広島高等裁判所 昭和44年(ラ)40号 決定 1969年12月15日
抗告人
北山正雄
代理人
中園勝人
相手方
本多木材産業株式会社
主文
原決定を取り消す。
相手方の異議申立を却下する。
異議申立の費用及び抗告費用は、相手方の負担とする。
理由
本件抗告申立の趣旨とその理由は、別紙抗告状記載のとおりである。
<証拠>によれば、次の事実を認めることができる。
丸菱建設工業株式会社(以下丸建と略称する)は、昭和四二年一〇月三〇日丸菱工業株式会社(以下丸工と略称する)との間に、貸主丸工、貸借金額二、三〇〇万円、利息年一割五分、損害金三割、弁済期は内金一、六五〇万円につき昭和四三年二月二五日残金につき同年五月二五日などと定めた消費貸借契約を締結し、丸建は右債務を担保するためその所有の原決定添附別紙目録記載の本件不動産に対し抵当権を設定した。一方、同日如意輪道場は丸工との間に、貸主丸工、貸借金額一、〇〇〇万円、利息、損害金は前同様の定めの消費貸借契約を締結し、右債務を担保するために如意輪道場所有の不動産に抵当権を設定した。如意輪道場はその所有不動産につき丸建と間に墓地造成等の請負契約を締結しており、丸建に右造成資金を得させる目的で右消費貸借をしたものであるから、丸建、丸工及び如意輪道場三者間の話合により、丸工は前記各消費貸借契約による現金の交付にかえて、振出人丸工、受取人丸建、振出日昭和四二年一〇月二七日、満期昭和四三年二月二五日、支払地および振出地佐賀県三田川町、支払場所株式会社佐賀銀行三田川支店、金額合計三、〇〇〇万円の約束手形二〇通を一括して丸建に対し交付した。そして、丸建は昭和四二年一一月一〇日その所有の本件不動産に対し債権額二、三〇〇万円の、また如意輪道場は同月一三日その所有不動産に対し債権額一、〇〇〇万円の、それぞれ抵当権設定登記を経由した。丸建は昭和四二年一一月中抗告人から前示約束手形のうち金額合計七〇〇万円の手形五通の割引を受け、これを抗告人に裏書譲渡した。丸工は昭和四三年一月三一日抗告人から右割引手形五通の返却を受け、その代償として抗告人に対し前示各抵当権をその被担保債権とともに譲渡し、同年二月一六日各抵当権移転登記を経由し、同年四月二日付内容証明郵便を以て丸建に対し右債権譲渡の通知をした。丸建が丸工より受取つた前示約束手形二〇通のうち、前記割引手形五通を除くその余の手形は全部満期に支払いがなされず不渡りとなつたが、右割引手形五通は丸工に返却されたまま今日に至り、丸建としては裏書人として遡求義務を問われるおそれはないものである。
以上のとおり認めることができる。《中略》
ところで、前記認定のとおり、前示約束手形二〇通は一括して丸工より丸建に交付せられたのであつて、前示二口の消費貸借契約のいずれの口にどの手形が交付せられたかを特定し得る資料はなく、したがつて、抗告人の割引いた前記約束手形五通も右二口の契約のうちのいずれの口につき交付せられたものであるかを確定することはできない。そうだとすれば、丸建及び如意輪道場は前記約束手形五通の手形金合計七〇〇〇万円の限度において現金の交付を受けたのと同様の経済上の利益を受けたことになるから、丸工と丸建及び如意輪道場との間に締結された前示二口の消費貸借契約は、右七〇〇万円をそれぞれの貸借金額に按分した限度において有効に成立しているものといわねばならない。そうだとすれば、丸建と丸工との間の前記消費貸借は金四八七万円余の限度において有効に成立し、本件不動産上の抵当権も右の限度において有効である。
相手方は、丸工は丸建に対し前記約束手形を融通手形として振出し交付したものであつて、右両者間に消費貸借契約は成立し得ない旨主張するけれども、その主張の採用できないことは以上に認定したところから明白である。
抗告人は、前示金四八七万円余の限度内において金四〇〇万円ならびにこれに対する約定息及び損害金の支払を求めて本件不動産に対し低当権の実行による競売の申立をしているのであるから、本件競売申立は適法であるといわねばならない。《後略》
(松本冬樹 浜田治 村岡二郎)
別紙・抗告状《省略》