大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 昭和31年(く)4号 決定 1956年4月26日

本籍 山口県○○郡○○村○○○番地

住居 ○○○市○○通り○○工業所内

少年 左官職見習 山川一平(仮名) 昭和十一年七月二日生

抗告人 法定代理人

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告申立の要旨は、少年が一再ならず非行を重ね非常な御迷惑をかけまことに申訳けなく、これひとえに抗告申立人等保護者の愛情の不足と指導の誤つたことによるものと深く反省している。少年自身も遅きに失するうらみはあるが、深く前非を悔悟し、再び非行を繰り返さぬことを誓つており、抗告申立人等両親としても今後充分意を用いて少年が二度と御迷惑をかけることのないようにする覚悟である。なお少年は目下○○工業所の左官職内弟子として熱心に修業中であつたので、此の際本人の志を挫折せしめ更に将来特別少年院における空白のため、前職に復帰できぬような結果となり、却つて何等生業を持たない身となつて再び悪の途を踏むこととなるを危惧するものである。右の事情を斟酌して少年を憐憫の上穏便な御処分願度く抗告に及んだ次第であるというのである。

所論は原決定に処分の著しい不当があるというに帰するか、各少年保護事件記録、少年調査記録を精査検討するに、少年は既に昭和二六年以降四度窃盗保護事件により山口家庭裁判所に送致されており、その間初等少年院に送致されたに拘らず、昭和三〇年三月一一日またまた窃盗、窃盗未遂保護事件により同裁判所に送致され、その審判期日を前に保護者である抗告申立人方より家出し、その所在を或は大阪に、京都に、姫路にと転々し、その間非行のみるべきものはないとはいえ虞犯性の著しいものがあり、抗告人主張の○○工業所に左官見習となつたというも、昭和三〇年一二月一五日から逮捕される(昭和三一年二月二七日)までの間に過ぎない。少年の前歴、性格等に鑑み、右の期間果して少年に左官職えの希望をもたせ、従来の軽浮性、家出、浮浪性を一てきせしめたとは認め難い。その他記録を精査するも原決定が少年を特別少年院に送致したことを著しい不当であるとは認められない。

よつて本件抗告は理由がないから少年法第三三条第一項により棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 伏見正保 判事 村木友市 判事 小竹正)

別紙(原審の保護処分決定)

昭和三〇、三一年少第二一四、二五五号窃盜保護事件

送致決定

職業 左官職見習

少年 山川一平(仮名) 昭和十一年七月二日生

本籍 山口県熊○○郡○○村○○○番地

住居 ○○○市○○通り○○工業所内

主文

少年を特別少年院に送致する。

理由

一、罪となるべき事実

別紙犯罪一覧表記載の通り

二、上記事実に適用すべき法令

刑法第二三五条同法第六〇条(未遂の点は同法第二四三条同法第二三五条)

三、主文記載の保護処分に付すべき事由

本件の問題点

少年の性格

知能の組織的活動が不充分で被影響的判断に陥り易いこと

軽浮性の著しい退行的人格者であり社会的態度に反社会的不適応性が認められ家出浮浪性が強いこと。

家庭環境

両親健在であるが家族多く、放任状態であること、少年は家庭に於て精神的安定感を持たず且つ又父母に接近することを好まず常に家出して交友関係不良となつて居ること

少年の非行歴

少年は昭和二六年四月四日窃盜事件により保護観察処分となり次いで昭和二六四月二四日窃盜再犯により広島初等少年院送致となつて、昭和二七年六月二〇日同院を仮退院したがその後昭和二八年三月一一日窃盗事件により試験観察六ヶ月となりその経過後間もなく窃盗を犯し昭和二九年六月一六日前件と併合して再び試験観察六ヶ月に付した処、少年の更生が見えたので同件は不処分となつたが事実は異り保護者の目を隱れて交友関係不良となり遂に本件を敢行したものであつて、別紙犯罪一覧表第八乃至第一三の非行事実により当庁に身柄付送致となり観護措置後在宅にしたが審判の再々の呼出に応ぜず一年足らず所在を晦し各地で職につくも永続きせず転々として居つたものであつて、犯罪一覧表中第一乃至第七の余罪により指名手配中帰郷した処を逮捕送致されたものである。

以上の問題点と共犯者が同事件により少年院送致となり仮退院して居る現在而も本件少年が主導的立場にあつて一年足らず免かれて毫も恥ない態度等を綜合勘案して現在左官職見習として更生して居る様に見えるが少年の犯罪的傾向は相当進んで居ると認めら七〇れるから少年法第二四条第一項第三号少年審判規則第三七条第一項少年院法第二条第四項により主文の通り決定する。

(昭和三一年三月二九日山口家庭裁判所、裁判官 榧橋茂夫)

窃盗犯罪一覧表

共犯者

非行日時

非行場所

被害者

被害品目

数量

価格

1

○東○

○村○男

昭和

29. 6.22

宇部市○○区○○○良○雪方○○倉庫

○良○雪

板チヨコ

キヤラメル

360個

14個

9780円

2

○堀○晴

29. 6.28

同上

同上

板チヨコ

ビール菓子

3箱

1罐

29920円

3

○堀○晴

○村○男

29. 7. 1

同上

同上

羊羹

18箱

6000円

4

同上

29. 7.22

宇部市○○区○○

○井○一方

○井○一

玄米

1石4斗

14000円

5

同上

29. 7.29

宇部市○○区○○原

○村○治方

○村○治

玄米

1石3斗8升位

13800円

6

同上

29.11. 2

宇部市○○区○○○○

○上○吉方

○上○吉

糯玄米

穀類

6斗

1石8斗5升

24200円

7

○東○

○村○男

29.12. 8

宇部市○○○区○○

○田○方

○田○

粳玄米

糯玄米

8斗位

6斗位

14000円

8

○村○男

○川○人

29.12.30

宇部市○○区○○原

○村○夫方精米所

○村○夫

酒造米

2石7斗

障碍未遂

9

○村○男

○川○人

30. 1.

宇部市○○区○○○○○○厚生市場内

○崎○雄

○村○一

鯨肉

まぐろ、ひらめ

2貫目

750円位、500円位

3100円

○富 ○

上旬頃

○重○与

干柿、密柑

するめ、庖丁

4本、400円位

10枚、1本

10

同上

30. 1.12頃

宇部市○○区○○

○石○雄方

○石○雄

生菓子

キヤラメル

50ヶ位

8箱位

660円

11

同上

30. 1.15頃

宇部市○○区○○○○

○間○十方

○間○十

粳玄米

リヤカー

9斗位

1台

17000円位

12

同上

30. 1.19頃

同市○○区○○原

○良○○方

○良○弥

密柑

1貫500匁位

300円位

13

同上

同上

同市○○区○○原

○岡○方

○岡○

粳玄米

7斗5升位

7500円

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例