広島高等裁判所 昭和33年(う)244号 判決
しかし原審は、判示第二において所論の事実について、被告人が古賀貴より後刻その報酬として金員の供与を受けることを約束した上モーターボートレースで故意に着外になつて不正の行為をしたこと即ち所論のいわゆる賄ろ約束罪を認定したものであることは、その判文自体並に擬律の個所における没収についての説明を見れば明かであつて、所論のいわゆる賄ろ収受罪を認定したかの如く見受けられる判示即ち原判示第二の括弧内の被告人が亀福旅館で不正行為の報酬として一五、〇〇〇円を収受した旨の説示は犯罪事実自体として摘示したものではなく==犯罪事実自体の摘示は通常括弧を用いず、括弧内の摘示は犯罪事実についての何等かの補足的説明等に過ぎない==前記の如く没収についての擬律の説明と相俟つて原判決の主文第三項に記載の没収についての根拠を具体的に示したものに過ぎないことが窺えるのみならず、之をモーターボート競走法(原判示のもの即ち昭和二六年法律第二四二号)の罰則たる同法第二九条第二項の文理解釈に従うときは賄ろを収受し因つて不正行為をした場合と、本件の如く賄ろを約束し因つて不正行為をしたときを分けて規定するところより見て、同条第二項の賄ろ収受罪が成立するが為には、不正行為を行う以前に賄ろを収受することを要し、その然らざる場合即ち本件の如く賄ろを約束しよつて不正行為を為しその後において報酬(賄ろ)として金員を収受した場合は所論のいわゆる賄ろ約束罪が成立するに止まり所論の如く賄ろ収受罪が成立しその約束罪は之に吸収されるものではないと解すべきである。尤も同条第一項によれば選手が、競走に関し賄ろを収受したときは三年以下の懲役に処する旨を規定していて、その収受は競走の前後を問わないものと解せられないこともないが、これと同条第二項の収受とはその規定の内容、構成要件並にその法定刑の相違等により、前者はとも角として後者はあくまでも競走以前に収受しその結果不正行為をしたものであることを要するものと解すべきであるから原審が訴因の変更等を命ずることなく所論のいわゆる賄ろ約束罪を認定擬律したことはもとより相当であつて何等所論の如き法令違背若くは理由不備の違法はない。論旨は理由がない。
(裁判長判事 柴原八一 判事 林歓一 判事 牛尾守三)