広島高等裁判所 昭和37年(く)7号 決定 1962年4月17日
少年 K子(昭二二・六・二六生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の要旨は少年は鑑別所に入つて以来、非行を悔い、再び本件のような行為を繰返さないことを誓つており、少年がこのようになつた原因の大半については父母にその責任があり、少年は決して生来の不良少女ではないのであつて、将来は必ず両親において鋭意監督善導に努めるから原決定を破棄して保護観察処分に付せられたいと言うのである。
しかし少年に対する保護事件記録並びに少年調査記録を検討すると、少年は三歳にして実母に死別し爾来殆ど家庭愛には恵まれず、殊に継母との折合いは悪く屡々これと衝突し、時には殴打せられることもあり一方少年の実父も給料の大半を妻に渡さず外部で飲酒する等のことが多く従つて家庭の円満を欠くのみならず、生活も困難な、いわゆる放埒な家庭であつて少年に対する指導監督は極めて杜撰であつたところから少年は早くより従兄と肉体関係を持つに至り、又継母の仕打に対して反抗して家を出て近所に二、三日或は数日泊つて帰らないことも二、三度あり、殊に実父が昭和三十六年六月頃交通事故のため重傷して入院し、継母も亦同年九月姙娠中絶のため数日間入院するようになると屡々家出外泊するようになり遂に原決定に記載の如く氏名不詳の男達数名と性交を続け揚句の果てはこれらの者の強圧により売春婦に身を堕し不特定の男二〇名位と対価を得て性交していたこと、少年はこのことについての悔悟反省の色は殆どなく又これについての羞恥心も見受けられない状態であり、しかも最早男女関係への関心が習性に近く発展していて現在においては寧ろ異性との性交に興味を覚えつつあること、従つて家庭の保護者において余程の決心と勇気がないと保護観察処分に付することは少年のために却つて仇となりかねないこと、然るに前記のとおり少年とその継母との折合いは極めて悪く、実父の生活態度も甚だ寒心に堪えないものがあり所論に拘らずこれらの事情がその後好転しているとは到底認められないのである。
以上の諸事実よりするときは異性との交渉に異常の関心を持ち、殊に少年を操るやくざに関係のある男の存することよりして将来再び売春をするであろう危険の極めて濃厚であると言うべき少年に対しては保護能力殆ど皆無に等しく寧ろ将来一再ならず少年の家出を誘発しかねない家庭事情を考慮するときは、少年の生活環境を一新し、その人格を訓練淘治し、性癖を是正するため、これを規律ある施設に収容することこそ洵に適切妥当の措置と言わねばならないのであつて、少年の実父に宛てた書信のみを以て、少年の心境に著しい変化があり、これを家庭に復帰せしめるを相当とすべきものとは到底認め及ばないところである。
して見ると概ね叙上の見地から少年を教護院に送致した原決定は相当であつて本件抗告は理由がないから少年法第三三条第一項少年審判規則第五〇条に則りこれを棄却すべきものとする。
(裁判長判事 村木友市 判事 幸田輝治 判事 熊佐義里)