広島高等裁判所 昭和30年(ラ)5号 決定 1955年4月11日
抗告人 船越精一
訴訟代理人 角田正太郎
主文
本件抗告を棄却する
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
本件抗告理由は、未尾添附別紙記載の通りである。
抗告理由第一点について。
会社更生法第七十一条に従い「訴訟の移送を求める決定」のなされた場合、その移送を求められた訴訟の当事者は右決定の当事者でないから、右訴訟当事者に対して右決定を送達する必要はないのみならず、右決定に対しては、同法第十一条により不服申立の許されないことは明らかであるから、移送を求められた訴訟の当事者は利害関係人としても右決定に対し即時抗告をなし得ないものといわねばならぬ。およそ決定は相当の方法を以て告知された時には、その確定を待たずその効力を生ずるものであるから、同法第七十一条の「移送を求める決定」は、移送を求められた裁判所に対し通知せられた時にその効力を生ずるものと解すべきである。従つて、本件の場合、更生裁判所たる神戸地方裁判所豊岡支部が本件訴訟事件の移送を求める決定をなした上、米子簡易裁判所に対し右決定の通知をなしたものである以上、米子簡易裁判所に対しては右決定はその効力を生じ、同裁判所はこれに拘束せられることは明らかであつて、論旨は理由がない。
抗告理由第二点について。
会社更生法第七十一条に基き更生裁判所が「訴訟の移送を求める決定」をなし、これをその訴訟の係属する裁判所に通知した場合その決定は直ちにその効力を生ずることは前に論じた通りであり、移送を求められた裁判所は、更生裁判所において右の如き決定をなした事実を右通知により確認し得る以上、同条第四項の場合を除き、常にその決定に拘束せられ、その訴訟を更生裁判所に移送すべきものであつて、右「移送を求める決定」が更生事件の関係人に送達せられたか否かを審査する必要のないものである。従つて、本件の場合米子簡易裁判所が、更生裁判所たる神戸地方裁判所豊岡支部の前示通知に基き、直ちに本件訴訟を同支部に移送する決定をなしたのは相当であつて、論旨は理由がない。
よつて、民事訴訟法第四百十四条、第四百一条、第八十九条に従い、主文の通り決定する。
(裁判長裁判官 植山日二 裁判官 佐伯欽治 裁判官 松本冬樹)
再抗告理由
第一点原決定は会社更生法第七一条の解釈を誤つたものである。同条規定の「移送を求める決定」があるときは、移送を求められた裁判所はこれに拘束されて移送を義務づけられることは法文に明らかである。そうであるのに右「移送を求める決定」には効力を生じないもの或は未確定のものでも含まれるとすれば訴訟当事者はその裁判を告知されず又不服申立の機会を与えられないことになり、裁判に対する不服申立の権利を剥奪される結果となる。従つて右「移送を求める決定」は有効且つ確定のものであることを要すると解しなければならない。ところが本件「移送を求める決定」は更生裁判所がその裁判書を作成したに止まりこれを当事者に告知していないから未だ裁判の効力を発生しておらず又確定しておらないのである。然るに原審が「更生裁判所より移送を求める決定をしたことの通知があつた」事実だけで一審裁判所の決定を是認したのは違法である。
第二点原決定理由中「移送を求める決定をしたことの通知を受けた原裁判所としては一応その決定が有効に存在するものと認める外はないのである云々」と説示されているが、その「移送を求める決定」は移送を求められた裁判所を拘束すること第一点に述べた通りであるから、移送を求められた裁判所は職権を以て「移送を求める決定」が効力を発生し又確定したものであるかを調査せねばならないのに、かかる調査を為さずして移送の決定をしたのは審理不尽を看過した原決定は違法である。