大判例

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広島高等裁判所 昭和46年(ネ)12号・昭45年(ネ)387号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕一、一審原告が、昭和四一年六月二一日午後〇時一〇分ごろ、一審被告会社の従業員である運転手石丸文雄、同車掌小山美里が乗務し一審被告会社が運行する大学病院横川行の乗合バス(以下本件バスという)に県庁前から乗車し、下車予定の第一基町停留所にさしかかつたところ、本件バスが右停留所を通過したこと、その直後ごろ、本件バスの車掌がドアを開けたところ、一審原告が降車しようとして、転倒した(以下この転倒を本件事故という)ことは当事者間に争いがない。

二、<証拠>によれば、次のとおりの事実が認められる。

一審原告は、本件バスに乗車後最後部座席に坐り、知人である宇野秀子と雑談していた。そして、バスが県体育館附近を走行中、車掌の案内に従つて次の第一基町停留所で下車する合図をしたが、車掌には通じなかつた。しかし一審原告は、合図が通じたものと信じ、切符を車掌に渡し、乗降口附近に立ち左手で車掌席横のポールを握つて待つていたところ、本件バスは右停留所を通過したので、一審原告は降ろしてくれと言い、車掌は次にしてくれと答えた。ところが、本件バスは、右停留所を約五十メートル行き過ぎたところで、対向車とのすれ違いのため、道端によつて減速し、車掌は路上の物件や日除けのテントなどとの接触の有無を確認するため、自動式のドアを全開した。丁度その時、本件バスは僅かの時間停車したので、一審原告は第一基町停留所での停車を失念した本件バスの乗務員が降車の便を計つてくれたものと誤解し、降車しようとして左手で握つていたポールを放し、ステップを降りて下段から右足を地面に降ろそうとした瞬間、バスが再び動き出したため、足をとられて仰向けに転倒し、後頭部、背中および腰を強打した。身長約1.5メートルの小柄な車掌は、車掌席に立つたまま全開されたドアから車外上方を注視し、進行方向左側の建物の軒先の日除けテントと車体の接触の有無に気をとられていたとはいえ、身長1.5メートル弱で肥満体の一審原告が降車しようとした瞬間、これに気付きながら、その降車を制止せず、また降車の安全を保つためにいち早く運転手に連絡する措置もとらなかつた。

<反証排斥略>

(2) 以上の事実からすれば、本件バスの車掌としては、対向車とのすれ違いの際本件バスが一時停車して直ぐ発進することもあることは容易に推測できるところであり、このような場合乗降ドアを全開すれば、一審原告のように切符を渡し乗降口附近で待つているのにもかかわらず停留所を通過され降りたい旨告げた乗客が自己の降車のため停車し開扉してくれたものと誤解して降車の行動を開始するかも知れないことは予見し得たところであるから、このような乗客の動静にも注意し右のような行動を防止できる態勢を執つたうえで車外の状況の監視などの職務に従事すべき注意義務があるのにもかかわらず、小山美里は一審原告の動静にはなんら注意を払わず、また一審原告が前示のとおり降車しようとしているのに気付きながらこれを制止せず、また何等の安全措置も講じなかつた点に小山車掌に過失があつたものと言わねばならない。

してみれば、一審被告は、民法第七一五条の規定に基づき、従業員小山美里の右過失に因つて生じた一審原告の損害を賠償すべき義務がある。

(松本冬樹 浜田治 野田殷稔)

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