大判例

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広島高等裁判所 昭和30年(う)142号 判決

原判決は、被告人が藪下茂子を殺害した事実を認定しその所為は刑法第一九九条に該当すべきものであるとしながら、被告人は右犯行当時被殺者の承諾を得たものと誤信していたものであるから同法第三八条第二項に従つて同法第二〇二条後段により処断すべきものであるとして懲役四年を言渡していることは所論のとおりである。

そしてこの点に関する原判決の事実判示をみるに、原判決は「――被告人は絶望の余、これ程にまで思いつめている茂子との結婚が果せない位なら、最早同女を承諾させて同死するの他なしと決意し、同女に向つて一緒に死んでくれと繰返し要求し、これを拒み続けてはいたもののどうしても承諾させなければやまない被告人の執拗な強要に対して遂に拒絶の方法に窮した同女の挙動を以て同死を承諾したものと誤信し――」と認定判示しているけれども、所論指摘の各証拠その他記録に現われた諸般の証拠に徴するときは、右のように承諾を誤信して犯行に出たものとは到底首肯し難い。本件においてはその際被殺者の藪下茂子が果して同死を拒否したものであるか又はこれを承諾したものであるかが重要な点なのであるが、記録に現われた諸般の証拠によるも右は必ずしも明確であるとは言えず、且つ一概に拒否したとばかりは見受けられないふしもある。(尤も承諾があつたとしてもそれが詐欺、脅迫等に基くものであつて任意且つ真実に出たものでないときは承諾があつたとは言えない。)要するに、原審はこれらの点につき未だ審理をつくさず延いて事実の誤認を来たした疑があり且つ右の誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決はこの点において破棄を免れない。論旨は結局において理由があるに帰する。

(裁判長判事 柴原八一 判事 尾坂貞治 判事 池田章)

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