広島高等裁判所 昭和44年(う)125号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕所論は、原判決は、被告人が原判示自動車を運転中業務上の過失に基因して惹起した人身事故に関し、「被害者中司ミキに対し加療六ケ月以上全治不明の頭部外傷、顔面擦過傷、右眼失明の傷害を負わせた」旨判示し、右認定の証拠として医師玉田太郎作成の診断書ならびに、大阪地検交通部から山口地検岩国支部宛の昭和四四年二月一八日付電信回答書を挙示しているが、受傷直後の右診断書には、約一ケ月間の安静加療を要する顔面挫創とあり、また電信回答書には、昭和四四年二月一八日現在通院治療中で全治期間不明の頭部外傷、顔面擦過傷、右視力障害とあるのみで、右挙示の証拠を検討してみても、同女に対し右眼失明の傷害を与えたことを認めることはできず、従つて、原判決は右の点において、その認定事実と挙示する証拠との間に理由のくいちがいがあり、破棄を免れない、というのである。
そこで、記録を検討するに、原判決は、自動車運転の業務に従事する被告人が原判示自動車を運転中、同判示のような業務上の過失に基因して対向車と激突し、対向車の運転手佐古実雄を肋骨骨折を伴う胸部圧挫傷が原因で受傷ほどなく死亡させ、同車の同乗者のうち佐古久美子に対し加療約二ケ月間を要する顔面挫創、左膝部挫創、左前腕骨折の、佐古ひとみに対し加療約一週間を要する額部挫創の、佐古正孝に対し加療約一週間を要する左下腿割創の、自車の同乗者のうち田中柳吉に対し加療六ケ月以上全治不明の頭部外傷、右肩関節脱臼、後遣症頸推捻挫の、中司ミキに対し加療六ケ月以上全治不明の頭部外傷、顔面擦過傷、右眼失明の各傷害を負わせた旨の事実を認定判示し、所論指摘の中司ミキに対する傷害の点にに関する認定証拠として、医師玉田太郎作成の診断書ならびに、大阪検交通部から山口地検岩国支部宛の昭和四四年二月一八日付電信回答書を挙示しているところ、右中司ミキの受傷に関する挙示の証拠によれば、同人は本件交通事故によつて、顔面打撲に基因する頭部外傷、顔面擦過傷、右(眼)視力障害の傷害をうけ、昭和四四年二月一八日現在通院治療中で全治見込期間不明の状態にあることが認められるが、右挙示の証拠からは、原判決のごとき右眼失明の受傷事実を認めることはできず、原判決はこの点において、同人の受傷態様に関する認定事実と挙示の証拠との間に理由のくいちがいがあるものといわざるを得ない。
しかしながら、同人の受傷に関する認定事実と挙示の証拠との間における理由のくいちがいの程度は、右眼失明と右(眼)視力障害の差違に違ぎないばかりでなく、右は同人の受けた傷害の一部にとどまり、加えて前示のごとく、同一の交通事故によつて、同人のほか多数の被害者に対して死傷の結果を与えた本件については、右程度のくいちがいは、刑事訴訟法三七八条四号のいわゆる絶対的控訴理由である「判決に理由のくいちがいがある」場合には該らないものと解するのが相当である。従つて、原判決には破棄に値するだけの理由のくいちがいがあるものということはできないから、論旨は結局理由がない。(高橋英明 浅野芳朗 丸山明)