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広島高等裁判所 昭和48年(ネ)146号 判決 1974年11月11日

控訴人 長門電機株式会社

被控訴人 国

訴訟代理人 菅野由喜子 後藤健公 ほか三名

主文

原判決主文第一、第二項を取消す。

同第三項を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し金五四万七、七五〇円および内金二四万二、三〇〇円に対する昭和四九年一〇月一七日から完済にいたるまで年一割四分六厘の割合による金員を支払え。

被控訴人のその余の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は一・二審を通じてこれを四分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一  <証拠省略>を総合すると、訴外会社が昭和四〇年五月二七日現在において原判決末尾添付滞納税額表(一)記載の計金四〇万三、八七八円の租税を滞納していたため、同日被控訴人は右滞納税金を徴収するため、控訴人に対し、訴外会社が控訴人に対して有する本判決末尾添付物件目録記載の物件(以下本件物件という)についての不当利得返還請求権を差押える旨の債権差押通知書を送達し、右債権の差押えをしたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

ところで、被控訴人は、控訴人が訴外会社から本件物件の占有を取得したことをもつて不当利得とし、その占有自体の返還を内容とする不当利得返還請求権を差押えたと主張するもののようであるが、前記債権差押通知書<証拠省略>の記載によつては、右債権差押が本件物件につきその占有自体の返還を求める訴外会社の不当利得返還請求権を差押えた趣旨のものであるとはいまだ解し難く、その所有権の返還を内容とする不当利得返還請求権か、または単純なる金銭的給付を内容とする不当利得返還請求権を差押えたものと解する余地も存するため、結局右債権差押えはその対象となる債権の内容が明らかでなく、これによつて本件物件の占有自体の返還を求める不当利得返還請求権の差押えがなされたとする被控訴人の前記主張は採用できない。

そうすると、右債権差押えが有効でありこれにつき取立権を有することを前提として、本件物件の引渡しを求める被控訴人の第一次請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。

二  次に、被控訴人が控訴人に対して債権者代位権にもとづき、本件物件の引渡(第二次請求)ならびに本件物件の使用料相当の損害金の支払を求める各請求について検討する。

本件物件がいずれも訴外会社の所有であつたことは当事者間に争いがない。

そして<証拠省略>および弁論の全趣旨を総合すると、訴外会社はもと控訴人の支店として発足したが、昭和三六年六月頃独立して訴外会社となり、控訴人の代表者が事実上訴外会社の実権を掌握するとともにその実弟の訴外伊藤千万城が同会社の代表者となつたが、昭和三七年六月頃から経営不振に陥り、同年一〇月頃には事実上の休業状態となつたこと、本件物件は訴外会社が防府市緑町所在の倉庫に保管していたところ、控訴人はその従業員大野洋一郎をして、同年一一月七日訴外会社に無断で日本通運株式会社三田尻支店に本件物件の梱包と控訴人宛の運送方を依頼させ、これを控訴人の許に運送搬入させて、控訴人がその占有を取得したことが認められる。<証拠省略>のうち、右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして容易に信用し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

もつとも、控訴人は、本件物件のうちダイキン・エヤコンは訴外会社が訴外沢田土建株式会社に贈与の目的で搬入したが、その後訴外会社が訴外株式会社守谷商会に譲渡したものであり、またキヤリア・エヤコンおよびダイヤ・エヤコンは訴外会社が訴外中西商店に直接売却したものであると主張するが、<証拠省略>および弁論の全趣旨に照らすと容易に信用し難く、結局、控訴人の前記主張は採用できない。

そうすると、訴外会社が本件物件を所有していたところ、控訴人はこれを自己の許に搬入して不法に訴外会社の占有を奪い、その使用収益権を侵害したものであるから、特別の事情なき限り、控訴人は訴外会社に対し本件物件の通常の使用料と同額の損害を与えているというべきである。

そして、<証拠省略>によれば、本件物件の帳簿価額はダイキン・エヤコンが昭和三七年八月二一日当時で金四〇万円、キヤリア・エヤコンが同年四月一日当時で金一〇万円、ダイヤ・エヤコンが同年六月三〇日当時で金二五万円であることが認められ、昭和四〇年三月三一日大蔵省令第一五号、減価償却資産の耐用年数等に関する省令第一条一項一号、別表第一、第五条、別表第一一によれば、冷房機の耐用年数と残存割合はそれぞれ六年と一〇〇分の一〇とされているので、控訴人が訴外会社から本件物件を搬出した昭和三七年一一月七日当時における定率法による償却後の現価はダイキン・エヤコンは金三六万八、〇〇〇円をキヤリア・エヤコンは金七万八、七〇〇円を、ダイヤ・エアコンは金二一万六、五〇〇円を下らないことは明らかであり、同日から六年を経過した昭和四三年一一月七日には本件物件の耐用年数が経過し、残存割合のみとなるので、遅くとも右同日には本件物件の残存価額は金六万六、三二〇円、それまでの減価償却費の合計額は昭和三七年一一月七日当時の現価六六万三、二〇〇円から右残存価額を控除した金五九万六、八八〇円となることが明らかである。そして本件物件の使用料相当額がその減価償却費の総額を下廻ることがないことは当事者間に争いがないので、昭和三七年一一月七日から昭和四三年一一月六日までの六年間における本件物件の通常の使用料相当の損害金は右金五九万六、八八〇円を下らないということができる。

そうすると、訴外会社は控訴人に対し、右金五九万六、八八〇円およびこれに対する被控訴人主張の最終不法行為成立の日以降である昭和四三年一一月八日から完済にいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める債権を有することが明らかである。

次に被控訴人が訴外会社に対して有する債権について検討する。

<証拠省略>によると、被控訴人は訴外会社に対し、昭和四九年一〇月一六日現在(事実審の口頭弁論終結時)において合計金五四万七、七五〇円の租税債権を有していること、および右租税債権のうち本税二四万二、三〇〇円については昭和四九年一〇月一七日以降においても完済にいたるまで国税通則法六〇条の規定による年一四・六%(日歩四銭)の割合による延滞税が加算されていくことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

そして<証拠省略>および弁論の全趣旨を総合すれば、訴外会社は右租税債務を支払う能力がなく、無資力であることが認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

ところで、被控訴人が訴外会社に対する金銭債権にもとづいて、訴外会社が控訴人に対して有する金銭債権を代位行使する場合においては、被控訴人は自己の債権額の限度内においてのみ訴外会社の債権を行使しうるところ、前認定のとおり被控訴人の訴外会社に対する租税債権は金五四万七、七五〇円(昭和四九年一〇月一六日現在)と内金二四万二、三〇〇円に対する昭和四九年一〇月一七日から完済にいたるまで年一四・六%の割合による延滞税であるのに反し、訴外会社の控訴人に対する損害賠償債権は金五九万六、八八〇円およびこれに対する昭和四三年一一月八日から完済にいたるまで年五分の割合による遅延損害金である(事実審口頭弁論終結時の昭和四九年一〇月一六日現在の右元金と遅延損害金の合計額は金七七万四、一四四円である)から、被控訴人は右租税債権の限度においてのみ、訴外会社の右損害賠償債権を行使することができ、右租税債権を超える部分については、これを代位行使することは許されない。

(昭和四九年一〇月一七日以降完済にいたるまでに発生する前記年一四・六%の割合による延滞税の金額は年間金三万五、三七五円であるのに対し、前記年五分の割合による遅延損害金の金額は右より年間金五、五三一円少ない金二万九、八四四円であるが、右延滞税を含めた租税債権額が、右遅延損害金を含めた損害賠償債権額を超えるに至るのは約四〇年後である。また被控訴人は本訴請求金額の範囲内において右延滞税についても主張しているとみられるので、被控訴人は事実審口頭弁論終結後に発生する延滞税をも含めた範囲内において代位行使をなし得ると解するのが相当である)

なお、被控訴人は本件代位行使について、自己の債権額を保全するため、まず第一次的には前記損害賠償債権を、ついで右第一次請求によつて自己の債権額が保全されない場合には第二次的に本件物件の引渡請求を代位行使する旨請求しているところ、右認定のとおり右第一次請求により被控訴人の債権額が全額保全されるので、右第二次請求については判断しない。

三  そうすると、被控訴人が取立権にもとづき本件物件の引渡しを求める第一次請求は失当として棄却し、被控訴人の債権者代位による損害賠償請求については、控訴人に対し金五四万七、七五〇円および内金二四万二、三〇〇円に対する昭和四九年一〇月一七日から完済にいたるまで年一割四分六厘の割合による延滞税の支払いを求める限度において正当として認容し、その余は失当として棄却する。

よつて右のとおり原判決を取消変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、九二条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 胡田勲 西内英二 高山晨)

物件目録

一、ダイキン・エヤコン(冷房機)UH-九〇、機番六三一五六号、一台

一、キヤリア五馬力エヤコン(キヤリアパツケージ型五〇K六冷房機)中古品 一台

一、ダイヤ七・五馬力エヤコン(ダイヤパツケージ型DP-八冷房機)中古品 一台

(いずれも訴外会社所有のもの)

以上

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