広島高等裁判所 昭和50年(行コ)9号 判決 1988年5月30日
控訴人(原告) 深山安子
被控訴人(被告) 広島東税務署長
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一申立
一 控訴人
原判決を取り消す。
被控訴人が控訴人の昭和三九年分所得税についてした昭和四三年三月四日付更正及び過少申告加算税の賦課決定(但し、広島国税局長の審査裁決による一部取消後のもの)のうち、所得金額六一万六八六七円を超える部分を取り消す。
訴訟費用は、原審及び当審とも、被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨
第二主張
一 請求原因
1 更正及び決定
被控訴人は、昭和四三年三月四日、控訴人の昭和三九年分の所得及び税額等について、別紙所得一覧表B欄のとおり更正及び過少申告加算税の賦課決定(以下「本件更正決定」という)をした。
2 審査裁決
控訴人は、昭和四三年四月四日、被控訴人に対し、本件更正決定について異議申立をしたところ、これが広島国税局長に対する審査請求とみなされ、同局長は、別紙所得一覧表C欄のとおり右更正決定を一部取り消す旨の審査裁決(以下「本件裁決」という)をした。
3 違法事由
本件更正決定は、控訴人の不動産の譲渡所得の認定に際して租税特別措置法(昭和三九年法律第二四号の改正によるもの、以下「措置法」という)三八条の六の適用を誤り、控訴人の所得金額について、金六一万六八六七円を超える部分において過大に認定し、これを前提にしているから、違法である。
4 結論
よつて、控訴人は、本件更正決定(但し、本件裁決による一部取消後のもの)のうち、所得金額六一万六八六七円を超える部分の取消を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1、2は認め、同3は争う。
三 抗弁
1 確定申告
控訴人は、被控訴人に対し、昭和三九年分の所得及び税額等について、別紙所得一覧表A欄のとおり確定申告(以下「本件確定申告」という)をした。
2 譲渡所得
(一) 譲渡資産
控訴人は、昭和三九年五月六日、鹿島建設株式会社に対し、居住の用に供していた広島市塩屋町五三番二宅地五九・四〇坪(以下「本件一土地」という)を代金五九一〇万三〇〇〇円で、事業の用に供していた同所五四番五六番五宅地四八・五一坪(以下「本件二土地」という)を代金四八五一万円でそれぞれ売り渡し、その必要経費として、前者について金九〇二万九六〇四円を、後者について金六三万六四六一円をそれぞれ要し、さらに、控訴人は、同年一一月一二日、胤森星人に対し、広島市上東雲町三四〇番二宅地及び同所五四〇番五宅地合計一一七坪を代金五二六万五〇〇〇円で売り渡し、その必要経費として金五〇九万九三〇〇円を要した。
(二) 買換資産
被控訴人は、「控訴人は、居住用買換資産として、昭和三九年一〇月二〇日、小畠邦男から、別紙買換資産表番号5の資産(以下「本件5資産」という)を代金六三七万六七八〇円で取得し、事業用買換資産として、昭和四〇年一月二六日日本銀行広島支店から別紙買換資産表番号7の資産(以下「本件7資産」という)を代金四四九万六五一九円で、同年一一月国保忠明に建築注文して同表番号8の資産(以下「本件8資産」という)を代金三七四万三六八〇円で、同年九月七日佐伯秀夫から同表番号16の資産(以下「本件16資産」という)のうち同表番号17の資産(以下「本件17資産」という)の敷地部分九八・五一坪の持分二分の一を代金二四九万八九一〇円で、同年八月三〇日国保忠明に建築注文して本件17資産を代金一八一万八〇二九円で、それぞれ取得し、右事業用買換資産の取得価額合計額は金一二五五万七一三九円に達した。」ものと認定した。
(三) 譲渡所得金額
(1) 主位
前記(一)、(二)により、譲渡所得の金額は、別紙計算表一のとおり金三九九一万六六八六円となる。
(2) 予備
仮に、本件一土地のうち居住用部分二・五七坪を除く五六・八三坪の部分(譲渡価額金五六五三万三〇〇〇円)が事業の用に供されていたとしても、譲渡所得の金額は、別紙計算表二のとおり金四二一七万五三三九円となる。
3 適法性
前記2(三)のとおり、譲渡所得の金額は、主位予備のいずれにしても、本件更正決定(但し、本件裁決による一部取消後のもの)における譲渡所得の金額二二一五万三七六五円を上回るから、その範囲内でなされた右更正決定(同)は適法である。
四 抗弁に対する認否
抗弁1は認める。
抗弁2(一)のうち、控訴人が本件一土地のうち五六・八三坪を居住の用に供していたとの点は争い、その余は認める。
抗弁2(二)は認める。なお、控訴人は、事業用買換資産として、昭和四〇年一月二六日、日本銀行広島支店から、本件7資産を代金四四九万六五一九円で取得したものであるが、被控訴人認定のうちその余の点は争う。
抗弁2(三)、3は争う。
五 再抗弁
1 譲渡資産の事業供用
控訴人は、前記譲渡の当時、本件一土地のうち五六・八三坪を事業の用に供していた。
2 買換資産の取得
(一) 居住用
控訴人は、本件一土地のうち居住用部分二・五七坪を譲渡し、その買換資産として、昭和三九年一〇月二〇日、小畠邦男から、被控訴人が自認する本件5資産のほかに別紙買換資産表番号6の資産(以下「本件6資産」という)を代金合計九三三万九六〇〇円で取得し、同月三〇日居住の用に供した。
(二) 事業用
控訴人は、本件一土地のうちの事業用部分五六・八三坪及び本件二土地を譲渡し、事業用の買換資産として、次のとおり各資産を合計代金一億一三九八万九六一一円で取得し、事業の用に供した。なお、控訴人は、被控訴人に対し、昭和三九年中に取得できなかつた買換資産について、翌年中に買換資産の取得の見込であり、かつ右取得後一年以内に事業供用の見込である旨の措置法三八条の六第三項所定の期間延長申請をし、その承認を受けた。
(1) 資産 本件7資産
取得 昭和四〇年一月二六日
取得先 日本銀行広島支店
代金 金四四九万六五一九円
事業供用 昭和四〇年一二月
(2) 資産 別紙買換資産表番号2の資産(以下「本件2資産」という)
取得 昭和三九年七月二一日
取得先 任都栗カヨル
代金 金八三一万五五九〇円
事業供用 昭和三九年八月二七日
(3) 資産 別紙買換資産表番号3、4の資産(以下「本件3、4資産」という)
取得 昭和四〇年一二月一四日
取得先 株式会社平和オフイス
代金 金三二〇万円
事業供用 昭和四一年四月
(4) 資産 本件8資産
取得 昭和四〇年一一月
建築注文先 元請人瀬良久太郎
下請人国保工務店
代金 金五三二万三六八〇円
事業供用 昭和四〇年一二月
(5) 資産 別紙買換資産表番号9の資産(以下「本件9資産」という)
取得 昭和四〇年六月二五日
取得先 藤村イト子他二名
代金 金一五〇万円
事業供用 昭和四〇年一二月二七日
(6) 資産 別紙買換資産表番号10の資産(以下「本件10資産」という)
取得 昭和四〇年一二月一〇日
建築注文先 瀬良久太郎
代金 金三六七万四八〇五円
事業供用 昭和四〇年一二月二七日
(7) 資産 別紙買換資産表番号11の資産(以下「本件11資産」という)
取得 昭和四〇年八月一三日
取得先 清水公子
代金 金一八三〇万七〇〇〇円
事業供用 昭和四一年一二月
(8) 資産 別紙買換資産表番号12の資産(以下「本件12資産」という)
取得 昭和三九年一二月九日
取得先 清水公子
代金 金二七九万五一〇五円
事業供用 昭和四〇年三月
(9) 資産 別紙買換資産表番号13の資産(以下「本件13資産」という)
取得 昭和四一年一〇月三〇日
建築注文先 野村建設株式会社
代金 金四二二〇万九三〇〇円
事業供用 昭和四一年一二月
(10) 資産 別紙買換資産表番号14の資産(以下「本件14資産」という)
取得 昭和四〇年六月二〇日
取得先 山田義衛
代金 金一〇〇万円
事業供用 昭和四〇年九月三〇日
(11) 資産 別紙買換資産表番号15の資産(以下「本件15資産」という)
取得 昭和四〇年九月三〇日
取得先 松島員子
代金 金五三〇万〇六九〇円
事業供用 昭和四〇年九月三〇日
(12) 資産 本件16資産
取得 昭和四〇年九月七日
取得先 佐伯秀夫
代金 金六三六万九七二〇円
事業供用 昭和四〇年九月二〇日
(13) 資産 本件17資産
取得 昭和四〇年八月三〇日
建築注文先 元請人瀬良久太郎
下請人国保工務店
代金 金三〇九万七二〇二円
事業供用 昭和四〇年九月二〇日
(14) 資産 別紙買換資産表番号18の資産(以下「本件18資産」という)
取得 昭和四〇年四月二〇日
取得先 西部通商株式会社
代金 金二七八万八〇〇〇円
事業供用 昭和四〇年四月二〇日
(15) 資産 別紙買換資産表番号19、20の資産(以下「本件19、20資産」という)
取得 昭和四〇年九月一五日
取得先 漢和製薬株式会社
代金 金二六一万一〇〇〇円
事業供用 昭和四〇年九月一五日
(16) 資産 別紙買換資産表番号21の資産(以下「本件21資産」という)
取得 昭和四〇年一二月二五日
取得先 松島弥
代金 金三〇〇万一〇〇〇円
事業供用 昭和四〇年一二月二五日
なお、本件13資産について、その取得及び事業供用が昭和四一年となつたのは、当初昭和四〇年中に新築完成の予定であつたものが、やむを得ない敷地の一部引渡遅延のため、同年一二月二〇日ようやく建築着工の運びとなつたことに起因するところ、この件に関して、控訴人は、同年一一月ころ、被控訴人に対し、措置法三八条の六第三項かつこ内所定の期間延長承認申請をし、被控訴人はその承認をした。仮に被控訴人が明示的には右承認をしなかつたとしても、同条項所定の買換資産の承認は、所轄税務署長の裁量権に属することであるから、被控訴人が、控訴人の右期間延長承認申請に対し、承認しない旨の通知をせず、右資産に関して同法三八条の七第三項所定の更正もしなかつた経過からすれば、右承認があつたものとみなすべきである。
3 時機に後れた攻撃防御方法等
仮に本件2ないし4、6、8ないし21資産の全部又は一部が買換資産に当たらないとしても、いまさら被控訴人がその旨の主張をすることが許されないことは次のとおりである。
控訴人が本件更正決定に異議を申し立て、その取消を求めて本訴を提起したのは、右更正決定には、譲渡した本件一土地を事業の用に供している資産と認定しなかつた点に違法があつたから、その是正を求めるためであつた。被控訴人は、当初滞納処分の段階では、本件10、15資産について、控訴人の資産であることを認めてこれを差し押さえるなどしていたうえ、右異議及び本訴原審の段階では、専ら右一土地の事業供用性を争い、本件2ないし21資産が事業用又は居住用の買換資産であることについては、すべてこれを認めてなんら争つていなかつた。ところが、被控訴人は、本訴当審に至り、控訴人の主張立証の結果、右一土地の事業供用性を認めざるを得なくなつたためか、従来の態度を覆し、右2ないし21資産のうち、5、7資産を除くその余の資産について、買換資産であることを争うに至つた。
このような被控訴人の態度は、控訴人が譲渡した本件一土地の事業供用性の存否に関する判定を誤つたため取り消されるべき違法な本件更正決定について、従来全く争いになつていなかつた買換資産該当性認定の問題を持ち出すことによつて、これを適法化し維持しようとするものであり、実質的には国税通則法七〇条一項の制限期間三年を経過した後における右更正決定の更正にほかならないところ、控訴人は、もはや更正された更正及び賦課決定に異議の申立をすることもできず、税法上の不服申立権を不当に剥奪されることとなるから、いまさら被控訴人が買換資産該当性について争うことは、手続の公正を害し、また、時機に後れた攻撃防御方法として、許されない。
また、被控訴人は、当審において買換資産該当性の認否を覆すに先立ち、国税局訟務官室所属の職員に調査を実施させたが、右職員に調査権を認める法的根拠はなく、また、右は国税通則法二四条により税務署長が更正前に行なう調査にも当たらないところ、被控訴人が本件更正決定後訴訟継続中なされた法的根拠のない右調査結果を踏まえて本件更正決定の正当性を維持防御しようとすることは、税法上の調査の趣旨にも反し、許されない。
六 再抗弁に対する認否
再抗弁1は争う。
再抗弁2(一)のうち、控訴人が、昭和三九年一〇月二〇日、小畠邦男から、本件5資産を取得し、同月三〇日居住の用に供したことは認めるが、その余は争う。
再抗弁2(二)の冒頭の事実のうち、控訴人が、被控訴人に対し、昭和三九年中に取得できなかつた買換資産について、翌年中に買換資産の取得の見込であり、かつ右取得後一年以内に事業供用の見込である旨の措置法三八条の六第三項所定の期間延長申請をし、その承認を受けたことは認めるが、その余は争う。
控訴人が事業用買換資産として、再抗弁2(二)(1)、(9)のとおり各資産を取得したことは認めるが、同2(二)(2)ないし、(8)、(10)、(11)、(13)ないし、(16)、末尾のなお書は争う。
再抗弁2(二)(12)のうち、事業供用は争い、その余は認める。
再抗弁3は争う。
被控訴人が控訴人に対する滞納処分として本件10、15資産を差し押さえたのは、右各資産について、控訴人が脱税目的で真実の所有者に依頼するなどして事実に反する保存登記を経由していたのを、当時真実の登記と信頼していたためであり、右差押の事実は、本件更正決定をなんら違法とするものではない。
課税処分の取消訴訟において、処分の実体的違法が争われているときに、審理の対象となるのは、実体的処分要件である所得の存否であり、処分庁は、処分当時把握していた所得に限らず、その後に得た資料によつて認識した所得であつても、訴訟の経過に応じて随時新たにこれを主張することができるものであるから、本訴において、買換資産についての被控訴人の主張に変動があつたとしても、これをもつて争点のすりかえとすることはできず、実質的に新たな更正及び賦課決定がなされたということもできない。従つて、国税通則法七〇条一項の三年の期間制限違反の問題は生じないし、また、控訴人の税法上の不服申立権が不当に剥奪されたものともいえない。
国税局訟務官室所属の職員には、所得税法二三四条及び大蔵省組織規程一二四条の五により、税務調査権及び質問検査権があり、また、民事訴訟規則四条により、被控訴人には本件更正決定に関する主張立証を尽くす義務があり、そのために右職員が事実関係の調査をするのは、当然のことである。
第三証拠<省略>
理由
一 更正及び決定
請求原因1は当事者間に争いがない。
二 審査裁決
請求原因2は当事者間に争いがない。
三 確定申告
抗弁1は当事者間に争いがない。
四 譲渡所得
1 譲渡資産
抗弁2(一)は、控訴人が本件一土地のうち五六・八三坪を居住の用に供していたとの点を除いて、当事者間に争いがない。
右争いのない事実に加えて、成立に争いのない甲第五、第一四、第一五号証、乙第一号証の一ないし七、第二ないし第四号証、第六、第一一、第一二、第一四号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第五号証、原審証人台屋敷寿良(一部)、同西田宣雄(同)、同飯田信一、同宇佐川暢久、同谷田茂男、同戸津川龍三、同西壽滿仁(同)、同深山克巳(同)、同深山晃(同)、同正木質の各証言及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
控訴人は、自動二輪車の修理販売等を業とする広島ウエスタンオート株式会社(以下「広島ウエスタン」という)に対し、昭和二八年一二月一日以来、控訴人所有の本件一土地上に存在する広島市塩屋町五三番地家屋番号同町四三番木造瓦葺平家建事務所床面積一七坪五〇、付属建物符号一木造枌葺平家建物置一五坪〇〇、符号二木造枌葺平家建工場二六坪〇〇のうちの付属建物部分(以下「本件一建物」という)を、隣接する控訴人所有の本件二土地の地上建物等とともに、一体として右会社の営業用に賃貸し、右会社は、本件一建物を修理工場及び倉庫等として使用していた。なお、隣接地上に存在する控訴人が所有し居住する建物の一部二・五七坪が、本件一土地上にはみ出していたため、本件一建物の敷地部分は五六・八三坪となつていた。
昭和三七年一月二一日、本件一建物は、広島ウエスタンの従業員の失火により、主柱等を残してほぼ全焼した。このため、控訴人は、広島ウエスタンに対し、本件一土地のうち右建物の敷地部分の明渡とともに、右火災による損害の賠償等を求めたところ、右会社は、右建物が全焼しておらず、その賃借権が存続しているなどと主張して、従来どおりの使用を求めるなどし、双方とも譲らなかつたため紛糾を生じ、控訴人が、右土地の周辺に板塀を廻らしたうえ、昭和三七年一〇月下旬には、右会社に対し、右土地の立ち入り使用を禁止する旨通告するに至つたことから、これに対抗して、右会社が、同月二九日、控訴人らを被申請人として、広島地方裁判所に対し、右建物の賃借権の存続を理由に、控訴人らの右土地への立ち入り禁止を求める仮処分申請をし、同月三〇日、その旨の仮処分決定が出されると、今度は、控訴人が、これに異議申し立てをするなどして、紛争が継続していた。
ところが、広島ウエスタンは、右仮処分異議事件の進行とともに、その敗訴の見通しが濃厚となつてきたため、昭和三八年六月ころ、控訴人と話し合い、本件一建物の賃借権の存続についての従来の主張を撤回し、控訴人に対して前記火災による損害賠償金六〇万円を支払う旨の示談をし、同月中に前記仮処分申請を取り下げる旨の手続をとり、同年一〇月には、双方間に、右建物を除く他の賃貸借建物の賃料について、これを増額する旨の新たな合意が成立した。
以後、控訴人は、本件一建物が取り払われて空き地となつた本件一土地の右建物敷地部分の全部を占有し管理するようになつたが、従来と同様右敷地部分を利用して賃料収入を得るため、広島市の中心的繁華街に位置する場所柄から、近く賃貸用ビルの建築などを予定していたところ、昭和三九年になつて、周辺土地の買取りを進めていた鹿島建設株式会社から、右土地買取りの申入れを受けてこれに応じ、前記隣接地上建物のうち本件一土地上にはみ出していた部分を取り払つたうえ、同年五月六日、右会社に対し、本件二土地等とともに、本件一土地を売り渡した。なお、右一土地の売渡代金の内訳は、右建物敷地部分二・五七坪が金二五七万円、本件一建物敷地部分五六・八三坪が金五六五三万三〇〇〇円であつた。
以上のとおり認められ、原審証人台屋敷寿良、同西田宣雄、同西壽滿仁、原審当審証人深山克巳及び同深山晃の各証言中、右認定に反する部分は容易に信用できず、他に右認定を左右する証拠はない。
ところで、措置法三八条の六第一項の譲渡資産といいうるための要件である「事業(事業に準ずるものとして政令―租税特別措置法施行令(昭和三八年政令第九八号の改正によるもの)二五条の六第一項―で定めるものを含む)の用に供しているもの」とは、譲渡の当時、現に事業の用に供している資産だけでなく、たまたま現に事業の用に供していなくても、事業の用に供する意図の下に所有している資産も含むが、その意図は近い将来において実現されることが客観的に明白なものでなければならないと解するのが相当である。
右認定事実によれば、控訴人が本件一土地を譲渡した当時、広島ウエスタンとの本件一建物についての賃貸借契約は終了した後であり、右土地のうち右建物の敷地部分五六・八三坪は、現に事業の用に供していなかつたことは明らかであるが、他方、控訴人が、従来同様賃料収入確保のため、場所柄を考慮して、近く右土地部分に賃貸用ビルの建築などを予定していたことからすると、控訴人が、右譲渡当時、右土地部分について、事業に準ずるものとして、貸付けその他これに類する行為を相当の対価を得て継続的に行なおうと意図し、その意図は、近い将来において実現が客観的に明白であつたということができる。
従つて、本件一土地のうち本件一建物敷地部分五六・八三坪は、措置法三八条の六の「事業の用に供するもの」に該当するものと解するのが相当である。
以上によれば、本件一土地のうち前記控訴人居住建物敷地部分二・五七坪(代金二五七万円)は措置法三五条の居住用の譲渡資産に、本件一建物敷地部分五六・八三坪(代金五六五三万三〇〇〇円)は措置法三八条の六の事業用の譲渡資産に、それぞれ該当するものといえる。
2 買換資産
(一) 居住用
(1) 本件5資産
再抗弁2(一)のうち、控訴人が、昭和三九年一〇月二〇日、小畠邦男から、本件5資産を取得し、同月三〇日居住の用に供したとの点は、当事者間に争いがない。
成立に争いのない乙第二一号証、当審証人深山晃の証言により成立の認められる甲第三〇号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第六二号証、当審証人深山晃の証言及び弁論の全趣旨によれば、控訴人が小畠邦男から取得した本件5資産の取得価額は金六三七万六七八〇円であることが認められ、右認定を左右する証拠はない。
(2) 本件6資産
控訴人は、再抗弁2(一)のとおり買換資産として本件6資産を取得した旨主張し、甲第三〇号証、第八〇ないし第八四号証及び当審証人深山晃の証言(一部)中には、これに沿い、又は沿うかのような部分があるが、前掲乙第二一号証、同第六二号証及び右証言中「右資産は控訴人の息子の深山晃の妻深山トヨコが買い受けたが、その売買契約書(甲第三〇号証)には便宜買受人を控訴人と表示した」との趣旨の供述部分に照らし、容易に採用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(二) 事業用
再抗弁2(二)の冒頭の事実のうち、控訴人が、被控訴人に対し、昭和三九年中に取得できなかつた買換資産について、翌年中に買換資産の取得の見込であり、かつ右取得後一年以内に事業供用の見込である旨の措置法三八条の六第三項所定の期間延長申請をし、その承認を受けたことは、当事者間に争いがない。
(1) 本件7資産
抗弁2(二)のうち、本件7資産に関する部分は当事者間に争いがない。
再抗弁2(二)(1)は当事者間に争いがない。
(2) 本件2資産
控訴人は、再抗弁2(二)(2)のとおり主張し、乙第七二号証、当審証人深山克巳及び原審当審証人深山晃の各証言中には、これに沿う部分があるが、原本の存在成立に争いのない乙第七一、第七三号証及び弁論の全趣旨に照らし、容易に採用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(3) 本件3、4資産
控訴人は、再抗弁2(二)(3)のとおり主張し、甲第二四号証、当審証人深山克巳及び原審当審証人深山晃の各証言中には、これに沿う部分があるが、成立に争いのない甲第二五、第二六号証及び弁論の全趣旨に照らし、容易に採用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(4) 本件8資産
控訴人は、再抗弁2(二)(4)のとおり主張するところ、その方式趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第二七号証、当審証人国保忠明、同深山晃(一部)の各証言及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、昭和四〇年二月ころ、建築請負を業とする国保忠明に対し、本件8資産の建築を注文し、同年七月ころ完成引渡しを受け、代金としては金三七四万三六八〇円を支払つたにすぎないことが認められ、当審証人深山晃の証言中、右認定に反し、控訴人主張の右再抗弁に沿う部分は前掲証拠に照らして採用できず、他に右認定を左右する証拠はない。
(5) 本件9資産
控訴人は、再抗弁2(二)(5)のとおり主張し、甲第三一号証及び当審証人深山晃の証言中には、これに沿う部分がある。しかし、その方式趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一九号証、乙第三〇号証の一、当審証人藤村イト子及び同深山晃(一部)の各証言、甲第三一号証の存在自体並びに弁論の全趣旨によれば、甲第三一号証(土地賃貸借契約証書)の作成名義人の一人として表示されている藤村明旦(藤村イト子の長男でその名は朋旦、それを誤記したもの)名下の印影は、藤村イト子の印章により顕出されたものであるが、右甲号証は、貸主としての作成名義人藤村イト子、藤村朋旦、イト子の次男藤村一成に無断で、深山晃方に出入りの建築業者である瀬良久太郎が内容を筆記し、さらに、何者かが、藤村イト子及び藤村一成各名下に両名の印章ではない藤村表示の印章を捺印し、藤村朋旦とすべきを誤記した藤村明旦名下には、藤村イト子が、職場の上司であり、深山晃と昵懇の清水公子に従前から預けていた藤村イト子の印章を持ち出して、冒捺したことが認められ、当審証人深山晃の証言中右認定に反する部分は採用できず、他に右認定を左右する証拠はない。このような次第で甲第三一号証及び当審証人深山晃の証言中、前記再抗弁に沿う部分は容易に採用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(6) 本件10資産
控訴人は、再抗弁2(二)(6)のとおり主張し、甲第四六ないし第四九号証、第五九ないし第七九号証及び当審証人深山晃の証言中にはこれに沿い、又は沿うかのような部分があるが、前掲乙第一九号証、その方式趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第三一号証、原本の存在成立に争いのない乙第七七、第七八号証に照らし、容易に採用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(7) 本件11資産
控訴人は、再抗弁2(二)(7)のとおり主張し、甲第三五号証及び当審証人深山晃の証言中にはこれに沿う部分がある。しかし、その方式趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第二〇号証、第三三号証の一、甲第三五号証の存在自体及び弁論の全趣旨によれば、甲第三五号証は、清水公子がかねて昵懇の深山晃から控訴人の脱税工作に協力を求められ、対税務署用に形だけを整えるために作成に応じたものであることが認められ、当審証人深山晃の証言中右認定に反する部分は採用できず、他に右認定を左右する証拠はない。右認定事実並びに原本の存在成立に争いのない乙第八〇、第八一、第八四、第一〇二、第一〇三号証及び弁論の全趣旨に照らすと、甲第三五号証及び当審証人深山晃の証言中、前記主張に沿う部分は容易に採用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(8) 本件12資産
控訴人は、再抗弁2(二)(8)のとおり主張し、当審証人深山晃の証言中にはこれに沿う部分があるが、前掲乙第三三号証の一に照らし、容易に採用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(9) 本件13資産
再抗弁2(二)(9)は当事者間に争いがない。
控訴人は、再抗弁2(二)の末尾のなお書のとおり主張するが、控訴人が、本件13資産の建築に昭和四〇年中に着工したことを認めるに足りる証拠はなく(むしろ、当審証人深山晃の証言及びこれにより成立の認められる甲第八五号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第四五号証によれば、右着工は昭和四一年三月二五日であつたことが認められ、右認定を左右する証拠はない)、また、控訴人が、被控訴人に対し、右資産について、措置法三八条の六第三項かつこ内所定の期間延長承認申請をし、被控訴人がその承認をしたことを認めるに足りる証拠もない。さらに、右期間延長承認申請に対し、被控訴人が承認しない旨の通知をせず、同法三八条の七第三項所定の更正をしなかつたからといつて、右承認があつたものとみなすべき法的根拠もない。
なお、弁論の全趣旨によれば、本件更正決定は、本件13資産について、措置法三八条の六第三項かつこ内所定の期間延長の承認があつたものと誤認し、これを買換資産に該当するものとして算出された所得税額に拠つていることが認められ、右認定を左右する証拠はないが、このような過誤があつたからといつて、以後、右資産を事実に反してまで、買換資産に該当するものとして所得税額の計算をしなければならなくなるものでもない。
(10) 本件14資産
控訴人は、再抗弁2(二)(10)のとおり主張し、甲第三六号証及び当審証人深山晃の証言中にはこれに沿う部分がある。しかし、添付の計算書の成立に争いがなく、その余の部分は方式趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第二二号証、同様真正な公文書と推定すべき乙第三五号証の一、第四三号証の一、原本の存在成立に争いのない乙第九五号証の一、甲第三六号証の存在自体及び弁論の全趣旨によれば、山田義衛は、娘松島員子の夫松島豪が多額の借財を負つている深山晃から、控訴人の脱税工作に協力を求められ、対税務署用に形だけを整えるために甲第三六号証の作成に応じたものであることが認められ、当審証人深山晃の証言中右認定に反する部分は採用できず、他に右認定を左右する証拠はない。右認定事実及び弁論の全趣旨に照らすと、甲第三六号証及び当審証人深山晃の証言中、前記主張に沿う部分は容易に採用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(11) 本件15資産
控訴人は、再抗弁2(二)(11)のとおり主張し、当審証人深山晃の証言中にはこれに沿う部分があるが、前掲乙第二二号証、第三五号証の一、第四三号証の一、第九五号証の一に照らし、容易に採用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(12) 本件16資産
再抗弁2(二)(12)のうち、事業供用の点を除くその余は、当事者間に争いがない。
成立に争いのない乙第二三号証、原本の存在成立に争いのない乙第八八号証の二、当審証人深山晃の証言により成立の認められる甲第三七号証、その方式趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第八八号証の一、第八九号証、当審証人深山晃の証言及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、西田宣雄とともに、本件16資産の持分二分の一ずつを、代金及び付帯費用合計金六三六万九七二〇円ずつで買い受け、昭和四〇年九月ころ、右資産面積二四七・五二坪のうち九八・五一坪を敷地として、賃貸用の共同住宅である本件17資産を建築し、これを他に賃貸する反面、空き地として残つた土地一四九・〇一坪については、昭和四二年一月他に転売したことが認められ、右認定を左右する証拠はない。
右認定事実によれば、本件16資産のうち控訴人が事業の用に供したのは、九八・五一坪の持分二分の一であつたといえるから、右資産の持分二分の一の取得費用金六三六万九七二〇円を全面積坪数二四七・五二で除し、これに事業供用面積坪数九八・五一を乗じて得た金二五三万五〇七二円が、控訴人の買換資産の取得価額となる。
他に、本件16資産について、右認定をこえる取得価額を認めるに足りる証拠はない。
(13) 本件17資産
前掲乙第二七号証、当審証人国保忠明、同深山晃(一部)の各証言及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、西田宜雄とともに、昭和四〇年九月ころ、建築請負業者である国保忠明に対し、賃貸用共同住宅である本件17資産の建築を注文し、同年一一月末ころ完成引渡しを受けて、代金として少なくとも金三六三万六〇五八円を支払い、右費用は折半したことが認められ、当審証人深山晃の証言中右認定に反し、前記再抗弁に沿う部分は前掲証拠に照らして採用できず、他に右認定を左右する証拠はない。
右認定事実によれば、本件17資産の取得価額は、右折半額の金一八一万八〇二九円となる。
(14) 本件18資産
控訴人は、再抗弁2(二)(14)のとおり主張し、甲第三八号証及び当審証人深山晃の証言中にはこれに沿う部分があるが、その方式趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第二四号証、原本の存在成立に争いのない乙第二八号証、弁論の全趣旨により西部通商株式会社と森岡薫三との間の本件18資産の売買代金領収書の写真と認められる乙第二九号証、弁論の全趣旨により右両者間の右資産売渡証書の写真と認められる乙第九〇号証及び弁論の全趣旨に照らし、容易に採用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(15) 本件19、20資産
控訴人は、再抗弁2(二)(15)のとおり主張し、甲第三九、第四〇号証及び当審証人深山晃の証言中にはこれに沿う部分がある。しかし、その方式趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第二五号証、第六〇号証の一、当審証人深山晃の証言(一部)、甲第三九、第四〇号証の存在自体及び弁論の全趣旨によれば、漢和製薬株式会社の代表者代表取締役加藤政雄は、昭和四〇年二月ころ、深山晃から融資を受けた際、同人の求めにより、右会社代表者印を預託していたところ、右会社に無断で、右印鑑が冒用され、甲第三九、第四〇号証が作成されたことが認められ、当審証人深山晃の証言中右認定に反する部分は採用できず、他に右認定を左右する証拠はない。右認定事実及び弁論の全趣旨に照らすと、甲第三九、第四〇号証及び当審証人深山晃の証言中、前記主張に沿う部分は容易に採用できず他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(16) 本件21資産
控訴人は、再抗弁2(二)(16)のとおり主張し、甲第四一ないし第四四号証及び当審証人深山晃の証言中にはこれに沿う部分がある。しかし、前掲乙第三五号証の一、その方式趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第二六号証の一、二、甲第四一ないし第四四号証の存在自体及び弁論の全趣旨によれば、松島豪は、昭和四〇年八月ころ、本件21資産の根抵当権者からの競売申立を妨害する必要から、深山晃の入れ知恵により、右資産の控訴人への売買を仮装するため、父松島弥から印鑑の交付を受けて、甲第四一ないし第四四号証の作成に応じたこと、さらに、松島弥は、同年一二月ころ、深山晃から、控訴人の脱税工作に協力を求められ、対税務署用の外形を整えるため、右資産について控訴人のため売買予約による所有権移転登記請求権仮登記の経由に応じたことが認められ、当審証人深山晃の証言中右認定に反する部分は採用できず、他に右認定を左右する証拠はない。右認定事実及び弁論の全趣旨に照らすと、甲第四一ないし第四四号証及び当審証人深山晃の証言中、前記主張に沿う部分は容易に採用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(17) 取得価格の合計
事業用買換資産の取得価額の合計は、前記(1)の金四四九万六五一九円、同(4)の金三七四万三六八〇円、同(12)の金二五三万五〇七二円及び同(13)の金一八一万八〇二九円を合算して得た金一二五九万三三〇〇円となる。
3 時機に後れた攻撃防御方法等
控訴人は、再抗弁3のとおり主張する。
記録によれば、本訴原審において、控訴人は、専ら譲渡資産である本件一土地の事業供用性を主張し、買換資産については、第六回口頭弁論陳述の昭和四五年三月四日付準備書面をもつて、「広島市鶴見町三の二三番地宅地五五・六六坪外一九筆を代金合計一億〇八〇二万五六一二円で買い受けた」との概括的な主張をしたのみで、個々の買換資産の買換えの事実及び価額等の個別的具体的な主張はしなかつたこと、これに対し、被控訴人は、控訴人の事業用買換資産の取得価額について、第一回口頭弁論陳述の答弁書をもつて、その合計額を金六三八一万九九四五円と主張し、第一二回口頭弁論陳述の昭和四五年一〇月二一日付準備書面をもつて、これを変更して金五二〇〇万二一三九円と主張し、仮に控訴人主張のとおり本件一土地に事業供用性があつたとしても、右買換資産取得価額合計額に基づいて算出した譲渡所得金額は本件更正決定のそれを上回るから、右更正決定は適法である旨主張したが、個々の買換資産の買換えの事実及び価額に関する具体的な主張は、控訴人同様これをしなかつたこと、被控訴人は、右のとおり、原審において控訴人の買換資産の取得に関する主張を取得価額計金五二〇〇万二一三九円の限度で自白したものであるが、その一部は、被控訴人が、控訴人の作為に欺罔されたことによるものであること、その後、控訴人は、第一五回口頭弁論で「本件の争点が事業用資産の買換えか否か、或は、買換えの取得価額等をも争うかは次回までに明らかにする。」旨陳述したうえ、第一六回口頭弁論で「本件の争点は、事業用資産の買換えか否かであつて、その余の点は争わない。」旨陳述し、立証も、買換資産に関しては、甲第八号証、第九号証の一、二、第一〇号証(いずれも買換資産の概略を箇条書きにしたもの)を提出した程度で、専ら本件一土地の事業供用性の有無に終始したこと、当審に至り、控訴人は、昭和五一年三月二九日の第二回口頭弁論陳述の昭和五一年二月二三日受付準備書面をもつて、はじめてほぼ再抗弁2(二)のように具体的に事業用買換資産についての主張をし、以後、本判決事実摘示のとおり、控訴人被控訴人間で、個々の買換資産の買換えの事実及び価額等が、具体的な主張立証の対象とされるようになつたこと、以上の経緯が認められる。
ところで、課税処分によつて確定された税額が租税実体法によつて客観的に定まつている税額を超えていなければ、処分理由のいかんにかかわりなく、当該処分は適法であるといえるから、その取消訴訟において、税務署長は、処分の適法性を維持するため、処分時の認定理由に拘束されることなく、その後新たに発見した事実を追加し、又は右事実を交換することにより、口頭弁論終結に至るまで、処分理由を随時差し替ることができるものというべきであり、また、処分理由を差し替えたからといつて、新たな課税処分をしたものとはいえず、納税者の異議申立権を不当に剥奪することにもならないものといえる。従つて、被控訴人が、本訴において、本件更正決定の適法性の維持のため、右更正決定の理由となつた本件一土地の事業供用性に関する事実のほかに、買換資産の買換えの存否及びその価額に関する事実を追加して主張することは許されるところであり、これをもつて、控訴人の税法上の不服申立権を剥奪することになるものとはいえない。
また、措置法三八条の六の譲渡資産の事業供用性並びに買換資産の存在及びその価額は、譲渡所得の減免事由であるから、右事由の存在については、これによつて利益を受ける納税者の側において、その主張立証責任を負うと解するのが相当であり、控訴人は、当初より再抗弁2(二)の各買換資産に関して具体的な主張立証をなすべきであつたといえる。
しかし、右認定の経緯のとおり、控訴人は、原審において、専ら本件一土地の事業供用性の主張立証に終始し、買換資産に関しては取得価額合計額の主張に止め、被控訴人において、右取得価額合計額を金五二〇〇万二一三九円と主張し、仮に控訴人主張のとおり本件一土地に事業供用性があつたとしても、被控訴人の右主張額をもつて算出した譲渡所得金額は本件更正決定のそれを上回ることを理由に、右更正決定は適法である旨反論していたにもかかわらず、買換資産の取得価格合計額が被控訴人の右主張額に止まらない旨の当然すべきであつた具体的個別的な主張立証をしないまま、原審を終了し、当審に至つて、ようやくその主張立証を始めたものであり、これに対して、被控訴人は、控訴人の主張立証に応じて、請求棄却を求めるに必要な限度で、これに応答して来たものといえる。
このような事実関係からすると、原審当時から、本件一土地の事業供用性と併せて、買換資産の買換えの事実及び価額も、本訴の重要な争点であつたのに、控訴人は、この点を看過し、なすべき主張立証を怠つていたものというべきであり、控訴人主張のように、原審における争点が右一土地の事業供用性に限られていたとも、被控訴人が当審において従来全く争いになつていなかつた買換資産の問題を持ち出し、争点をすりかえたともいえないのみならず、被控訴人が、控訴人から、当審においてはじめてなされた個々の買換資産に関する具体的な主張に対し、具体的な反論をしたからといつて、手続の公正を害するわけのものでも、時機に後れた攻撃防御方法となるわけのものでもない。
さらに、所得税法(昭和四〇年法律第三三号の改正によるもの)二三四条並びに大蔵省組織規程の国税訟務官室の事務及び国税訟務官に関する規定によれば、国税訟務官室所属の職員は、直接国税に係る訴訟に関する事務の処理について、調査及び質問の権限を有するものと解するのが相当であるから、本訴における右職員による調査質問の実施が、税法上の調査の趣旨に反する許されないものとは到底いえない。
他に、被控訴人が、買換資産の買換えの事実及び価額に関する控訴人の主張を争うことについて、これを妨げる事由を認めるに足りる証拠はない。
4 譲渡所得金額
前記1、2によれば、控訴人の昭和三九年分の譲渡所得の金額は、別紙計算表三のとおり金四二一五万八八五九円となる。
五 適法性
前記四4のとおり、控訴人の昭和三九年分の譲渡所得の金額は、本件更正決定(但し、本件裁決による一部取消後のもの)における譲渡所得の金額二二一五万三七六五円を上回るから、その範囲内でなされた右更正決定(同)は適法である。
六 結論
以上よれば、控訴人の請求は理由がないから、これを棄却した原判決は結論において不当ではなく、本件控訴は理由がない。
よつて、本件控訴を棄却することとし、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 中原恒雄 弘重一明 矢延正平)
(別紙)
所得一覧表
区分
A
確定申告
B
更正及び決定
C
裁決
所得金額
不動産所得
603,167
603,167
603,167
譲渡所得
0
30,046,265
22,153,765
計(総所得)
603,167
30,649,432
22,756,932
所得金額から差し引かれる金額
雑損控除
139,684
0
0
生命保険料控除
34,400
34,400
34,400
損害保険料控除
1,500
1,500
1,500
扶養控除
120,000
120,000
120,000
基礎控除
117,500
117,500
117,500
計
413,084
273,400
273,400
課税される所得金額
総所得
190,000
30,376,000
22,483,000
算出税額
17,000
15,892,400
11,137,800
税金から差し引かれる金額
老年者控除
6,000
6,000
6,000
差引所得税額
11,000
15,886,400
11,131,800
申告納税額
11,000
15,886,400
11,131,800
確定納税額
納付すべき税額
11,000
15,886,400
11,131,800
過少申告加算税
加算税の算出の基礎となる額
15,875,000
11,120,000
加算税の額
793,700
556,000
(単位、円)
(別紙) 計算表一<省略>
(別紙) 計算表二<省略>
(別紙) 計算表三<省略>
(別紙) 買換資産表<省略>