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広島高等裁判所 昭和51年(行コ)4号 判決 1980年3月27日

控訴人(原告) 坪山克己

被控訴人(被告) 福山税務署長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、申立

1  控訴人

原判決を取消す。

被控訴人の控訴人に対する昭和四六年七月九日付の

(一)  昭和四二年度所得金額七六九万三〇〇〇円、所得税額二九一万五三〇〇円、無申告加算税二九万一五〇〇円とする決定処分(昭和四八年一月一〇日付の減額更正処分により各七三九万円、二七六万三八〇〇円、二七万六三〇〇円と訂正)

(二)  昭和四三年度所得金額三七一万四〇〇〇円、所得税額一〇五万四九〇〇円、無申告加算税一〇万五四〇〇円とする決定処分

(三)  昭和四四年度所得金額二一七九万二〇〇〇円、所得税額一〇五三万三七〇〇円、無申告加算税一〇五万三三〇〇円とする決定処分

をいずれも取消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文同旨

二、主張

当事者双方の主張は、次のとおり訂正、付加する外、原判決の該当欄記載のとおりであるからこれを引用する。

1  控訴人

(一)  原判決三枚目表六行の「認定」の次に「をせず、」を加え、同裏四行の「新案権により」から六行の「譲渡して」までを「新案権に関連して」と改め、一四枚目裏一〇行の「その」から一一行の「ないこと、」までを削り、一六枚目裏六行の「基礎調査費二〇〇万円」を「基礎調査費、設備費五〇〇万円」と、一七枚目表三行の「自己の建設」から五行までを「現行所得税法施行令一二六条一項五号に該当するものであるから、取得時の価額と業務用に供するために要した費用額」と、同裏八行の「算入すべきであり、」から末行までを「算入すべきである。」と改める。

(二)  被控訴人のした異議棄却決定及び減額更正については理由付記が不備であるか、全くない上、異議手続に関して控訴人に国税通則法八四条一項の意見陳述の機会を与えていないので手続面で違法がある。

(三)  また、控訴人の昭和四〇年六月一八日付届出書は納税申告書に該当するので、同法七〇条により昭和四五年六月一七日以後に控訴人の純損失金額の増減更正は許されない。

(四)  本件実用新案権の取得価額の内(ク)一億円は労務費三〇〇〇万円(他人に対する分五〇〇万円を含む)、争訟費(昭和三三年から昭和三六年までの積水化学工業株式会社らとの間及び昭和三六年の丸登化成工業株式会社との間の特許庁における争訟並びに昭和三六年頃の右丸登化成との間及び昭和三九年の伊藤忠商事株式会社らとの間の訴訟分)一〇〇〇万円、調査摘発費三〇〇〇万円、改良育成費三〇〇〇万円の計である。

(五)  控訴人の主張による減価償却の内容は別紙イ表のとおりで、これによつて所得計算をするとき別紙ロ表のようになる。

また減価償却資産とは所得の基因となり、所得を生ずべき業務の用に供される資産であるので、収入があるだけでは足りず、所得(利得)が存在することを要し、これに該当する年度だけ償却することとなるが、右資産が業務用に供された間は所得がなくとも継続して償却すべきものである。この見地によつて計算するときは所得額は別紙ハ表またはニ表(取得価額を前者は一億一二一〇万円、後者は五四九一万六六九九円とする)のようになる。

2  被控訴人

(一)  原判決九枚目裏四行の「一〇数年間の」の次に「労務費」を加え、「精神的」以下を括孤に入れ、七行の「二万円」の次に「(三〇〇万円を認めたものを訂正する)」を加え一二枚目表末行から裏一行の「譲渡した」までを「これに関連して収入のあつた」と改める。

(二)  控訴人の前記主張(二)、(三)は争う。

控訴人に関してはいわゆる白色申告によるものであるから更正につき理由付記は必要でなく、また異議に関して昭和四六年一一月二二日に控訴人につき調査を行つたが、別に意見を述べなかつた。国税通則法七〇条に関しては、納税申告書は同法二条六号に従つたものであるべきところ、届書には総所得金額の記載等がないので右に該当せずまた七〇条の制限は更正そのものの増減をいうものであつて、課税標準額等の計算根基の変更に及ぶものではない。更に異議決定手続に違法があるとしても、別個の処分である本件決定の取消事由にはならない。

(三)  本件実用新案権は控訴人の自己の製作にかかる減価償却資産に該当し、これに要した原材料費、労務費、経費の額及び業務用に供するために直接要した費用額の計を取得価額とすべきものであり、控訴人が取得価額として主張するものの内、控訴人本人についての労務費は金銭支出がないのでこれに含まれず、また他のものも権利の売込み維持管理及び保存の費用に過ぎないものであるから、取得価額として計上すべきではない。

三、証拠<省略>

理由

一、本件各決定、これに対する異議、審査請求に関する手続及び本件(1)決定に対する減額更正がされたことについての控訴人の主張は当事者間に争いがない(なお、成立に争いない乙第五五号証によれば、国税不服審判所長は昭和五一年九月三〇日に控訴人の本件審査請求を棄却していることが認められる)。

二、手続違背の主張の検討

1、異議申立棄却決定に関する分

本件決定と異議申立棄却決定とは別個の処分であり、後者に関する手続に違法があつたとしても固有の瑕疵として、前者の効力には関係がないので、主張自体が失当である。

2  減額更正に関する分

本件更正について理由付記がないことは被控訴人が明らかに争わないところであるが、所得税法は青色申告書にかかる更正については更正通知書に更正の理由の附記を要求している(一五五条二項、現行法と適用法条に変更がないときは単に条項を掲げる)が、その他についてはかような規定がないので右理由付記の必要はないものと解するのが相当であるところ、控訴人が青色申告の承認を受けたものでないことは控訴人が明らかに争わないところであるから、この点には違法がない。なお、本件更正は異議申立棄却決定後、決定につき係争中にされたものであるが、この点も前記判断を左右するものではない。

3  以上の次第で、控訴人の手続違背に関する主張は、本訴に関する限り、採用できない。

三、本件決定(昭和四二年度分については更正を経たもの)内容の検討

1  控訴人が昭和三六年六月一四日の登録により本件実用新案権を取得したこと、これに関連して昭和四二年から昭和四四年度までの間被控訴人主張の金員を他から取得したこと(金員の性質は除く)は当事者間に争いがない。

2  右収入の性質については昭和四四年度の四二〇〇万円分は当事者間に争いがなく、その余については当裁判所の判断も原審と同一であるので原判決中の関係部分(二三丁裏から三〇丁表一行まで)を引用する。

3  減価償却費を除く必要経費について考察する。

控訴人が試験、研究、開発費として、昭和四二年度に二〇六万九七五八円、昭和四三年度に一〇四万五九四七円、昭和四四年度に二〇五万三一五六円を、本件実用新案権譲渡費用として昭和四四年度に五〇〇万円を要したことは当事者間に争いがない。

原本の存在及び成立に争いがない甲第一三号証の二、乙第一、二号証と原審証人藤井久寿生の証言によれば、右前者の試験費等の額は控訴人が昭和四六年三月一二日に被控訴人に対して提出した届出書に記載している昭和四〇年から同四四年までの生活費を含む試験費約一〇〇〇万円に従い、被控訴人がこれから福山市における統計による平均生活費及び控訴人方の特別生活費(教育費等)を控除したものをその間の控訴人の所得額に応じて按分して算出したものである(その詳細は原判決別表三)ことが認められ、したがつて控訴人の主張経費(前段の譲渡費用は除く)はこれとこれ以外の経費とに二分される。

控訴人の主張するその余の必要経費の有無についての当裁判所の判断は、次のとおり訂正する外、原審と同一であるので、原判決の関係部分(三〇丁表末行から三二丁裏一行まで)を引用する。

(一)  三〇丁裏三行の「それによつても、」から九行までを、「当裁判所の心証を形成するに足りず、他に前記算出額による分以上に支出があつたと認むべき確証はない。」と改める。

(二)  三一丁表末行から裏一行にわたる「きのこ菌の基礎調査費」から裏三行の「試験研究費」までを「きのこ菌の基礎調査費等五〇〇万円については、原審における控訴人本人の供述中に基礎調査費二〇〇万円、設備費三〇〇万円を支出したとの部分がある。しかし、右後者については所得税法施行令七条一項前文の除外部分に当り繰延資産に含まれない。前者は同条項二号の試験研究費」と改める。

4  実用新案権が所得税法上の減価償却資産であることは当事者間に争いがなく(昭和二二年勅令第一一〇号所得税法施行規則一〇条二項八号、現所得税法二条一項一九号、同法施行令六条八号へ)、本件では同法施行令一二六条一項二号(同条項制定前は昭和三五年二月二日直所一―一一、直資一六、国税庁長官国税局長通達八七・八八)にいうところの、関係者が製作した減価償却資産に該当すると認められるので、その取得価額は原材料費、労務費、経費の額、業務に供するため直接要した費用額の合計ということになる。

成立に争いのない甲第一三号証の一の一により、控訴人が被控訴人に対して、昭和四〇年六月一八日付書面により、研究費の概算を一億一二一〇万円として届出たことが認められ、被控訴人が出願登録費及び労務費を除く費用計九一〇万円と出願登録費の内二万円の合計九一二万円を取得価額として採用していることが窺われる。

右排除分が取得価額に当るか、これに関連する控訴人の国税通則法七〇条に関する主張、減価償却計算の始期及び期間となるべき耐用年数並びにこれらからする計算については当裁判所の判断も原審と同一であるから原判決中関係部分(三二丁裏一〇行から三五丁表二行まで、同九行の「成立に争いのない」から三六丁表二行まで及び同四行の「成立に争いのない」から三七丁表八行まで)を、次の通り訂正した上、引用する。

(一)  三四丁表四行の「現行所得税法」、同裏九行の「現行法」を「所得税法」と改める。

(二)  三六丁表四行の「甲第一号証」を削り、七、八行の「昭和三六年」から「取得した後、」までを「昭和三六年六月一四日の本件実用新案権取得以降」と改め、裏末行の「別表九」の次に「附則二項」を加える。

(三)  三七丁表三行の「五年であるから、」を「五年である。」と、同行の「前記認定」から五行の「基準として、」までを行をあらためて「7 以上の取得価額、計算始期、期間によつて、」と改める。

5  本件における所得控除及び控訴人の総所得金額並びにこれらからの税額、無申告加算税額の計算と控訴人の加算税に関する主張に対する判断も当裁判所と原審は一致するので原判決中この部分(三七枚目表九行から三八枚目裏七行まで)を引用する。

6  当審における控訴人本人尋問の結果も以上の認定を左右するに足りない。

四  そうすると、原判決は相当であるので、本件控訴は理由ないものとして棄却し、行訴法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 辻川利正 白石嘉孝 梶本俊明)

イ表~ニ表<省略>

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