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広島高等裁判所 昭和45年(行コ)2号 判決 1972年7月10日

山口県下関市幸町一三番一三号

(旧商号秋田商会木材株式会社)

控訴人

石川木材株式会社

右代表者代表取締役

石川勇

右訴訟代理人弁護士

西田信義

同市山の口町一番一八号

被控訴人

下関税務署長

大畑典男

右指定代理人

武田正彦

小瀬稔

広光喜久蔵

貞弘公彦

久保義夫

加藤嘉久

西本哲夫

右当事者間の昭和四五年(行コ)第二号更正処分取消請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が、控訴人の昭和三七年七月二六日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税等につき、昭和四〇年一二月一三日付でなした更正処分を取り消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張と証拠関係は、控訴代理人において、当審における証人小倉哲郎の証言、控訴会社代表者本人尋問の結果を援用し、乙第二三号証から第二七号証までの各一、二、三、四の成立を認めると述べ、被控訴代理人において、乙第二三号証から第二七号証までの各一、二、三、四を提出したほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。但し、原判決二枚目裏五行に「同年九月九日」とあるのを「同年五月九日」と、同七行に「同月二二日」とあるのを「同月二八日」と各訂正する。

理由

控訴会社が木材等の製造加工販売業を営み、青色申告の承認を受けた法人であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第二三号証の一によれば、昭和三八年二月一八日、控訴会社が、昭和三七年七月二六日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税の確定申告において、所得金額を金一四万六、三一二円、法人税額を金四万五、五五〇円と申告したことを認めることができる。被控訴人が、昭和三九年六月二四日、控訴会社の右事業年度の所得金額を金一四三万四、八二四円、法人税額を金四八万〇、〇八四円と更正して通知したこと、その通知書の附記理由に、「貴法人備え付けの帳簿書類を調査した結果、所得金額等の計算に誤りがあると認められますから、次のように申告書に記載された所得金額等に加算減算して更正しました。」として、「加算」「一、土地評価減一、三〇八、五一二円」と記載されていたこと、控訴会社が、昭和三九年七月二三日、被控訴人の右更正処分について異議の申立をしたが、同年一〇月二一日、棄却され、同年一一月一九日、広島国税局長に対して審査の請求をしたけれども、昭和四〇年五月二九日、棄却されたので、同年八月二五日、被控訴人の右更正処分に対する取消訴訟を提起したところ、同年一一月二五日、同国税局長が右裁決を取り消し、同年一二月一三日、被控訴人も右更正処分を取り消したので、右訴訟も終了したこと、その後、更に、被控訴人が、昭和四〇年一二月一三日、控訴会社の右事業年度の所得金額を金一四五万四、八二四円、法人税額を金四七万七、三五〇円とする本件更正処分をなして通知し、その通知書の附記理由に、「貴法人備え付けの帳簿書類を調査した結果、所得金額等の計算に誤りがあると認められますから、次のように申告書に記載された所得金額等に加算減算して更正しました。」として、「一、土地評価減一、三〇八、五一二円。北九州市八幡区本町五丁目秋田商会木材(株)より譲り受けた下関市幸町八の三宅地六七、八九坪の譲り受け価額が時価に比し著しく低い価額であり、時価との差額は贈与を受けたものと認められるから評価減をなしたものとして益金に加算する。時価二、二四三、四一五円。譲り受け価額九三四、九〇三円。差引一、三〇八、五一二円。」と記載されていたこと、控訴会社が、昭和四一年一月一三日、被控訴人の本件更正処分について異議の申立をしたけれども、同年四月九日棄却されたので、同年五月九日、広島国税局長に審査の請求をしたところ、昭和四二年六月二三日棄却され、同月二八日控訴会社においてその旨の通知を受けたこと、控訴会社は、当初から現在の所在地に本店を置き、もと秋田商会木材株式会社(北九州市に本店のある前示訴外会社とは別個の法人)と称したが、昭和四三年三月一四日、現在のとおり商号を変更したことは当事者間に争いがない。

控訴人は、本件更正処分に関し、その附記理由が不備であるとして、手続上の違法を主張するので、この点について検討する。

昭和四〇年法律第三四号による改正前の法人税法に基づく青色申告の更正の理由附記については、青色申告の制度の建前上、納税義務者にその備付と記帳が義務づけられている一定の帳簿、書類との関連において、いかなる理由によつて更正するかを明記することを要するものというべく(最高裁判所昭和三八年一二月二七日第二小法廷判決、民集一七巻一二号一八七一頁参照)、したがつて、青色申告の更正通知書に附記すべき理由は、単に納税義務者に更正の理由を示すためだけでなく、更正処分の妥当公正を期する上からも、できるだけ具体的、詳細且つ明確に記載されることの望ましいことはいうまでもないが、更正通知書における附記理由の記載すべき限度について別段の規定があるわけではないし、更正に対する不服申立の制度もあることを考慮すれば、更正の附記理由の記載は、納税義務者にどのような点において、いかなる金額の更正処分がなされたかを知らせ、これに対する不服の申立をすべきかどうかの判断の資料を与え得る程度をもつて足り、それ以上詳細な記載は必要ではないと解するのを相当とする。

このような見地に立つて本件の場合について考えてみると、被控訴人が控訴会社の前記事業年度の確定申告について更正をするにあたり、その理由として附記したものは、さきに認定した程度の記載であるが、被控訴人の右更正の基礎事実たる特定の土地の取引に関するその程度の記載をもつてすれば、その申告者たる控訴会社には、その備付の帳簿、書類中のいかなる点にどのような誤りがあつてその申告にしたがい得ないとされるのか、また、更正された数額が申告額のうちのどの部分をどのように訂正した結果算出されたものであるかが理解できないことはないと思われるから、その上、被控訴人が本件土地の譲受価額と時価との差額を益金に加算したり、譲受価額が時価に比して著しく低い価額であると認定し、或は時価を算定した根拠についての遂一詳細な記載をすることは必ずしも必要でなく、右の程度の記載をもつて本件更正処分の具体的根拠を明らかにしたものとして、適法な理由附記があつたものといわなければならない。

したがつて、以上と異なる見解に基づき本件更正処分の通知書の附記理由が不備であり、右処分が手続上違法であるとする控訴人の主張は、採用することができない。

次に、控訴人は、本件更正処分には、本件土地の譲受価額が時価に比し著しく低廉であるとして、所得金額の認定を誤り、時価と譲受価額の差額をもつて課税の対象になると誤認した瑕疵がある旨主張する。

しかしながら、当裁判所は、控訴会社が時価二二九万五、一六三円の本件土地を時価の二分の一にも満たない著しく低廉な譲受価額九三万四、九〇三円で取得した旨の原審の認定、ならびに、被控訴人が本件土地の右時価と譲受価額との差額を控訴会社の前記事業年度における益金に算入した処理を正当とした原審の判断は、相当と認める。その理由は、「当審における証人小倉哲郎の証言、控訴会社代表者本人尋問の結果のうち、原審の認定に反する部分は、原審の認定に供した各証拠に照らして、にわかに信用し難く、他に控訴人の主張事実を認め得る証拠は存在しない。」と附加するほか、原判決判示の理由(原判決一〇枚目裏三行から同一七枚目表末行まで)と同様であるから、これを引用する。但し、原判決一七枚目表四行から五行にわたり、「差額金一三六万二六〇円」とあるのを「差額金一三六万〇、二六〇円」と訂正する。したがつて、被控訴人が、本件土地の時価と譲受価額との差額の範囲内である金一三〇万八、五一二円についてなした本件更正処分は、控訴人主張のような瑕疵はなく、いずれの点からみても違法ではないといわなければならない。

そうしてみると、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。

よつて、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本冬樹 裁判官 浜田治 裁判官 野田殷稔)

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