続であると非難するのは当らないものといわねばならない。又被告人の検察官に対する供述調書等は見当らないところであるけれども、しかし検察官は必ずしも被告人調べをした上でなければ起訴ができないわけではないし、なお記録によると、被告人は前記のように原審第一回公判の冐頭手続等において本件被告事件について弁解を述べて居り、原審もこれに基いてそれぞれ証拠調を行つたものであることが認められるから、この点においても原審の手続に何等所論のような違法のかどはない。論旨は理由がない。

(裁判長判事 柳田躬則 判事 尾坂貞治 判事 石見勝四)

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