広島高等裁判所 昭和31年(う)564号 判決
検事の所論は原判決が被告人に原審における未決勾留日数中四〇日を刑期に算入しているが、昭和三一年六月一二日本件公訴事実につき原審に起訴したが、被告人は当時既決囚として服役中であつたので、勾留状の請求もせず、又勾留状が発せられたこともないのであるから、被告人には未決勾留日数は全く存しなかつたのであり、これを算入した原判決は刑法第二一条の適用を誤つたものであると主張し、弁護人の所論は本件のように未決勾留日数がないのに、これを算入する旨言渡してもこの部分に限り当然無効であるから、被告人がこれにより不法に利益をうることなく、右法令の適用の誤は判決に影響を及ぼさないと主張するのである。
記録に徴するに、被告人は昭和二九年六月二一日広島簡易裁判所で賍物寄蔵賍物故買罪により懲役一〇月罰金一〇、〇〇〇円に処せられ、該判決は昭和三〇年四月一日確定し、右懲役一〇月の刑につき昭和三一年四月一四日から執行を受け広島拘置所において服役中であること、同年六月一二日本件公訴事実につき広島簡易裁判所に起訴せられたが、本件については勾留状が発せられたことがないことが認められるのである。しかるに原判決は原審における未決勾留日数中四〇日を刑期に算入する旨言渡したのである。これは何等かの錯誤によるものであつて、刑法第二一条の適用を誤つたものといわねばならない。弁護人はこれを該部分は当然無効で判決に影響を及ぼさないと主張するのである。なる程算入すべき未決勾留日数が全然ないのに、原判決が原審における未決勾留日数中四〇日を刑期に算入するとした部分は、全く実質なき無用の空文であるけれども、右は記録を調査して始めて認めうるものであつて、判決自体からはその瑕疵を発見することができないもので、形式的には被告人の利益となつているものといわねばならない。それ故弁護人所論のように判決に影響を及ぼさないとはいえない。検事の論旨は理由がある。
(裁判長判事 村木友市 判事 小竹正 判事 高橋正男)