広島高等裁判所 昭和33年(ネ)137号 判決 1959年7月06日
広島市霞町
控訴人広島国税局長
武樋寅三郎
右指定代理人
西本寿喜
同
加藤宏
同
米沢久雄
同
田原広
同
常本一三
同
笠行文三郎
同
中本兼三
山口県山口市大字下金古曽七番地
被控訴人
矢次喜一
右訴訟代理人弁護土
徳富菊生
右当事者間の昭和三十三年(ネ)第一三七号所得税課税標準審査決定取消請求控訴事件につき当裁判所は次のように判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張及び証拠の関係は、控訴代理人において、「審査決定通知書に理由を附記しなければならぬ旨の規定は訓示規定である。即ち審査決定通知書の記載事項には税額、課税標準等処分の成立要件になる部分と然らざる部分がある。理由の附記は後者に属し専ら処分の受領者の便宜のためのものであつて、その理解を求めると共に将来の対策をたてるための便宜を供する目的で注意的に附記事項の記載を命じて円満なる行政運営に資せんとして設けられた訓示的のものである。従つて理由の附記を欠くことによつて無益な争訟の発生する可能性があり、税務行政運営上不都合を招来することはあつても、審査決定自体の効力には何等の影響はない。乙第十四号証の三、乙第二十二号証を援用する」と述べ、被控訴代理人において、右主張事実を否認し乙第十四号証の三の成立は認めるが乙第二十二号証の成立は不知と述べた外は、いづれも原判決事実摘示と同一なのでここにこれを引用する。
理由
当裁判所も亦原判決と同様控訴人の本訴請求を正当であると判断したがその理由は左記に附加する外は原判決理由中の説示と同一なのでここにこれを引用する。
一、控訴人は審査決定通知書に理由を附記しなければならぬ旨の規定は訓示規定であると抗争しているが、この点については既に原判決理由中に然らざる所以につき言及している通りであるが、要するに右規定は審査決定が如何なる根拠に基ずきなされたものであるかを具体的に明らかにすることにより右決定の公正を保障すると共に無用の争訟の生ずるのを避ける趣旨であると解すべきであるから右規定を目して単に行政庁に対する訓示的の規定と解すべきでなく、右理由の附記を欠けば審査決定自体が違法となり取り消を免れないものと謂うべきである。従つて控訴人の右主張は採用できない。
一、乙第二十二号証によつても原判決の認定を左右するに足りない。
しからば被控訴人の本訴請求を正当として認容すべく、右と同趣旨にでた原判決はもとより相当であつて本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して主文のように判決する。
(裁判長裁判官 岡田健治 裁判官 佐伯欽治 裁判官 松本冬樹)