広島高等裁判所 昭和39年(う)246号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕原判決挙示の証拠によると、当時原判示のとおり同病院においては山口県及び下関市の仲介協力のもとに厚生省から受ける厚生年金九千万円の還元融資資金により大洋病院を設立し、これを厚生病院に経営委託をなし、実質的には厚生病院の拡張整備に資するよう計画予定していたところ、当時厚生病院の経営は順調に進んでいたことでもあり、更にこれを拡充整備するに至つては、下関市内で開業している一般の医師病院等は脅威を受ける結果を招来することを恐れ、同市に対し前記厚生年金の還元融資につき同意しないよう請願するとともに、同市内において発行する新聞雑誌等報道機関を利用して厚生病院を誹謗攻撃させた。被告人はこれに対抗して厚生病院の実情診療料金は適正に徴収していることその他厚生病院に有利な報道をなさしめ、事態を有利に展開すべく既に発行していた雑誌「関門往来」及び「関門の話」を一本化し、雑誌「関門往来」を発行して同病院の広報機関紙たらしめようと考え、右両雑誌の発行人であつた迫野、上原と協議した結果、株式会社関門往来を設立することとなり、同会社設立に要する株式払い込み資金を被告人において一時立替えることとし、原判示広告宣伝費の前払金二〇万円を含めて金一〇〇万円の同判示小切手を、同判示日時迫野、上原に交付した事実を肯認することができる。
<中略>厚生病院の首脳部は同病院の経理面の事務一切を被告人に一任し、新聞雑誌に対しても応分の広告費を出すことについても被告人の裁量に任せていたこと、株式会社「関門往来」を設立して厚生病院を非難攻撃する新聞雑誌に対抗させて厚生病院の実情を一般市民に報道させ、同病院のための広報活動に資せんとしていた事実が認められる。
してみれば、被告人が株式会社関門往来を設立するにつき、広告費の前払金二〇万円を含む金一〇〇万円の小切手を振出し、中八〇万円を一両日貸与することは首脳部の了解のもとに被告人に一任されていた事務の範囲内であり、被告人の権限内の行為に属していたものと認めざるを得ないし、しかも被告人としてはもつぱら厚生病院の利益を図るための処置であつて、反射的には株式会社「関門往来」の利益にもなつているけれども、被告人に原判示金八〇万円を不法に自己又は第三者のために領得する犯意があつたとは断定し難い。(高橋英作(転任につき署名押印できない)福地寿三 浅野芳朗)